第596堀:不思議の空間
不思議の空間
Side:ユキ
最初から当たりというか、一番怪しいと思われた場所を探索して、怪異? に巻き込まれたらしい。
周りの雰囲気は変わったようには見えないが、秋天や水龍の言う通り、外部との連絡はもちろん、この歴史書の通路以外に待機していたメンバーも消えていたので、俺たちが消えた、不思議に巻き込まれたと思うのが自然だろう。
「とりあえず、この通路にいたメンバーは無事だな?」
俺はそういって、通路にいたメンバーを確認する。
「ね、ねぇ、本当に私たち不思議に巻き込まれたの?」
「ちょっと、隣見てきます」
しかし、カグラとミコスはあまり現状を理解していないようで、通路から勝手に動こうとするので、慌てて2人の手を握り止める。
「じっとしてろ。まずは全員が無事か確認するのが先だ。あと、単独行動はするなとキツく言っておいただろう。信じたくないのはわかるが、落ち着け」
こういう時、バラバラに動くのはどう見てもフラグである。
「ご、ごめんなさい」
「す、すみません」
とりあえず、2人はこのまま手を握っていた方がよさそうなので、そのまま周りの確認を進める。
「とりあえず、体調不良とかはないか?」
「ん。秋天も私も平気」
「元気いっぱい」
クリーナと秋天は問題なさそうだ。
「私もなんともないですよ」
「私も特になにもございません」
『うむ。私も特に問題はないな』
つづいて、リーア、キルエ、水龍も問題なし。
「俺も特に問題はない。カグラとミコスが少しパニック状態だな」
「お、落ち着いているわよ」
「カグラ、説得力ないって」
ミコスは多少落ち着いてきたが、カグラはまだ動揺している感じだな。
しばらくは手を握って確保しておく必要があるな。
ま、カグラはこれでいいとして、現状の確認ができたのならば……。
「クリーナ、リーア、キルエ、そっちから外部との連絡は?」
「……こっちも反応ない」
「私も駄目です」
「ノイズばかりです」
俺だけの通信障害ではないと。
やっぱり、秋天と水龍が言うように別の空間に飛ばされたって所か。
「まあ、ある意味予想通りだ。外の方はルルア、タイキ君、タイゾウさんが既に行動を起こしているだろうから、こっちも予定通りに進める」
俺がそういうと全員頷く。
いきなり当たりとは思わなかったが、もとよりその探索、捜査なのだからこれで終わりではない、ソウタ・カミシロが残した日本人へ宛てた何かを探さなければいけない。
ここが、不思議空間であっても。
というか、ある意味この空間の製作者がわかっているから、安心して冒険ができるのだが。
どっかのホラー物の探索とか死亡フラグしかないからな。
「とりあえず、噂だと変な声が聞こえるって話だけど、みんな聞こえるか?」
俺がそういうとみんな首を横に振る。
俺も現在特には何も聞こえてこない。
何か条件があるのか?
