第598堀:第二次探索と結果
第二次探索と結果
Side:エージル イフ大陸 エナーリア聖国 将軍兼技術将校
「うっひゃー!! すっごーい!!」
私はそう喝采した。
興奮を抑えられない!!
なんというか、ウィードに初めて来た時を思いだす。
本当に、ユキたちと一緒にいると飽きないね。
初めての時は敵同士だったけどさ、今は仲のよいお隣さんって感じで、人生なにがあるかわからないよね。
まあ、女王と剣の打ち合いをしたプリズムは、ウィードに来ると胃が痛いだろうけどね。
気が付けば、新大陸へも連れて行ってもらえるんだから、この立場は嬉しい限りだよね。
さらに、こんな不思議な体験もしたんだから。
「何がどうなってんの? ループしてるー!!」
「あ、ちょっと!?」
タイキが後ろでなんか言った気がするけど、私は止まらず壁沿いに走り出し、気が付けば、タイキたちの後ろに到着していた。
ここ一本道でまっすぐなのにだよ?
うはっ、やっぱりすっごい!!
ユキやタイキの言った通り、空間がどこかで歪んで繋がっているってやつなんだろうね。
「ただいまー!!」
「うひゃっ!?」
後ろから元気よく声をかけると、アマンダ君が驚いた声をあげて、みんながそのあとに振り返り、タイキはげんなりした顔で……。
「なにやってるんですか」
と、つまらないことを聞いてくる。
「もちろん。君たちが言っていたループとかいう奴の検証だよ」
そう、ただ興奮のままに走り出したわけではないのだ。
この不思議の解明をするために、私はあえて個人でループが起こるのかを試したのだ。
その結果、この空間にいるすべての人がこのループに適応されるようだ。
ユキやタイゾウ殿の言ったように、この空間に私たちが閉じ込められているという感じなんだろう。
「はぁ。これだから研究者は。まあいいです。とりあえず、俺たちでも普通にこの空間に放り込まれるのは確認できましたからね」
「うん。それがわかって何よりだよ」
私たち第二次図書館探索隊の目的はトラップの再現性、条件、常時発動するのかというのを確認するためだ。
今回、トラップを踏んだのは、この学院の生徒ではなく、アマンダ君だ。
次は私やタイキが踏んでみることになるだろうけど、まあ、ほぼ無関係であるアマンダ君が踏んでこっちに飛ばされたんだから、きっと飛ばされるんじゃないかなと思う。
「ルース。何か感じるか?」
「いえ。殺気どころか、視線なども感じませんね」
「エージルさんや、アマンダ、エオイドは?」
タイキに聞かれて私たちも首を横に振る。
この場所にいてそういう感じはない。
私としては秋天ちゃんや水龍殿の言う通り、なんというか遊び心を感じるね。
というか、この別次元に同じような空間を作るって方法を是非覚えたいね。
向こうからは消失しているようだし、安全な避難場所になるだろう。
手狭な研究室も広げられるだろうし、プリズムの説教から逃げるのにちょうどいい。
「でも、なんでユキさんやタイキさんはこの空間をそんなに警戒しているんですか?」
「この噂で失踪した人はいなかったって話ですよね?」
「ああ、それは私も不思議だったんだ。確かに、死人や失踪者がいるなら警戒をしないといけないんだろうが、結局のところ、この噂に関しては関連した失踪などはなかった。だけど、2人はやけに警戒しているように感じる。なぜだい?」
念には念を入れていると言われればそれで終わりだが、どちらかというと、ユキやタイキは怖がっているような感じがしてならない。
「えーっと、まあ、簡単にこの手の話をよく知っているからなんですよ」
「というと、この不思議空間を経験したことがあると?」
「いえ、ないですけど。故郷ではこの手の無限ループに入ると、生きては出られないってのがお約束で」
「あー、なるほど。2人にとって、ここはとても危険な場所なわけだ」
それなら、過剰ともいえる警戒はうなずける。
2人にとってはここは死刑場と同じなんだろう。
断頭台、首吊り台に乗せられて、大丈夫ですよと言われても安心できるわけもない。
「だから、勝手な単独行動はやめてください。単独行動に走った人を一人ずつ潰すのは戦術としても当然でしょう?」
「うん。それは済まなかった」
正直に謝る。
タイキの言う通り、悪意あるトラップの場合、単独行動をした私はきっとやられていただろう。
各個撃破というは、戦う時の基本、当たり前だからね。
「で、陛下。予定では、トラップを踏んで声が聞こえるかとの検証ですがどうされますか? 続行しますか? それとも時間切れの検証を先にしますか?」
「うーん。ルースたちも嫌な感じはしないっていってるからな。やってみるか。みんなはいいか?」
私は特に否はないので、検証を引き続きやることに同意する。
アマンダとエオイドも問題なしということで、そのまま声が聞こえるという検証をやることになった。
「今回は、アマンダとエオイド。日本語の方は覚えているから問題ない。だけど、何か違和感があったら言ってくれ」
「「はい」」
どうやら、2人は知らないうちに、タイキやタイゾウ殿の国の言葉を覚えていたらしい。
私としても、二ホンの技術には興味津々だから覚えておきたいのだけど、まだまだ先だろうね。
はっ、これだからお偉いさんは嫌だね。
コメット殿やナールジア殿のように悠々自適な研究ライフを送りたいものだ。
私がそんなことを考えているうちに、2人は手をつないで仲良くトラップを踏む。
前回は、不意にリーアだけが踏んで聞こえた感じだったので、わざと2人で半分ずつ踏んで反応があるかというのも試す。
しかし、普通に手をつなぐ2人を見て、そういえば結婚したんだよなと思いだし、私が独り身なことに酷く悲しくなった。
いや、プリズムがいるじゃないか!! 研究があるじゃないか!! と言い聞かせてみる。
私もこんな気持ちを抱くんだから、そろそろ婚活するべきなのかな?
