第594堀:出発前の顔合わせ
出発前の顔合わせ
Side:ミコス・ジャーナ
「よーし、みんな準備はいいか?」
そういって私たちを見回すのは、ウィードの王配であるユキ様こと、ユキ先生。
王配であるのに、気さくで人当たりの良い人物で、カグラの想い人でもある。
どうにかしてやりたいという気持ちはあるけど、まあ、今すぐにはどうにもできないからいいとして、まずは目の前のことをどうにかしないといけない。
それは……。
「じゃ、これから学院の6不思議の調査に向かう編成を発表する……」
そう、学院6不思議の調査だ。
つい先日、カグラがラビリスちゃんたちを学院案内しているところで石碑の裏に御三家のメッセージがあり、それが6不思議に繋がっていると判断したからだ。
私は、その噂話の情報提供者という形でこのVIPメンバーの仲間入りを果たしている。
学院記事の為でもあるんだけど。
「……カグラ、ミコス、以上。そして、残るメンバーはこの教室に待機して、不測の事態になれば即座に関係各所に連絡。間違ってもここのメンバーのみでの、救出活動はしないように。二次被害の可能性を十分に考慮してくれ。ましてや、単独で噂の場所に近づくようなことはしないように」
そんな真面目な話をしているユキ先生なのだが、私は正直、他の事に意識を奪われていた。
というのも……。
「でっかい」
ユキ様の横に控えている女性がでっかいのだ。
なにがでっかいって?
それは胸、バスト、おっぱい。
もう超バインバイン。
ゆったりとしたローブみたいなものを着ていて普通なら体型などわかるはずもないのだが、おっぱいがどーんと突き出ているので、逆にわかりやすくなっている。
そして、そんなに大きいのに変には見えない。
恐らく限界ギリギリの大きさと美しさを兼ね備えたおっぱいなのだろう。
うん。私もそれなりにあると思ってたけど、あのおっぱいには及ばないわ。
今日のタイゾウ先生の授業に参加していたクソ野郎どもの視線はほとんどあの女性に向いていた。
ま、流石に声を掛けようとするバカが居なかったのはよかった。
ウィードの方々にこれ以上喧嘩を売るわけにはいかない。
こんどは学院が消し飛びかねないから。
でも、やっぱり気になる。
あのローブの下にあるおっぱいは本当に本物なのかと!!
女性であるこのミコスちゃんだって気になるのだから、クソ野郎どもが気になるのは仕方がないことなのかな?
「……ミコス。なにルルア様を凝視してるのよ」
「はっ」
カグラに声を掛けられてようやく正気に戻る。
「ルルア様? って、あの青い髪のローブを着た女性?」
「そうよ。今ではユキの奥さんだけど、ロガリ大陸にある5大国のうちの一つ、リテア聖国のトップである聖女を務めていたほどの人物よ。まあ、いまでもリテアとの繋ぎや現聖女様とも親交厚く、彼女の一言がリテアを動かすともいわれているわ」
「……なにその超重要人物」
やっぱりユキ様の側に立つだけあって、ただものではなかった。
いや、あのおっぱいの持ち主であれだけの美女なのだ。ある意味当然かな?
