第668堀:その後と今からの話
その後と今からの話
Side:サマンサ
「サマンサ。あのバカはどこにいるんだ!!」
「サマンサ嬢。あのバ、いや陛下を探さなければ、我が国の恥が世界に……!!」
「お、落ち着いてくださいませ。お父様、ロンリ様」
私は領主館に連れてきたお父様とロンリ宰相にこのように詰め寄られていました。
事の始まりは、我が祖国の現国王ブレード陛下が、私たちが訪問した隙に、ベータンへと逃亡したことが原因です。
ユキ様のご指示により、慌ててベータンへなだれ込もうとする、ローデイの武装集団をゲートの入り口ギリギリでせき止め、なんとかローデイがベータンへ武力侵攻をしたなどということを避け、領主館にお父様とロンリ宰相と護衛の方々を連れてきたのですが、どうやら、ユキ様の方は、まだブレード陛下を連れてこられていないようです。
まあ、あの陛下のことですから、無理に引っ張ってこようとすれば逃げそうですわね。
「今、ユキ様たちがブレード陛下を捜索しています。さして時間もかからずに見つかることでしょう」
マップ機能による探索があるので、時間がかかるわけがありませんからね。
それに、ユキ様たち相手に本気で逃げられるわけもありません。
「今問題なのは、ローデイの兵士が慌ただしくベータンの町を歩き回るということです。ブレード陛下のことは確かに問題ですが、ローデイの兵士が慌ただしく他国で何かしているというのはいらぬ誤解を受けます」
「むうっ……」
「確かに……」
ほっ、どうやら私の説得にようやく冷静になっていただけたようです。
「というか、お2人はブレード陛下が何者かに害されることを心配しておいでですか?」
「「ちがう。あのバカが問題を起こさないか、心配なんだ。それで、ウィードとの間に亀裂が入れば……!!」」
と、声をそろえて言う。
……うーん。お父様に、ロンリ宰相は本当に仲が良いのですね。
そんなことを考えていると、クリーナからメールが来る。
『ブレード陛下を発見。現在、事情聴取中。穏便に話を進めていて強制連行はしていないので多少時間がかかりそう。なので、しばらく待ってほしい。そちらの方からも、事情を聴いて。お互いに認識の違いがあるかもしれない』
ほっ。
やはりというか、あっさり見つけたようですわね。
「お父様、ロンリ様。ユキ様たちがブレード陛下を発見したようです」
「「本当か!! 今すぐ回収を……」」
「落ち着いてくださいませ。一国の王が、他国の町で引きずられていくというのはウィードにとっても、ローデイにとっても外聞が悪すぎます。現在、ユキ様が説得中なので、今しばらくお待ちくださいませ」
「「ぐぬぬ……」」
見つかったということもあり、お2人が渋々といった感じで、ソファーに座るのを確認して、今回の騒動の理由を聞くことにする。
「で、いかなる理由があって、ブレード陛下がベータンに侵入というか、逃げ込むようなことになったのですか? というか、なんでお父様まで、王城にいたのです? 領地の方に戻っていたのでは?」
ロンリ様がお城にいるのは当然だ。
何しろ、宰相。王の右腕ともいうべき存在ですから。
でも、私のお父様、ヒュージ公爵は公爵領での領経営が主な仕事です。
お姉様がお城で魔術隊を務めているぐらいで、そうそう顔を出すようなことはないと思いますが?
「私の方はビデオカメラの納入だ」
「ああ、そういえば、そんなことありましたわね」
その場のその時の風景を記録する、映像機器。
我がローデイと交渉するために、ユキ様が用意した品。
尤も、本当の理由は、ユキ様が私との婚姻を認めてもらうために用意したものですが。
無論、あの時の映像はちゃんと、ダビングして10か所以上に保存をしており、いつでも見られるようにしていますわ。
私の子供が生まれて成長した暁には、父と母の出会いを見せるつもりですの。
と、そこはいいとして、今ではヒュージ公爵家がローデイで権勢をふるうための重要アイテムです。
このビデオのおかげで、我がヒュージ公爵家に毎回喧嘩を売っていた、ドクセンを処罰できたのですわ。
「だが、それだけではない。ドクセン家を捕縛して潰した後始末でな……」
「ヒュージには、ドクセン家が管理していたモノ全般の整理と管理を任せることになった。まあ、領地のことがあるので、娘、君の姉であるルノウ殿が魔術警備の傍ら色々やってくれているのだよ」
「はあ? お姉様にですか? 他の貴族などは?」
なんでまたお姉様にドクセン家の資産の管理なんかを?
