第632堀:姫ではなく友として1人の人として
姫ではなく友として1人の人として
Side:キャリー・ハイデン ハイデン王国 王女
「姫様、よろしいのでしょうか?」
そう聞いてくるのは、私と共にずっといてくれたメイドのクーノ。
恐らく、スタシア殿下と一緒にユキ様たちとハイレ総本山へ殴り込むことについてでしょう。
「いいのです。万が一、ばれて失脚したならしたで、私としては王族の責務から解放されて万々歳です。叔父様も大人しく、御子息に跡目を継がせることでしょう。そもそも、ユキ様たちと一緒に動いて私が死ぬようなことがあるとすれば、それは私の間抜けか、この世界に止める者などいないということになります」
「……話は理解できますが、それならば、せめて姫様の護衛を連れて行くべきでは? カグラ様など。御身だけではユキ様の足を引っ張りかねませんが?」
「……それは理解していますが、あくまでも今回のことは、私の我儘です。カグラには関係ありません。……なにより、彼女にはこれまでに重荷を負わせてしまっていました。我が友と言いながら、欺き、都合のいいように使い、そのあげく最後には倒れてしまった。今更なにをと思うかもしれませんが、私は、カグラの事は本当に友達と思っています。まあ、主従関係で少しは固いですが、それでも私に苦言を呈するのをやめませんでしたし、彼女は将来大物になるでしょう。いや、今でも十分に大物です。違いますか?」
「……はい。カグラ様は既に、ウィードの方々と深い交流を持っておられます。その手腕は見事と言っていいでしょう。イフ大陸の方々とも交流が深まっているようですし、外交官としては十分に仕事を果たしているかと」
「でしょう? そんな彼女を、私の護衛として使い潰せば、ウィードからの評判も落ちかねません。ユキ様自ら、カグラの看病をするほど気に入っておられるのですから。ああ、そういえばクーノはどういたしますか? ついてきますか?」
「もちろんでございます。私は姫様と共にあります」
そう、この戦いに赴くのは私とクーノ、そしてスタシア殿下だけでいい。
あくまでも、国としてではない、個人的に恨みを晴らしにいくのだ。
そんな私情まみれの戦いに、カグラを巻き込むべきではない。
だから、私はせめて……。
そう思っていると、カグラの部屋の前にたどり着きます。
「姫様、少しお待ちを」
クーノはそういって、ドアをノックすると、すぐに返事が返ってきて、ドアが開く。
「はーい。どちら様でしょうか……って、姫様!?」
中からはカグラが出てきて、驚いた顔をしている。
しかし、相手の名乗りも聞かずに開けるとは不用心だと思うのですが、ここは学院ですし、これが普通なのでしょうね。
……そして、こんな穏やかなところから、カグラを醜い戦いへと巻き込んだのは私。
と、いけない。こんなことに巻き込んだからこそ、私は最後までカグラにとって立派な姫であらねばならない。
「目覚めたと聞いて、様子をみに来たのですが、大丈夫そうですね」
「あ、は、はい!! と、とりあえず、中にどうぞ!!」
カグラは私の急な訪問に慌てつつも中へと案内してくれる。
小さいころは気安かったのに、今ではこんな感じ。
理解はできますが、苦笑いという感じです。
部屋の中は、特に珍しいものなどなく、私から見れば狭い部屋だと思うのですが、これが一般的な部屋なのでしょう。
あのだだっ広い部屋を一人で使う意味など、見栄を張る以外にないですからね。
ユキ様の執務室なんかは、とても機能的で、仕事するだけの為に大きい部屋なんかいらないことを如実に表していました。
そんなことを思い出しつつ、カグラの部屋を眺めていると、カグラに椅子をすすめられて座ることにする。
「この度は、大事なウィードの貴賓たちの前で、嘔吐し倒れるという姫様より任された外交官にあるまじき行いをしてしまい、大変申し訳ございませんでした」
私が座った途端、カグラはそういって深々と頭を下げる。
ああ、カグラは私が叱責や罰を与えるために来たと思っているのですね。
当然だな思う反面、私はやはりカグラにとっては友達ではなく、厳しい上司なのでしょうと思って少し悲しくなる。
まあ、自分がいままでカグラにしてきたことを考えると、当たり前の反応です。
ここで、少しでも、カグラに助けてもらった恩を返しておきましょう。
「いえ。そのことについて謝る必要はありません。むしろ、私たちがカグラに頼り過ぎたところが原因でしょう」
このことは、既にユキ様やカミシロ公爵、スタシア殿下、共通の認識だ。
つい半年ほど前までは、ただの学生だったのだ。
将来は、姉の後を追って研究職につくか、カミシロ公爵家に戻って巫女をして、婿を取るかという穏やかな道のりだったはず。
