第669堀:情報整理
情報整理
Side:ジェシカ
私たちは今、ウィードの会議室に集まっています。
なぜ集まっているのかというと……
キュ、キュキュ……。
ユキがホワイトボードに書き込んでいることです。
昨日のローデイ王からの話を聞いて、アグウスト以外からの情報が集まったということで、一旦、ウィードで主要人物たちを集めて、会議をしようということになったのです。
ちなみに、ローデイ王はあの話の後、しっかりと夕食を食べ、露天風呂を満喫して、今朝がた戻られたとホースト殿から報告がきました。
……正直、英雄と呼ばれる方々は、ユキと同様に考えや行動の予測ができるものではないのでしょうね。
そんなことを考えていると、ユキのホワイトボード書き込みが終わったのか、ペンの音が聞こえなくなっていました。
「さて、まあ俺がホワイトボードに書き込みをしている間に、資料の方に目を通してもらったと思うが、ホワイトフォレストの方はあまり関わりがなかっただろうし、何か質問はないか?」
ユキがそういって、ホワイトフォレストの方々に視線を向けます。
「いや、ないな」
「ありません」
そう返事するのは、レフェストにヒーナという。
彼らは、イフ大陸で6大国の1つではあるのですが、エクス王国のノーブル同様私たちと裏で深くつながっているので、身内のようなものであり、コメット、こと元イフ大陸で残っていたダンジョンマスターの支援を受けてできた国であり、長命の森人族、こちらではエルフというのですが、そのエルフのレフェスト王が当時から今現在まで国を統治していたおかげで、コメットを連れて行くだけで、崇め奉っててくれたのです。
おかげで、ホワイトフォレストはウィードにとってというか、ユキにとって良きパートナーでもあるのです。
ですが、このホワイトフォレストはイフ大陸で忌み嫌われる亜人の国であり、あまり今回の連合に関しては表立った活動はできないでいる。
下手に大きな顔をすれば、連合に亀裂が入りかねないからだ。
まあ、だからと言って彼らが役にたっていないというわけではない。
ホワイトフォレストの力を以って、我々ウィードやノーブルのエクスと協力しているのです。
今回のように。
「……その反応からすると、やっぱりそっちでも情報はつかんでいたのか?」
「ああ。ジルバの量産型魔剣を持つ小国との争いに、エナーリアの聖剣問題にスィーア教会、最後に、アグウストはかなり不安定化しているな」
やはり、幾ら嫌われ者の亜人とは言え、いえ、嫌われているからこそ、周りの国の情報を集めることは欠かさないようですね。
私たちが集めてきた情報を見せても驚いたりすることはありません。
頼もしい限りです。
そんなことを思っていると、ホワイトフォレストの宰相であるヒーナ殿がレフェスト王の発言で足りない部分を補うために口を開く。
「アグウストに関してはお隣ですから。特に情報は集めています。それに、最近交易に横槍が入ってきていますから」
「横槍? どういうことだ、ヒーナ宰相?」
「簡単に言うと、アグウストの亜人嫌悪派が襲撃をしてくるのです。今まではそういうことはなかったのですが、アグウストの不安定さが原因かと」
「襲撃? 亜人嫌悪派からというと、一般人か?」
「ええ。表向きはですね」
「表向きはというと?」
「明らかに統率のとれた動きをして襲ってくると報告が上がっています。まあ、本格的に襲ってくることはなく、本当に横槍というかちょっかい程度です。石を投げたり、罵倒を浴びせたりなどですね。おそらくは……、我がホワイトフォレストとアグウストの関係悪化を狙っているものかと」
「なるほど。連合にアグウストの王は部下を抑えられない無能だと証明したいわけか。でも、本格的にホワイトフォレストや連合に喧嘩は売るつもりはないから、その程度の嫌がらせになっているわけか」
「本格的に被害が出るのなら、ホワイトフォレストは連合の一員として抗議することになるからな。そうなると、アグウストで玉座を欲してる連中にとっては、玉座をとってもその後の展開に困ることになる。なるべく内々にすませたいのだろう」
確かに、現状だけで見ると、アグウストの評価は最近ダダ下がりですね。