未だに公爵家を継いだわけでもなく、立場的には騎士階級のはずですが?
「モノがモノだからな。魔剣やその他、犯罪に関わりがあったかもしれないものだ。下手な者には預けられん。特に権力を持っている奴らにはな……」
「ああ。だから、権力もさほど持っていないお姉様なのですね」
「迷惑だとは思ったが。ルノウ殿に管理を任せて、所有者は陛下ということになっている。ルノウ殿を脅してくるようなら厳罰と言ってあるし、父であるヒュージ公爵のビデオのこともあるので、警備にはもってこいというわけだ」
確かに、ビデオという監視カメラの存在があるのは心強いですわね。
「もっと、カメラが量産できるのであれば、あちこちに配置して監視できるのですが……」
「そう簡単にいうな。元々、息子が見つけてきて、ウィードから流してくれるだけでもありがたいだろう?」
「ない物ねだりですね。聞き流してください」
……実は、DPで呼び放題とか言えないですわね。
それに、整備や修理がほぼできない道具を売りに回すというのもあれですし、ザーギスやコメットが自力で開発してくれればいいのですが……。
そうなれば、本当の意味で量産できるようになるでしょう。
さて、これ以上、何かウィード関係の物の話をされてもあれなので……。
「お父様のことはわかりましたが。ブレード陛下はなぜ、ベータンの方へ?」
「「……」」
先ほどまでハキハキと答えてくれたお2人が沈黙している。
なにか、大きな問題でもあったのでしょうか?
そんな不安が頭の中をよぎっていると……。
2人は観念したように、口を開く。
「ベータンというか、ウィードの飯……じゃなかった、食事がしたいと言ってな」
「……確かに、ウィードの料理は洗練されて美味しいです。ですが、我が国にユキ殿たちを迎えるのが目的だというのに……」
「……」
く、くだらない。
い、いえ。確かに、食事の美味しさは大事ですが、それでも、自国のことを考えずに美味しい食事があるからという理由で、こちらに来るなんて……。
ああ、そういえば、前来た時も、お小遣いを手に入れるために、城壁の修理をしてたりしましたっけ?
……ユキ様ほどとはいいませんが、祖国の陛下もなかなか自由ですわね。
そんな感じでめまいを覚えていると、客間のドアが開かれて、ユキ様たちとブレード陛下が入ってきました。
「よお。来たな。ヒュージにロンリ」
「「てめぇぇぇ!!」」
ブレード陛下は軽く片手を上げてお父様たちに挨拶をしたのですが、イライラが溜まっていた2人はそれをきっかけに陛下に襲い掛かります。
「お、やるか!?」
「お前が喧嘩を売ってきたんだろうが!! 大人しく殴られろ!!」
「足の一本二本でも折れれば大人しくなるでしょうからね!!」
「うおっ!? ちょ、マジか!?」
とまあ、なんかじゃれあいを始めた隙に私はユキ様の方へと近づきます。
「お疲れ様です。ちゃんと連れてこられたようですわね」
「ああ。面倒だった」
「ブレード陛下はどちらに?」
私がそう聞くと、みんなが顔を見合わせて苦笑いをする。
なんでだろうと思っていると、クリーナが教えてくれた。
「……キユのラーメン屋にいた。ラーメン食べてた。替え玉にチャーハン、ギョーザとラーメン屋のフルコース」
そう言われて、ガクッときましたわ。
本当に食べ物目的だったとは……。
まあ、キユ様というかユキ様のラーメン屋は美味しいですから、そこは致し方ありませんが。
一国の王が屋台ですか……。
私がそんな風に考えていると、今度はユキ様が私に質問してきました。
「そういえば、ホーストはどうした?」
「ああ、ホースト殿は、今おもてなしの準備中です。もうお昼は過ぎていますし、これから会議となると、晩餐をなしで迎えるわけにはいかないとのことで」
「ああ、そうか。迷惑をかけるな」
「いえ。迷惑をかけたのは元々……」
私はそういって視線を向ける先には……。
「ぐふっ」
「この馬鹿力め……」
