第588堀:ようじょつよい
ようじょつよい
Side:ユキ
カグラVSジーマン!!
若手がチャンピオンに挑む!!
いや違うか。
そんな感じで、ドレッサの報告を受けたのはいいが……。
「さて、俺たちが出て抑えるべきなのか……」
「「「うーん」」」
と、その場の全員で首を捻る結果となった。
「ちょ、ちょっと。カグラが面倒なバカに絡まれてるのよ!?」
報告してきたドレッサはなんで悩むのか不思議なようだが、これはちょっと手出しがしにくい。
「まあ、そこはドレッサの言う通りなんだが、結局はカグラが決闘を受けたんだよな?」
「え? たぶん。演習場に行ったって聞いたから」
「なら、正式に決闘を受けたカグラとジーマンの間に割って入るのはただの横槍じゃないか?」
「あ。そうか……」
俺の言葉でドレッサも今の状況を正しく認識したようだ。
「と、決闘が校則違反ってことはないですか?」
とりあえず俺は大前提をカンナに聞く。
「いえ。決闘をすることは校則違反にはなりません。生徒同士の問題解決の一種の手段として見られています。無論、ルール違反や無茶を押し通すような決闘は認めていませんし、その場合は決闘を受けないですからね」
「じゃ、なおの事邪魔できないな。カグラがジーマンの決闘を受けたんだ。どういう条件かは知らないが、まあ、大体予想はつく。昨日の意趣返しでもしたいんだろうな。カグラもあのジーマンのやっかみは嫌がっていたからここらで清算でもしたかったんだろう」
「そうですね。カグラならやりそうなことです」
「試合の勝ち負けの判断や怪我とかのフォローはどうなっているんですか?」
「決闘の際には必ず一人教諭が立ち合い、審判役をすることになっていますので、心配はないかと」
本当にカグラの所に行く理由がないな。
下手に行くとジーマンってのが騒ぎかねないし、カグラが自分で決着をつけたがっているのに、俺たちが横から口を出すのはお門違いもいいところだろう。
これが平民とか身分が低い貴族とかだったら、審判役の懐柔とかを疑わないといけないんだが、カグラは公爵の娘で、キャリー姫の信頼厚く、バイデ防衛戦で実力を示しているのでそういう小細工はできないだろう。
なんでジーマンは喧嘩を売ったのか理解に苦しむ。
どうしたものかと思っていると、不意に足元から声がかかる。
「なら、私が見学がてら行って来よう」
全員の視線が俺の足元に向かう。
そこには、幼女と言っていいほどの女性がたたずんでいる。
その名をポープリ・ランサー。
イフ大陸で数少ない魔術師たちを束ね教育している、イフ大陸最高の魔術師である。
ちょっと前まで、コメットがイフ大陸最高であったが、ヒフィー神聖国での決闘で敗れて以来、イフ大陸最高の称号はポープリに移っている。と、コメットが勝手に言っていた。
簡単にいうと、実験とか開発したいから、ポープリに魔術師仕事を押し付けたという感じだ。
称号は大層凄そうなのだが、受け取ったポープリ本人ははた迷惑なだけだ。
まあ、名乗りもしないから、問題はないのだが。
そもそも名乗っても見てくれは幼女だから、信じてもらえない。
勿論、この学院でもただの幼女。俺たちの連れ子として扱われている。
一応説明はしたが、前日の魔術演武にはいなかったし、本日の授業から顔をだしただけなので仕方がない。
わざわざ、ポープリの為だけに演習場を借りるわけにも……。
あ、そういうことか。
「わかった。ヴィリアが一人で行動しているみたいだからな。フォロー任せた。ジーマンが妙な行動をしないとも限らないからな」
「任せてくれたまえ」
そういって、ポープリはとことこと教室を出て行く。
それを全員で見送る。
「はっ!? ユ、ユキ様!? 彼女を一人でなぜ行かせたのですか!?」
「そうです!! ヒイロと変わらないぐらいですよ!? 迷子にでもなったりしたら!?」
カンナとスタシアは慌てて俺に言ってくる。
幼女が勝手に行動したのだから、通常であれば当然の判断だろう。
「大丈夫。スタお姉。ポープリ先生は強い」