「別にルルア様だけじゃないわ。言ったでしょう? ウィードは各国をゲートでつなぐ交易国なの。国のつながりはとても広いの」
「なるほど。ユキ様にお嫁を押し込むことで、繋ぎを持とうってことね。でも、ユキ様は王配よね? 実権を握っているのは女王って聞いたけど?」
「そうよ。実権を握っているのはセラリア女王陛下よ。でもだからと言って、他国から男を迎え入れるわけにはいかないのよ。妊娠でもしたら、その男にウィードの実権を預けることになるから」
「ああ、だからユキ様にってことになるのね」
「そうよ。あくまでも王配であるユキ様の側室って形になるから、ナンバー2はユキ様で決定」
「ユキ様が他国との繋ぎで都合がいいわけか」
セラリア女王陛下だっけ? 結構やり手なんだ。
ユキ様を間に挟むことで、余所の国からの男を迎え入れることなく、女をユキ様の側室に収めることで、自分の立場を不安定にさせることなく、他国との繋がりを強化しているわけか。
「まあ、実際はユキがトップなんだけどね」
「どういうこと?」
「詳しいことは秘密。でも、見ればわかるでしょう? ルルア様とかラビリスだって、ユキに不満をみせることなんかないんだから」
「確かに、ユキ様の側が嫌って顔はしてないわね。むしろ嬉しそうに見えるわ」
「ええ。夫婦仲はいたって良好。そして、他の奥さんたちとも関係は良好だから、そういう意味でもユキの存在は大事なの」
「ユキ様の立ち回りで今があるってことね」
ユキ様が上手く他国の奥さんたちをまとめているから、今この場にルルア様たちが来ているのだ。
それがなければ、ウィードは足元が危うい。
つまり、ウィードの屋台骨を支えているのはユキ様といっても過言ではないのね。
ん? でも、その理屈からいえば、ハイデンから側室がでてもおかしくないわけで、カグラにもチャンスがある?
そんなことを考えている間に、ユキ様が誰かに入ってくるように言うと、廊下から3人入ってくる。
1人は私たちと同じぐらいの年齢の女性、そしてメイドさんみたいな人、最後にちっこい子供。なんだろうこの組み合わせ?
「え? な、なんで彼女が!?」
なぜか横にいるカグラが入ってきた3人を見て青ざめている。
心配ではあるが、3人の紹介の途中なので口を開くわけにはいかない。
「今回、特別に不思議の調査に参加してもらうことになった、嫁さんの一人であるクリーナ」
「よろしく」
赤髪の彼女はクリーナ様というのね。
年齢近そうだし、あとで話してみよう。
リーア様やデリーユ様みたいに気さくな人だといいけど。
ああ、ルルア様ももちろん話を聞かないとね。
「次に、そのクリーナの娘。つまり俺の娘でもある、秋天」
「よろしくお願いします」
同じ赤毛の女の子はシュテンというらしく、ちゃんと行儀よく挨拶をしてかわいらしい。
って、ちょっとまって、あの年齢の子供がいるってことはクリーナ様ってもしかして年上?
というか、なんでこんな危険なことに子供を連れてきてるの!?
「最後に、秋天のお世話で連れてきた、俺の嫁さんでもあるメイドのキルエ」
「皆さま。本日はよろしくお願いいたします」
そういってキルエさんは綺麗な礼を取る。
うわー。うちのメイドとは全然違うビシッとした挨拶。
あれ、エリートだよ。王宮勤めのメイドさんだよ。
動き一つ一つが洗練されていて綺麗。
って、このキルエさんもユキさんの側室?
え? メイドって言ったから愛妾とかそういうのだよね?
でも、それならわざわざ紹介する必要ってあるの?
「旦那様。気持ちは嬉しく思いますが、私の立場としては愛妾の部類です。初めての皆さまに変な誤解を与えてしまうようなことは慎んでください」
「とまあ、そんな感じだけど、キルエは他の嫁さんたちとも仲がいいから、メイドだからっていじめないでくれな」
「……はぁ。奥様たちも何か言ってください」
キルエさんがあきらめにも似た言葉を奥さんたちにかけるが……。
「今更、ユキさんに直せっていってもねー」
「ユキがキルエをそんな粗雑に扱うところが想像できんのう」
「私たちもキルエをそんなに風に扱うことはないですからね」
「ん。キルエにはいつもお世話になっている。キルエをいじめるやつは燃やす」
「……こんな主様たちではありますが、何か御用があれば遠慮なく仰ってください」
そういってキルエさんが再度頭を下げる。
いや、遠慮なく言えないです。
どう考えても、信頼厚い専属メイドさんじゃない。
下手すれば、木っ端男爵であるうちのお父さんより権力あるタイプの人だよ!?
