第542堀:会談始まる
会談始まる
Side:ユキ
さて、とりあえず無事に領主館にまでフィンダール帝国一行は迎えることができた。
今のところ、ジョージ殿下がかなり頑張ったおかげか、こちらに対する敵対心というのは感じられない。
上手くウィードのことを説明したのだろう。
しかし、残念ながらなぜかフィンダール内部で不和が広がっているようだ。
原因はスタシア王女殿下。
リラ王国の一件で、顔を負傷し、その後ヘルメットを……いや鎧を着用したままだという。
風呂や体を拭いていないという意味ではなく、話し合いの最中も常にそういう状態だそうだ。
鎧はともかく、顔をヘルメットで覆いつくしたまま挨拶や会談に臨むというのは、こちらの常識でもやはり無礼に当たるらしく、使者としての礼節をかくスタシア殿下に他の使者として訪れた人たちが不快感を示しているらしい。
「なんというか、不思議ね。こっちには特に敵意がないのに身内のことでピリピリしているなんて」
「そこまで不思議でもありませんよ。成果の奪い合いという意味ではよくあることです」
「でも、あのスタシア殿下は成果の奪い合いではないけどね」
「ですが、他の使者にとってはスタシア殿下の無作法を認めるわけにはいきませんから。結局、成果を上げたい使者としては、スタシア殿下は非常に厄介な存在というわけです」
「めんどうねー」
「はい。ジョージン殿から聞いたスタシア殿下の話を聞いて心情は理解できますけど、だからと言ってこういう話し合いの場に持ち込んでこられると、どう扱っていいか悩みます」
そう話しているのはラビリスとシェーラ。
ラビリスはウィードの仕事の合間にこっちの様子を見に来て、シェーラに説明を受けているところだ。
そして俺の所にはキャサリンが難しそうな顔をして話しかけてくる。
「しかし、ユキ様。スタシア殿下のことはどうなさるおつもりでしょうか?」
「一応、ジョージ殿下からは頭を下げられているからなー。姉がご迷惑をってな」
「となると、謝罪を受けていると言って、心情はわかるという感じで、スタシア殿下の今のままでの会談を許可するのでしょうか?」
「その予定。不味いか?」
俺がそう返すとキャサリンはしばし考えるような動作をして、再び口を開く。
「……スタシア殿下の無作法を許すとなると、ウィードが舐められるという懸念が生まれます。しかし、ジョージン将軍からスタシア殿下のお話を伺っているということで度量の広さを見せることはできますから、あとはスタシア殿下のお人柄というか、ちゃんとそこらへんをわきまえた態度ができるかというところが心配ですね」
「一応挨拶したときの態度はヘルメットを取らない以外は普通だったけどな」
「私もそうは思います。ジョージ殿下の話からもそういう無作法をするとは思いません。問題点としては、勝手にフィンダール側が会談の邪魔になりそうなスタシア殿下の件で内輪もめしそうなことぐらいですね」
とりあえず、スタシア殿下は今のところヘルメットを着けたままでの会談はウィード側には問題ないとの判断か。
俺もそれは賛成だけど、キャサリンの言う通り、バイデを舞台に「王女殿下殺人事件!!」なんてネタが起こって貰っても困るわけだ。
例え帝国内の内輪もめでも、そのせいで会談が先送りになるのは目に見えている。
「あ、内部にリラ王国の残党が紛れ込んでいるって可能性は? クリーナ、監視で部屋に案内した使者や護衛たちはどうだ? おかしい動きは?」
おれは監視を任せているクリーナに話を振る。
「ん。今のところ問題はない。各部屋に案内してあとはとりあえずみんな一息ついているぐらい。持ち物検査もコール機能で確認したけど、刃物や毒物の持ち込みは認められないし、この前見つけた改造したダンジョンコア等の所持もなし。私が見る限りは安全」
「そうか」
まあ、一先ず殺人事件やリラ王国の残党による横槍は起こりそうにないな。
