第672堀:長所は短所 短所は長所
長所は短所 短所は長所
Side:クリーナ・アグウスト ユキの妻 アグウスト王女(養子) 外交官
「本当だよ」
そう、私のユキがそう言う。
ん。嘘は言っていない。
私たちは本当に、ただ訪問する予定だ。
勝手に向こうが、暴走して、その結果、私たちが吹き飛ばすことになるだけの話だ。
「と、言いたいが。さすがに、何も説明なしだと問題があるな。クリーナ。事情を話すけどいいか?」
「……ん。仕方なし」
これから起こるであろう危険なことを伝えておかなければ、カグラたちが知らないうちに危険なところに行くかもしれない。
それは、これから行われるであろう、大陸間交流でマイナスのイメージにしかならない。
私たちは、手伝ってもらうのだから、事情をできうる限り話して、協力を仰ぐのが人として当然だろう。
……いきなり連れてきて手伝わせるようなことをすれば、召喚で私たちを誘拐したカグラとかわりない。
いや、カグラのことはもう許しているんだし、カグラたちに対して、昔のことを理由に同じ目に遭わせていいことにはならないし、器の小ささが露呈するだけだ。
ユキはそんなことは望まない。当時はあれだったが、今ではちゃんとした協力者だ。
私たちは意地悪ではない。清く美しい、ユキの妻だ。
ん? というか、これはアグウストの問題で、ユキに事情を説明させるのは違う気がする。
「実は……」
「ん。ユキ。アグウストのことだから、私がちゃんと話す。そして、ここで話す内容じゃない。場所を変えるべき。まだ、武具選びも終わってないし」
「あー、そうだな。今一度、しっかりとみんなに確認を取っておくか」
「ん。それがいい」
ということで、私たちはナールジアが暴走してトンデモ武器を持ってくるのを止めて、無難な物を選んでから、会議室へと戻ってくる。
「……思ったよりも時間がかかった。ナールジアのあの武器傾倒脳はどうにかするべき」
「それは難しいな。クリーナにとって読書をやめろというようなものだからな。下手すると発狂するから、止めようとかはするなよ」
「……ん。わかった」
なるほど。ナールジアにとってはあれが生き甲斐か。
……人の趣味はわからない。
と、そこはいいとして……。
「……みんな。疲れているとは思う。だけど、明日アグウストに殴り込みをかけるから、そこのところを詳しく説明しておく」
「いやいや。落ち着け、クリーナ。アグウストに外務省設立の話をしに行くって話だ。いきなり、国崩しの話になっているからな?」
「……ん。ユキの言う通り、最初はその方向でいく。それで、ユキと私たちの道を邪魔するモノをあぶりだして、血祭りにあげる」
私がそう言うと、奥さん仲間のみんなは理解を示して頷いてくれる。
ん。私はいい仲間を持った。
ユキと私たちと子供たちの時間を邪魔する、アホなアグウストの連中は全員血の海に沈んでもらう。
「まあ、クリーナさんの言うことや方針はわかりましたが、向こうの状況などは詳しく判らないのですか?」
「ん。そこは霧華が色々調べてくれている。ね、ユキ?」
「ああ。さすがに、何も情報を仕入れないままで、荒れているアグウストに訪問ってのは避けたいからな。霧華、頼む」
「はっ」
ユキがそう言うと、横に控えていた霧華がアグウストの説明を始める。
「まずは、私たちの拠点をご説明しておきます。今のところ、他国から来た要人に危害を加えるようなことはないと思われますが、何かあれば、王城を脱出して、アグウスト城下町に用意している拠点の方へ逃げ込んでください」
「拠点って……。ああ、ミリーと霧華が前に別行動でアグウストで情報収集してたときの?」
「そうよ、リエル。私と霧華が使ってた拠点。生活するのには何も問題はないわ。でも、霧華、何か起きたんなら王城を制圧したほうがいいんじゃない?」
「……まてまて、ミリー。霧華の説明を全部聞いてからにしろ。今は、万が一の時の避難場所を教えてくれただけだ。王都の地図からしたらここだな」
ユキがそう言って、横道にそれた話をもとに戻す。
「はい。主様の言う通り、先ずは説明をお聞きください。後でまとめて質問はお受けいたします。ですが、ミリー様の今のご質問に関しては最初に説明しておきます。なぜ、私たちの戦力で王城を制圧しないのかというのであれば……」
