第523堀:いつかこの手紙を読む君たちへ
いつかこの手紙を読む君たちへ
Side:ユキ
さて、予定とはちょっと違うが、ハイデンに向かうことと、カミシロ公爵と協力することには変わりないので、俺は当初の予定通り、お仕事を開始している。
「はぁ、便利な地下ですか?」
「そうです。便利なダンジョンの敷設をしたいので、どこか場所を提供してもらえればと思いまして」
そう、それはダンジョンの展開である。
こっちでは簡単にダンジョンが展開できないが、要所には機能を限定して展開する許可を得ている。
ゲート一つで5000万DPという超ぼったくりなのだが……。
まあ、そこは現在バイデで捕虜というか餌になっている皆さんから捻出するということで、ウィードの貯蓄DPに手出しはしていない。
「ふーむ。話は分かりましたが、どこがいいですかな」
『ならば、我が社の所でどうだ? あそこは元より隠し場所みたいなところだからな』
「よろしいのですか?」
『構わぬ。人の訪れぬ拝殿なぞ悲しいからな。いい機会ではないか』
「水之辰命様がそうおっしゃるのであれば、特に問題はありませんな。しかし、私もこれから王都へ向かう準備がありまして、立ち合いができません」
『それは私が立ち会うからいいだろう』
「いえ、まさか水之辰命様にそのような雑事を行わせるわけにはいきません。ということで、カグラ」
「はい」
「ユキ様たちのだんじょん?の敷設に立ち合いをしなさい。ないとは思うが、万が一、社などに被害を及ぼすようなことがあれば、止めるように」
「わかりました」
そんな感じで会話に参加してきたカグラであるが、今ではすっかり巫女さんである。
文字通りの巫女さん。
さっきカミシロ公爵、キャサリンと話している間に着替えてきたらしく、もうぱっと見、日本人と区別はつかない。
和風美少女である。
「あと、お父様。例の書物を」
そういって、カグラは三方に載せた書物を持ってカミシロ公爵の前に跪く。
「おお、すっかり忘れていたよ」
『そんなものがあったな』
カミシロ公爵はそれを丁寧に受け取って、テーブルに置く。
で、それを見た俺とタイキ君は目が点になる。
いや、嫁さんたちもわかる人がいた。
「え、これって漫画だよね?」
「少年ジャ○プじゃな」
そう、リーアとデリーユの言う通り、日本の超有名な漫画週刊誌の一つ、週刊少年○ャソプ。
数々の名作を世に送り出してきた、漫画を知らないモノでもしっている、有名雑誌。
「なにか、すごく古いですよね。主に年代が」
「昭和50年代だな。というか後半か、こ○亀、Drス○ンプ、北斗が掲載されてるし」
「おおっ、やはりわかるのですね」
『ソウタの言うことは正しかったか、この漫画を見せれば日本人かどうかわかると言っておったが、私は正直、こういうのが若者の流行りとは思わなくてな。どうせ、ソウタの個人的趣味かとな』
見せたい書物っていってたけど、これかよ!?
いや、ある意味、これ以上にわかりやすいものはないけどさ。
「でも、よく500年以上も経って無事ですね。普通ボロボロじゃないですか?」
『うむ。そうならないようにちゃんと保管をしてきたし、神力である程度強度を上げているからな』
「やっすい神力の使い方だなおい」
『いうな。そもそも、ソウタが自分の子供たちに日本人だということを教えるための書物でもあったからな。そういう意味で、私は協力したのだ。そもそも、ソウタの奴は私の社の前でこの漫画を読んでいた時に呼び出されたからな。ある種の天罰だな』
ええー。
日本の神社こえーよ。
漫画雑誌読んでるだけで異世界にとばされるのかよ。
「ははは、そういわないでください。私たち、カミシロ公爵家にとっては、我が血筋が異世界は日本の出ということを教えてくれるありがたい本なのです。そして、物語も多種多様で面白い。そして、こちらが初代であるソウタ様から、いつか日本人が来た時に渡してくれと伝えられた手紙です」
そして、すっと手紙を渡される。
それは封を開けた様子はない。
まあ、手紙と言っても、縦に細長い茶封筒の日本ではよくあるやつだ。
そこに「ここを訪れた同郷の人たちへ 神代 宗太より」と書いてあった。
「私たちが開けてしまっていいのですか?」
「ええ。それが初代様の望みですから」
カミシロ公爵の言葉に押されるように、俺はそっと封筒を開けて、手紙を取り出す。
丁寧に3つ折りにされていて、中には4枚の手紙が入っている。
その手紙をゆっくりと広げ、音読していく。
『拝啓 異世界に来られた同郷の人たちへ。 初めまして、神代宗太と申します。この手紙を見つけられたあなた方がどういった状況でこの手紙を受け取ったかは、私には想像ができません。私たちの子孫なのか、それともすでにそれもなくなったあとなのか。おそらくは、私が直接話せる状況ではないということでしょう。…………』