それが、大戦乱に巻き込まれ、ウィードから神の使徒でもあった、ユキ様達を呼び出すという、初代様たちを超えるようなことをして、自らの限界を超えるようなことばかりをしてきたのだ。
倒れて当然。
そういって、ユキ様も処罰を求めようとはしませんでした。
迷惑を被ったユキ様が処罰を求めてない以上、鞭打つ理由もありませんし、カグラが倒れた件は不問になり、カグラはウィード外交官として専念してもらい、ハイレ教に関しては、カミシロ公爵とカンナが担当することとなった。
というか、カグラを処罰すれば、それを管理できていなかった、私たちも無能だということになりかねません。
部下を叱責して終わりというのは、それは部下に失敗を押し付けているだけのただのバカです。
部下の管理すらできていないと公言しているようなものですから。
「しかし……」
だが、失敗をした本人としては、色々やりづらいでしょう。
ですので……。
「話は聞いていると思いますが、カグラはこれからハイレ教に関しては手を引き、ウィード外交へと専念してもらいます。これは決して、カグラを更迭するということではありません。ウィードとの友好。これは、今後のハイデンの国家運営において、重要なことです。万が一ハイレ教を敵に回しても、ウィードと繋がりがあれば、耐えられるでしょう」
というか、ウィードと組めば負けることはないと思います。
まあ、その後の統治が非常に難しくなるでしょうが……。
「カグラがウィードと友好を築くことこそ、ハイデンの未来に一番必要なことです。それはカグラも重々承知していると思います」
「……はい」
「ハイレ教のことは私たちに任せなさい。貴女は貴女の成すべきことを成しなさい。外交官としても、1人の女性としても」
「はい!! って、1人の女性として?」
カグラがわからないと言わんばかりに首を傾げている。
あらあら? 私も随分と、話に疎いと思われたものですね。
「あら、私の勘違いでしたか? カグラがユキ様に恋い焦がれていると思ったのですが?」
「にゃっ!?」
私がそういった瞬間、カグラの顔は真っ赤になる。
……にゃっ、って猫ですか。かわいらしいですねー。
「カグラがユキ様と結ばれることになれば、ウィードとハイデンの繋がりの強化になるので、私としては喜ばしいことなので、ウィード外交官として勤めてもらい、仲を深めてもらおうと思っていたのですが。ハイレ教のことが終われば、おのずと、外交官がユキ様と会うことになるでしょうし。でも、カグラはそれを望んでいないとなれば、別の……」
「にゃにゃ!! だいじょーぶです!! 私に任せてください!!」
「ですが、私は友人として、カグラに無理をさせたくないの。また倒れたらどうするんですか? ユキ様のことは好きではないのですよね?」
顔を真っ赤にして、口をパクパクさせているカグラ。
……あなたも貴族の一員でしょうに、もうちょっと感情を隠しなさいとは思いつつ、我が友人はかわいらしいと思ってしまう。
私の意地悪も原因の一つでしょうけど。
しかし、カグラがやりたいと言わない限り、無理をさせることはできません。ふふふふ……。
「では、ミコスにカグラの役を代わってもらいましょう。カグラはソウ様の相談役として……」
「まったーー!! 好きですから!! 大好きですから!! ミコスに任せるとか無しで!!」
「おや? ユキ様のことですか? それとも、他の男性で? 流石に、他の男性の逢引の為に外交官職をといわれては……」
「ユキですよー!! ユキ!!」
「そうですか。それならよかったです」
私はすぐに微笑んで、納得する。
しかし、その変わり身の早さに、カグラが半目になって睨んできた。
「……姫様」
「はい。なんでしょうか?」
「……わざとやってませんか?」
「もちろん。カグラがユキ様を大好きなんてことは、周りから聞き及んでいますから。というか、さっきの態度を見てわからない人がいると思いますか? クーノ?」
「いえ、誰が見ても一目瞭然かと。あ、お茶です」
「ありがとう」
「ああっーーー!?」
カグラは恥ずかしいと言わんばかりに、両手で顔を覆って左右に頭を振る。
ふふふふ……、なんかカグラを弄るのが楽しくなってきました。
「しかし、いつ頃からなのでしょうか? 最初はカグラもかなりユキ様を恐れていたはずですが?」
そう。最初はカグラだけでなく、私もあの強大な力をもつユキ様に恐れを抱いた。
フィンダール帝国を押し返すために、さらなる脅威を呼び込んでしまったと。
しかし、ふたを開けてみれば、ユキ様は野心などなく、むしろ面倒事は嫌いというタイプで、平和を愛する方だった。
だが、それは甘いというわけではなく、キビキビと平和を維持するための布石を、汚かろうが打つ、立派な為政者であった。
それは、カグラもわかっていて、なるべく機嫌を損ねないようにと行動をとっていたはずですが?
