第642堀:ああ神よ と書いて 聞き飽きたと読む
ああ神よ と書いて 聞き飽きたと読む
Side:ドレッサ
「ハイデン、フィンダールの皆さま。この度は、誠に、誠にありがとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
そう言って、頭を下げるのは、ハイレ教のトップ、エノル8世大司教を筆頭にハイレ教のその他大勢だ。
最初聞いたとき500年も続いて8代って少なくない? と思ったけど、ユキが言うには、獣人は体が丈夫な分長生きしやすいんだろう。魔物もいない地域だし、割って一人につき約60年在籍だから。って、特に疑問はないみたい。
まあ、確かにそういわれると、魔物もいないんだし、盗賊なんかが最大勢力であるハイレ教を襲うわけもないから、納得できる。
と、そんなことはいいか。
この状況を見ればわかると思うが、私たちは現在ハイレ教総本山内部において、救世主という位置づけで迎えられている。
バカ共が、私たちの背中を押すように、地下で拷問の真っ最中だったのだ。
当初はどうやってその拷問場所に大司教を連れて行くのかと、キャリー姫たちの手腕を高みの見物でもしようかと思っていたのだが、スティーブに渡された拷問者リストの中に、キャリー姫、カグラの知り合いがいたらしく、2人が激怒して、執務室を強襲、大司教を拉致、そして大司教を取り返すべく、集まるハイレ教徒たちをつれたまま私たち一行は拷問場へと突入した。
そのあとは、阿鼻叫喚。
大司教は吐くことはなかったが、ついてきていた教徒たちの半分ほどは拷問場の光景を見てダウン。
拷問場を管理している、人事の連中を捕縛し、拷問場にとらわれていた人たちの治療に救出にと大忙しになったのだ。
しかも、バカ共は堂々と……
『アクエノス様万歳!!』
と言って襲い掛かってきた。
あれ? エノキダケだっけ? いや、それキノコだし……、あー、神様の名前とかいちいち覚えてられないわ。
仲間になっているならともかく、ユキの邪魔をして足を引っ張るならエノキダケで十分よ。
いや、待ちなさい。確か、ルナ様がそれだとエノキダケに失礼とか言ってたっけ?
じゃ、エノキダケはダメよね。だって普通に美味しいもの。
なんか相応しい呼び方を考えないと……。
まあ、名前はともかく、襲い掛かってきた連中はもちろん私たちが一撃で倒して捕縛、けれど私たちがいなかった場所での捕縛劇は血なまぐさいことになったらしく、抵抗したバカ共の中にはマジック・ギアを使った魔物召喚を行った者もいたため、総本山は混乱を極め、甚大な被害が出るかと思われたが、そこはユキとスティーブたちがマジック・ギアは全て事前に入れ替えてたおかげで、ウィードの湿地帯でのんびり過ごしているリザードマンの一族が適当に人を脅かして、すぐに逃げ出したので、魔物による人的被害はなしとなった。
そんなことがあって、中級神派の洗脳?みたいなおかしい連中は捕縛がすみ、ようやく落ち着いた会談が始まったのが今というわけ。
「いえ、これもハイレン様のお導きでしょう。しかし、当初は手荒な真似をしてしまい申し訳ありませんでした」
大司教のお礼にそう返すのはキャリー姫。
まあ、あんたは盛大にカグラと暴走してたわよね。
総本山に着くなり、一気に突貫し、カグラに指示して、大司教を担がせたんだから。
事情を知らなかった私たちは何が起こった状態だったわよ。
「いえ。今となってはあれが最善の方法だったと思います。まさか、狂王アクエノスが我が信者を洗脳し、あのようなことを行っているとは思いませんでしたし、どんな話を聞かされたところで信じることはなかったでしょう」
ああ、アクエノスって名前だったわね。
「しかし、あの神を詐称した狂王が何らかの形で動いているとなると、今回のハイデン、フィンダールの争いは……」
「はい。狂王によって引き起こされたものだと思っています。ハイデンの重臣内部で教会よりマジック・ギアを受け取ったという者がいるという証拠も挙がっております」
「なんと……」
「恐らく、500年前から続く、我らが友諠を壊し、貶めることが目的だったのではないでしょうか? オーノックの教会でとらえた狂信者はアクエノスではなく、ハイレン様の為と言っておりましたし、ハイレン様の地位を貶めるための行動、作戦だったとも取れます」
「……なるほど。だから、我が教会に入り込んでいたのですね」
とまあ、話は特にもめることなく進んでいく。