霧華がそう切って、みんなの視線が集まるのを見て、口を開く。
「今後の交流に支障が出る可能性が高いからです。今回の件はあくまでも、アグウスト内部の問題。下手に、私たちが主導で解決をすると、他国もアグウストもいい顔はしませんし、アグウストの面倒を最後まで見ろという話になりかねません。私たちは常に人手不足ですし、ウィードよりも国土も人口も多く、そもそも管理できていない土地が多いアグウスト王国の統治など、土台無理です。しかも、私たちに不満を持つ地方の貴族の処理もしないといけないとなれば……」
「あー、了解。何かあればすぐに拠点に逃げ込むわ。といっても、私はアグウストに行っても別行動でしょうけど」
霧華の説明で、ミリーや戦いで何とかすればいいじゃん派のトーリたちはすぐに納得顔になる。
確かに、ウィードの戦力なら、アグウストの敵対勢力はどうにでもなる。
だが、そんなことをするとかえって面倒になる。私たちが今後アグウストの面倒を見なければいけなくなるし、他国からも睨まれる恐れがでてくる。
それは、今後の大陸間交流に問題が出てくるのは明らかだろう。
何より、私たちが仕事で忙殺される。それは嫌だ。ミリーたちも同じだろう。
「えーっと、話はわかるけど、逃げてどうするの? 城下の拠点なら抑えられていると思うんだけど? というか、私たちが同行する意味はどこにあるの?」
そういうのは、この作戦に巻き込んだカグラだ。
ミコスやソロ、エノラも緊張した面持ちで聞いている。
まあ、戦いに巻き込まれるという話だから当然だ。
「カグラ様、落ち着いてください。あくまでも、今回の訪問は外務省設立のお話です。ロガリ大陸からは我がウィード、イフ大陸からは6大国出身のユキ様の奥様方、そして、新大陸からはあなた方ハイデン。なにも問題はないでしょう?」
「あ、はい」
「ちょ、ちょっと、カグラ。あ、あのー、霧華さん。なんか戦闘とか、王城制圧とか物騒な話が出てるんですけど……」
言いくるめられたカグラに代わり、ミコスが慌てて質問をする。
「あくまでも、何かあればの話ですよ。この手の新事業には必ず反発者がいます。アグウストも同じようなことになっているだけです。ハイデンやハイレ教的に言えば、狂神信者がいたとでもいう感じでしょう」
「なるほど」
「まちなさい、ミコス。あの時は対決は避けられなかったけど、今回はクリーナがあぶりだすって言っているから、意図的にアグウストの中にいる不穏分子とぶつかることになるってことよね? 私たちが万が一にでも怪我なんてすれば、それこそ、大陸間交流に問題がでるんじゃない?」
ミコスが丸め込まれたら、次に口を挟んだのはエノラだ。
……なんか面倒になってきたけど、ちゃんと説明しないといけない。
アグウストの問題解決に協力してもらうんだから。
……まったく、私にこんな面倒を押し付けてきたアグウストには然るべき罰を受けてもらう。
そんなことを考えていると、ユキが霧華の代わりに説明を始める。
「ここからは、政治的な側面が強いから俺から説明しよう。まあ、エノラの言う通り。外交官として来てもらっているカグラたちが怪我を負えば、いや、ハイデンの要人を危険にさらすということ自体が問題であり、作戦参加を申し込んだウィードはハイデンに対して申し訳が立たないよな」
「ええ。そんなことが起これば、大陸間交流がご破算になるんじゃない? ハイレ教代表として、カグラたちの友人として、大陸の未来を憂う1人として、そんなおとり作戦には賛同できないわ」
エノラのいう通り。要人を危険にさらしたということは、問題だ。
だが、それは一面だけでしかない。
「……でも、ユキ先生が、そんな危険だけなことに私たちを巻き込むかな?」
そう呟いたソロの声は意外と、会議室の中に響き、カグラとミコスが首を傾げる。
ソロのいう通り、危険だけではない。
ユキがカグラたちにメリットもないのに、連れていくわけがないのだ。
「……たしかに、アグウストの問題を解決するために、大陸間交流がご破算になるような作戦をユキが立てるかな?」
