第584堀:珍しいものを見た
珍しいものを見た
Side:ユキ
俺は今、諸事情により、カグラが魔術を学んでいる? いた? 学院に来ているのだが、そこで世にも珍しいものを見ていた。
学院長との挨拶もおわり、カグラのお姉さんである、カンナさんと授業の内容や進め方を話し合うことになり、学院長室を離れて、俺たちが授業を行う予定の教室へ向かう途中で、それに出会った。
「「「キャー」」」
まず聞こえたのは、甲高い女性の声。
それなりの人数が出した様で、かなり目立った。
俺たちがその集団に視線を向けたのは至極当然のことだ。
そこには女性に囲まれるように、中央に一つ、男であろう顔がでていた。
「ねえ、ユキさん……」
「いうな。まだ決まったわけじゃない。そう、だから確認を取ろう。すみません。あちらの集団は何かの催しでしょうか?」
タイキ君や俺はあの塊、集団の正体を察しつつも、否定したい一心でカグラとカンナに正体を聞く。
しかし、カンナは知らないようで首を傾げている。
「いえ、そういう話は伺っていません。なにか学生たちで盛り上がっているようですが……。カグラは何か知らないかしら? ここ最近、新しい遊びができたとかは?」
ああ、そうか、カンナはこの学院に来てから日が浅い。
しかも俺たち専用と言っていい人員だ。
学校の行事とか、ましてや学生の趣味嗜好など覚える余裕はないだろう。
で、話を振られたカグラだが……。
「……おそらく、あの顔は中位生のジーマン・ドムノですね」
「ドムノ? ドムノって広域攻撃魔術隊の隊長を務めている男爵の?」
「はい。そのドムノ家の長男です。中位生の中では実力はとびぬけていますので、ああいう風に人気が高いのです」
カグラは嫌そうな感じでそのジーマンを見つめていう。
ああ、やっぱりそういうタイプか。
「中位生ってことは、バイデの戦いには巻き込まれてないわけね?」
「はい。そうです、お姉様」
ちなみに、この学校は下位生、中位生、上位生、特位生と別れているらしく、下位、中位までは必ず1年ずつ在籍して既定の学を修めなければならないというルールがある。
一種の義務教育で、そこから上位生という軍や研究職などの専門職に就職するための進級があり、貴族の名門の箔付けという意味もある。
この新大陸では魔術がイフ大陸ほど衰退していないので、魔術を使える者は多いが、実戦レベルとなるとやはり少ない。
魔物がいない分、そういう進展が遅れているのだ。
まあ中位ほどであれば人相手の実戦レベルのモノはあるので、この学院に入った一般人としては箔が付くというわけだ。
そして、上位生は軍属や研究職といった国の花形と言っていい職につくために必要というわけではないが、やはりこの学院で上位生だったというのはかなり有利らしく、演習などかなり実戦を想定したことを行い、国からの評価は高いので、この学院で上位生にならないというモノはごく少数らしい。
で、カグラはその上位生以上での演習でバイデに行ったところで戦争に巻き込まれたわけだ。
ちなみに、カグラは特位生で、魔術の実力も知識もとびぬけているらしく、この学院ではトップだという。
「ということは、あれは少しでも覚えをよくするためってことね」
「ええ。ああやって、休みの時間の度に女生徒が群がっているわけです。騒がしいだけなのでやめてほしいのですが」
おおう。
定番だ。定番だよ!!
モテモテ男子学生!!
