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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
果ての大地 召喚編

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第643堀:だがやっぱり一筋縄ではいかない

だがやっぱり一筋縄ではいかない



Side:ユキ



『映像は確認したっすか? ただいま、ドレッサが襲ってきたキメラを両断して、返す刃で、アールエスの持っていたコアを、腕ごと切断して回収。アールエスも確保したっす』


俺はその報告を聞いてはいたが、別の事態が起こったので反応ができないでいた。


『大将? 聞いてるっすか?』


再度、スティーブの声で、ようやく我に返った。


「すまん。話は聞いていた。だが、手遅れだった。いや、嵌められたか?」

『手遅れ? はめられた?』

「キュペル大聖堂の地下墓地から、死人が出てきやがった」

『死人? さっきから意味不明っすよ? ちゃんと説明してくださいっす。この一帯ではアンデッドは生存?できないっしょ?』

「原理は、ヒフィーが聖剣使いたちにやった方法と同じだな」

『ああ。ダンジョンコアをぶち込んで。動かしているってやつっすか。それで、キュペル大聖堂は大騒ぎ? 町は阿鼻叫喚ってわけっすか?』

「いや、ブリットに後を追わせているが、おそらく進行方向から察するに、目的地は総本山だ」

『はい?』

「どうやら、先触れ、事前連絡でキャリー姫たちが向かうという話を聞いて、準備したんだろうさ。まあ、そのアールエスの予定よりは早く決着してしまったみたいだけどな」


そういう意味では、キャリー姫やカグラにエノラが捕まっていると言ったのは正解だったのかもしれない。

下手に連中と交渉していたら、今向かっている死人の連中がアールエスと合流して更なる問題へと発展したのは間違いない。

だが、まだ肝心なことを伝えていないスティーブには何が危機かは伝わっていない。


『死人って言ってもゾンビとかグールとかっしょ? それなら、強襲してきても特に問題ないんじゃないっすか?』

「戦力的にはな。だが、問題はそこじゃない。そのリビングデッドかゾンビか知らんが、死人の詳細を送る」


俺は言葉では伝えず、取りまとめた報告書をスティーブに送り付けることにした。

だって、どういう説明をしたものかわからんし、どんな問題が起こるかも未知数だからだ。


『えーと、なになに……』


スティーブが届いた報告書に目を通そうとした瞬間、後方からアールエスと思しき声が聞こえてくる。


『ふははははは!!』 

『何がそんなにおかしいのです!!』

『大司教!! キメラを倒し、私を捕らえたまでは褒めてやろう!! しかし!! お前たちは絶望の淵に沈むことになる!! その顔が見られないのが残念だ!!』

『させません』


そんなやり取りのあと、なんかドタバタ音が聞こえてくる。


「大丈夫か?」

『問題ないっすよ。アールエスって人が自害しようとナイフを取り出したんすけど、ヴィリアが寸前でぶんなぐって止めたっす。気絶はしているっすけど、死にはしないっすね』


お約束の、犯人自害は防いだか。

ヴィリアたちにそういうパターンがあるのを伝えていて正解だったな。


「で、目を通したか?」

『あ、ちょっとまってくださいっす』


その間に、護衛班のリーダーであるエージルの方に連絡をとる。


「どうだ? スティーブから、主犯格がナイフ取り出してヴィリアに制圧されたとか聞いたが」

『問題ないね。バカは無事だ。伸びているだけ。ヴィリアやドレッサの腕前にはほれぼれするね。うちの部下に欲しいくらいだよ』

「残念ながらやれないな。こっちも一杯一杯なんでな」

『だろうね。それに、あんな年端のいかない子供たちをこんな現場に投入なんて正気の沙汰じゃない』

「暗に俺を責めてるのか?」

『どうだろうね。一軍を預かり部下を持つ身としては、使える者は使うのが当たり前だ。だが、1人の人としては、良心が痛むね。僕の勝手な思いでね。彼女たちはユキの役に立ちたいからこそ、この場に立っているとわかっているのにね』

「難しいよな。ま、そういう話はいいとして、スティーブに今頭の痛いトラブルがそちらに向かっているので詳細報告書のデータを回したから、あとで個室でも取ってどう動くか相談してくれ」

