第690堀:古の国
古の国
Side:ユキ
「リテアを絡めると、逆に入国しづらくなり、大国と並ぶ歴史を誇る小国で、何らかの意図があって、この大陸の各地にエルフが住む村を作ったか……」
俺は、昨日あった、離婚夫婦の事は頭の隅に追いやって、ハイエルフの国に向かう途中の車の中で、今までの情報をまとめて考えていた。
「ねぇ。そもそも、ハイエルフの国の意思で村を他国の領地に作るって、侵略行為じゃないですか?」
そう聞いてきたのは、リーアだ。もちろん俺の護衛で同行している。
さて、どう説明したものかと考えていると、今回同行しているルルアが説明を始める。
「いえ。それは裏の事情ですし。開拓地域が増えるのは、国にとっては喜ばしいことです。税金や人が他の場所から集まるきっかけになりますからね。元々国々にある町や村は基本的に収容人数オーバーだったみたいですし」
「収容人数オーバーって?」
「そのままの意味です。その町や村で養える規模を上回っているんです。これは、旦那様から頂いた本で学んだ知識ですが、魔物や盗賊と言った危険性があるこの大陸では、人の生活圏は限られています。そして、その関係で、食糧の増産を図ると言った行為はなかなかできないでいました。ですから、村を作ると言われて、拒否するとこはそうそうありません。ああ、でも、資金提供とか兵士の派兵を求められると別ですけどね」
「お金や人はあげられないけど、有志で自己責任の下、村を作るのはOKってこと?」
「はい。そして、出来た村に人が集まり、人が増え、それに応じて畑ができて、最終的に国の庇護を求めます。その際に税を納めてもらえれば、国、領主としては元手がかからないで、収入が増えるということになりますし、そして……失敗しても町や村の口減らしに使えて、新しい雇用を生み出せます」
「「「……」」」
政治の汚い面だ。
ま、別に政治に限った話じゃないけどな。
誰かが抜ければ誰かが穴埋めする必要がある。それだけのことだ。
ちなみにルルアは、一応アルシュテールの代理として、ハイエルフの国へ同道している。
しかし、長老から聞いた話では態度を硬化させる可能性もあるようなので、当分は俺の嫁さんとしてついてくることなる。
何かあれば、リテアの使者にジョブチェンジというわけだ。
いや、便利だわ。俺の嫁さん。
「で、重い話はぶった切って、さらにエルフという魔術に長けた種族だ。国としては恩を売って抱え込めれば幸いだ。尚の事、村を作ることには否定しなかっただろうな」
「「「あー」」」
俺が付け加えて説明すると、皆納得する。
そりゃ、ハイエルフの国から来た開拓民が入植した国に仕えるというのはないだろうが、その村で生まれた子孫たちは、二世、三世として、外に出て行くこともあるだろう。
エリスみたいにウィードなどの国で活躍しているのも、実際多い。
具体例としては、ガルツのシェーラの姉シャールはエルフ。つまり、母親はエルフということだ。まあ、これは異例か。エルフが側室の1人として、王家の一員となった例だ。
他は宮廷魔術師とか魔術師の職で、エルフが国に仕えることは多い。
しかも、村の開拓を頼んできたのは、ハイエルフの国だ。何かしら縁ができるかもしれないと当時の国々は喜んで受け入れたかもな。
「しかし、ルルアやアルシュテールはハイエルフの国には行ったことないんだよな?」
「はい。書簡でのやり取りはありましたが、わざわざ出向くというのはありませんでした。その、言い訳になりますが、そんな暇は当時なかったもので……」
そうだよなー。ルルアが聖女だった当時は、リテアは内紛一歩手前、その対応で大変で、小国へ訪問なんて余裕はなかっただろうからな。
「エリスも行ったことはなし。はぁ、考えるだけ無駄か。と、エリスで思い出したが、カグラたちは大丈夫なのか?」
そうそう。一昨日の混浴では、初めてのことで楽しかったのか、若いヴィリアたちと共に、カグラたちは露天風呂ではしゃいぎすぎて、その結果、湯あたりと、湯冷めでぶっ倒れてしまった。
ヴィリアたちも同じように倒れたが、勤務はウィードだし、何かあれば休めばいいが、俺たちについてきたカグラたちはそうもいかない。
出発前は大丈夫そうだったが、道中で具合が再び悪くなるというのはよくあることだ。
しかも、カグラたちはハイデンからの預かっている賓客でもある。
特にカグラの奴はぶっ倒れるまで、無理し続けるタイプだから、気にかけないといけない。
だが、今回のはなー。露天風呂ではしゃいだのが原因だし……。
