第683堀:動きの早い人々
動きの早い人々
Side:ユキ
さて、方針も決まったことだし、俺たちは執務室に戻って、ロガリ大陸連合の代表格である5大国宛てに事前連絡の手紙を送ることになった。
内容は簡潔に記すと……。
ウィードで大陸間交流に関しての説明と会議を行いたく、予定をお決め頂ければ、お迎えに上がります。
というやつである。
まあ、各国の流儀に対応した書き出しや枕言葉がある上、各国で内容自体は変わらないのだが文字は全然違うという不思議。
面倒極まりない。こういうのも統一してやる。
毎回各国用のフォーマットを開くのも面倒なんだよ。
このパソコン作業でさえ面倒なんだから、パソコン、プリンターのない5大国の連中は手書きで一から書いているとなると、どれだけ辛い作業だろうか……。
尚のこと、今回の外務省設立での規格統一を受け入れたいというのが本音だというのがわかる。
絶対腱鞘炎になるわ。
そんなことを考えつつも、手紙が出来たので、セラリア、ルルア、シェーラに見せて、校正、校閲をしてもらいOKを貰ってから、各国へ速達で送る。
というか、校閲専門家もいるよなー。
……ああー、ま、今はほっとこう。
「さて、手紙は送ったから明日明後日には連絡が来るだろう」
「ですねー。その間どうします?」
手紙を出したあとは、今後の予定を考えることになる。
「やることは沢山あるけど、今すぐやらないといけないことって何だったか?」
「ジェシカ、何かあったっけー?」
リーアは横にいるジェシカにそう聞く。
「いえ、取り急ぎというのはなかったはずです。ああ、スティーブの出張関係の書類にはサインしないといけませんが」
「そういえば、スティーブは今回ジルバの援軍としては、どのような装備で行くのですか?」
「もう、めんどくさいから重火器とか戦車持っていけばいい」
「いやいや、普通に現地に合わせた、剣と弓、槍装備だからな。いつもの6号装備だよ」
まあ、いざというときの為に火器は持たせているし、使用許可は出している。
こういう現地活動装備のことを6号装備という。
火器を持ってうろつくのは目立ちすぎるからな。
こんな感じで、装備や物資に関しては、既にフォーマット、テンプレ、規定していた装備で十分だったので、余計な書類仕事は無くてすんだ。
マニュアルって素晴らしいよな。
映画とかではよくマニュアルの裏をかかれるんだが、マニュアルがあるからこそ、迅速に的確に動けるのだ。
「よし、取り急ぎの書類だけ終わらせたら、今日は定時まで普通に仕事するか」
「「「はい」」」
最近では珍しい一日デスクワークになりそうだ。
カリカリ……。
紙にペンを走らせる音が響く。
現場に赴かなくていいのは楽ではあるんだが、慣れ親しんだ執務室、職場での仕事は眠くなるのが欠点だよな。
この音が一定で眠気を誘う……。
スティーブの申請書類は特に問題もなく即決。
予算も範囲内、武装もテンプレでOK、これで勝手にジルバの方でやってくれるだろう。
それが終われば、一応、参謀や、建前上の魔物軍大将としての仕事書類。
最近はイフ大陸とか新大陸の問題で、やっていなかった分の書類は溜まっていたが、そもそも、ここら辺の書類は生真面目なミノちゃんが作ってくれているので、特に問題はない。
特に魔物部隊が本格的に展開するような事件はなかったからな。スティーブ隊が出るぐらいで済んでいるし。
どこもここも、巡回が増えたとか、それぐらいのものだ。
ああ、あとは霧華の諜報部隊がイフ大陸で動いているぐらいか?
