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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
果ての大地 召喚編

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第630堀:目覚めた外交官殿

目覚めた外交官殿




Side:カグラ



急に視界が明るくなる。

なんだろう?

考えが上手くまとまらない。

まぶしい? なんで? 眠いのに……。

眠い? 

ああ、私は寝てたんだ。

そう自覚すると、急速に意識がはっきりとしてくる。


仕事、やらなきゃ。

だって迷惑をかけたから。

迷惑? なんだっけ、どんな迷惑をかけたんだっけ?

んー、考えがまとまらない、とりあえず起きよう。


私はそう思って身をよじると、ふかふかなベッドの感触が伝わってくる。

あれ? 学院のベッドってこんなに質よかったっけ? 

というか、実家のベッドよりもさらにいいモノのような、でもこのベッドの感触は知ってる。

なんだっけ? えーと、そうそう、ウィードに行ったときのフカフカのベッドだ。

でも、ウィードからベッドを持ち込んだ記憶はないんだけど、ああ、とりあえず目をあけよう。

このままだと二度寝してしまう。


「ん……」


目をあけると、見慣れた私の部屋ではなかった。


「あれ? ここはどこだろう?」


見たことが無い部屋のベッドに私は寝ていた。

……というか、こんなスッキリした部屋は見たことが無い。

学院や私の実家のようにゴテゴテした感じではなく、スッキリしていて、なおシステム的のような感じだ。

殺風景なのではない。ちゃんと気品が感じ取られる家具の配置、そして……電気のスイッチが目に入ってここの所有者の所属がわかる。


「あ、ここはユキの関係の所?」


電気のスイッチなんてウィードの関係者の所しかない。

とりあえず、ドアは見えるから、そこから出れば誰かいるだろう。

そう思って、床に足を降ろし、歩こうとすると……。


ペタン。


力が入らなくて座り込んでしまった。


「あれ? なんで?」


自分の体に思うように力が入らない。

不思議だ。

なんでこんなにふにゃふにゃなんだろう?

とりあえず、床から伝わってくる冷たさは辛いので、なんとかして、ベッドの上に戻り一息つく。


「ふぅ。なんか、思ったよりも疲れちゃった。……ああ、私、疲れているのか。だから力が入らないのか」


そんなことをわざわざ口にしながら、手をぐっぱぐっぱと広げて確認する。

やっぱり、いつもより力が入りにくい。

そんなことをしていると、ドアが開いてミコスとソロが入ってくる。


「あ、2人とも、おはよう。久しぶり?」


外は夕方だったのに、なぜか口から出たのはそんな言葉。

変だとは思ったが、なぜかしっくりときた。


「「ああーー!?」」


でも、2人は挨拶を返してくれず、叫び声をあげて、私に抱きついてきた。


「カ、カグラ!! よ、よかったー!!」

「先輩、目を覚ましたんですね!!」

「へ?」


なぜか2人は涙を流して喜んでいた。

全然私は事態を把握できないでいると、さらにドアから人が入ってきた。


「目を覚ましたって!? うわ、ほんとだ!! って、エオイドは向こうにいきなさい!! 女性の寝起き顔をみるんじゃないわよ!!」

「ちょ、ふげっ!?」


アマンダとエオイドがきたのだが、すぐにエオイドは蹴りだされてしまう。

可哀想だとは思ったが、アマンダの言う通り、レディーに対するふるまいではないので仕方ない。


「もう、心配したわよ。吐いて倒れたって聞いて来てみれば、ずっと寝てて、かれこれ3日よ?」

「え?」


3日? 3日も私寝てたの?

それに吐いた……?