俺もクリーナの報告でほっとしていると、同じく監視をしているアスリンとフィーリアは俺に話しかけてくる。
「お兄ちゃん。たぶんね。王女様は怖がってるんだと思う」
「そうなのです。怖がっているのです」
「怖がっている?」
「ジョージンさんやジョージさんから聞いただけだと、不意打ちを受けないようにって聞こえるけど、キャリーお姫様から聞いた感じだと、きっとあの王女様、自分のせいで他の人が傷つくのが怖いからああやって、ヘルメットを被ってるんだよ」
「他の人が傷つくから?」
「そうなのです。鎧は自分の身を守るだけじゃないのです。自分が頑丈だと見せることで敵には威圧を、味方には安心感を生むのです。きっと、自分が弱点にならないためにああしているのです。だから自分が素顔をさらすことで弱点になるかもしれないというのが、とても怖いのです」
「……」
ふーむ。
まあ、そっちの意味もあるだろうな。
確かに、不意打ちを避けるためというのもあるが、2人の言うように、あの事件はキャリー姫の話を聞く限り、スタシア殿下が負傷したことによって、継戦が厳しくなって撤退するために妹を置いていく判断をしたわけだ。
スタシア殿下はあの時、妹の足かせになってしまったわけだ。
どこまで妹の実力があったかは分からないが、そう考えても不思議じゃない。
トラウマみたいなものだからな。
かといって、2人の話を聞いてもどうすることもできないのだが。
「2人とも話はわかった。無理にヘルメットを取るようには言わないから心配しないでくれ」
「うん。わかった。お兄ちゃんがんばってー」
「やさしくしてあげてくださいなのです。とても悲しそうなのです」
そんな話をしているうちに、会議室の準備が整う。
「さて、シェーラたちは案内を頼む」
「はい」
「任せてください」
「お任せください」
そういって、シェーラ、リーア、サマンサが部屋をでる。
「ドレッサ、ヴィリア、ヒイロは俺の護衛で会議室に行くぞ。キャサリンもだ」
「「「はい」」」
「畏まりました」
「クリーナ、アスリン、フィーリアは引き続き監視頼む」
「ん。任せて」
「「はーい」」
ま、スタシア殿下の件は今日一日でどうにかなるわけもないし、気長にいくとして、今はウィードとフィンダール帝国の話し合いをまとめるのが先だ。
不幸な事故?召喚から問題が生じたわけだし、そこら辺をしっかり話して敵対する意思はないと伝えないとな。
「ユキ様。お疲れ様です」
「ジョージン殿は先にこちらへ?」
会議室の中に入ると、なぜかジョージンだけがいた。
「ええ。ちょっと先にお話ししておきたいことがございましたので」
「なんですか?」
「リラ王国残党の暗躍の件です。これからウィードへ移動し、ハイデンとも話し合いが持たれますから、話さないわけにはいかなくて、こちらで隙をみて話しておきました」
「反応は?」
「ジョージ殿下、及び他の使者、護衛たちは話を聞いて顔を真っ赤にしておりました。スタシア殿下はヘルメットで表情はわかりませんでしたが、怒気はでていたので同じように怒っていたのでしょう」
そりゃそうだろうな。
憎き敵が出てきた感じなのだろうから。
「ハイデンの方に不信感とかは?」
「いえ、それは無いですな。むしろ、今回の件はこちらに非があるかもしれないということで、顔を青ざめさせております」
「盗賊を他国に追いやったみたいな感じでか?」
「そうですな。まあ規模が違いますし、魔物などというものが出てきておりますから、リラ王国以外ではありえないことが起こったということで、残党を逃がしたフィンダール帝国の責任だと言われれば、言い訳は難しいですな」
「キャリー姫との極秘会談の件は?」
「そちらはいまだに。今伝えると、ウィードとの会談がおざなりになりそうだったので」
「まずは、ウィードと帝国をしっかりと、ということか」
「はい。そのようにお願いいたします」
そんな話をしていると、会議室の前にいた兵士からフィンダール帝国の使者が来たと報告があり、中に入ってくる。