旦那がいれば、私は無駄に働かなくていいし、研究し放題!?
まてまて、結婚とは旦那をこき使うことじゃないだろう。
……うーん、やっぱりまだ私には結婚が早いのかな?
あとで、コメット殿とかナールジア殿に相談してみるか。
ん? 独身の2人に聞くのは正しいのかな? いや、でも、私より長生きしてるしな。
そんな、今後の未来設計を考えていると、何か聞こえたのか、アマンダとエオイドがハッとした顔になる。
「聞こえました。日本語です」
「二階にこいって言ってます」
「誘導系かよ」
2人の話を聞いてタイキがげんなりとする。
「誘導系って?」
「そのまんまですよ。誘導されて進むんですが、悪意があればそれは……」
「ああ、良くないね」
一網打尽という奴だろう。
獣の檻に放り込まれるようなものだ。
「陛下。二階に降りるのは私も反対ですが、とりあえず、階段が存在しているのかを確認してはどうでしょうか?」
「そうだな。ループが解除されているか確認しよう」
この空間に入ったときは、どこを歩いても出口というモノは存在しなかった。
だけど誘導があったということは階段が出現している可能性があるわけか。
ということで、私たちは一旦、無くなっていた階段の方へ足を進めると、そこには階段が出現していた。
「エージルさん。下りないでくださいよ」
「流石に下りないよ。でも、これで次起こすべき行動が分かったわけだ」
この次の探索は階段を下りて、2階の探索だ。
「とりあえず、みんな歴史書コーナーに戻ろう。もうすぐ10分だ。それで元に戻るかの確認をしよう」
そして、10分経った途端、元の図書館に戻ったのか、無限ループは解除されて、待機していた他の皆と連絡が取れた。
合流したあとは、会議室の方でまた話し合いだ。
「ふーん。誘導系か。嫌だなー。まあ、話し声聞いただけで秘密が全てわかるわけもないか」
「元々、図書館には秘密の部屋があるという話だしな。その声は秘密の部屋への誘導と考えていいだろう」
私たちから第二次探索の話を聞いたユキとタイゾウ殿はそんなことを話し合っている。
「とりあえず、10分で戻ってこれるって言うのは当たりみたいだね。原理はよくわかんないけど」
「あと何回探索できるのかってのを気にしないといけないんだけど、まあ、そこは魔力とかの関係だろうからな」
あ、そうか。2回目は上手くいったけど、3回目、4回目まで無事に不思議空間へ行けるとは限らないわけか。
あんな不思議な空間に人を移動させるんだから、魔力とかはものすごく食うだろうし、ユキの言う通り、何度も探索できるって思うのは甘いだろうね。
ということは、危険を覚悟で3回目は強行で探索しないといけないのかな?
流石に、あんな空間で無茶はしたくないなー。
ああ、走り回ったのは今は気にしないでおこう。
あれは、こう私の研究者魂のリビドーが迸っただけだから。
いつもは慎重なんだよ?