「えっと、最初は確かにそうでした。でも……色々、こう優しくしてもらったりして……」
それから、砂糖を吐きたくなるような、乙女の恋愛小説を読まされたような気分で話を聞くことになりました。
それはただのストックホルム症候群とかじゃないでしょうか?
ユキ様の方からは、カグラの気持ちに気が付いているとは思えません。仕事の付き合いという奴でしょう。
……とは、バッサリ言えない。
案外、私の嫉妬というモノもあるのかもしれない。
恋というモノを私はしらないから。
と、そんな言っても仕方ないことはいいとして、カグラがユキ様とくっつくのは国としても、カグラ個人としても有益なこと。
これを応援しない理由はない。
流石に、私がユキ様と、というわけにはいかないですからね。ハイデン国内の馬鹿共がこぞって反対するのは目に見えていますし。
幸い、この利点はウィードの奥様たちもわかっているようで、カグラの後押しに関してはある程度協力が得られているようです。
あとは、フィンダールの方にも話を通しておかないと、あとでこじれる原因でしょうが、スタシアお姉様がヒイロ殿と仲良くしていますし、そこから頑張ってもらうしかないでしょう。
勿論、手伝いはしますが。
「さて、カグラの具合の確認ついでに、恥ずかしい話も聞けたから、そろそろ城に戻りますね」
「あ、はい」
「カグラはこれからウィードの外交官の仕事を頑張ってください」
「はい!! お任せください!!」
「ついでに、子供ができたと報告があれば嬉しいですね」
「こ、こども!? ま、まだユキとは、しょ、しょんなことは……」
「ふふっ。カグラは思ったよりも、想像力が豊かなようですね。では」
「あっ!? 姫様!?」
私はそういって、クーノと一緒に部屋を出て行く。
「……姫様。お伝えになりませんでしたね」
「いえば、カグラは何としても止めに入るでしょう。あの子はそういう子です」
「それは、臣下なれば当然かと」
「ええ。そうですね。ですが、カグラは臣下ですが、友でもあります。私は、憎しみに染まっている自分をカグラに見せたくないのです。せめて、私は最後まで、彼女が信じた姫でいたい。それが、カグラに対する、私の勝手な贖罪です。そして、幸せになってほしい。だめでしょうか?」
「……いいえ。人として当然かと。そして私は、姫様にどこまでもついてまいります」
「ありがとう。クーノ。しかし、貴女も無理についてこなくても……」
「いえ。私も、あの時、姉を彼奴等に殺められております。姫様と同じ復讐者であります」
そう、あの時、犠牲になったのはアージュだけではない。
護衛の騎士たちも、側にいたメイドたちも、だからこそ私とクーノは憎しみを捨てるわけにはいかないのだ。
あの時、倒れた人たちの為にも。
「愚問でしたね。では、武器の手入れをしましょう」
「はい」
ということで、内容についていけないのであれば、12月21日の631堀から読み直しをお願いします。
これから、殴り込みへの準備が着々と進んでいきます。
中級ペーパーたちとの決戦はちかいのか!?