「はっはっはっ!! 内政だとか言って、体を鍛えていないから2人がかりで俺に負けるんだ。鍛えろよ!! いざというとき、動けないのはいかん!!」
2人を倒して、にこやかに笑うローデイ王がいました。
……この惨状、どういたしましょう。
護衛でついてきたローデイの兵士たちは、上司たちの戯れにどうしたものかと固まったままです。
「とりあえず、そこまでにしておけ。飯を食って落ち着いただろう?」
「ん? まあ、そうだな。よし、お前ら、ユキに感謝しとけよ。後日、鍛え直すからな」
「……そうだな。お前を火だるまにするには、この場は不適切だ」
「……ええ。そうですね。演習場を借り切ってやりましょうか」
「ふははは!! なまけきったお前らに負ける気はせんな!! 負け惜しみにしか聞こえんぞ!!」
「「……」」
……うーん。なんなんでしょう。この3人。
我が父とその友人であり、英雄でもあるはずの人たちのことがよく分からなくなってきました。
「ブレードは煽ってないで、席につけ。俺たちとの会議をこれ以上先延ばしにするな」
「おう。そうだったな。ほら2人とも、倒れていないで席につけ」
「仕方がない」
「そうですね。これ以上ウィードに失態を見せるわけにもいかないですから」
もうすでに、ローデイの評価は地に落ちているような気もしますが、そこはいいでしょう。
今はローデイへ伝えることを伝えなくては。
そこはユキ様。即座に今までの茶番をぶった切って、今回の訪問の件をすらすらと話していきます。
「……というわけで、ジルバやエナーリアの要請だ」
「ジルバの方は知っている、あの量産型魔剣が原因なのは本当か。まあ、話は分かった、親書を出す。で、エナーリアのことは隣だしな、スィーア教会の方から連絡が来ているぞ」
「スィーア教会から?」
「そうだ。偽物の聖剣使いを使うような王は信用するに足りないと」
「で? 謀反でも手伝えってか?」
「ある意味近いな。スィーア教会側の連中の支援を頼むとのことだ。自分たちの派閥が玉座についたのなら、更なる厚い交流と友好をだと」
……思った以上に、エナーリアのスィーア教会の動きは問題ですわね。
既に他国の王にこのような話を持って行ってるなんて。
「それは、大司教からか?」
「いや、地方の司教だな。まあ、俺としては、内乱で荒れれば面倒しかならんし、手を出せば内乱に巻き込まれる可能性が高く、連合に亀裂を入れることになるからな。断った。というか、スィーア教会だけでなく、他に、ヒフィー神聖国からの派遣もあるからな。スィーア教会にそっぽ向かれてもそこまで痛手じゃない。ゲートが出来てから特にな」
「ああ、そこのせいか」
「そうそう」
ん? ユキ様とブレード陛下は何を納得しているのでしょうか?
「つまり、スィーア教会の馬鹿共は競合するヒフィー神聖国が出てくる前に収入源を確保したいわけか」
「そういうことだ。ちゃんと契約していればと思っているんだろうな。ヒフィー神聖国に客を奪われたくないってことだ」
ああ、なるほど。
同じ癒しが売りの国家ですが、今までは反対側でまともに顔を合わせることがなかったのでそこまで問題にならなかったのが、ここにきて、問題になっているわけですか。
「ということは、聖剣が使えることを披露したからって大人しくなるわけじゃないか」
「だな。エナーリア王がそれでどうにかなると思っているなら、状況がよくわかっていない証拠だな。心配になるぞ? ユキには言ってなかったのか?」
「いや、そういうのはなかったな……。ふむ。宗教関連か。面倒だな」
「ああ、面倒だ。こんな話をローデイで聞かれればさらに面倒なことになる。どっちかをひいきしてるってな」
「……だから、こっちにきやがったな」
「さあ、なんのことやら。俺は飯が楽しみで来ただけだぞ」
……なるほど、ブレード陛下はそんな考えがあってこちらに来たのですね。
しかし、今度はスィーア教会とヒフィー神聖国ですか……。
どうすることが解決になるのでしょうか?