さて、ジョージンの言う通りまずはウィードと帝国の会談を終わらせないと、次に進めないか。
「どうぞおかけください」
俺はそういって、殿下や使者たちに席に座らせる。
「まずはこの度、荒唐無稽な話を信じ、このような会談に臨席してくれたフィンダール帝国に感謝を」
「いえ。こちらこそ、貴国のような素晴らしい技術・魔術をもった国と関係が持てたことは誉であります」
俺の挨拶に対し返事をするのはジョージ殿下のようだ。
まあ、一応関係が深いのは使者の中でジョージ殿下だし、今回の責任者みたいなものだしな。
ジョージンはバイデにお留守番だったし。
そのあとは、各自自己紹介を軽くすることになり、途中というか初っ端から、ジョージ殿下の次、スタシア殿下は自己紹介でやっぱりヘルメットを取ることなく立ち上がる。
「このような姿で申し訳ないですが、私は第一王女のスタシア・フィンダールと申します」
そういうスタシア殿下の言葉に、フィンダールの使者や護衛が顔をあからさまに顰めて、口を開こうとするが、先に俺が口を開く。
「謝ることはないですよ。スタシア殿下がその兜を常にかぶっておられる理由は聞き及んでいるので、特に気にはしません。その心構えに称賛こそすれ、非難するつもりは御座いません。女性の身でありながらと言えば失礼になるかもしれませんが、そうそうできることではないでしょう」
「……ユキ様のお心遣い。感謝いたします」
「いつか、平和が訪れ、その兜が取れる日がくるとよいですね」
「……はい」
俺がそういうと、スタシア殿下は少し気を緩めた。
まあ、ヘルメットを取れと言われるのが普通だしな。
しかし、この問題点を知っていて代役を務めさせたフィンダールの帝国の帝王さんは普通にやり手だな。
こっちの度量を計ってきやがった。
スタシア殿下に対して怒るのか、そうでないのかを見極めて、これからの対応を決めるつもりだったんだろう。
問題があるのは明白だし、俺たちウィードが苦言を呈すればこのままスタシア殿下は後方に引き摺り下ろされる格好の理由になるだろうから、一石二鳥ってわけだ。
まあ、これを理由にスタシア殿下のヘルメットを取ることができるかもしれないって考えもあるだろうけど。
将軍としてではなく姫としての使い道のために。
さて、スタシア殿下の挨拶に少し話を挟んだが、そのあとは滞りなく自己紹介が終わり本題に入る。
「さて、挨拶もすみましたし、今回の会談の趣旨を説明したく思います。ヴィリア」
「はい」
ヴィリアに声をかけると、大きなホワイトボードを部屋の隅から移動してくるドレッサとヒイロ。
いや、なんかヒイロが小さすぎるから虐待しているように見えるか? すごく不安になってきた。
ま、まあ、さっさと説明してしまおう。
普通なら資料を配ってなんだが、羊皮紙主体の地域では毎回説明がつかれるし、印刷技術とかもそこから芋づる式になるので、ホワイトボードへ書き込み説明しているのだ。
いまは、そんな技術の輸出をたのまれても仕事が忙しすぎるから無理だし。
ということで、ホワイトボードにヴィリアは予定通りの言葉を書き出す
ウィード、フィンダール帝国の国交を結ぶための会議
そう、国交を結ぶための事前会議。
まだ、俺たちは休戦をしているだけで、正式な停戦をしたわけでもない。
お互いに争う意志はすでにないが、まだ書類にしていないのでただの口約束である。
世の中正式なやり取りが大事なのだ。
「私たちウィードのことは聞き及んでいると思いますが、一応最初から説明させていただきます……」
俺はそういって、この新大陸に来た経緯を話し始めるのであった。
というか、ようやくここまできたな。
さてさてようやく会議が始まりす。
ユキたちの時間間隔では約半月ぐらい。
しかーし、私たちの時間ではすでに正月から現在6月。
長い道のりでした。
それだけ濃い内容でしたけどね。




