第537堀:女王の苦労
女王の苦労
Side:セラリア
夫には穏便に済ますといってはいたが、ここは外せない。
いうところはしっかり言わなければ、それは優しさや温情ではなく、侮りを生み出す。
いかなる事情があろうと、国の王族を攫われたという事実をうやむやにしては今後のウィードの外交が乱れる原因となる。
この会話は必要なこと。
「国交すらまともに結んでいない状態で、我が伴侶を手足の如く使っているハイデンは、ウィードにどのような賠償をするつもりか?」
私は剣を鞘から引き抜き剣先をキャリー姫に向け、さらに言い放つ。
国交があるならば、まだ夫の視察ついでの支援としても良かったが、国交すらもないのだから、勝手に我が夫を危険にさらし、雑兵の如く扱った、相応の報いは受けてもらわなければ、ウィードとして面目が立たないし、私たちとしても納得がいかない。
……夫は、便利な道具などではないわ。
「返答如何によっては、姫の首をここで落とし、我がウィードは貴国、ハイデンに対して宣戦を布告する。それをよく考えて、口にせよ」
実際、首を落とすような真似はしないけど、この対応如何によっては、この姫ではなく、横で、顔を青くしている、カグラって子をハイデンのトップに据えた方が何かとよさそうよね。
日本人を祖に持つんだし、今までの関係は良好。
日本人特有なのか知らないけど、ユキ、タイキ、タイゾウと同じように苦労人気質みたいだし。
そんなことを考えていると、キャリー姫が意を決して口を開く。
「……恐れながら、女王陛下……」
その視線に怯えはない。
しっかりとこちらを見ている。
……度胸はいいでしょう。
流石というべきか、復讐をずっと胸の内に秘して耐えていただけはあるわね。
自分でその手を汚すことをいとわないみたいだし、ある意味、ユキが言ったように、彼女の姿はユキとの出会いがなかった、私の末路なのかもしれない。
「此度の件につきましては、ハイデンの不徳のいたすところであるのは百も承知であります。そしてなお、ユキ様のご尽力により、帝国との会談も設けていただく予定であり、ハイデンの異分子の炙り出しにもご協力いただいている次第です」
包み隠さず、自分たちが夫に存分に頼っていると話す姫。
「……知っている。で、その対価として、貴国は何を差し出すのか? 我が夫の有能さはそちらも身をもって知っているだろう。その夫を欠いたウィードがどれだけ滞っていると思うのだ?」
そう、大陸間交流をこの半月、私たちだけで回すのがどれだけ大変か、ジルバ帝国、エナーリア聖国からは、ユキの王位継承権の件で話し合いたいって、魔剣使い達がきてるし、ジェシカとかその件で一度、ジルバ王宮に戻れと命令も来ているのよ。
クリーナの祖国アグウストやサマンサの祖国ローデイも、今回の大陸間交流の話が届いたのか、ベータンに使者を向かわせるとか手紙が届くし、ロガリ大陸の方も、イフ大陸言語解析班の結成や、どうやって他の大陸と関係していくのかで連日大会議。
その仲介とか説明をする私の多忙さがわかる!?
だから、私の夫返してよ!!
どれだけ、ウィードが損害被っていると思ってるのよ!!
正直な話、これらは私たちの手でやるのが好ましいのだ。
ユキという一個人でまとまっているというのは、正直好ましくない。
ユキに何かあればすぐに崩壊してしまうからだ。
そこらへんも考えてユキは助言程度にしているんだろうけど。
今までのユキの功績がすごすぎるのよね。
……そういう意味では、私たちもユキにおんぶにだっこなんだけど、夫婦だから問題なし!!
ユキやルナの大仕事も手伝っているからいいのよ!!
と、内心開き直っていると、姫が私の質問に対して口を開く。
さて、どのような賠償をして謝罪とするつもりかしらね?