「初めて見ましたよ。ああいうのっているんですね」
「ああ。俺も初めてみた。前回のランサーでは嫉妬にまみれたやつはみたが、ああいうタイプはいなかったからな」
「いやいや、ランサーは魔術を学びたいってのが先に来るからね。この学院みたいに、顔つなぎを目的に来ているのはごく少数だから、当然だよ」
そう横から口をはさむのはエージル。
なるほど。
確かにそうだ。
向こうは少数である魔術師を鍛えるための場所であり、こういう顔つなぎは二の次になるわけか。
勉学優先の学府ってわけだ。
で、こっちはこういう社交というか出世のための顔売りが優先されるわけか。
元々の数が違うとこがこういう分かれ目になるんだろうな。
「ま、とりあえず。そういうことなら俺たちには何も問題なさそうですね」
「だな。ああいう連中は立場の上下に弱いからな。変なことにはならんだろう」
ランサー魔術学府では、俺たちは傭兵ってことで色々舐められていたけど、今回は普通にお国の代表って立場だからな。
しかも、カグラやカンナ、学院長、そして姫様、王様、公爵とかその他諸々。
ちょっかいを出すやつはただのバカだろう。
「耳障りでしたでしょうか? 騒がしいようでしたら、注意いたしますが?」
カンナがこちらを気遣ってそう声をかけてくれる。
「いえ。それには及びません。ただなんの集まりだろうと思っただけですから」
わざわざ問題を起こそうとは俺もタイキ君も思っていない。
まあ、元々お偉いっていうのが最初についているからそうそう起こるとは思っていないんだが。
しかも学生ではなく教員。
ラブロマンスとか厄介事は起こりえない。
常勤講師とかになるなら、今いる教員ともめるかもしれないが、一時的なものだしな。
グレートティーチャー鵺野みたいなことにもならんだろう。
不良の巣窟というわけでもないし、怪談のたまり場というわけでもない。
一応エリートの学び舎だ。問題を起こすこと自体が自分の進退に関わると理解しているだろう。
別に進路指導の先生でもないし、生徒たちの進学云々が俺たちの進退に関わることでもない。
気楽なものだ。
前回のランサー学府に比べればイージーだよな。
そんなことを思いつつ、カグラが面倒なという顔をしているので、その場を離れようと思ったのだが……。
「カグラ様!?」
「カグラ様よ!!」
「え!? バイデを姫様と守った稀代叡智の魔術師!?」
ん?
なんか、騒いでいた女生徒たちがこちらをみて騒ぎ出していた。
「「「お姉様!!」」」
そういって次の瞬間にはその女生徒の集団がこちらに走り寄ってきていた。
「これって、俺たちより、カグラがフラグですかね?」
「みたいだな。俺たちとしては安全で安心だ」
そんな話をしていると不意にタイキ君が変な口調でしゃべり始める。
「まぁ!! 聞きましたか。ユキさん。お姉様ですって!!」
ああ、これはあれか、井戸端会議風の奥さんたちか。
「聞きましたよ、タイキさん。お姉様!!」
俺も乗って、ねぇ、奥さん聞きましたか? 風に話し合う俺たち。
いや、珍しいものをこう立て続けにみると言いたくなるよな?
ここはお嬢様の園か?
いや、案外間違いでもないのか。
「……お主らは楽しそうじゃな」
「あれでしょう? 漫画のお約束みたいだもの」
しかし、デリーユにはわかってもらえないらしい。
リーアはその手の漫画を読んでいるからわかっているらしい。
そんなやり取りをしている間に、囲まれたカグラは困った顔をしながら、口を開く。
「あなた達も聞いているでしょう? 今、私は王命により、他の国の王族の方々を案内しているの。慎みなさい」
その言葉の効果は絶大で、女生徒たちはすぐに下がり膝をついて頭を下げる。
「し、失礼いたしました!!」
「どうかご容赦を!!」
うん。震えている。
下手をすればクビチョンパ案件だもんな。
良くても自分の進退にも影響するだろう。
迂闊な行動だ。
とはいえ、俺たちがこの程度の事で血を流せともいうわけがない。
友好が欲しいからねー。
別に俺たちを舐めたわけでもないし、反省もしているようだから特に罰を求めることもしない。
「ユキ様、スタシア殿下、エージル様、どういたしましょうか?」
ちゃんと俺たちの判断を仰ぐあたり、カグラもこういうことに慣れてきたよな。
「意図的にああいう態度をとったのなら問題だけどな。わざとか?」
俺がそう聞くと、膝をついた女生徒たちはブンブンと首を横に振り、慌てて口を開く。
「そのようなことは決して御座いません!!」
「バイデの英雄である、カグラ様を見て興奮してしまいました。申し訳ございません!!」
なんか、この前にいる2人が代表して謝っているな。
この騒ぎのリーダーという感じか。
ま、ちゃんと謝罪もしたし俺としては、狭量なところは見せるつもりもないので、あとはスタシア殿下とエージルになるんだが……。