……考えても何もヒントがないからわからんな。
まあ、予定通りに動くほうがいいか。
「よし、ならこの3階フロアを移動してみよう。周りに注意してくれ。本の種類は特に要注意だ。みんな離れるなよ」
俺たちは秋天を中央にして、歴史書が置いてあるコーナーから出たのだが……。
「あれ? あれれ? なんか広くなってない?」
ミコスが十字路となる位置で立ち止まり辺りを見回して驚いている。
「本当だ。側面の壁が見えない」
カグラも十字路で左右を見渡して驚いている。
この図書館というか、普通の場所なら、壁が見えないなんてことはありえない。
一体どれだけ広い図書館なんだよという話だ。
人間の目線の高さから、先を見通せる距離は大体4、5キロぐらいなので、この図書館の両端は俺たちの位置からどうやら5キロ以上の距離があるらしい。
んなバカな。この図書館はせいぜい50メートル四方ぐらいの3階建ての建物だ。
壁が見えないなんてのはあり得ない。
マジで、無間鳥居系か。
「秋天、水龍、今のところ悪意とかは?」
「感じないよ、とと様」
『私も感じない』
今のところは危険なしということか。
「とりあえず、目の前の壁を目指してみよう。端の見えない側面に向かって歩き出すのは後からでも遅くない」
幸い側面の壁は見えないが、正面の壁、つまり前後の壁は見えているので、そっちにでてみようと思ったのだ。
そうすれば、どこでループをしているのかがわかるだろう。
慎重に目の前の壁まで歩く。
特に何も問題はなく、前方の壁にたどり着くが……。
「おかしいわ。窓が見えない」
「あれ? 本当だ。こっちは窓があるはずなのに……」
カグラとミコスは壁を見て首を捻っている。
この壁はちょうど階段とは反対側にあり、小さくはあるが窓が設置されて、風通しや光を入れるために等間隔で存在しているはずなのだが、それが存在していないのだ。
やっぱり、ここは俺たちが先ほどいた図書館とは別の場所のようだ。
まあ、窓が見つからなくてほっとしている気持ちもある。
カグラとミコスが窓から出てみようとか言い出したら不味いからだ。
こういう異空間では正式なルート以外での脱出はたいていバッドだ。
この場所を作ったソウタさんは、パニックした人が無茶なことをしないように配慮はしているようだ。
「とりあえず、壁沿いに歩いてみよう」
迷路攻略法に壁伝い法というのがある。
一般的には右手法、左手法といって、片手を壁に突いてひたすら壁沿いに進むという方法だ。
これは迷路の切れ目は入り口と出口にしかないという前提での手法で、壁の長さの分進めば必ず出られるという方法だ。
まあ、壁が独立していたりすれば、自分で気が付いて、色々対処しなければいけないことが増えるし、現実のダンジョンなどは安全に進めるわけもなく、トラップ、魔物と壁沿いに進むことも難しいだろう。
そもそも、無限ループの可能性が高い現状ではあまり意味がない気がするが、どこを起点にループをしているのかなどを調べるためにも、位置関係の分かりやすい壁沿いを歩いているわけだ。
そんなことを考えながら歩いていると、横にいたリーアが声をあげる。
「あ、戻ってきた」
リーアの指さす先には「歴史」と掛かれたプレートが本棚の側面に張り付けてある。
コーナーを覗いてみると、目印で置いた赤いハンカチに、床に置いた本などがしっかりあったので、おそらくここは俺たちが出発した場所で間違いないようだ。
「ほ、ほんとに出られなくなってる。ミ、ミコス。ほ、本当に出られるのよね?」
「う、うん。ミコスちゃんの情報ではでられる……はず」
「はずって何よ!?」
ミコスの心許ない返事で不安が一気に煽られたのか、声を荒げるカグラ。
理解のできないことって怖いよな。
戦場なんてわかりやすいものより、下手をするとわからない、理解できないことの方が却って怖いこともある。
これがジャパニーズホラーである。
と、カグラを落ち着かせないと、仲間割れパターンだ。
仕方ないので、カグラの手を握りこちらに引き寄せる。
「はいはい。落ち着け。ミコスを責める話じゃないだろう。というか、作ったのはお前のご先祖様」
「うぐっ。ごめん、ミコス」
「ううん。いいよ。私だって混乱してるし、でも、ユキ先生は平気なんですね」
「平気と言われるとまあ違うが、同じような話は聞くし、敵を惑わすために似たような道を通らせて足止めする戦法もあるからな」
城が迷路みたいなのは、敵を足止めするためだし、大軍での戦法では、どっかの頭おかしい軍師がやった石兵八陣とか。
ああ、あれは演義での仮想で、実際は変幻自在の陣形を指すとか色々あったっけ?
まあ、相手を惑わすという意味合いでは同じか。
「何度も言うけどな。こういう時に一番まずいのはパニック、錯乱して協力ができない状況になることだ。こういうのは初めてで怖いのはわかる。だからこそ落ち着け」
「は、はい。お、落ち着きます!!」
全然落ち着いてねーな。
ミコスは大丈夫かと思えば、思ったよりも動揺している。
仕方ないので余っている手でミコスの手をつかむ。
「「……」」
2人とも反省しているのか、顔を下に向けて大人しくなる。
はぁ、とりあえず俺の両手がふさがったままは不味いから、リーアに1人任せるか。
そうおもって、リーアの方へ振り返ると、何やら耳に手を当てていた。
「どうした?」
「あ、いえ。何か声が……」
「声? 噂の話し声か?」
「聞こえた気がしたんですけど、クリーナもキルエさんも聞いてないって言うんですよ」
「秋天と水龍は?」
「きいてない」
『我もそれらしき声は聞こえなかったな』
じゃあ、空耳か?