「……まず、ハイデンが落ち着くというのが前提になることはご了承いただきたいのですが」
「それは当然だ」
「ありがとうございます。その時は、異分子から押収した財貨の8割と、ユキ様から提案されているバイデの租借ではなく、完全なる譲渡、及び、あといくつかの土地などの譲渡を考えております」
ふむ。
まあ、妥当な線ね。
租借地の件を取りやめたのは、こちらの国力を正確に把握したからね。
こういう判断力も悪くはないと。
でも……。
「それが、履行されるとは限らないのではないか? 言っては悪いが、貴殿はただの姫君。土地の所有権などを変えることは王の仕事のはず。それをここで勝手に言って、周りが納得すると思うのか?」
姫の判断は正しいとは思うが、それが履行されるとは限らない。
いや反故にされる可能性の方が高い。
国としては、土地というのは財貨を生み出す宝の山なのだから、それを手放すというのはそうそうありえない。
無理に取り上げても、国内の不安定につながりかねない。
最悪、内戦が起こり、元も子もなくなる。
しかし、キャリー姫に迷いはなく、すぐに返答を口にする。
「確かに、普通ならば、女王陛下のおっしゃる通りでございます。しかし、幸いと言っては何ですが、ユキ様は私たちの国にとっては、救国の英雄であり、初代様の再現でもあります。そのような偉業を成し遂げた相手に、土地を譲渡するというのは誉ではあっても、不名誉にはなりません」
「……ふむ。その前例がそちらのカミシロ公爵たちということだな?」
「はい」
なるほど。
前例があるから心配はないと、押してくるのね。
「万が一、他の者が難色を示しても、その時は、カミシロ公爵領を差し出す所存であります。そうですね? カミシロ公爵?」
「はっ。我が国がそのような不義を働くのであれば、カミシロ公爵家はハイデンと袂を分かち、ウィードに属することを誓います」
よこのカグラはえっ!? って顔をしているから、聞いていなかったのね。
でも、話している2人には焦りなどはないから、あらかじめ話し合っていたとみるべきか。
しかし、土地ではなく、カミシロ公爵家ごと譲るね。
……思ったよりも考えているわね。
反対をすれば、ハイデンの中心と言われる御三家が割れることになる。
その場合は、反対をしたものがどういう責任をとるのか?という責め方をするのでしょうね。
となると、反対はしづらいか。
そもそも、初代の再現と言われているのだし、それに倣った行いを否定するのが不味いわけね。
しかも、この場で公爵領の持ち主が同意しているから、ここは約束されたと言ってもいい。
今後、万が一、ハイデン王家が倒れることになっても、御三家の一つはウィードの傘下になっているも同然だし、庇護してもらえるというのも考えているのでしょうね。
私たちがこれ以上、国土を増やしても大変なだけというのも理解して、カミシロ公爵家ごとと言っている。
なるほど、夫がこの姫を狸というわけだ。
思ったよりも頭が回る。
どちらかというと、私に似ているのではなく、お姉様似なわけね。
「よろしい。では、その旨を書面に残し、サインをしてもらうことになるがよろしいか?」
「はい。かまいません」
「……ハイデンが落ち着いた折には、ちゃんとそちらとの王とも会談を行いたいものだ」
「はい。その日が少しでも早く近づくよう、全身全霊をかけて臨む所存であります」
「我が夫を使って、か?」
「……そこは、まことに申し訳なく」
これ以上いじめても仕方ないわね。
約束も取り付けたし、そろそろいいでしょう。
「まあね。あそこまでだと頼りにしたくなるわよね。……私の夫はとても役に立つでしょう?」
私がそう砕けた話し方をすると、姫は少し驚いた顔をしたけど、すぐにこちらの意図を察したのか微笑む。
「はい。恐ろしいほどの才覚でとても頼りになります。あれほどの人と女王陛下はどこでお知り合いに?」
「そうね。実のところ、私も姫と同じように窮地から救ってもらったのよ」
「私と同じように?」
「まあ、私の場合は直接命を狙われたから、姫のように上手く立ち回ることができたわけではないわ」
「……そうだったのですか」
「そういう意味では私もあまり姫に強く言えないのよね。召喚したわけではないのだけれど、巻き込んだのは変わりないから。でも、今では彼は我が伴侶。国を預かる者として、そこは厳しくいかせてもらうわ」
「はい。当然のことだと思います。しかし、失礼ですが、ユキ様には国を手中に収めようなどといった野心はなく、権力やお金に靡くような方ではないのは私が直接お会いして理解しております。なのに、どうしてユキ様はウィードを背負っておられるのでしょうか?」
ユキがルナからさらに違う異世界から連れてこられたという認識はないわけか。
いや、それを認識しろというのは酷ね。
そもそも、ウィードはユキが魔力枯渇を解決するために必要な財源を集める場所でしかないんだから。
まあ、ユキは優しいから、ウィードの為にしっかり働くけどね。
そこも、日本との国交とかができたときに、不利にならないためっていう理由もあるのよね。
……彼女たち、さらに、別のイフ大陸のこととか、異世界の地球の大国が後ろに控えているとか知ったら、どう思うのかしらね?
