第526堀:真偽混ざったお花畑
真偽混ざったお花畑
Side:???
……意識がはっきりしない。
でも、とても懐かしい。
そう、とても懐かしい声が聞こえる。
『アージュ?』
『ええ。それが私の名前よ』
小さな女の子が2人、草原の上で話をしている。
いや、ただの女の子ではない。
どちらとも、煌びやかな服装をしているところから、やんごとなき身分の出だとわかる。
後ろには鎧を着こんだ大人たちが護衛をしていることからも分かる。
『今日は、私が貴女のお相手をってお父様に言われたの。でも、良かったわ。他の人たちは交渉とか話し合いでつまらないんですもの』
『えーと、それはお仕事だし……』
『ふん。それで私たちはほったらかしよ。つまんないわ。だから、私たち2人で遊びましょう』
『う、うん』
どうやら、アージュと名乗った彼女に、もう1人の少女は、この草原までついてきたらしい。
貴族や王族というのは、気の休まるところが本当に少ないから、アージュという彼女も色々と不満が溜まっているのでしょう。
私だって、同じでした……?
同じ? なにが?
疑問が頭をよぎるが、意識がボーっとしていて、思考がまとまらない。
何を疑問に思ったのか?
『ほら、ここよ』
『うわー。綺麗だね』
『ふふん。そうでしょ、すごいでしょう。とっておきの場所なんだから』
そんなことを考えている内に、少女たちは綺麗な花畑にたどり着く。
『じゃ、まずはお昼にしましょう。食べないと、戦えないわよ』
『戦う? どういうこと?』
『えーっと、お姉様が言ってたのよ。お腹が空いてたら動けなくなるって、だから、ちゃんと食べられるときにちゃんと食べておけって』
『?』
どうやら、少女には難しいことだったらしく、首を傾げている。
もっとも、言ったアージュもあまり深く理解していないようで、そのお姉様の言った言葉をただ使っただけなのでしょう。
『とにかく食べましょう』
『うん』
まあそこは子供らしく、深く考えないで側付きの者たちが準備してくれた食事に手を伸ばして、本人たちはいたって普通に食べていたつもりなのだろうが、私から見れば子リスが一生懸命頬袋を膨らませて食べているように見えて微笑ましかった。
『よーし、補給は十分ね。じゃ、遊びましょう』
『でも、なにをして遊ぶの? お花を摘むの?』
『そうねー、お花を無意味に摘むのはよくないってお姉様が言ってたわ。だから、剣の訓練をしましょう!!』
『えー!? なんでそうなるの!?』
本当になんでそうなるのか不思議だった。
でも、アージュは当たり前のように続ける。
『だって、お花を摘めないなら、体を動かす方がいいでしょう? いつもお勉強ばかりだし。貴女は違うの?』
『あ、うん。私もお勉強ばかりかな。でも、女の子は剣を持っちゃいけないって……』
『そんなことを気にしないでいいのよ。私のお姉様は立派に騎士をやっているんだから』
『へー、凄いんだね』
『そうよ。私のお姉様はすごいのよ。魔術の才能があるわけでもなく、剣の腕で騎士まで上り詰めたんだから。私の目標なの』
『だから、木剣をもってるんだね』
『そうよ。これはお姉様が私の為に作ってくれたの。有事の際はおびえるだけじゃなくて、立ち向かえるようにって。こんな風に』
アージュは少女に見せるように木剣を振るう。
まだまだ拙い振り方だが、それでも同年代の子に比べると様になっている。
『ほら、貴女も』
『え? 私は無理だよ』
『そんなことじゃ、自分の身を守れないわよ。大丈夫、私が教えるから』
そんな感じで、少女たちは花畑で剣の素振りを行うことになる。
普通なら咎められることでしょうけど、花畑に遊びに来ている子供たちにとやかくいう人もおらず、その日は剣を振ってクタクタになるまで、練習、もとい遊んでいた。
……とても、楽しかった。
次の日も、少女のお相手はアージュのようだったが、後ろに鎧を着こんだ女性を連れていた。