まるで身内を抑えられていないとしか見えません。
ですが、限度を超えて被害が出るとなると、イフ大陸連合が動き出しかねません。
そうなると、現アグウスト王家を引きずり降ろして権力が欲しかった連中としては、せっかく奪い取った権力に連合からケチを付けられる可能性が出てくるわけです。
それは、自分たちが現王家にやっていることとさほど変わりないので、同じように追いやられると思うのでしょう。
「ふむ。とりあえず、ホワイトフォレストが各国の情報に通じているのはわかった。その件はひとまず置いて、まずは各国で相談を聞いてきたから、ホワイトフォレストの相談を済ませるとしよう」
「わかった。と言っても、問題は相変わらず、亜人という点で、色々問題があることぐらいだな。今までとさほど変わらん」
「ですが、正式に6大国の1つと認められたわけでして、にもかかわらず仲の良い国がローデイにアグウストだけだというのは問題でしょう。亜人が普通に差別されずに生活しているロガリ大陸の国と仲良くし過ぎても、イフ大陸連合内の反感や危機感を煽るでしょうし、なんとか他の3大国と和解というか、交流を持てればあるいは、友好のきっかけになるのではと……」
ヒーナ宰相のいう通り、イフ大陸連合の中で亜人国家であるホワイトフォレストは浮いている。
だが、今までのように近場の国だけと仲良くやれればいいという状況ではなくなった。
ウィードとは深くつながっていても、イフ大陸連合の一員として、コミュニケーションをというのは当然だろう。
だが、そう簡単にイフ大陸での亜人差別がなくなるとは思えない。
「と、ヒーナのいう通り。放っておくということはできなくなったので、そこら辺の協力を願いたい。ノーブル殿とは何度か協議しているのだがな」
「ふぅん。ノーブルはこの問題に関しての解決策とかは?」
「そうだな。今一つ、これだというのはないのだが。きっかけは、恐らくロガリ大陸との交流が始まる時だと思っている」
「ああ、こっちの王族には亜人も多いからな」
「そうだ。そこを狙って、亜人を下に見ているイフ大陸の連中を脇に置いて、ホワイトフォレストがロガリ大陸と仲良く話す。そこで、元々仲がよかった、ローデイ、アグウストを誘い、その後、私の所、エクスを紹介してもらうという流れだな」
なるほど。そうなると、おいて行かれたジルバにエナーリアは焦るわけですか。
しかし、ユキはあんまりいい顔をしません。
「……まあ、流れはわかるが」
「やはり気乗りしないか?」
「いや、やらないと始まらないのはわかっている。だが、国際交流時に仲良くなるのは上だけだからな……」
「一般人、平民の嫌悪感や差別感はそうそう消えはしないな。こればかりは、徐々にやっていくしかないだろう」
「急激にやっては反発しか招かないからな。それしかないか。わかった。その方向で調整する」
「頼む」
そんな会話に気まずそうにしているのは、イフ大陸でホワイトフォレストやエクスと協力して諜報活動をしている聖剣使いのメンバーだ。
まあ、それも仕方のないことだと思う。反発を無視して色々やってきたのだから。
「そこで気まずそうにするな。別にお前たちのことを言ったわけでもないし、非難したつもりもない。というか、ホワイトフォレストやエクスがしっかり情報を集められているのは、お前らのおかげだろう?」
「……お褒めいただき感謝いたします」
そう、聖剣使いを代表して頭を下げるのはリーダーのディフェス。
「で、諜報活動をしている本人としては、ここ最近のイフ大陸の動きはどう思う?」
「……一部に急激な動きはありますが、それはあくまでも雲の上のことで、平民たちにはピンとこないようですね。そこを何とかすれば、平民層からの支持は得られるかと。まあ、凡愚からの意見です」
「そこまで、自分を卑下するな。ちゃんと筋の通った意見だ。となると、交流に際して、分かりやすい平民に対しての何かがいるな」
「そうだな。大陸間交流成功祝いで各国で祭りでもするか?」
「それはいい案だと思うが、やっぱり、アグウストをどうにかしないといけないな」
結局はそこに行きつく。
ジルバの魔剣を所持した小国の戦いも、エナーリアの聖剣使いお披露目も、ホワイトフォレストの亜人に対しての意識改善も、6大国の1つのアグウストが動かなくてはどうしようもない。
