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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
果ての大地 召喚編

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落とし穴89堀:何がそんなに忙しいの?

何がそんなに忙しいの?




Side:カグラ・カミシロ




個人的には、長旅の間のちょっとした会話のつもりでした。

だって、この旅が始まって、私はユキ様と話す機会がほとんどと言っていいほど減っていたのです。


いえ、正直に言いましょう。


出立の時の失態で、機嫌を損ねていないのだろうかというのが、一番の懸念でした。

私個人の失態というわけではありませんが、姫様のわけのわからない旅支度を止めることができませんでした。

キャサリン殿も一緒に謝ってくれましたが、今や彼女はウィードの所属、ハイデンの為に頭を下げるのは基本的に筋違いと言っていいでしょう。

個人的にはハイデン所属で姫様を除けば最高責任者の私が負うべき責任であり、あの姫様がトップとして機能しない現状において、私の責任なのは明々白々。

ハイデンに残る、学徒隊のみんなにちゃんと言い含めおくことに精一杯で、姫様の準備をメイドに一任した私の失態でした。

そのせいで、出立予定の早朝というのが、ただの朝になり、ユキ様の考えた予定を大幅に狂わせてしまいました。


それが原因なのか、旅路の間は主に、出発当日紹介されたアマンダ、エオイドという新しい護衛の方々が私の対応をすることになりました。

前日に紹介された勇者タイキ様もユキ様と同じように憤っておられるのか、私に話しかけてこようとはしません。

2人ともたまーに、ハイデンのことや、カミシロ公爵領のことを聞くだけになっています。

さりげなく、新しい2人の護衛のことで話を振ってみても、あまり反応は芳しくありません。

建前上は私たちに追手が掛かっていないか、という心配をしている風に装っているみたいですが、ウィードの実力を持ってすれば、追手などとるに足らない相手ということは私でも理解できます。


つまり私は今、頼らなければいけない、いえ、絶対に手を離してはいけないウィードの方々と疎遠になりつつあります。

それはハイデンの終わりを意味します。

しかし、それは何としても避けなくてはいけません。

なんのために私がこうやってカミシロ公爵家へと向かっているのかわからなくなります。

これもハイデンを家族を救うため、だから何としても、ユキ様やタイキ様の機嫌を取らなくてはいけませんでした。


途中で出されたお菓子で、どちらが美味しいか? という無様な争いの姿も見られてしまいましたし、本当に後がない気がして、意を決して、ユキ様やタイキ様に話しかけてみようと思ったのです。



で、これが現状。


「あ、あのっ……」


意を決した割には、ひどくか細い声だった……。

そんな声に、2人が気が付くわけもなく、何かを話している。


「……だろ? だから……」

「……ですね。……して、……どうです?」


というか、そもそもなぜこの2人はこの旅路において、何を話しているのだろうか?

何かあればバイデやウィードの方からすぐ連絡が届くような魔術があるから……。

そこで私はピンときた。

あ、もしかして何か問題があったのだろうか?


「あのー!!」

「ん?」

「お?」


ここまで声を出したおかげか、ようやく私のことに気が付く2人。

私も、バイデやウィードに何かあれば、それはハイデンのことが遅れることと同義なので、畏縮している暇はなかった。

最悪、私だけでも、お父様と話をつけなければいけないから。


「何かバイデやウィードで問題でもあったのでしょうか!!」

「いや、特になにも? ランクスは何かあったのか?」

「いえ。こっちもとくには。ルースなにかあったっけ?」

「山ほど取り組んでほしいことはありますが、急を要するものは特に何も」

「へ? で、でも、先ほどからずっとお2人とも話し合いを、何か問題があったのでは?」

「あー、というか、敬語でなくてもいいぞ。そこらへんは直しておけって言っただろう」

「は、はい。じゃなくて、わかってるわよ。で、どうしたの?」


そんな簡単に自分よりも身分の上の人相手に気軽に話せるわけないじゃない。

最近はなんとか慣れてきてたけど、今はユキたちのご機嫌伺いもあるんだし、仕方ないでしょう。

下手すれば、見捨てられるかもしれないのに。

と、私がこんな気持ちでいるのを知ってか知らずか、いつもの通りに答える。


「仕事の話し合い」

「そうそう。お仕事ですよ」

「じゃあ、残るはハイデンのことぐらいでしょう? なんで私を話に入れないのよ」


そう、ハイデンのことで私が無視されているなら、もう絶望的だ。

役に立つと思われていない。

交渉することを諦めたということ、それはハイデンの終わり。

なんとしてもそれは阻止しないと。


「違う違う。ハイデンやカミシロ公爵のことは行ってみないと分からないからな」

「俺たちが話していたのは、今後の都市計画のことですよ」

「はい?」


どういうこと?