と、そこはいい。具合がどうかを確認することだ。
「えーっと、連絡を取ってみましたが、別に問題はないそうです。というか、寝てます」
ルルアがエリスにコールで様子を聞いたが、特に問題なく過ごしているようだ。
最初の頃は車に驚いて、未知の体験に興奮していたが、人はなれるものだ。慣れてしまえば、暇でしかない。特に車とかは、狭いのでやれることが限られるし、下手なことをすれば酔う。
なので、寝るという手段は別に悪いことではない。
「それに、私たちがしっかりと治療はしましたし」
「そうだよな」
ウィードの医療のトップである、ルルアが治療にあたったのだ。
それで、尾を引くような状態になることはないだろう。
無茶ならルルアが最初から止めるだろうしな。
とまあ、そんな感じで道中はエリスの故郷に行ったときのようなトラブルもなく到着した。
いや、魔物退治をしていない分、さらに早かったか。
カグラたちが車酔いしてなければ、普通に戦わせて経験を稼がせたかったんだがな。
車酔い、誰もが通る道か。
寝ていた主な原因は酔っていたため。
「うう……ごめん。ユキ」
「ごめんなさい……」
「申し訳ございません」
「はしゃぎすぎました……」
「すいません。ユキさん」
深々と謝る5人。
「いや、こっちも配慮が欠けていた。馬車が平気なら大丈夫だと高をくくっていた」
酔い止めを渡しておけばよかった。
幸い、寝ている間に吐くようなことはなく、窒息することはなかったが、今後は観光バスとかで注意しておかないと、大惨事になるな。
「とりあえず、歩く分は問題ないな?」
「「「はい」」」
流石に、ほとんど国交のないハイエルフの国へ車で乗り付けるようなことはしない。
どう考えても警戒されるのが目に見えているからな。
「でも、車とかに乗ると、隣の国が近くに感じますね」
「まあな。速度が数倍違うからな」
この大陸には未だ入国管理、所謂国境の管理はないに等しい。
というか、そもそも国境に壁をズラーっと作る予算や人員がないのだ。
だって、地球と違って、人をパクパクあっという間に食べてしまう魔物が数多生息しているからな。
というか、中世ヨーロッパ程度の文明で国境にズラーっと壁を敷けるほど予算があった国なんぞ聞いたことないぞ。
中国の万里の長城だって、一部だけだからな。
ああいう国境管理がしっかりしてきたのは近代になってからだ。
というわけで、入国管理などに引っかかることはなく、車を運転してれば現在のEU加盟国のようにスラーっと入国できるわけだ。
まあ、道路の整備がずさんではあるので、地球と同じ速度で走れるというわけではないし、馬車とかを見れば横によけて止めて、馬車が通り過ぎるのを待つ。
いやー、それでも、車に乗ったままにできるのはいいことだ。
ウィードという国が出来たおかげで、車両による輸送が始まったからな。
5大国では運転手は国家資格で、騎士よりも高い身分になっている。
ま、技術の安売りはできんし、オーバーテクノロジーすぎるからな。
ザーギス、ナールジアさん、コメット、タイゾウさんたちによる技術組で、この世界技術での量産体制確立が出来るまではこの体制が続くだろう。
「で、あれか?」
「そうです」
「はい。あの大きな木が見えるところがハイエルフの国です。名前は、ないですね」
エリスとルルアが言うように、あの大きな大樹が見える所が、ハイエルフの国らしい。
「ふわー。大きいねー。ジェシカ、どれぐらい大きいと思う?」
「どうでしょうね。見た感じ、50メートルは軽く越えている気がしますが……」
「「「ほえー」」」
リーアとジェシカ以外は、あまりの大きさに言葉を失っている。
それもそうか、俺もこんなでかい木はそうそう見たこともない。
確か地球でも世界最大の木は100メートルは越えているが、これはその倍はあるだろうな。
この世界における建築技術では、ここまで高い構造物は存在しない。
だからこそ、崇めてるのかね。その気持ちはわからんでもない。
「あの聖なる大樹の名前は、世界樹ユグドラシルというらしいです。そうでしたよね?」
「ええ。世界樹ユグドラシル。ハイエルフの国の勃興を見届けてきた母なる木として、厚い信仰を集めているようです。一説では、その世界樹ユグドラシルに悪戯した観光客がいたために、入国を制限したとかいう話があるようですが、裏は取れていないので、噂話でしょうね」
「……ふーん」
俺は2人の話を聞いて、聞き流すことしかできなくなっていた。
だって、だってさ……。
世界樹、ユグドラシル。
異世界翻訳の故障だよな?