『トラブルが? こっちに?』


そんなことを話しているうちに、スティーブが書類に目を通したのか通信に割り込んでくる。


『うぃーす。エージル将軍と話しているならちょうどいいっすね』

『やあ、お疲れ様。近くにいるはずなのに視認できないってのは不思議だね。で、ユキからもらった報告書のトラブルって?』

『……』


エージルに聞かれたスティーブは一瞬沈黙したが、すぐに口を開く。


『キュペル大聖堂地下墓地から、死者が動き出して街を脱出したのち、総本山への移動を開始』

『死者? ああ、アンデッドかい。なるほど。これがアールエスの言っていた、大司教様が絶望に沈むことか。でも、そんなに数がいるのかい?』

『いんや。死者の陣容が不味いっす』


そう。俺がわざわざ口頭ではなく報告書を送ったのは、その死者部隊の編成、人員が、超がつくほど不味いのが原因だ。


『じんよう? 陣容か。死者に強者っていうイメージが結びつかないんだけど、どういう意味だい? そもそも、なんでキュペル大聖堂の方で処置しなかったんだい?』

『……それは無理っすね。おいらたちというか、キャリー姫たちと総本山の大司教たちが対処しないと、更なる混乱を生むっす』

『先ほどから、核心を避けて話しているね。面倒だから、僕にも資料を送ってくれよ。話を聞くに僕たちが自ら対処する必要があるみたいな話じゃないか』

「了解」


そういわれて、エージルにも報告書を送ると、すぐに読み出し、俺たちと同じように沈黙する。


『……これは、本当かい?』

「見ての通り、写真付きだが」

『これが本人だという証拠は?』

「一人はよくご存じだろう? そして、もう一人の方はジョージンに確認を取った。間違いないらしい。というか、ジョージンはひどく憤慨していたな」

『……当然だろう。まさか、ソウタ殿やアージュ殿の御遺体を利用するなんて、死体を辱めて、兵士扱いとか、誰だって怒るさ。これが人のやることかい?』


これが、俺たちが閉口していた理由であり、ブリット隊だけで対処できなかった理由だ。


「さて、大本は人ではなく、神を名乗っていたな。そこにいる主犯は」

『はっ。ユキが嫌がるわけだ。ろくでもないね。神って連中は』

「全部が全部ではないけどな」

『人それぞれ、いや、神それぞれね。それで済む話じゃないけどね。……なるほど。勝手に処分できないわけだ』

「ああ。面が割れているだけでも、ハイデン御三家の初代であるソウタとエノルの遺体に、フィンダールのアージュとまあ豪華な面子だ。その他取り巻きもきっと素晴らしい経歴の持ち主だろうよ。そんなのを俺が勝手に処分するわけにはいかない」

『……各国の王侯貴族の遺体を独断で処分できるわけないだろうね。それこそ、下手にその現場を見られれば、ユキたちが犯人者にされかねないし、遺体だけ残してもハイレ教の遺体管理がずさんだったということや、墓荒しをしていたということで、各国からの非難轟轟だろう』

「そもそも。動いているからな。傍から見ればただの人だ。厄介なことに、全員ちゃんとした知能があり判断ができるリッチタイプでな。統率している教徒でもいるんだろう。暴れることなく、普通に門から出て行ったんだよ」

『やっかいな。だから秘密裏に処分ができなかったわけか』

「そう。もう目撃されているから、処理しようがなかった」


さも、生きているかのように、門を貴族として出て行き、総本山に向かうと堂々と言っていたらしい。

道中での襲撃も考えたが、この時点で、ソウタさんの遺体を見て、他の遺体も確認も取ってしまった所、アージュの遺体も同行しているのがジョージンによって確認されて、処分するのはどうかという話になってしまったわけだ。

ジョージンなんかは、どうか無事にご遺体を取り返してくれと頭を下げていたくらいだ。

これを無視して処分は国家間の友好に亀裂をいれかねないし、人道的にもどうかと言う話もある。


『しかし、相手の能力は未知数だよ? そんなのを放って置いていいのかい?』

「能力自体は大したことはないと思う。せいぜいレベルは40から80前後だという報告が上がっている」

『はっ。40といえば将軍クラスじゃないか、80に至っては魔剣使いである僕が同レベルクラス。普通なら強敵だよ? 魔物がいないこの一帯ではまさにけた違いの戦力だね』

「だけど、今のエージルは違うし、バックアップにスティーブたちもいる」

『過信は禁物だと思うんだけどね』

「だが、関係者を無視してしまうわけにもいかん。だから対面させて、やばそうなら体感してもらってから、俺たちが処分するということになる」

『ま、実際それしか手はないか。まったく、厄介なことをしてくれる』

「御三家やハイレ教の評判落としや亀裂を入れたかった連中だからな。遺体を利用できるのであれば、使わない手はないだろう。上手くやれば、今回のことで御三家の者を殺し、ハイレ教乗っ取りができただろうからな」