「で、この秋天を連れてきたことを不思議に思う人もいるだろうが、この子はこういう不思議に関して感知する力があるみたいなんだ。力になればと思って連れてきた。さっきも言ったけど、面倒を見るのはクリーナとキルエだから迷惑はかけないと思う」
なるほど、流石ウィード。
こんな不思議に対しての人材がいるわけか。
まあ、どこまで本当かはわからないけど、自分の子供を連れてくるんだから、それだけ信頼してるってことよね。
親バカでないことを祈ろう。
そんな挨拶のあと、ユキさんは出発前最後の打ち合わせを学院長たちと始めて、挨拶をしたクリーナ様、シュテンちゃん、キルエさんはフィンダールの方々と挨拶を改めてしている。
さて、私はその間に、カグラが青ざめている理由を聞くとしましょう。
「ねえ。カグラ、なんで青ざめてるの? ミコスちゃんに言ってみなさい。問題があるならフォローするから」
「……そういうレベルの問題かな」
「いいから、話してみないとわからないって」
とりあえず、このままじゃ私がカグラに足を引っ張られかねない。
それは阻止。
なるべく自分の安全は確保するよ。
「……私が、ユキ様たちを呼び出したのは知っているわよね?」
「うん。それは皆知っているよ。色々あったけど、ユキ様たちがいなければ危なかったから、ナイス召喚。流石御三家って思ったわ。で、なんでその話を今?」
というか、なんで呼び捨てだったのがいきなり様呼び?
「……その召喚に巻き込まれたのよ。クリーナ様とシュテン様も」
その言葉に絶句する私。
えーっと、つまり、なんだ……。
「カグラはあの激戦の中、あの奥さんと小さな子も戦場に呼び出したってこと?」
「ええ。それで、初対面の時は殺されるかと思ったわ」
「そりゃー……」
当然よね。
あんな小さな子が戦場に呼び出されたと知ったなら、母親は激怒するでしょうに。
いやいや、父親であるユキ様も同じはず。
「あ、だからバイデは制圧されたのね」
「そうよ。少人数で無茶な制圧をした理由は、家族の安全のため。下手に話し合いで戦力として扱われれば、子供を人質にされかねないから」
「……」
こちらが圧倒的悪者。
ユキ様は家族の為に、戦力不足を承知で動いたわけか。
「ウィードの外交官になってよく生きていたわね。カグラ」
「……はは。必死に謝ったわよ。頬にいいのを貰いもしたわ」
……全然役得の仕事じゃないわね。胃が死にそう。
とはいえ、カグラが子供まで連れてきたのが原因だし……。
「で、クリーナ様とは多少話した程度で、その、あまり……」
「和解が進んでいないと」
「うん。初対面の時に魔術を撃たれて殺されかけたこともあってね……」
どうしよう。
何も思いつかない。
娘を誘拐した挙句、戦場に放り出そうとしたカグラが、仲良くしてねとか言えないわね。
そんなことぬけぬけと言ったら、私なら殺すもん。
子供とか生んだことはないけど、大事な人を危険に晒されたんだから当然の感情だと思うわ。
「私、今日死ぬかもしれないわ」
「いや、流石に、今殺されるくらいならウィードにいる間に殺されてると思うけど……。わかった。とりあえず、私がクリーナ様たちに話してみるよ」
「え? でも……」
「でもって言ってもこれから一緒に行動するんだから、後回しにできないよ」
ということで、カグラを放ってクリーナ様たちの所へ行く。
万が一、クリーナ様たちがキレたらミコスちゃんとか巻き込まれて消し飛びそうだからね。
それは勘弁。
これはカグラの為でもあり、私の命の為でもある。
「あのー……」
「ん? あなただれ?」
「だれ?」
私は、一通り話し終えて、ウィードの方々と談笑をしているクリーナ様に声をかける。