まあ、それも元々、諜報部隊として予算を確保している範囲で済んでいるし、増額もしているから特になー。
あれだ。確認してサインとハンコを押すだけのお仕事です。
楽そうにみえるが、完成していると思われる書類をきちんと確認するという作業が酷く辛い。
万が一、ミスがあってそれに気が付かずサインとハンコを押したとなると、それは大問題になりかねない。
わかりやすい例をあげるなら、予算配分の書類で一桁多いとかな。もう、これは大問題ではなく、超がつくほどの大問題だ。
「もうさ、書類の決裁もスティーブやミノちゃんたちに任せていいんじゃないかと思うんだよなー」
「えー? でも、スティーブたちって将軍ですよね?」
「リーア。まともに取り合わないように。ユキのただのボヤキです」
「ユキ様がいるからこそ、魔物軍は独立した組織として存在していられますから」
「ん。というか、ユキが今やっている書類仕事をスティーブがするとなると、今後スティーブは現場で動けなくなる可能性が高い」
そうそう。クリーナのいう通り、スティーブを魔物軍の統括にすると、スティーブという便利屋が気軽に動かせなくなる。
ジョン、ミノちゃん、スラきちさんも同様だ。
俺がしている事務仕事ができないわけではないだろうが、魔物の4将軍は魔物特有の性能を持って前線、現場で活躍するのが理に適っている。
というか、そこまで立場を任せるとなると、俺の対外的立場はただ女に養ってもらうだけのヒモということになりかねない。
流石にそれはなー。
まあ、楽して生きたいというのはある。だが、男としての僅かなプライドもあるのだ。
「スティーブたちが使えないのは痛いから今はそんなことはしないが、将来的には考えないとな」
ウィードの軍事は特殊なんだよな。
人の軍と魔物の軍で別れているんだ。
まあ、地球的にいえば、陸海空と別れているようなもんだが、これをそのまま維持し続けていると、どこでもある、対立が起こってしまう。
……旧日本軍の陸軍と海軍の対立とか、まさにそうだ。
いや、どこでもある対立ではあるんだがな。種族すら違うからその対立も激化しやすいだろう。
あれだ、第二次魔王戦役とか? 人と魔物の生存決戦になりかねない。
それは何としても防がないとな。お互い知恵ある者として、穏便に済ませて欲しいが、そんなのは夢物語だしな。
地球でも何度も戦争しているんだしー。人と人がわかりあうことすら難しいのに、人と魔物はなー。
ということで、そこら辺の問題も着手しないと……。
とまあ、俺の仕事は山ほどあるので、嫁さんたちに養ってもらって楽して生きるというのは、夢物語である。
そんな雑談をしながら仕事を続けて、さあ、そろそろお昼かというときに、部屋の扉が開かれた。
「お邪魔するわよ」
「ん? セラリア。どうした?」
セラリアが仕事中、女王をやっている時に俺の所にやってくるのはなかなか珍しい。
だいたい、会議室とかで合流するのが普通だ。時間の無駄だしな。一分一秒惜しいのが女王や軍の統括の仕事量なのだ。
ははっ、くたばれ。ブラック業務。
そんなことを考えていると、セラリアは手紙をこちらに差し出す。
「うちの……、じゃなかった、ロシュール王からの手紙」
「はあ? もう返事が来たのか?」
「そういうこと」
何がどうしてそんなに早く返事がくるんだよ? と思いつつもセラリアがわざわざ持って来たものだから偽物ということもなく、手紙を受け取り読むと……。
「えーっと、なになに? 明日にでも会議をしてもいいって? どういうことだよ?」
「そのままよ」
「いや、向こうの都合は?」
王様って忙しいだろうに。
そう思っていると、セラリアはこめかみを押さえながら説明を始める。
「基本的に、忙しいことは認めるわ。でもね、最近はアーリアお姉様が実績を積むために、ロシュールの政務を取り仕切っているから、クソ親父の方はあまり忙しくないのよ。しかも、ウィードへ来るのはゲートであっさりでしょう? 安全面も問題はないし、本人はサクラたちに会いにしょっちゅう来ているっていう実績もあるから。今回、大手振って、仕事でウィードに来られる理由ができたから……」
「即座に返事を書いて、ウィードに行ってもいいってことか」
「というか、手紙を私の執務室に直々に持ってきて、既にスーパー銭湯行きよ。あのクソ親父、真っ先にサクラに会わせろってうるさいから、まずは身綺麗にしてって言って、一旦追っ払ったわ。家に帰ってまで、あの親父と顔を会わせるとか最悪だから、今日は迎賓館にぶち込んでいるわ」
「……」
何やってんだか、あの親父。
というか、もう来てるのかよ。
「というか、待て待て、迎えの件はどうなるんだよ」
「あー、会議当日に一旦向こうに戻って、あなたが迎えに来たってことにはするらしいわよ?」
「め、めんどくせー」
既にウィードに来ているロシュール王をわざわざ一旦ロシュールに戻して、迎えをするのかよ。俺が!?
