第583堀:学院到着
学院到着
Side:カグラ・カミシロ
我が学び舎が視界に映る。
私はその変わらぬ姿を見て、ようやく戻ってこれたのだと思った。
だが、そんな思いも後ろから聞こえる声でかき消される。
「おー。大きいな」
「私も初めて見ますね」
「いや、立派なものですな」
そんな感想を漏らすのは、ユキと、スタシア殿下、ジョージン殿という超が付くほどの要人。
ここでこの3人に何かあれば、再びハイデンは戦火に巻き込まれるだろう。
いや、そうはならないわね。
ハイデンが瞬く間に滅びる。
スタシア殿下、ジョージン殿のフィンダールはともかく。
ユキが率いるウィードには抵抗しようもない。
ダンジョンという能力により、既にハイデン王都に拠点が作られている。
あっという間に制圧されることになる。
それを、陛下や姫様も理解している。
だからこそ、会談の席が設けられることになったのだが……。
「なんで、学院でなのよ……」
そう、その会談を開催することになったのが、我が学び舎である、ハイデン魔術学院。
いや、この学院で会談が行われる理由はわかる。
ハイデンで暗躍した叡智の集、そして名前が挙がったハイレ教の存在、そういう影響を受けないこの学院が一番好ましいというのはわかる。
だけど、だけど……。
「なんで私が……」
この会談の準備を行ったのは、なぜか私、カグラ・カミシロ主導で行われたのだ。
いや、分かっている。
仕方がないのだ。姫様や陛下が学院に赴いて準備などできるわけがない。
なら現役学生で、ウィードやフィンダール、学院で顔の利く私がやるのは当然の人選だと思う。
思うが、言わずにはいられない。
でも、ユキも私に負担をかけているのは理解しているのか、アマンダやエオイドを通して気にかけてくれるのよね。
……姫様や陛下も私に勲章とか褒賞とかくれるし、もらうモノを貰っているから断れない。
ぬぐぐぐ……。これが汚い大人の世界か。
はぁ、ともあれ、今更やめたというわけにもいかない。
やってやるわよ!!
どうせ責任はお父様や姫様、陛下、そして学院長が取るんだから!!
私がそんな決意?を抱いている間も後ろの要人たちは仲良くお話を続けている。
「そういえば、なんでジョージ殿下は戻り、ジョージン殿がこちらに? 許可を取りにいかなくてよかったのですか?」
ユキの言う通り、なぜかフィンダールの帝王へ報告して戻ってきたジョージン殿がそのまま今回の学院訪問という建前の会談にスタシア殿下と共に来ると言いだしたのだ。
最初の予定では、ウィードが学院でしばらく過ごした後、安全が確認されたということで、フィンダールの方々を招く予定だったのだが、このジョージン殿の決断で、予定が狂って私は大変だった。
「いやなに、陛下にはウィードとの仲は密にと言われておりましてな。ハイデンとの話し合いに関しても、正式にどこかでしなければならないと言っておりましてな。まさに渡りに船ということで、私やスタシア殿下が付いてきた次第ですな。いやいや、出発直前に戻ってこれてよかった。正直な話、ユキ様たちウィードの方々、そしてカグラ殿と一緒の方が安心できますからな」
なるほど。
ジョージン殿の言う通り、ユキたちがいるなら問題が起こっても対処できるだろう。
私も同じか、一緒にくれば面倒な手続きをしないで済む。
ジョージン殿にとってはここで一緒についてきた方が後々の面倒を一気に省けるわけだ。
「なるほど。跡取りであるジョージ殿は安全のために戻して、お2人でというわけですか」
「まあ、流石に未だきな臭いハイデンの事ですからな。跡取りであるジョージ殿下が行くわけにはいきますまい。報告で戻っていただき、何かあればすぐに動いてもらえるでしょう」
用意周到なことね。
いや、これぐらいは当然ということか。
「しかし、当面会談は先ですよ? まずは私たちウィードの存在を認めさせることが先になりますので」
「存じておりますぞ。そこに私たちフィンダールの者もいて認めるといえば、ウィードの存在を認める後押しにもなりましょう」
「ええ。さらに、ユキ様やヒイロが行う授業というのは楽しみであり、きっと我がフィンダールにとっても有益なものになるでしょう。そんなことをハイデンだけに独り占めさせるわけにはいきません」
ジョージン殿の言うことは尤もだ。
フィンダールの重鎮、そして王女殿下が認めるといえばウィードの認知度は上がるだろう。
ハイデンだけでなく、争っていたフィンダールまで認めるというのだ。
これでも存在を訝しむ国はバカだと言われるだろう。
なるほど。こういう行動をとることで、ウィードに恩を売ることになるのね。
スタシア殿下の言うことも当然。
そして自分も利益をえる。
本当にみんなよく考えている。
「では、学院にいる間は、フィンダールの方々は見学という感じですかね?」
「そうですな。そうなると思います」
「私たちは、魔術をほとんど使えませんからね。ちょっと身体能力を向上できる程度で、放出系はまったくと言っていいほど使えません」
「そこも不思議ですね。レベルが上がれば魔力は上昇しますし、内部系が使えて放出系が使えないというのは……」
「才能というものなのでしょうな」
「そうですね。私も魔術が使えればと思い、何度か練習しましたが、どうにも……」
ジョージン殿の言う通り、才能が左右すると思う。
魔力があろうが魔術が使えないという人は多い。
魔術を使えてこそ魔術師といえるのだ。
と、そんなことを話しながら歩いていると、学院の正門へと到着する。
そこには、初老の男性と、若い女性が立って待っていた。
「学院長。……と、お姉様?」
……あれ? なんでお姉様がいるの?