俺の世界から該当する言葉を勝手に拾ってそう命名しているだけだよな?
名前が地雷過ぎて、恐ろしくなっている。
「でも、ジェシカ。世界樹ってユキさんがやっていたドラ○エででてくるよね。もしかして世界樹の葉とかもあるかな?」
「あはは、それはないでしょう。命が戻るなど、そんなアイテムがあれば、それこそ噂になりますよ」
……違った。リーアたちにも世界樹と聞こえている。
しかも、ドラ○エとの類似性まで気が付いてるー!?
「家で待っているみんなに、何かいいお土産があればいいですね」
「あ、ああ。そうだな。別に話をしに来ただけだからな」
そうそう。
別に焦る理由は何もない。
ただ名前が似ているだけ、それだけだ。
そう思い込む。というか、何かあっても無視してやるわ。
俺がそう決心している間に、ハイエルフの国の門前へとたどり着く。
「思ったより人はいないな」
「ええ。ここで受付をして、離れたところにある待機する町で待つのが普通ですから」
「それに、入国できるのはごくわずかですからね。ここ最近では訪れる人も減っているとのことです」
納得の話だ。
酔狂でお金のある人しか入れないような国だしな。
門構えは立派であるが、さびれている感じも否めない。
「じゃ、ちょっと話を通してきます。長老からの手紙で通れるといいのですが」
「ま、その時は、ルルアに頼るさ」
「はい。お任せください」
そういって、エリスは門番の詰め所へと走っていく。
「しかし、大きいな」
「大きいですね」
全員で世界樹を見上げる。
名前はともかく、ここまで大きいと、洗濯物を干すとか大変じゃね?
ほとんど日陰じゃん。
そんな場違いなことを考えていると、エリスがあっさり戻ってきた。
こりゃだめだったか? と思っていると……。
「許可がでました。こちらにどうぞ」
「……案外あっさり通れるのな」
「ですね。意外ですが、許可がでましたので行きましょう」
そういってエルフの美形たちが守る門へ視線をむけると、普通に頭を下げてくる。
……普通にできた人たちじゃん。
その中から、立派な鎧を着込んだエルフの男性が出てくる。
「ウィードからのご客人。不肖ではありますが、警備隊長の私がご案内いたします」
「いえ。突然の訪問に対応してくださって感謝いたします」
「そういっていただければ幸いです。こちらにどうぞ……」
まあ、ありていに言えば油断していた。
だが、俺は耐えたんだ。
ハイエルフの国へ入ったすぐに、門にこう書いてあった。
『熱烈歓迎!! ようこそ、ハイエルフの国へ!!』
日本語で。
だが、嫁さんたちは目が点になって、カグラは……。
「あれ? なんで日本語が?」
そういってしまった。
それを聞いた案内の警備隊長さんは……。
「よ、読めるのですか!? あれが、日本語だと分かるのですか!?」
「え? ええ。ねつれつかんげい。ようこそ、ハイエルフのくにへ。ですよね?」
「あ、ああ、その容姿、そ、そうか、だからあの手紙を受け取れたのですね!!」
「え? ええ?」
「大至急、王宮に知らせを!! 地球からの、日本のご出身者が訪問された!!」
あー……。
やっちまった。
行けばわかるって言うのはこういうことか。
カグラを連れてきたのが裏目に出た!!
さて、分かりやすい秘密の先には何があるのか!!