それともほかに人がいたか?
いや、巻き込まれているなら、さっき歩いたときに見つけてるはずだしな。
やっぱり空耳?
「リーア。どこで聞いた?」
「どこってここですけど」
「いや、詳しい位置だよ。その場所でしか聞こえないのかもしれない」
本と本の隙間とか、建物の構造上の問題で、特定の位置から音が聞こえたとかいうのは、怪談調査モノではありがちだ。
「えーっと、最初に聞こえたのはあそこだったような……」
そういってリーアが視線を向ける場所はこの無限ループに入る切っ掛け、仕掛けが施されたブロックの近くだった。
そこである推測ができた。
「もしかしたら、あのトラップの上にいる人だけに聞こえるかもな」
「なぜ、そう思ったの?」
クリーナが不思議そうに聞いてくる。
「元々、ここは図書館だ。ふつう本を調べ始めたら一定の場所に留まることになる」
「ん。それはわかる」
まあ、几帳面な人は本を借りるとか、1階フロアの読書コーナーで読むのだろうが、この3階には読書コーナーは存在せず、すぐに読みたい人はその場で立ち尽くすことになる。
「そして、ここは歴史書コーナーだ。たぶん、このトラップの正面は……やっぱり」
俺がトラップのブロックがある本棚をみると、ハイデン関連の歴史書が詰め込まれている。
「見てわかるとおもうが、おそらく、ハイデンの事を調べようとした人を狙ってやったんだろう。石碑のメッセージを見て調べようと思うのはまずここだからな」
「辻褄はあっているように思えます。旦那様」
キルエも納得したように賛同してくれる。
「でも、だれが、声を聞くために上に乗るの?」
カグラがそう聞いて周りが沈黙する。
いや、お前しかいないだろうって言えないのがつらい。
カグラはこの不可思議事態にかなり怖がっているので、みんな言えないようだ。
ここは、俺かリーア、キルエの誰かが……と思っていると、不意にとても小さな何かが割れるような音がした。
「あ、戻った」
『うむ。戻ったな』
それに反応したように、秋天と水龍がそういった。
「もどった?」
「ん。かか様。もどってき……」
「「「ああーーー!?」」」
秋天が答える前に別の方向からの声で現状を理解した。
叫び声が聞こえた方を向くと、歴史書コーナーから離れた位置で待機していたルルアたちだった。
「よかったです!? 戻ってきました!! 旦那様―!!」
ルルアが涙目で飛びついてくる。
おっぱいに顔が埋もれるが、奥さんを抱きとめるのも夫の務めだからなんとか窒息しないように頑張る。
しばらく抱きしめて落ち着いたら、ルルアをリーアに渡して、デリーユやタイキ君と話す。
「どうなってた?」
「いきなり消えたという感じじゃな」
「ええ。トラップを踏んだ瞬間、この通路にいたメンバー全員消えた感じですね」
「時間は?」
『大体、10分ほどだ』
「あ、タイゾウさん。ご心配おかけしました」
『いや、魔力反応は追えたからそこまで心配はしていなかった』
「どういうことですか?」
『ダンジョンのコールシステム監視では存在していて、肉眼では発見できなかった』
「……記録取ってます?」
『もちろんだ。まあ詳しい話は、一旦戻ってだな』
ということで、第一次図書館捜査は無事に終わった。
ホラーものでパニックはよくない。
落ち着くんだ。
「やってられるか!! 俺は帰るからな!!」
上記は伝統的な死亡フラグ。
「あんたのせいで!!」
「そっちも同じでしょう!!」
こちらも由緒正しいなフラグ。
ホラーものみると、こういうセリフを聞くと「ああ、おわったな、こいつ」と思うでしょう?