「そういえば、ヒフィーの方には、アグウストから降伏しろみたいな話が行ってたと聞いたけどどうなんだ?」
「……不本意ながら事実です。まあ、身から出た錆のようなモノではありますが」
「アグウストが不安定になるきっかけを作ったのは私たちですからな。だが、あんな提案は受け入れられない」
ヒフィーは苦虫を嚙み潰したように言って、タイゾウ殿は毅然と言う。
「でも、王家から来てるわけじゃなく、一領主からの話なんだろう?」
「ええ。まあ、領土的にはヒフィー神聖国と同じぐらいなので、強気なんでしょうね。勝手にやって勝手に服属させれば、それはかなりの成果とみられるでしょうから」
「まあ、負けることなどありえないが。しかし、前の失態もあるので、こちらからあからさまに反撃をするわけにもいかない。あくまでも、アグウストがこちらに侵攻して、被害が出てから迎撃という形をとらないと、アグウストに迷惑をかけた癖にと言われるだろう」
「そこを突かれると、他国も介入は難しいか」
「ええ。元々、私の失策でもありますからね。というか、本来であれば、私はアグウストに侵攻した罪を被らないといけないのですが、それはなかったことになりましたから。あながち、向こうの要求は間違っているというわけでもないのが痛いですね」
そう。表向きには、アグウスト王国とヒフィー神聖国とのいざこざは、量産型魔剣を持った犯罪組織が裏にいたとされているが、真実はヒフィーが本当に各国へ喧嘩を売るつもりだったので、アグウストの一領主からの服従して詫びろというのは、的外れというわけでもないのだ。
「真実がどうであれ、今はヒフィーやタイゾウさん、神聖国を失うわけにはいかないからな。やっぱり、アグウストの問題解決が最優先だな」
ユキがそういうと、みんな頷く。
そこはみんな共通の意見のようだ。
「アグウストへの訪問理由は、外務省の設立や、ジルバの件、エナーリアの件で十分だが、流石にウィード単独で行くのは問題だよなー」
「……ん。ウィードを目の敵にしている連中が多い。他の国を巻き込むべき」
そこでようやく口を開いたのはクリーナだ。
この話の中ずっと沈黙していた。
「……クリーナとしては、どうしたい?」
「個人的には、アグウストの貴族をすべて血祭りにあげて、他の人に入れ替えたい」
「無理だからな?」
「わかっている。となると、凄く不本意だけど、イニス姫たち現王家を支援して、反王家派を叩き潰すしかないと思う」
「そうだよなー。不穏分子を鎮圧。それが一番穏便に済むんだが。俺たちがどう関与するかだよな。それに巻き込むべき他の国というが、6大国の連中を連れて行けば、喧嘩を売りたくない相手は表面的には大人しくなる可能性があるから、6大国の連中はだめだな。問題を起こしてもらいかつ、証人として成り立つ国か……」
「……そこは、6大国でないところから人を引っ張ってくればいい。アマンダとかランサー魔術学府とか、あとは、そうだ、カグラとか最適」
は? クリーナの意見に、みんなが一瞬呆けた。
ランサー魔術学府はまだわかる。ヒフィー神聖国と並ぶ、重要小国家であり、イフ大陸での魔術師育成機関だ。
護衛としても、発言力としてもそれなりにあるだろう。アグウストの連中が取り込みに来る可能性がある。
そこは十分利用できるだろう。
しかし、カグラは新大陸の人物、未だイフ大陸では全く知られていない。つまり、政治的価値はそこまでないのだ。
なんの抑止力にもならないのでは? と思っていると、ユキ、ノーブルはその意味が分かったらしく薄ら笑いをしていた。
「なるほど。急かすにはいい相手だな」
「噂の新大陸の外交官来訪。信じていない連中にとってはウィードと同じように排除したいだろうな。囮か」
「……ん。それを口実になんとかならない?」
クリーナがそう告げ、そこからは、あくどい悪だくみが始まるのでした。
そして、カグラたちもイフ大陸への進出を果たす方向へと話が進む。
囮としてだが、ユキたちの護衛に、アグウストの弱みを握れるので、キャリー姫はノーとは言わないだろう。
さあ、新大陸の社畜OLに近いカグラ、出陣!!