「ありえないよ。というか、ユキ先生は今まで、色々連れだして、私たちに怪我させたことなんてないし。エノラの言う心配はわかるけど、さっき、超豪華な装備品まで貸し出してもらってるんだよ? これで、傷ついたっていうと、自爆じゃないとありえないと思うんだけど」
「ですよね。だから、逃げる道も教えてくれているんじゃないかなって」
「……むう。でも、仕方なくではなく、自分から危険なところに飛び込むのは……」
「ああ、そこは考えようだ。確かに危険はあるが、カグラたちにとってもメリットが沢山ある」
「「「メリット?」」」
ユキの言葉に4人とも首を傾げる。
まあ、仕方のないことだ。ただの学生で、戦闘能力もそこまでなく、外交官としての能力は言うまでもなく、低いというか見習いレベル。
このどこにメリットがあるのかと、本人たちでも思うぐらいだ。
だが、それこそが、メリットになりうる。
ユキはよく言っている。長所は短所、短所は長所。
役に立たないことが、役に立つことがあるのだ。
使えないのではない。それは使う側が何も考えていないだけ。
つまりは……。
「まあ、まずは国としての利益を教えておこう。この外務省設立に同行することによって、ハイデンの名を広められること。伝手ができること。これは、非常にハイデンだけでなく新大陸の国々にとっても有益だ。そして、その先陣を切ったハイデンの功績を考えると、今後大陸間交流や交易に関して、一番で何か交渉する権利や、まとめ役などの舵取りを任されることになるだろう」
「それは、そうね」
「うん。それはわかる」
「わかります」
「ですが、アグウストは不穏分子が多い。それでカグラたちが損害をこうむれば……」
「エノラのいう通り、外交官を傷つけるというのは、国家間の亀裂に繋がりかねない。それはわかる。だがそれは逆にメリットにもなるんだ」
「はい?」
「つまりだ。アグウストの馬鹿共がハイデンの外交官に危害を加えようとしたとする。そうなると、アグウストとハイデンは険悪になり、エノラの言う通り、大陸間交流にも支障がでるだろう。だが、それだけじゃない。大陸間交流をしたい残りの大国はどうするかな?」
ユキがそう言うと、カグラたちの顔に理解の色が広がる。
「あっ。そういうことか」
「ご破算になるような行動をとったアグウストっていう国は周りからそっぽ向かれる」
「……えーと、そうなると困るから、ハイデンとは仲良くしたいと思う? あれ? だけど、そうなると、私たちが危険に巻き込まれる理由がないような?」
ソロはちょっとわかってないみたい。
でも、仕方ない。ソロは貴族でもない、平民なんだから。
代わりにエノラが続きを喋る。
「……私たちを囮に、アグウスト内部の不穏分子をあぶりだして倒し、迷惑をかけたとして、今後ハイデンとアグウストの交易に関しては何らかの譲歩が引き出せるかもっていうこと?」
「そうそう。元々、アグウストの方からや、残りの5大国からもアグウストの内紛は頭の痛い問題だと言われているからな。これの解決に協力をすれば、イフ大陸側全体からも色々便宜があるかもな。学生ってのもありがたい。相手は小娘が何をできるかって思うだろうからな。難しく言ったが、俺たちウィードがハイデンやフィンダール、ハイレ教の問題解決に協力した結果得られたモノと同じだ。代わりに今後手伝ってもらったり、便宜を図るってことだ。ちなみに、霧華……」
「はい」
「「「?」」」
ユキは霧華から羊皮紙を受け取り……。
「キャリー姫及び、ハイデン王から、このアグウストの内紛解決に協力するようにと、命令書は発行してもらっているから、問題なし」
「「「えええーーーー!?」」」
既に、上からの命令書は出ているので、カグラたちは協力するしかないのだ。
「……ん。迷惑をかける。だけど、傷なんてつけさせない。そのための装備とか色々」
「基本的には、俺たちがやるから、まあ気にするな」
「「「……」」」
そんな感じで、会議が終わるころには、カグラたちは目が点になっていた。
学生だからって、舐めちゃいけないんだよ?
どこかのラノベとかでは、すっげー学生が無双するが、こっちでは普通に保護者たる大人が対応する。
大人が子供をいじめるなら、保護者たる大人が出てくる。当然のことだよね!!