「英雄と言われるカグラ殿を見て興奮するのは無理もありません。あなた達の気持ちはよくわかります。以後気をつけていただけるなら私からはなにも」
「私もそうですね。英雄とは民の憧れ。カグラ殿が好かれている証拠でしょう。謝罪はいただきましたし、特に思うところはありません」
「反省しているようだし、俺としても問題ない」
「そうですか。感謝いたします。……あなた達、私を慕ってくれるのはわかりますが、もうちょっと落ち着きを持ちなさい。今回は穏便に済みましたが、次は私が許しませんよ」
カグラがそう強く言うと、女生徒たちはガクガクと首を振る。
「よろしい。では解散しなさい。もうすぐ次の授業のはずです」
「は、はい。ありがとうございます。では、失礼いたします」
そういって、女生徒たちは解散して、奥には囲まれてチヤホヤされていたジーマン君が立ち尽くしていた。
……哀れな。
彼はこちらを少し睨んでからその場を離れる。
流石に文句をつけてくるほど馬鹿ではなかったらしい。
「あれ、俺たちへのフラグってことじゃないですよね?」
「さあ? でも、あのフラグは別に構わんだろう? 突っかかってきたらこっちの実力を示すチャンスだし」
「あ、そっか」
別に嫁さんが増えるわけでもないし、こちらの実力を正確に把握してもらうためにも必要なことだからな。
ああいう、元気ないけに、じゃなくて生徒はいていいだろう。
案内を再開したカミシロ姉妹も先ほどのことで盛り上がっている。
「カグラが英雄ね。姉としては何も変わっていない気がするんだけどね」
「私も同じです。実感なんてわきませんよ。あの時は生き残ることに必死だったわけですし、そもそもほとんどの手柄はユキ様のものです」
「政治的判断ってやつね。まあ、あの時、ハイデン王宮はがたがただったから仕方ないわね」
「おかげで私は学生なのに色々任されています」
「名誉なことね。しかも、初代様と同じ世界、国の出身ときたものだから。お父様は大喜び。水之辰命様まで常時顕現しているとか、実家に呼び出されたときは驚いたわよ。そういう意味ではカグラは間違いなく、英雄ね」
「もう、お姉様やめてください」
会話から察するに、姉妹仲は悪くないようだ。
というか、水龍と駄目神を合わせることも後で考えないとな。
やることはいっぱいだが、一個ずつ終わらせていくしかないか。
まずはこの学院でしっかり情報を集めることだ。
俺がそんなことを考えているとタイキ君が話しかけてくる。
「そういえば、ハイデンの監視はどうなっているんですか? あっちになにか動きは?」
「監視の方は、スティーブとジョンたちが請け負っている。が、ハイレ教会の方は特になにも。マジック・ギアの持ち込みも確認できていない。まあ、自分の庭でもないし、こっちは監視以上に戦力は割けないからな。そういう意味では大人しくてありがたい限りだよ」
「警戒しているんですかね?」
「さあな。そもそもハイレを騙った偽物って線もあるからな」
「面倒ですねー」
「面倒だ」
で、ようやく俺たちが講義する教室へ到着する。
どちらかというと、大学の教室が近いな。
大人数を相手に講義できるようにしているわけか。
「こちらが、講義を行ってもらう予定の教室になります」
カンナが丁寧に黒板やチョークなどの使い方を説明してくれる。
これを一から作った初代と言われるソウタさんは大変だっただろう。
「講義の予定ですが……」
結局、学院に来た一日目のほとんどはカンナと講義、授業の事を話し合うことでつぶれることになった。
適当な俺たちですらこんなに大変なんだから、カリキュラムとかに沿ってやらないといけない教師の苦労がしのばれる。
まあ、幸いなのが、カンナがこちらの講義練習を、目を輝かせて聞いたり質問したりしてくれるので、無理を押し付けている感じがしなくてよかった。
勉学を嫌がる人に教えなければいけないというのは辛いというのがよくわかった。
そして、何よりも……。
「つまりです、この部分が……」
「ほほう!? なるほど、これが電気になるのか!!」
「凄いです。タイゾウ殿は色々なことを知っているのですね!?」
と、タイゾウさんが張り切って、講師をやっていることだ。
フラグなんかができても、纏めてタイゾウさんが持って行ってくれそうで何よりである。
「……あとでヒフィーさんに殺されませんかね? 俺たち」
「……ちゃんと弁明はしておこう」
俺たちが浮気をそそのかしたとか言われたくはない。
まあ、見ましたかみなさん!!
お約束ですよ、お約束!!
モテモテ男子生徒ですって!!
そしてモテモテ女子学生!!
本編のユキたちの会話風でお送りしました。
実際これを見ることは現実ではそうそうないのではないでしょうか。
わかると思いますが、盛り上がってきましたよ!!
さっそくイベント!!
しかし、ユキたちは基本ノータッチでカグラがという感じではあります。