と、そこはいいとして、みんなも次の探索が強行しなければいけないということで、難しい顔をしていたのだが、不意に、シュテンちゃんから声があがる。
「んー。とと様。その心配はいらないと思う。あそこは安定している。妙な幽世につなげているわけじゃないし」
「どういうことだ?」
『つまりだ。あそこは図書館を丸々利用した空間で、それを維持する神通力、こちらでは魔力になるが、その供給もここが魔術学院である上に、図書館を利用する者たちから常々吸収しているので、あそこが無くなる心配はないということだ』
「なるほどな。じゃあ、慌てて探索することはないか?」
『それはわからん。あの空間が無くなることはないが、誘導する声に制限がある可能性もある』
「あー、短い期間で何度もやっていると、警戒にひっかかるってことか」
『うむ』
ふむふむ。
あの空間は学院の生徒たちから魔力を徴収して作り上げているのか。
なるほどねー。魔剣や聖剣の大型版みたいなものか。
で、結局のところ、空間がなくなる心配はないけど、声の誘導がいつまであるかわからないと。
「……今のところ危険な感じはしなかったのだろう?」
タイゾウ殿がそう周りに聞くと、探索したメンバー全員が頷く。
私も特に身の危険なんかは感じなかったな。
「……なら、次の探索は秘密の部屋を見つける覚悟で行こう。無論、油断はしないでほしい」
その提案にだれも否定はしなかった。
いつまで、探索ができるかわからないからね。
次で決めようという覚悟は大事だ。
予算も時間も無限にあるわけでもないからね。
慎重にっていうのは大事だけど、それだけじゃダメなんだよ。
時には大胆な発想と行動力が必要なんだ。どんなことにもね。
無論、研究にもね!!
「異論はないようなので、第三次探索の選出を始めたいと思う。まずは、必ずいなければいけない人材だが、カミシロ家の血筋ということで、カグラ殿。そして、この手の不思議に詳しいユキ君とタイキ君。専門家である秋天君に水龍殿。その秋天君のお世話役にキルエ君。魔術学府の知識を持っているクリーナ君にイフ大陸での魔術研究の第一人者であるエージル君。護衛役にリーア君、デリーユ君、ルース殿、ヴィリア君、ドレッサ君、ヒイロ君で行こうと思う。みんなどうかな?」
そういってホワイトボードに名前を書き連ねて私たちに聞いてくる。
手堅い編成だと思う。
アマンダとエオイドはちょっと戦力不足だから、今度の探索からは除外で、代わりにヴィリアとドレッサ、ヒイロがくる。年齢的には2人より若く、ウィードでは学生であり戦闘能力も高い。
ある意味、都合のいい代替え戦力だ。さらに、ウィード出身なのでユキに対する信頼は厚い。命令には素直に従うだろう。
「あとは希望者ということになるのだが……」
「はい!! 是非とも私も探索に加わりたく思います!! それに私もカミシロ家の血筋のモノです。カグラに万が一があった場合は私が代わりとなりますし、このハイデンの研究職員でもあります!!」
真っ先に希望者として名乗りをあげたのは、カンナ殿だった。
確かに、新大陸の魔術体系、知識を深く持つ人物は欲しいところだ。
「私としては心強いと思いますが、グリモ学院長はどう思われますか?」
「……ふむ。今まで学院の者はカグラ君とミコス君だけだったので、学院の教員としても、参加許可を頂ければと思います」
あ、そうか。
今までの第一次、第二次探索はなぜか学院の教員は未参加だったね。
それは体面が悪いか。
「確かに、こちらが配慮に欠けていましたな。カンナ殿。よろしくお願いいたします」
「はい。よろしくお願いします」
「では、他に……」
「あ、私も参加します!! もとより、この記事を書くために情報提供したんですから、御一緒させてください!!」
「ふむ。ミコス君も参加と」
この子も面白いよね。
諜報員だろうけど、なんというか嫌味がない。
素直なんだよね。まだ学生だからかな?
でも流石に大所帯になってきたし、そろそろ終わりかなーと思っていると……。
「ヒイロが参加をするならば、私も参加します!!」
「スタシア殿下!! それはお待ちください!!」
「ジョージン!! これに参加できれば、ある意味ハイデンとの友好関係を示すチャンスでもあり、ハイデンの秘密を知ることにもなります!! 不利益などはありません!!」
「いや、ハイデンの秘密に私たちが首を突っ込むのはいかがなものかと!! あと、タイゾウ殿が言ったように危険もあります!! 姫に何かあれば、和平の話し合いがパーになりますぞ!!」
「ええい!! ヒイロと一緒に行くのに邪魔をするなー!!」
「だから落ちつかんかい!! このシスコンが!!」
「シスコンで何が悪い!!」
あ、なんかフィンダールの方が暴れているよ。
どしたん? ヒイロ? ヒイロって、ヴィリアたちの所のヒイロ?
なんで、フィンダールのお姫様があんなに叫んでるの?
……ま、あのお姫様が参加するかどうかは私たちの関知するところではないし、さっさと準備を始めるか。
ということで、騒いでいるフィンダールの方々は放っておいて、席を立つのであった。
怖がる人もいれば、興奮する人もいる。
何事も、見かた次第というはなし。
あとシスコンにはつける薬はない。