『だから、暴れることなく、まっすぐに向かっているわけか』

「暴れてくれれば、町を守るために兵士が戦っている間にどさくさに紛れてやってたのにな」

『……そういう意味では、今回の総本山訪問は幸か不幸か判断に悩むところだね』

「来ていなければキュペル大聖堂の遺体利用が明らかにならなかったしな。知らぬ間に遺体を利用されると後手に回りかねない。アージュ殿下とか特にな。そういう意味では運はこっちにあった」

『まあ、アージュ殿の御遺体がどこまで動けるか知らないけど、それでフィンダール内部に入り込まれれば厄介なことこの上なかっただろうね。しかし、総本山に向かっているということは僕たち、というかキャリー姫たちにとっては修羅場だろうね』


キャリー姫やスタシア殿下にとっては死んだアージュ殿下は姉妹だ。

それがいきなり前に現れれば慌てることは確実。


「ということで、敵として対峙する可能性が非常に高いため、事前に説明よろしく」

『はぁ!? 僕がかい!?』

「そうしないと。サクッと殺されちゃうかもしれないからなー」


死んだはずの姉妹が目の前に登場。

普通なら安否を確認するために近づく。

そして、サクッとやられて、大混乱になるのは目に見えている。

しかも、キャリー姫たちだけならともかく、大司教までやられれば、ハイデンとフィンダールが乱心したと誤解を与えることにもなる。

なにせ、アージュの遺体がその事件を起こすのだから、傍からみれば、フィンダールがそんなことを起こしたと各国は思うだろう。

ソウタさんを見知っている人はいないと思うが、アージュのリッチが適当に紹介でもすれば、ハイデン、フィンダール、ハイレ教の信頼は地に落ちるだろう。


『あーもう、勝手に始末するのはダメ。キャリー姫たちを暗殺されるのも駄目。身内に見えるけど操られていますって、最悪戦ってくださいと僕に言えって!?』

「ふぁいとー」

『……クソッ。それしかないか。この貸しは高くつくからね!!』


そういってエージルからの通信が切れる。

今頃、頭をひねりながらどう説明したものかと悩んでいるだろう。


『あーあー、可哀想に』

「何なら、スティーブが説明していいぞ」

『お断りするっす。それよりもまだ情報があるっしょ』

「ああ、ブリットからの報告によれば、品質の高いマジック・ギアを体内に取り込んだ、リッチの集団は、総本山から下山中の集団に出くわして、にこやかに挨拶をしていたらしい」

『はぁ?』

「はぁ? は俺のセリフでもある。ということで、全然あの遺体集団の意図が見えない。そもそも、アールエスの指示で動き出したのなら、町を出た後は猛然とダッシュしてもいいはずだが、それもないし、復活させたキュペル大聖堂の人たちとは何も連絡を取らず出て行ったらしいからな。歩きだぞ? 馬とかも融通してもらわず」

『意味わかんねーっす。なに、この新大陸のアンデッドは好戦派ではなく融和派ってことっすか?』

「そうならただにこやかに話して終わりだろうな。何も心配はいらん」

『そもそも、なんでアンデッドを使うことを失念してたっすか?』

「まだこっちもアンデッドを安定して新大陸で運用する手段ができていないんだよ。俺たちの知らない方法でアージュアンデッドたちは動いているわけだ。失念というより、動かせるとは思わなかったな」

『まーた、凡ミスを』

「悪かったな。各国で亡くなった遺体をかき集めて、兵士として運用に使うとか思わなかったんだよ。ばれたら一発で終わりだからな」

『あー、ハイレ教だからできた荒業ってやつすっね。葬儀とかも取り仕切っているだろうし』

「そういうことだ。こっちでもソウタさんに依り代でも用意してそっちに向かわせる案も出ているから、続報を待て」

『で、こっちは戦闘準備っすか。りょうかいっすよー。あ、でも、ソウタさんの遺体とソウタさんの写し魂って鉢合わせたらどうなるんすか?』

「そこらへんも含めて話し合いだな」

『面倒なことにならないと良いっすけどね』

「今も十分に面倒だけどな」


じゃ、こっちも話し合いだ。

もうさ、外聞とかどうでもいいから、高高度爆撃で全部始末した方が楽なんじゃね?

とか、物騒なことが頭をよぎるが、すぐに振り払う。

そんなことをすれば、かえって面倒にしかならん。


はぁ、なんか俺が考えなくても素直にハッピーエンドになりませんかね?





お次は、過去の英雄様ゾンビご一行。

ある意味、訓練のかいがあったというもの。

さあ、どう後始末をつけるのか!!



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