さっぱり理解できない。


「これから、まだまだウィードは発展が見込めるからな。今後の都市計画を話していたんだよ。タイキ君のランクスはゲートがつながっている他国のモデルケースだしな。日本人同士だから、ある程度の話し合いもできるんだよ」

「そういうこと。他の国だと、理解が得られないですからね」

「まあ、理解を求めようって言うのがなかなか厳しいんだけどな。そもそも、国が人口を増やそうって言うのがあまり考えられていないからな」

「人が増えたから、拡張をするっていうのがこっちでの定番ですし、作物とか魔物とか盗賊とかいろいろ理由はあるんでしょうけど」

「面倒だよなー。そういう基礎的なところからだし」

「……」


何を言っているのかさっぱりわからない。


「予想通りついてこれないって感じだな。まあ、ついでだ、公爵領ってこれといった開発とかはしてないのか?」

「開発? どういうこと?」

「えーっと、人が集まれば、それだけ税収が増えますから、それを狙った、目的とした、領内の開発ですね。例えば、特産物を増やすための畑を拡張するとか、他から人が集まってくるように、税を数年免除とか、商人が訪れやすいように、道の整備とか」

「え? そういうのは新興の貴族がするものじゃないの? もうカミシロ公爵はしっかりと地盤は固めているし、必要なの? あからさまにそうやって人を集めるのは、あまり褒められたことじゃないと思うけど。他から人を引っ張ってきたら、その領主から恨みも買うし」

「まあ、そういう側面もなくはないが、結局、その努力をしているか否かってことだしな。領地だって、発展を願って王様から下賜されているもんだろう? それを周りに気を使って開発しない、というのは違うだろう? 人が離れないような領地の開発を怠ったということだからな」


む。

確かに、ユキの言う事には一理ある。


「そんな感じで、俺やタイキ君の領地にこれから人がたくさん訪れるだろうし、そこら辺の拡張計画を練っているんだよ。思いつきでいい加減にやると、スラムになりかねないからな」

「スラム?」

「えーっと、貧民街のことですね。ちゃんと需要と供給のバランスをとらないと、貧困層が拡大して問題になるんですよ。完全になくすなんてのはできないですけどね」

「ああ、お父様も貧困層のことは頭を悩ませているわ。結構数がいるのよね」

「そういうのを無駄なく使うための開発でもあるんだよ。食べさせるための公共事業ってことだな。特にウィードは発展盛りだからなー。そういう貧困で他の国や町、村から職を探してくる人が多いんだよ」

「あー、よくわかったわ」


あのウィードで過ごせるなら、地元からでて一旗あげたいって人は多いでしょうね。

そうなると、元手のない、貧困層も集まってくるし、それを放っておくと治安の低下にもつながるのね。

だから、開発か。


「お金とか、仕事は足りるの?」

「そういう問題もあるんだよ。お金の方は、まあ、特に問題はないけど、仕事がなー」

「ウィードはまだいいですよ。ランクスなんて、お金も厳しいですからね」

「そこらへんはランクスの方からウィードに送ってもらって、道路の敷設に使えばいいじゃないか。どうせ今後は車の運用も考えているんだし。ランクスまで伸ばして、それをモデルケースってことで、ランクス国内の道路敷設費用の支払いは分割払いでいいし」