ヒイロが心配ないとスタシア殿下に言うと、ウィードメンバーは頷く。
更にイフ大陸のメンバーである、エオイド、アマンダ、エージルがさらに説明をする。
「まあ、あの容姿だと信じられませんよね」
「でも、本当に強いんですよ。さっきも言ったと思いますが学長ですから」
「ええ。彼女は本当にランサー魔術学府の学長なのです。おそらくは、ユキ殿はそこら辺の認識を改めさせるためにも、わざわざポープリ殿に行かせたのではないですか?」
「当たり。言っても信じてもらえないなら、実際見せるしかないからな。ついでに、カンナ殿やスタシア殿下の言う通り、あんな小さな子が一人で出て行ったんだ。捜索しないといけないだろう?」
「「「あ」」」
そういうと、全員が驚いた顔をした。
これで、カグラが決闘している演習場へ顔を出す口実ができたわけだ。
迷子を捜すって口実がな。
「ははは、流石ユキ様ですな。では、私たちは勝手に出て行ったポープリ殿を探すことにいたしますか」
ジョージンはすぐに俺の話に乗ってくる。
「そうじゃのう」
「迷子になって泣いているかもしれませんからね」
デリーユとリーアも同じように言うと、他の皆も仕方ないという感じになって、カグラの決闘を見に行ったポープリを探しに演習場へと向かうことになったのだが……。
「ありゃ、もうポープリが出ているな。すぐに終わったか」
「当然でしょう。ジーマン中位生がいくら優秀とは言え。まだ実戦を経験したことはありません。カグラの実力を鑑みて、すぐに終わったのでしょうが……」
お姉さんのカンナはそう妹を褒めたたえるが、ポープリの暴れっぷりを見て顔が凍り付いていく。
いや、ポープリが魔術師であるというのを信じていなかったメンバーは全員凍り付いているな。
「ひ、卑怯だぞ!! 空を飛ぶなど!!」
「おや? 審判さん。空を飛んではいけないというルールはあるのかい?」
「い、いえ。魔術なので問題はありません」
「ふむ。どうやら問題はないようだね」
「ぐわっ!?」
ポープリはジーマンが放つ火球を軽やかによけながら、複数の魔術を放つ。
審判はルール上の問題はないというが、ジーマンはさらに文句を言う。
「空を飛ぶ魔術はエリートしか使えない!! 我が国でもサーベル隊やイーグル隊しか使えない!! それをお前のような子供が使えるわけがない!! インチキに決まっている!!」
「インチキとは失礼な。しかし、ジーマン君。思ったよりも加減はよさそうだね」
「は? いきなりなにを?」
「いや、カグラ殿の攻撃を受けたわりにはよく動くし喋る。いや、膝が笑っているからダメージはそれなりにあるのかな?」
「私は、負けていない!!」
ポープリの挑発に乗って、ジーマンは一際大きい火球を放つ。
それをポープリはよけるそぶりもせず、受け止めて、ひょいっと持ち上げた。
「なっ!?」
「うんうん。若い割にはよく訓練しているね。だけど、制御が甘いね。こうやって私に魔術を奪われるんだから」
「う、奪っただと!?」
「そうだよ。魔術って言うのは一種の矢なんだ。弓が己自身で、魔力を弦として、魔術を矢として放つ。それをつかみ取れるなら奪うこともできる」
ポープリの言うことは間違っていない。
筋は通っているが、まあ、そうそうできることではないから、実用性は皆無。
恐らくはエオイドの魔力操作を真似たんだろうな。
難易度はポープリの方が圧倒的に高いが。
どちらにしても相手が余程油断してないとできないから、本当に実用性皆無で曲芸の域である。
いや、この曲芸を実戦で使えるようにするのが、天才とか変人の入り口なんだろうが。
「さて、講義はここらへんでいいだろう。続きはユキ殿の授業にでも顔を出してみるといい」
「なにをっ、私はまだ……」
「負けてない。かい? やる気だけは認めるけどね。……ガキ、相手との力量差ぐらい測れるようになってからいえ」
ポープリはそう言うと一瞬で持ち上げた巨大な火球を、巨大な文字通り矢の形に整えジーマンへ放つ。
「ひっ!?」
ドッゴォォォォン!!