泡吹いて倒れないといいけれど。
流石に今それを言うわけにもいかないし、適当にごまかしておきましょうか。
……違うわね。もっと、大きなことがあるとさりげなく言っておきましょう。
聡いこの姫なら理解するでしょう。
我が夫が抱えている問題は一国では到底成しえない物だと。
「まだそこは話すべきところではないわ。貴国とは正式に国交を開いたわけではないのだから」
「……わかりました。ウィードの信頼を得られるよう、まずは自国の問題を片づけてまいります」
「それがいいわ。自国の問題を片づけるためにも、フィンダール帝国との会談が上手く行くことを祈っているわ」
「はい。何から何まで、お世話いただきありがとうございます」
「それは、そっちで必死に働いている夫に言って頂戴」
「わかりました」
「ああ、でも、あまり時間は無いわよ?」
「どういう事でしょうか?」
「さっきの話しからもわかると思うけど、我が夫はウィードでも重要な役職を担っているの。当然、仕事が満載。そして、今回の件で滞っているの。だから、いくら理由があるにしても、そちらに留めておくのは限界があるわ。我が夫やウィードを頼りに動くのならば、ある程度急がないと、身動きが取れなくなるわよ」
「……なるべく早く、ことを収めたいと思います」
「そうなるといいわね。ああ、言い忘れていたことが一つ。滞在中はウィードを存分に楽しんでいくといいわ。説得などで必要なものがあるのなら、ラッツに言えば許可できる範囲で揃えてくれるように言ってあるから。では、次会うときは朗報を持ってくること期待するわ」
「はい」
そういって、私は謁見の間から出て行く。
無理を言っているのはわかるけど、こっちもあと半月もすればイフ大陸の使者もベータンに集まるし、嫌でも夫は一旦、ロガリ、イフ大陸間交流のほうに戻さないといけないんだから。
そうなると、ハイデンの問題はいったん停止しなければいけない。
と、そこはいいとして……。
「エリス、キルエ、あなたたちはもっと、殺気を抑えなさい。おかげで、デリーユもラッツもひやひやしてたわよ」
先ほど、一緒に謁見の間にいたエリスとキルエは、ハイデンの姫が迂闊なことを言おうものなら、その場で姫やカグラを殺害する気満々の殺気だったのよね。
そのおかげで、私が代わりに、剣を抜いて、威嚇する羽目になったわ。
まあ、ウィードの面目のためでもあるけど、一番の理由は、この2人のため。
「……ごめんなさい。自分でも抑えてたつもりなんだけど」
「……私としたことが、申し訳ございませんでした」
「まあ、気持ちは私も一緒だけどね。でも、夫の為にも、子供の為にも、無意味な流血は避けるわよ」
「「はい」」
ここ最近、ウィード残留メンバーは完全に私が仕切ることになってるから、夫の苦労がわかってきた。
私はこうやって話をするだけでいいのだけれど、夫の場合はこの後ベッドとかでのイチャイチャもあるから大変よね。
……と、理解しつつも、私もそのイチャイチャはやめるつもりはないんだけれど。
セラリアもちゃんと女王様をしているわけです。
そして、周りも同じように成長していく。
でも、ユキは楽にならない不思議。
そして、少しやりたいことがある。
もうなんか現実暑くじゃなくて、熱くなってきたから、早めのお化け、肝試しネタやっていい?
夏もやるけどさ。