王都の魔術研究部門にいるはずじゃ?
「やあ、カグラ君。よく戻ってきてくれたね」
「私がいるのが意外そうね? それはともかく、お客様をほったらかしはよくないわ。私たちの紹介を」
「は、はいっ」
そういわれて、慌てて、ユキたちに向き直り紹介を始める。
「こちらの男性がハイデン魔術学院の学院長である、グリモ・ワールです」
「初めまして、ウィードの皆さま。そしてフィンダールの皆さま。私が当学院を預かっております、グリモ・ワールと申します。この度は、前任の学院長がご迷惑をおかけしたこと、心よりお詫び申し上げます」
グリモ・ワール学院長はハイデンでの叡智の集が一掃されたあと、前任の学院長の関与が認められて、更迭というか、他国の生徒を監禁していたということで、処刑されて、ここ一か月の間にこちらに赴任してきたのだ。
元は、王都での魔術師隊の顧問で、サーベル隊の者たちとはまた別の派閥で、陛下の信任厚く、今回、こちらの学院に赴任することになった。
「話は伺っています。私がウィードの王配でユキと申します。しかし、見知らぬ人のしりぬぐいは面倒ですよね」
「はは、まったくですね。年寄りには堪えます」
「私は、フィンダールのジョージンと申します。どこもかしこも爺使いが荒いですな」
「同じく、フィンダール第一王女のスタシアと申します。それだけ信頼されているのでしょう。グリモ学院長よろしくお願いいたします」
何か文句の一言でも出るかと身構えていたが、ユキがそんなことを、苦笑いしながら言ったのがきっかけで、4人でなごやかに話がすすむ。
しまった。この会話の流れをぶった切って、お姉様をどう紹介したものか……。
というか、なんでいるのよ?
どういう立場で来ているの?
私なにも知らないんだけど!?
「で、そちらの女性は? カグラが姉と言っていたようですが?」
「おお、失礼しました。ユキ様の言う通り、カグラ君の姉で、王都で魔術研究部門で働いている……」
私とは違って、金髪のウェーブがかかったロングの髪を後ろでまとめてポニーテールにしている姉が、グリモ学院長の視線を受けて、綺麗に礼をして挨拶をする。
「初めまして。ユキ様、スタシア殿下、ジョージン将軍。そして、ウィード、及びフィンダールの皆々様方。ご紹介に預かりました、そちらのカグラの姉で、カンナ・カミシロと申します。この度は、王都の要請により、ユキ様たちが教員として、魔術の教鞭をとるときの記録員としてまいりました。よろしくお願いいたします」
なるほど。
確かに、ウィードの教鞭は記録を取って技術を取り込めって言ってたわよね。
誰がその役をやるとは聞いてなかった。
だって、姫様の方で用意するって言ってたから、私はウィード側の準備に一生懸命だったので学園側は任せていたのだ。
てっきり、今まで連絡がなかったから、こっそり配置するかと思ってたのに、まさかお姉様が来るなんて……。
いや? こっそりされるよりはこうして挨拶する方がいいのかな?
私の姉っていうことで身元もはっきりしているし、ある意味うってつけ?
「カグラの姉ですか。そういえば、研究職に就いているという話は聞いたことがあります。自慢のようでした。いや、優秀なのですね。これからよろしくお願いいたします」
「いえ、まだまだ浅学の身。魔術を学べば学ぶほど、何も知らぬと身をもって知るばかりです。ユキ様たちが使い、教える魔術を楽しみにしております」
「世の中そんなものでしょう。知識を得れば得るほど、自分が何も知らないことを知るというのは、私の国では有名な言葉です」
「あら? カグラが腰を抜かすほどの大魔術をお使いになられるユキ様でもでしょうか?」
誰が、腰を抜かしたですか!?
そんな無様なことはしていません!?
捏造しないでください、簀巻きにされたぐらいです!!