その言葉を疑問に思った瞬間、今までの経緯を思い出した。


「うっ」


あの人の形をした物体を思い出して、思わず口に手を当てる。


「ご、ごめん!? 嫌なこと思い出させちゃったね!!」


アマンダが慌てて、私の背中をさすってくれたおかげか、すぐに吐き気は引いていく。

というか3日も寝ていて、私の胃は空っぽになっているので出るものは胃液ぐらいしかない。


「気にしないで、私が貧弱だっただけだから」


そう言って、私は両手で顔を覆う。

よりにもよって、ユキの前であんな失態を……。

ユキは優しくしてくれたけど、誰だってあんな状態でさらに鞭を打つわけないわよ。


「……ねえ。みんな、あれからどうなったの?」

「あれからって?」

「私が倒れてからのこと。ユキの話じゃ、すぐに動くみたいなこと言ってたでしょう? 何か私がやらなきゃいけない仕事があるんじゃない?」


そうだ。仕事があるはずだ。

いくらユキが、ウィードが主導で動くとはいえ、情報提供者としてのハイデンとの繋がりは必須だ。

私が倒れたんだから、色々と滞っているはず。

すぐに、謝罪をして、巻き返さないと、ユキに幻滅される。

応援してくれたトーリさんたちにも、きっと呆れられているに違いない。

そう思って、ミコスの肩に手をかけて立ち上がろうとするが、やっぱり足に力が入らなくてベッドに倒れ込む。


「先輩。無茶はダメですよ!?」

「そうそう。私たちだって、アレを見て1日うなされたんだから」

「でも、ユキに任された仕事が……」


そういって、連れて行ってもらおうと思ったら……。


「そこの心配はしなくていいぞ。既にソウさんとカンナが代わって動いてくれている」


ユキがそう言いながら、いつものリーアさんやデリーユさんと一緒に入ってきた。


「お父様とお姉様が?」

「ああ。元々、カグラはウィードへの外交官であって、ハイレ教を潰すための人員でもないからな。正式にソウさんとカンナをハイレ教への調査の為のサポート人員として姫さんから派遣を認められて、カグラは晴れて、ウィードの外交官へ専念してもらうという話になった」

「え?」


言われた意味がよく分からなかった。


「よかったね。カグラ。ユキさんがウィードで、3人ともゆっくりして来いってさ」

「楽しみですね。先輩」

「私たちもついていくわよ」

「いてて……。約束通り案内するよ」

「……」


そう皆にいわれたけど、私は反応できないでいた。

だって、それって……、私じゃ役に立たないから、クビってことでしょう?