ジーマンの悲鳴と共に、大爆音が演習場に響きわたる。
……生きてるよな? ジーマン。
ちょっと心配になったが、煙が晴れればへたり込んでいるジーマンが確認できてほっとする。
が、他の皆はジーマンの安否などよりも、ポープリの行動に唖然としていた。
先ほどの曲芸も、矢に変えて高威力の魔術に仕上げたことも驚きなのだろうが、それに加えて、今空中には先ほどと遜色ない炎の矢が無数に……は言いすぎか、せいぜい30本って所を浮かべてジーマンを空から見下ろしていた。
いつでもハチの巣にできると言わんばかりに。
「さて、ジーマン君。まだ続けるかい?」
「……まいった」
そこでようやくジーマンは降参を口にする。
「「「ワァァァァァァーーー!!」」」
演習場に歓声がこだまする。
どうやらジーマンは無理をすることなくあきらめてくれたらしい。
しょんぼりと肩を落として出口に向かう姿は哀愁を漂わせる。
「ジーマン君。まだ背を向けるには早いよ」
「?」
だが、そのジーマンをポープリは呼び止め、ジーマンはなぜ呼び止められたかわからないといった感じで振り返る。
「私の講義は終わったが、私の試合は見ていないだろう。他人の戦いを見ることで、自分の力にするというのはよくあることだ」
「ははっ。誰が君の相手をすると言うんだ。この学院に君の相手をできそうなのは学院長グリモ様ぐらいだ。カグラ先輩とて空は飛べないから、君相手では一方的だろう」
そうジーマンが言って、俺たちと一緒に来ていた学院長に一斉に視線が集まる。
「い、いやっ。さ、流石に、あの規模は歳で……」
無理という感じで答える。
俺も無理だと思う。
だって爺さんじゃん。無理はいかんよ無理は。
だが、ポープリは別の人物の名前を言う。
「まあ、ジーマン君の知っている限りではそうなのだろうね。だが、私は賓客だと言ったはずだよ? 世界は広いんだ。ラビリス君、アスリン君、フィーリア君。いいかい?」
そうポープリが別の方向へ顔を向けると……。
「あら? カグラにユキの場所をって言われて連れてきたのだけれど……」
「ポープリお姉ちゃんと試合?」
「ちょっと待ってほしいのです。今、カグラ姉様を兄様の所に案内しているのです」
カグラを連れたちびっこ3人組がいた。
本日3人組は、キャリー姫の措置で、教師役ではなく学生として下位生の授業を受けている。
まあ、魔術学院の授業レベルを把握するのにはちょうど良かったので、渡りに船だったのだ。
ポープリの所にいた時と同じような感じだ。
まあ、こっちでは好き勝手に参加不参加ができる分楽なんだが。
で、カグラは俺と入れ違いで、俺を探しに行って、3人と会って案内を頼んでこっちに戻ってきたわけか。
なんて不幸な。
「ああ、それならこっちだよ」
ポープリがそういってこっちを見ると、カンナが声を上げる。
「カグラ!! こっちよ!!」
「あ、本当に入れ違いだったんだ」
カグラはへなへなとへたり込む。
散々走り回ったんだろうな。
「じゃ、ラビリス君。相手いいか……」
「よーし、がんばるぞー!!」
「おー。なのです!!」
「あらあら。ポープリも頑張るのね。3対1なんて」
ピキッと、ポープリが笑顔のまま固まる。
3人はポープリがいる空中へ飛び出して、ジーマンどころかウィードのメンバーを除く、演習場の観客全員が固まる。
ラビリスがクスクスと笑っているところから、3対1って焚きつけたのはラビリスか。
まあ、わざわざ時間をかけて見せる必要もないから、魔術演武に参加していなかった3人が実力を見せるにはちょうどいいかもしれないが……。
「ちょ、ちょっとまった!?」
「あら? そんなに空中に魔術を展開しておいて何を言っているのかしら? さ、私たちも頑張りましょう」
「うん。いくよ!!」
「行くのです!!」
そういうと3人は一気にポープリと同じ規模の魔術を即座に展開して、ためらいなく撃ちだす。
慌てて、迎撃するポープリ。
先に魔術を展開していたおかげか、それとも実戦や長い間生きてきた経験のおかげか、3人の弾幕をなんとか全て撃ち落とすが、既に次弾が用意されていて、そこからは必死の回避をしながらの空中戦が繰り広げられた。
「ぎゃーー!? ユキ殿!! た、たすけてーーー!?」
「いや、かっこいいこと言ったんだから、もうちょっと持たせろよ。流れ弾はこっちが処理してるんだし」
そしてその日より……。
ウィードのようじょはつよい。
という噂が学院全体に広がった。
「あ、あはははは……」
そして、ジーマンは逆恨みなどしそうにない、爽やかな乾いた笑い声をあげていた。
これで彼は人として、また一つ成長したのだ。
前回、ポープリってウィード出身じゃなくね? と思った人たちへこれが落ちであります。
ということで、ウィードやイフ大陸の印象付けはここである程度固まったわけです。
さあ、次回から楽しい普通の学園生活をラビリスたちは送れるのか!!
お楽しみに。