「家のクソ親父がごめんなさい」
「いや、セラリアが謝ることではないけどな。今更ながら随分信用されているよな」
「それこそ今更ね。あなたに対するロガリの5大国からの信頼はルーメルを除いて絶大よ。ルナと一緒に色々やっているのを王族の前で見せたんだから。年明けの、お神酒とかぶっ壊れだったでしょうに」
「あー、そんなことあったな」
ルナが七福神の恵比寿からぶんどってきたやつな。
エリクサーの最上級のような奴。
「ま、そういう意味では我がウィードのロガリでの立場はゆるぎないのよね」
確かに、ロガリの4大国からは俺が女神ルナの使い走りだということが、ちゃんと認識されているからな。
俺の本来の目的である魔力枯渇現象に対する調査体制作りもスムーズだ。
各国が勝手に研究機関を設立してくれるからな。
無論、このウィードのゲート技術を使った交易で得た資金を、ちゃんと予算として各国に還元しているということもあるんだけどな。
こちらが駄目神の使いだからと言って、無制限に援助しろというと反発されるのは当然だからな。そういうところはちゃんとしている。
そんなことを考えていると、再び部屋のドアが開かれて、人が入ってくる。
「あら、ルルアにシェーラ。どうしたの?」
「セラリア?」
「セラリアさん?」
入ってきたのはセラリアの言う通り、ルルアにシェーラ。
セラリアと同じように2人とも手紙を持ってだ。
「もしかして、国から手紙預かってきたのか?」
「あ、はい。そうです。旦那様、こちらです」
「私も同じです。こちらを」
2人から差し出された手紙の内容はセラリアと同じように、明日からでも会議をしてもいいという内容だった。
「どうやら、リテア聖国の方は、大陸間交流に関してはかなり積極的でして、もとより、リリーシュ様はもちろん、ルナ様からのお願いもあることですから」
ああ、女神を信奉するリテア聖国としては、どうあがいてもそういう風になるよな。
「ガルツの方は、既にティークお兄様が政務を主にしていますので、お父様は最近暇なんだとか、まあ普通にウィードに入り浸っているとよく話は聞くので……」
ロシュール王と同じかガルツ王。
そんな感じで、どいつもこいつもと思っていると、さらに部屋のドアが開かれて人が入ってくる。
「あのー、ユキさん。リリアーナ陛下とルーメルの方からお手紙を……。ってちぃ姉様にルルア様、シェーラ様?」
「あら、エルジュにオリエルじゃない」
「「エルジュ様」」
すげー、久しぶりなのがやってきた。
エルジュとオリエルの聖女と護衛コンビ。
いや、ゲートは開通しているから、セラリアは国のトップとしてよくエルジュと会っているらしいが、俺は最近、新大陸に飛ばされたりイフ大陸の問題解決にと色々忙しかったからな。
それでも、時期のイベントでは顔を会わせるんだけどな。
「3人も、会議に関して手紙を届けに来たんだ。そっちもか?」
「あ、はい。ラスト国、リリアーナ陛下、それにルーメルの大使より、明日にでも会議をしても大丈夫だそうです。どちらも、大陸間交流には興味がありますし、移動に関してはゲートで一瞬ですから」
「そっちもか」
「はい? そっちも?」
エルジュとオリエルが首を傾げるのと同時に、セラリアたちも苦笑いをする。
さて、俺は大至急、5大国の連中をお迎えする準備をすることになったわけだ。
ったく、便利になりすぎるのも考え物だよな。
気分的な表現:はよ!! はよ!! バンバン!!