『え、っとアージュ? 後ろの人は誰?』
『ふふん。私の自慢のお姉様よ!! 今日は、お姉様も訓練に付き合ってくれるんだって!!』
どうやら、後ろの騎士はアージュの姉らしい。
綺麗なショートカットされたブロンドの髪が風になびいて、とてもキリッとした表情の綺麗な人。
凛々しいという言葉がとても似あいそうな人だったんだけど……。
ゴンッ。
『いったーー!? お、お姉様!? 痛いです!?』
『申し訳ございません。愚妹がバカなことをいたしました。よもや、花畑に連れ出して一日剣の訓練をするなどとは思いませんでした』
そういって、頭を下げてきた。
『え、えーっと、気にしていません。剣を教えてもらうのも楽しかったですし』
『そうよね。楽しかったわよね!! お姉様、だから剣を教えて!!』
『……本当にアージュの言う通りだったのですか。はぁ、私のような無骨者が増えるのはあんまりよろしくないのですが、まあ、いいでしょう』
『やったー!! お姉様が教えてくれるって!!』
『が、こっそりです。表立ってに他国の姫を鍛えているなど風聞が悪いですからね。ですから、最初は少し花畑で遊びましょう』
『えー、お花でどう遊ぶの? お姉様?』
『摘むのは可哀想です』
『ああ、なるほど、2人はお花畑での遊び方を知らないのですね。では、そうですね……』
アージュのお姉さんはそういって、近くにある花を根本の茎からちぎって見せる。
『これぐらいの長さで、そうですね。30本ほど花を集めてください。面白いものを見せてあげましょう』
そういわれて、少女とアージュはお花を集めてくると、お姉さんは器用にそれを編み始めました。
『これを、こうして、こう繰り返すと……』
『うわー!? お姉様、凄い凄い!!』
『花のティアラだ』
そう、花で編んだ冠が出来上がっていました。
少し、お姉さんのアレンジが加わっていて、冠ではなく、ティアラ風になっていました。
『はい。どうぞ。キャリー姫』
そういって、私にお姉さんは花のティアラをつけてくれました。
……思い出した。あの少女は私。
『あー!? スタシアお姉様!! 私も私も!!』
『はぁ。アージュ、少しは大人しくしていなさい』
そして、私の目の仲の良い姉妹はフィンダール帝国のスタシア王女と、アージュ王女。
これは、私の記憶。
ああ、またこの夢か。
最初は、とても心地の良い夢。
兄弟のいなかった私にとって、この帝国訪問で仲良くなったこの2人は実の姉妹と変わらなかった。
アージュは元気よく私を引っ張ってくれたし、スタシアお姉様は私たちに色々なことを教えてくれました。
花のティアラや、押し花、果ては剣の使い方まで、とても、そうとても、私にとって充実した日々でした。
ですが、最後には……。
『うぐっ!?』
『お姉様!?』
『いやぁ!? お姉様!? お顔から血が!!』
『よし、そこの小さい王女2人だ。でかい王女は魔力がないからいらん』
そう、リラ王国の暴走。
突如起こった、誘拐事件。
私は、いきなり起こった悲劇に足が竦んで動けませんでした。
周りの護衛はすべて倒され、今やスタシアお姉様も負傷して膝をついて、残るは私とアージュだけ。
『……お姉様。私が魔術で敵の目をそらします。ですから、キャリーを連れて逃げてください。幸い、昨日、ファイアーウォールを教えてもらいましたし』
『……必ず、助けに行きます』
『え!? え!?』
『キャリー、また遊びましょう』
そうアージュが言い終わると、スタシアお姉様はアージュを置いて、私を抱えて走り出します。
『ちっ、騎士ごっこってわけでもなかったか、お……』
『追わせませんわ。ファイアーウォール!!』
『なにっ!? このガキッ!?』
それが、私が見たアージュの最後でした。
その後、フェンダール帝国とリラ王国の戦争勃発、私は国に戻り、経過だけを聞いていて、最後にある手紙が送られてきた。