あ、そうか、まだ自己紹介もしてなかった。
それも含めた出発前の時間か。
「確か、旦那様が言っていた今回の噂話の情報提供者のミコス・ジャーナ様でしょうか?」
「あ、はい。ジャーナ男爵家が長女、ミコス・ジャーナと申します。以後お見知りおきを」
すげー、メイドのキルエさん。
ユキ先生から聞いてたとか言ってたけど、それですぐわかるのね。
やっぱりこの人、王宮とかに勤めているエリートメイドだわ。
で、私がちゃんと貴族としての礼を取ったあと、リーアが横から入ってくる。
「うわー。ミコスってちゃんとした礼もできるんだ」
「できるわよ。って、リーア。クリーナ様は私のこと知らないようだし、紹介お願いできない?」
「いいよ。この子はミコス。キルエさんが説明した通り、今回の噂の情報提供者。性格は明るいタイプかな。私やアマンダ、エオイドとも仲良くしてるよ」
「ん。なら、私や秋天とも仲良くしてくれると嬉しい」
「あ、はい。喜んで。クリーナ様、シュテン様。よろしくお願いします」
「私も、様はいらない。秋天もいいよね?」
「いい。かか様がいいっていうなら秋天もいい」
「えーっと、それなら、改めてよろしく、クリーナ、そしてシュテンちゃん」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
とりあえず、私のクリーナとのファーストコンタクトは上手くいった。
あとは、カグラの事を……。
「それはいいとして、カグラ。なにやってるのー。こっちにきなよー」
いきなりリーアがカグラを呼ぶ。
いや、いきなりでもないか、なぜか外からこっちを見ているだけだからある意味不自然よね。
……でもこっちとしては心臓がバクバク。
流石に呼ばれたのに行かないというのはあれなので、カグラは戦々恐々といった感じでこっちに近づいてくる。
「な、なにかしら、リーア」
とりあえず、クリーナとシュテンのことは無視することに決めたらしい。
まあ、それしかないよね。
「なにかしらって、クリーナとは初対面以来、あまり顔合わせてないでしょう? 子供たちだって召喚した時だけだから、挨拶もまともにしてないし、丁度いいじゃない。秋天は子供たちの中で長女だからね。仲良くしといて損はないよー」
ひぃー!?
女王陛下の実子ではないとはいえ、ユキ先生の子供の長女を誘拐しちゃったの!?
不味いよ。ミコスちゃん、どうしていいかわからないよ!?
というか、リーアは何でこんなに軽いの!?
クリーナはカグラを鋭く睨んでいるし、カグラの首が飛びそうなんだけど!?
そんな緊張感の中、先に口を開いたのはなんとシュテンちゃんだった。
「かか様。カグラは反省している。理由も仕方なかった。許してあげて」
「……秋天がそういうなら。ん。カグラ。これまでの事は今までの頑張りを見て許す。これからもユキの為に頑張って」
「は、はいっ。頑張らせてもらいます!!」
「それと、ミコスと同じように様はいらない。だって、カグラの方が年上だし」
「あ、うん。よろしく。クリーナ。そして秋天」
「ん。よろしく」
「よろしくお願いします」
ほっ。
思ったよりもというか、やはりというか穏便にすんだ。
まあ、問題が起こるならとうの昔に起こっていただろうし、とりあえずカグラが生きていてよかった。
「よし、じゃそろそろ出発するぞ」
どうやら挨拶をしている間に、ユキ先生たちの方も打ち合わせが終わったようで、不思議の探索へと乗り出す。
さてさて、どんなことが起こるのか、このミコスちゃんはメモを片手についていくのであった。
無事にカグラとクリーナも和解して、次はいよいよ不思議発見へ!!
何事もなく、調査は進のだろうか!?