って、言えないのが悔しい。どのみち恥だ。
ぬぐぐぐ……。
「ええ。知らぬことばかりです。だからこそ、研鑽をやめませんし、こうしてハイデンの学院に足を運んだ次第です。私の知らぬ知識があるかもしれないと」
「ユキ様は学者様で?」
「いえ。そういうわけではありませんが、魔術にしろ、学問にしろ、王にしろ、政治にしろ、ずっと研鑽が必要というわけですよ。今までの積み重ねがあり今日がある。そしてそこで止まっていいわけではない。そうでしょう?」
「確かにその通りです。私たちは偉大な先人たちの後を追うだけではなく、新しい何かを見つけ、後世に繋いでいくことこそ、先人たちが望んでいることだと思います」
……って、いつまでにこやかに話ししてるのよ!?
ユキの面倒は私が見ることになってるの!!
「こほん。お姉様。そういうお話は、またあとで、今は学院の案内を」
「ああ、そうでした。皆さま、失礼いたしました」
「はは、このように学にとても熱心な方で、今回の記録員としては最適ということで私と一緒に学院に来た次第です」
皆、姉の無作法に特に顔をしかめることもなく、そういう人なんだという感じで納得してくれた。
ほっ。
「いや、素晴らしいですな。こうやって研鑽の意味をちゃんと見出している方がいるとは」
「カンナ殿の言う通り、私たちの今は先人たちの頑張りがあってこそ、だからこそその偉業に頼り切りではなく、新しく道を切り開いていくというのが大事なのです」
……なぜか、姉の評価が上がっている。
特にめぼしい成果とか上げていないのに。
そんなことを考えながら、学院の案内に移っていく。
最初に、使ってもらう部屋に案内して荷物は置いてもらって、寮棟、教室、研究棟、演習場、食堂、図書館、職員室、学院長室など、あらかた見て回る。
「大きいですね。かなりの生徒数がいるのですか?」
「ええ。我がハイデン魔術学院はこの一帯の国の中で一番魔術が進んでおりますからな。他国から留学生も多く来るのです。まあ、それを利用した馬鹿者がいたのですが……」
案内が終わったあと、学院長室でお茶を飲みながらそんな話をしている。
「なるほど。そちらとしても、今回の留学生を強制勾留したという事実を払拭したいわけですね。しかし、勾留された生徒たちは無事なのですか?」
「ええ。我が国の戦力に組み込む予定だったのか、怪我を負わせたなどはないのですが……。無駄にお金をかけていまして……」
「お金を?」
「ええ。お金を使い贅沢をさせて、引き留めていたそうです。それで贅沢を打ち切った今では……」
「ああ、贅沢ができないから不満を口に?」
「ええ。今までの生活に戻れるかという、ただ単に贅沢というわけでもなく、研究費なども出していたようで……」
「自国に戻ってもその待遇は望めないでしょうからね……。ある意味、正当な懐柔手段を取っていたわけか」
「ええ。魔術師が権力を握るから、ハイデンにつけば贅沢ができるとでも吹き込んだのでしょう」
一度贅沢を知ってしまえば、なかなか戻れないわよね。
私だって、ウィードのケーキを食べられないとか言われたら発狂すると思うわ。
というか、そんな方法で、留学生を拘束していたのね。
羨ましいというかなんというか。
「だから、小さいこの子たちは、教員ではなく学生として、迎えられたわけですね」
「「「?」」」
首をかしげているのは、アスリン、フィーリア、ヒイロの3人。
彼女たち3人はユキの言う通り、教員としてではなく、学院のイメージアップのためのウィードからの留学生ということになった。
まあ、教員として来ても学生たちが納得するわけ……するわね。あのバイデにいたメンバーは。
でも、バイデにいなかった学生たちは反発するでしょうし、そういうこともあって、学生ということになっている。
無論、ユキたちのサポートが優先になるんだけど。
というか、この3人を別の教室とかにできるわけがない。
バカがこの3人をいじめたりなんかしたら、この学院が無くなる可能性がある。
この3人だって、常識を超える実力をもっているんだから。
「色々当初とは違って申し訳ありません」
「いえいえ。無理があるのはわかっていますからね。軋轢を少なくするのには賛成です」
「ご理解いただきありがとうございます」
「で、これからの予定ですが……」
「それにつきましては、カンナ君が授業補佐ということでスケジュール管理をしておりますので……」
「皆さま、私が立てた予定がございますので、それを確認していただけますでしょうか?」
そんな感じでスムーズに話が進んでいくのだが、なぜか私の喋る出番がない。
どういうことだろう?
いや、学院のことだから、学院長と補佐を任されたお姉様が頑張るのは当然よね?
私は仕事がないから楽なんじゃない?
でも、なんでこんなに引っかかるんだろう?
いよいよ学院へ!!
さあ、これからイベントのオンパレードになるのか!?
それとも、ユキとタイキの策略で事なきを得るのか!?
次回を待て!!
ちなみに、「カグラ=神楽」「カンナ=神流」という漢字になります。