「今回の件で、カグラたちに無理をさせ過ぎた。俺の配慮が足らなかった。すまん」


そういって、ユキが私たちに頭を下げる。

謝ってくれているはずなのに、私には『役立たず』と言われているように見えた。


「い、いいえ。ユキ先生が悪いわけじゃないでしょう? 顔を上げてください」

「そうですよ。ハイレ教会がいけないんですよ!!」

「……」


私は何も言えずに、俯いてしまう。

きっと、ユキの顔を見てしまえば、泣いてしまうと思った。

ユキに役立たずめって顔で見られたら、たぶん大泣きしてしまう。

そして、そんな表情を向けられるかもしれないというのがすごく怖かった。


「ま、ウィードへの移動はゲートを使ってすぐできるから、明日にでも行くといい。ハイレ教のことはソウさんやカンナと一緒に片を付けるから心配するな」

「はい。でも、気をつけてくださいね」

「あの人たちおかしいですから」

「何かあれば、私たちも手を貸しますからね!! ね、カグラ」

「あ、う、うん」

「って、アマンダ、僕が抜けているって!?」

「「「あははは……」」」


皆はそんな冗談で笑っていたけど、私は何とか返事するだけで精一杯だった。

そんな私を見て、ユキは機嫌を悪くしたのか……。


「さて、まだ仕事もあるし、俺たちは戻る。あとは友達同士でゆっくりしとけー」

「「「はーい」」」


そういって部屋を出て行った。

……そして自分の最低さに笑えてきた。

なにが、私のことをみてユキは機嫌を悪くしたよ。

どう考えても気を使ってくれただけじゃない……。


「ぐすっ……、ひくっ、あうう……」


余りの情けなさに、我慢できず涙があふれ出てしまった。


「カグラ、大丈夫?」

「先輩。具合でも?」

「ルルアさんよぶ!? 呼ぶ!?」

「ち、ぢがうの……」


あわてて、アマンダの手を引っ張ってとめて、何とかこれ以上の恥の上塗りは避けた。

アマンダも私の制止を振り切ってまでとは思っていなかったらしく私が泣き止むまで待っててくれた。


「落ち着いた?」


ミコスがそう言いながらジュースを渡してくれる。


「うん。ありがとう。はぁ、起きていきなり泣き出すとかサイテーね。私」

「いやいや、あの惨劇見たら普通だって。私もソロも起きた時は抱き合ってよかったーって言って、泣いてたから」

「はい。ルルア先生からは、しばらくは夢に見るだろうって、ひとりになると不安になるから、みんなでいなさいって」

「……違うの。ただ我儘が叶わなくなるって思ってね」

「我儘? なにが?」


もう隠すも何もない。

この皆には既に知られていることだ。


「……えーっと、ユキと一緒にいられないのが悲しくて、そして、迷惑かけたから、捨てられたって思っちゃった」

「「「……」」」


私が正直に自分の心の内を話すと、みんな一瞬静かになって、すぐに笑顔になる。


「ぷっー。カグラって乙女だね。そして、あのユキ先生が、吐いたぐらいでカグラを遠ざけるわけないじゃん」

「そうですよ。そんなことありませんよ」

「ユキさんがそんな理由で遠ざけるわけないじゃん。純粋に、休めってことだと思うわよ?」

「うん。アマンダの言う通りだと思う。でもさ、なんか仕事を失敗しちゃったって気がしてね。目の前で吐いて、倒れちゃったし」

「あー。まあ、好きな人の前で吐いた姿を見られるのはね」

「ちょっと、きついかもしれないですね」

「そう? そういうのも含めて、夫婦になるんでしょう?」

「それは、アマンダがもう結婚してるからよ。私はまだ結婚前で、こうできる女ってのを見せたかったのに……」


結局、無様に倒れた姿をユキに見せた上に、ここで泣いてしまったわけだ。

あー、落ち着いてきたけど、恥ずかしー。


「はぁ、これで私はウィード勤務。ユキへの直接的なバックアップはできなくなったと。どうやって挽回したらいいのかなー」

「それを言われるとミコスちゃんもだけどね」

「まあ、ウィードはユキ先生の本拠地なんですし、会えないってわけじゃないですから……」

「そうそう。まずはゆっくり休憩して、体調を元に戻さないと。またユキさんの前でぶっ倒れたりすれば、次こそ役立たずってみられるわよ?」

「うっ。そうね。しばらくは静養するわ」


そんな話をしていると、またドアが開いて、人が入ってくる。


「おっ。本当に起きてる。やっほー。大丈夫?」

「こら、病み上がりの人がいるんだから静かに」

「……他の2人も元気そうで何より」


リエルさんたちだった。

その姿を見て私はとっさに謝る。


「ご、ごめんなさい。いきなり倒れちゃって」

「いやいや、気にしてないよー。ふつー、あんな現場見たらひっくり返るって。僕たちの配慮が足らなかったね」

「うん。カグラ、ミコス、ソロ、ごめんね。私たちだけで踏み込むべきだった」

「……まさか、あそこまでやっているとは思ってなかった。ごめん」

「い、いえ。それもこれもハイレ教がおかしいからで……」


逆にトーリさんたちが謝ってきて恐縮してしまった。

誰だって教会の地下があんなふうになっているなんて思わないでしょう。

あいつらの頭のねじがぶっ飛んでいるのが悪い。

というか、なんでハイレン様を祀っている教会があんなことになっているのよ!!

ルナ様曰く中級神の残党が裏にいるような話だけど、どこが神様よ!!