ユキが用意していた、写真や動画には驚いていたけど、その証拠品としての価値を知り、自分たちにも使わせてくれというほど頭も回るから、やっぱり大司教という肩書は伊達ではないらしい。
至急各国へ、今回の事件ハイデンとフィンダールの争いや総本山の出来事を伝え、各地にある教会に強制捜査をするように依頼していた。
まあ、何もしなければ、このままハイレ教の威光は地に落ちてしまうからね。
だけど、やっぱり責任は取らなければいけない。
大司教本人が悪いわけではないが、管理責任という物がある。
「……私は、この事件が収束に向かえば、大司教を辞任します。そうでもしなければ、失われた命に申し訳が立たない」
……そう。私たちが救った命はあったが、失われた命もある。
いや、救えた命より失われた命の方が多いだろう。
なにせ、私たちがこの大陸に召喚される前から行われていたことだから。
「お話は分かりましたが、今回の事が終息するのは当分先になると、私たちは予測しています」
「……どういうことでしょうか?」
「既に、リラ王国、フィンダール、ハイデン、そしてハイレ教と魔の手が伸びています。これで終わりというわけにはいかないでしょう。大司教様が指示を出したとして、どれだけ狂王信者を捕縛できるかもわかりませんし、マジック・ギアがどれだけ世間に流出しているかもわかりません。最悪、かつての魔王戦役、狂王戦役の再現となるでしょう」
「「「……」」」
キャリー姫がそう告げると、大司教たちは言葉を失う。
当然よね。大司教様が捜査、捕縛、各国への情報提供を指示したところで、狂王の信者が大人しく捕まるわけもない。
きっと、旗揚げでもするんじゃないかしら?
私たちが押収したマジック・ギアはどう考えても、ごく一部でしかないというのはユキやスティーブの調査からもわかっているし。
「……どうすれば、被害を減らせると思いますか?」
「大司教様がおっしゃられたように、ハイレ教から各国へ事件のあらましと、注意喚起を行ってもらうことが大事です。それで、確実に狂王信者はあぶりだされるでしょう。ハイレ教はこれにより、大々的に責任を取らされるようなことはないと思います。大司教様の御辞任という覚悟もございますし、各国はそれで納得してくれるでしょう」
「……なるほど」
「しかし、危険性としては、魔物を操れるというマジック・ギアの存在を各国に知らせることにより、狂王信仰をした方がいいのではと思う輩も出てくるでしょう。わかりやすい戦力増強ですからね。野心のある国は逆に狂王信者の保護と取り込みに動く可能性があります」
「……」
これもユキが言っていたことだ。
こうなると、この新大陸は大戦乱になることだろう。
正に、500年前の再演だ。
「まあ、マジック・ギアの生産方法なども大司教様の方から伝えていただくでしょうから、敵勢力が出てきたとしても、おそらく少ないはずです」
そりゃ、人を拷問して魔力、血肉を捧げよっていう頭の悪い話だからね。
それを知っていて、マジック・ギアを運用しようなんて国があったらまず内乱になるわよ。
万が一、一部の国が内乱となって狂王側が勝ったとしても、各国は危険としてすぐに連合を組んでいるだろうし、国民も大半が逃げ出しているだろうってのがユキの予想。
私も間違っていないと思う。
だが、一番肝心なことを未だに話していない。
いつ、話すのかと思っていると、ようやく話し始めた、それは……。
「今後の対策は、ここで話すだけでなくしっかり会議する必要がありますが、そのまえに、どこからどのようにしてマジック・ギアが生産されているか、狂王信者が増えていることに心当たりはありますか?」
「……いえ」
と言いかけて、何かに気が付いたように、大司教様の目が見開かれる。
「まさか、その原因が教会にあると?」
「断言はできませんが、怪しいと言える物は大司教様も頭をよぎったのでは?」
「……まさか。アレは、ハイレン様が奇跡を起こした神器」
そう。
ここに保管されているという、ダンジョンコアだ。
このハイレ教会では伝説の宝玉とされているけどね。
ウィードの重鎮はほとんど予備コアを持っているから、希少価値は暴落してるんだけどね。
なんというか、コアは私たちにとってはDPというお小遣いを入れるお財布感覚なのよね。
あ、無駄遣いとかはしてないわよ。
秋天のような強い子が宿っている物があるって知っているから迂闊なことはできないわ。
まあ、せいぜい、ウィードでは手に入らない地球の服とかお菓子を手に入れるぐらいよ。