『叔父様、帝国からのお手紙ですか!? アージュは無事なのですか!?』
『……キャリー。君には残念な話だ』
『え?』
『……アージュ王女殿下は、残念ながら亡くなられた。スタシア王女殿下から、本当に申し訳ないと君に手紙とこれが届いている』
そういって渡されたのは、あの花畑で作った青い押し花。
『そうね。キャリーの作った青い押し花を私に頂戴。代わりに私が作った赤い押し花を上げるから』
彼女との絆だった青い押し花。
『これで、私とキャリーは姉妹よ』
『おや、私は仲間はずれですか?』
そんな暖かな時は戻らず。
『うわぁぁぁぁぁ……!!』
気が付けば、私は泣き崩れていました。
「……この時にこんな夢を見るとは思いませんでした」
私はゆっくりとベッドから体を起こします。
ここは、カミシロ公爵の屋敷。
あの悲劇から7年余り、すでに記憶は風化したとばかり思っていたのですが、どうやら、違ったようです。
「叔父様やお母さまには申し訳ありませんが、目の前に仇がいて、大人しくするつもりはありません」
あの日以来、帝国との関係が悪くなり、ハイデン国内でも妙に武闘派の馬鹿が動いて、安全の為に、お母さまは後宮に引いて、私はバカのふりをして、身の安全の確保に勤めてきましたが、今回のことで叔父様も内部のクズの始末に動き出せるでしょう。
「まあ、ユキ様たちが現れなかったら、すでに死んでいたでしょうが」
あの時はまずかった。
バイデに出たところを狙うとは思っていなかったし、裏にリラ王国の残党がいるとはおもわなかったから。
でも、今回のカミシロ公爵襲撃のおかげで狙いが分かった。
私やカグラの魔力と、代々伝わる御三家のペンダントが目的だったのだ。
ハイデン王国とフィンダール帝国を煽って、私とカグラがいるバイデで戦端を開かせれば、私たちのことなどどうにでもなる。
攫って、あの時の再現をするつもりなのだ。
だが、それもユキ様たちのおかげで十分に対処できるのが分かった。
これで、ユキ様たちやカグラ、キャサリンが敵でないことが分かった。
「なら、あとは情報を集めないといけませんね。幸い、クズがいますし、ユキ様たちは出払っています。英雄様にこんな醜い仕事を押し付けては初代様たちに申し訳が立ちません」
そんなことを言いながら、私は剣を握って部屋をでます。
あの日以来、叔父様に頼み込んで今の今まで積み重ね、鍛錬してきた。
身を守るためではなく、いつかアージュの仇をこの手で討つために。
ついでにハイデンも守れるのですから、叔父様もお母さまもダメとは言わないでしょう。
「姫様が手を煩わせることは……」
「私がやらねばならないのです」
側付きのメイド、クーノが私にそういうが、今更だ。
彼女も私と一緒にバカを演じて、今日まで生きてきたのだ。
ハイデンに巣食うクズどもを滅するために。
まさか、私の仇討ちもできるとは思いませんでしたが。
「最初の1人は加減をしません。どうせ、あと2人も残っているのです。さっさと始末して、遺体を放り込めば、吐くでしょう」
「……かしこまりました」
地下牢へ続く道をクーノが持つランプだけが照らし出す。
そこを迷いなく私は進んでいき、一つの牢屋にたどり着く。
「誰だ?」
「姫様が面会を希望しています。大人しくしてください」
「はっ、おバカ姫がか? 冗談は……」
そのまま私は格子の隙間から剣を突き入れる。
「あがっ!? ぎゃぁぁぁ、足が!? 足が!?」
「あらあら、大変。もう片方も同じにしましょう」
私はそういつものように、にこにこしながら、もう片足にも剣を突き入れる。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!?」
さあ、まだまだ始まったばかりです。
もっと鳴いて、これからやりやすいようにしてくださいな。
そしてお姫様が動き出す。
今まで猫を被っていた超曲者。
まあ、そうしないとすぐ死にそうだったからね。