「人が集まればいいですけどねー。下手したら借金だらけですよ」

「ランクスの方でもなにか産業があればな。石鹸のブランド化とかどうだ?」

「いや、ウィードで回している石鹸の方が数段いいでしょうに」

「あんまり、日本のメーカー産のはな、今後は出していきたくないんだよ。こっちの国産品死滅するだろう? 元々の技術格差のおかげで」

「そりゃそうですよ。つまり、切り替えを順次行うってことですか?」

「だな。石鹸に限らず印刷業とか……印刷機の問題でまだ無理か。でも、版画から活版印刷ってやっていかないとインクジェットには遠いだろうからな」

「果てしなく遠いですね。それ」

「まあ、シャンプーとかもそうだが、食べ物もだな。作物とかもウィード産のを増やしているし、こっちの商売人はただの転売屋にしかなれんのは悲しいだろう」

「だから、そこら辺を各国にってことですか」

「作物や食品関係はもうやってもらってるけどな。石鹸とかシャンプーはまだだし、元々からタイキ君の所は作っていたから強いだろう?」

「強いって、先にやっていたぐらいですけどね。まあ、それぐらいしか今は財源の当てがないですか。CMとかできません? ウィードはラジオやっているでしょう?」

「それならいっそ、同盟各国にラジオシステム作って流すか? 協賛金とか色々もらえそうだし、CM料とかも含めて、今後の各同盟国の支援金になるっていえば、そこまで苦い顔しないだろう。あの花火での放送以来、あの拡声システム教えてくれーって各国からきてるからな」

「そりゃ、欲しいでしょうよ。コールでもなければ」


……全然話についていけないわ。

何を言っているかほとんどわからない。

たぶん特産品を作って人を誘致しようってことだと思うんだけど。

らじお? きょうさんきん? しーえむ? わからない単語が多すぎる。

で、でも、このまま会話に入らないのはまずい気がする。

私の目的は親交を深めて、ハイデンの未来をより確実なものにすることなんだから。


「あ、あの、よく分からないんですが……。やっぱり、特産品でわかりやすいのはワインとかではないでしょうか?」

「まあ定番だよな」

「時間がかかるのが難点ですよねー。そういえば、カミシロ公爵家と繋がりを強固にするために、何が好きとか嫌いとか知っておいた方がよくないですか?」

「ああ、そういわれるとそうだな。バイデはすでにこっちの実質支配下だし、良くも悪くもウィードの影響を受けているからな。この土地の人たちに何が人気か調べるためには、カミシロ公爵領で色々試してもらうのはありかもな」


よ、よし!!

なにか話に食いついてきた。

これを、利用して関心をひかないと。


「え、えーと、なら、領内にお店でも構えてみて、販売をしてみてはどうでしょ……どう? お父様に話せばそれぐらいはなんとかなると思う」

「おお、それいいな」

「っていうか、今までやってこなかったんですか?」

「ロガリ大陸の方はウィードだけって決めてるしな。拠点で長く住むから、シェアを奪うと憎しみしか増えんし、競合を潰すと面倒しか増えん。イフ大陸の方はもともと商売しに行ったわけじゃない。今回は友好関係を結ぶとこんな特典がありますよって見せるにはちょうどいいだろうな」

「イフ大陸では無双してましたしねー」

「傭兵って肩書だったからな。こっちはすでにウィードってばれてるし、こっちの商品持ち込みとかで攻めるしかないだろう。戦力ばれてるし、警戒は必至、なら物で釣るしかないだろうなー」

「ですよねー」


ぬぐぐぐ……。

なんで、話についていけないようなことばかり話すのよ。

ロガリ大陸ってウィードがある大陸のことよね?

でもイフ大陸ってなに?

まさか、他にも大陸があるの!?

ひぃぃぃ、怖くて聞けないわよ!?






こうやって、地方自治体、及び国は毎日が非常に忙しいわけです。

資金繰りや、周りと交渉、そのための手札、開発計画の立案と。


国を地方を良くしてやろうという志がある人ならいいですが、それは昇進するとかそういう立ち回りも必要なわけです。

清濁併せのむといいますが、そんなのはユキやタイキ君には基本的に不要なものですし、日本にいれば凡人として過ごしていたでしょう。

だからこそ、とくにユキはあのスペックを誇っていて、野心無し、最終防衛ラインの親友どもは規格外。

ルナにとって、これ以上の人材はないわけですよ。


とりあえず、カグラは頑張ってこうやって日々生きるのでした。



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