と、私のDPの使い道はどうでもいいのよ。ユキから許可をもらっているものだし。
今大事なのは、この総本山に保管されているダンジョンコア。
「ですが、元は魔王や狂王が使っていたものです。ハイレン様だからこそ、抑えられた何かが、誰かが触れてということも考えられます」
「……確かに。大至急確認しましょう!!」
そう言って、大司教が先導して、保管されているというコアを確認することになったのだが……。
「な、ない!?」
「そんな……」
「誰が!?」
「決まっているだろう!!」
大司教たちが空っぽの台座を見て慌てている。
どうやら、時すでに遅く、神器と崇めていた、保管されていた砕けたコアはなくなっていた。
いや、知ってたけどね。
厳重に保管されてはいるけど、中に何もないのは、スティーブ達が確認済みだ。
大司教が普段はどこかにしまっているのか、あるいはもう盗まれたかのいずれかと思っていたが、盗まれた方らしい。
がばがばの警備で嬉しいわ。
「……お話を聞くに、神器はこの場にないのですね?」
「あ、はい。ここは、本来であれば、このペンダントを持っている大司教である私しか開けられないのに、なぜ……」
そう言って胸元から変哲もないペンダントを取り出して私たちに見せる。
ふーん、あのペンダントがカギになっているわけか。
「お気持ちはわかりますが、今は唖然とするより、原因を究明するためにも、ここに残っても仕方がないでしょう。神器を悪用した者たちならば、心当たりがあるでしょう? そちらに聞いてみるべきでしょう」
「……そうですね。私たち自ら尋問をします。大聖堂の前に、人事のアールエスを連れてくるように!!」
「「「はっ」」」
ということで、私たちはまた慌ただしく、総本山の大聖堂に移動して待っていると、総本山での拷問場の管理者である、アールエスという白髪交じりの壮年の男が連れられてきた。もちろん、簀巻きにしてだ。
「アールエス、答えなさい。どこに神器を隠しましたか?」
周りのハイレ教徒の怒りをまとめたような、底冷えのする冷静でいて怒気を含む声で大司教が質問する。
「……ふふふ。あーっはっはっは!! 今頃気が付きましたか!! 偽りの神を崇める間抜けな大司教!!」
「やはり、貴方が」
「ええ。そうですよ。いや、ですが、私は貴女に感謝しなくてはいけない。25年前あの日、神器を私に触れさせてくれたのですから!!」
「25年前? ああ、貴方の昇進儀式として神器に触れて誓いと祈りを捧げた時のことですか? ……まさか、そんな昔から!? でも、5年前の時には」
「ええ。5年前までは持ち出していませんでしたとも、まあ、そういうことはいいのです。私は25年前のあの日、アクエノス様から啓示を受けた!! ハイレンは偽物だと!! 力を奪った卑しい者だと!!」
「貴方は何を根拠に……」
「理解できないか? 私は神器を使えるのだよ!! このようにな!!」
そういって、アールエスは一瞬で簀巻きの状態から脱出し、いつの間にか、ひび割れたダンジョンコアをもっていて、それに魔力を込めるとコアが輝きだし、キメラが現れる。
「なっ!? 神器をそのようなことに使うなどと!?」
「もとより、この神器はこのようなモノなのですよ。これを使い私は我が神を復活させるという大事な使命があるのです。当初の予定とは違いますが、まあいいでしょう。この偽りの神を祀る、邪教徒たちをこの場で皆殺しにし、世界へ声高々に告げましょう!! 我が神アクエノスはここにありと!!」
そうバカが宣言すると同時に、キメラが吼える。
『ゴルガカァァ』
その複数の頭部があるキメラからの異様な咆哮に、普通の魔物すら見慣れていない大司教たちはその場で座り込む。……いや、腰が抜けたが正しいわね。
その様子をみてバカは更なる哄笑を見せて……。
「あははは。では、さようなら。やれ!!」
そして、キメラが私たちに向かって駆け出し……。
「もう、そういうのは聞き飽きたのよ」
私がそういって、キメラを剣で真っ二つに切り裂いていた。
はぁ、私もユキと同様、神様関連のトラブルとは何かしら縁があるみたいね。
あ、それって運命ってことかしら? 神様とかじゃなくてユキとのね。
ああ神よ!!
ユキというか、ウィードメンバーにとっては聞き飽きたセリフ
普通はラスボスが出る前のセリフぐらいなのに、ここじゃ、種別:神がエンカウントするだけの世界。
オレサマ オマエ マルカジリ
ああ、女神○生系なら別に不思議でもないのか。