あー、考えるだけで頭にくる。


「あ、そういえば。あれからハイレ教へは?」

「あ、うん。もうスティーブたちが先行偵察に行っているよ」

「山の上ですよ? 飛んでですか?」


スティーブ将軍は、ゴブリンではあるが、そこはウィードで将軍を拝命しているだけあって、ユキの信頼も絶大であり、魔術で空を飛ぶなど造作もない。

我が国でも喉から手が出るほど欲しい人材だ。と納得していると、トーリさんから意外なことを聞く。


「陸路ですね」

「え!? 山の上って簡単に言いましたけど、3つほど山を縫って、雪が常時積もっているよな過酷な場所ですよ!? お父様やお姉様が言わなかったのですか!?」


いくら、スティーブ将軍たちが一騎当千の兵でも、雪が積もる山を3つも陸路で超えるのは色々大変ではないか?

なんでそんな無駄に消耗をする動きを……。


「……強襲するにしても、こっそり動くにしても、脱出路の確認と確保は必要不可欠。空路は当然として、陸路もしっかり確認してから行うのが、組織として動くためには絶対条件。相手が気が付いているのかどうなのかという確認にもつながる。ましてや、相手はダンジョンの力を制御している可能性もあるから、ダンジョンを近くに設置してダンジョンからのダイレクトアタックは厳しいとみている。それは空も同じ。妨害でもされて飛翔魔術が使えなくなれば、真っ逆さまで死亡」


ごもっともな意見だ。

……私が考え付くことは当然、想定済みということなのだろう。

……ふふふ。この程度で私はユキと一緒にいたいとか、馬鹿ね。


「ま、そこはスティーブたちに任せるとして、カグラたちは、これからが本番だよ」

「え?」

「これからウィードに行きますからね。ハイデンの評判をよくするためにも、行動には注意しないといけませんよ」

「……ウィードの常識をしらないと、ハイデンの人は常識知らずだと思われてしまう。国が違うから、文化は違って当然、常識も違う。だけど、それを理解している人はなかなかいない」


うっ、確かにそうだ。

でも、私は一度ウィードに行っているから……。


「特にカグラは、あと2人いるからね」

「あと2人?」

「うん。エリスとは、セラリアとの謁見の時に顔は合わせてるけど、まだ話したことはないでしょう。それに、私たちと同じように妊娠していて召喚で連れてこられた、ミリー。この2人と今後顔を会わせないわけには行かないからね」

「……たぶん。大丈夫です」

「……殺されることはないと思う」


……神様。ハイレン様。

私の進む道に、なぜこのようなことばかり起こるのでしょうか。



Side:スティーブ



「隊長。ラーメンできましたよ」

「おーう」


おいらは部下からラーメンを受け取って食べる。

この雪山を調査する仕事中での唯一の娯楽と言っていいっす。

今日は味噌味っすね。


「そういえば、今日は空、晴れてますね」

「そうっすね。夜空に星がきれいに見えるっすよ」


部下たちと一緒に、寒空の中、綺麗に光る夜空を見つめる。


「あ、流れ星」


その部下の一言で、視界の隅に星が流れるのを確認するが、すぐに消えてしまう。


「願い事は言う暇なさそうっすね」

「願い事かー。隊長は願い事ってなんですか?」

「うーん。有給一ヶ月?」

「うわー。具体的過ぎてなんかいやだー」


「「「わははは……」」」


そんな仕事中の平和な出来事。




そして恋が走り出す。


どこの少女漫画のタイトルとか、売り文句だよ。

だが、こういう展開は諸兄の方々の好みだと思うところであります。

出会いと、勘違いによるお互いのすれ違い、度重なる困難。


うん、自分で書いてて、間違ってないけど、間違ってるよなーって気分で一杯。

前回で、カグラがどこでユキを好きになる要素があったのか? というのが、ありましたが、そこらへんはそれとなく書いたつもりだったけど、また細かく書いた方がいい?


そこは聞いておきたい。


最後に、そろそろ年末なので、年末年始、落とし穴スペシャルへと移行しようかと思っておりますので、本編はあと一、二話で今年は終わりとなりますのでご了承ください。



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