そんな感じで始まり、どのようにこの世界を生きて、楽しんで苦労したかを簡単に書いてあり、自分はこの地で骨を埋めることを決意し、いつか同郷の人たちが来た時の為にこの手紙を残したようだ。
『……カミシロ公爵家が健在なら、できうる限りこの手紙を読んだ君たちの支援をするようにいってあるが、迷惑なようならたたき出すように言っているので、そこはちゃんとわきまえてほしい。最後に、可能性はものすごく低いとは思う。だが、どうしても聞き届けてほしいことがある。もし帰る方法を探すのであれば、この手紙の中にある私の髪を君たちの旅に連れて行ってほしい。途中で邪魔になれば捨てて行ってもらって構わない。ただの我儘だ。家族がどうなったとか、未だこの年でも考えることがある。忘れられない思い出なんだ。あのクソ神社の桜が咲いて、みんなで花見をしたことを。 PS そういえば、漫画の続きどうなってる? 打ち切りとかなってないよな? 特に、北斗とか気になる。墓前で教えて』
最後に冗談なのかマジなのかわからない後書きがあったが、俺やタイキ君は何も言わずに立ち上がる。
「桜は見せてやれるな」
「ええ」
「漫画の続きは本人に読んでもらうか」
「ですね」
日本への帰還は難しいが、今叶えてやれることはある。
特に無理というわけでもない。
幸い、それに適した能力があるから。
『それは、本当なのか? 桜を見せてやれるのか?』
「本当に、初代様が言ったサクラを用意できるのですか……」
「サクラって、初代様が言っていた、あの綺麗なピンクの?」
水龍、カミシロ公爵、カグラも俺たちの発言に驚いて立ち上がる。
「できる。ということで、さっさとダンジョンを設置してしまおう。水龍、カグラ、案内頼めるか?」
『任せておけ』
「ええ。こっちよ」
「いや、私も立ち会う。これは初代様の悲願が叶うことだ。当主の私が外すわけにはいかない!!」
結局カミシロ公爵も一緒についてきて、ダンジョンの設置に付き合うことになる。
『サクラって、あの桜? なんでまた? 無駄な出費はやめてほしいのだけれど』
『ええ、ユキさん。わかっていると思いますが、そちらでDPを使うと5000倍もの倍率になりますので……』
とりあえず、セラリアとエリスに桜設置だけ言うとものすごく反対された。
まあ、無駄遣いだからな。
「あー、すまん。言葉が足りなかった。同郷の人がカミシロ公爵家で眠ってる。手紙で桜を囲って花見したってことが書かれていてな」
『……それを早く言いなさい。私が意地悪みたいじゃない』
「すまんすまん。こっちも気が逸った」
『それなら、日本酒とかも用意しますから、ゲートがつながったら送りますね』
「ありがとう」
『で、その人は、恨み言とかはなかったのかしら』
「こっちでの日々は、楽しくもあり苦しくもありだったとよ。総評としては悪くなかったって」
『……そう。せめてもの救いね。まったく、なんでこの世界はこうもボンクラばっかりなのよ。はぁ、後日私も墓前に伺うけど、今日はユキやタイキが持て成して。タイゾウも送るわ』
そういうことで、急ピッチで、地下の神社のダンジョン化が進むことになった。
「なあ。桜の位置はどこら辺がいい?」
『ふむ。この図だと、ここと、ここと、ここだな』
「その様子だと、この神社って宗太さんの実家の神社にそっくり?」
『そうだ。そして、無駄に広いのはそこに桜を植えられたらという奴でな。そしてあそこが宗太のお気に入りの場所だった。木の上で寝るとか罰当たりだったがな』
水龍が顔を向けた場所には、ポツンと何か石碑が立っていた。
「あれが、初代様、いえ、我がカミシロ家が代々眠る墓です」
カミシロ公爵がそういっていると、カグラがその墓に近づいて掃除を始めていた。
「ユキさーん!! お酒持ってきましたよ!!」
「ユキ君!! って、うぉ!? 本当に神社だな!?」
神社の本殿裏からタイキ君やタイゾウさんが色々持ってこちらにやってくる。
ダンジョンの敷設はボタン一つでいいので、あとは搬入作業だけだ。
これは、スティーブたちに任せておいて、俺たちは、花見の準備をしていたが、これで準備は整ったな。
「よーし、みんなこっちに集まってくれ」
みんなが集まったのを確認して……。
「じゃ、行くぞ」
ボタンを押す。
瞬間、周りに花が咲いた。
満開の桜が。
「…………これが、サクラ」
「……綺麗」
『おおっ、おおおお……』
カミシロ公爵家はそのように唖然としていて、さらに風が吹き、桜が宙に舞い、桜吹雪となる。
「「「……」」」
3人は言葉もなく、ただ目の前の景色を見つめる。
その間に、俺たちは大きな桜の咲く、墓石の横にシートを広げて食べ物を広げていく。
「と、とても素晴らしいものですが、私も参加していいのでしょうか?」
キャサリンはとても恐縮している。
まあ、今までなんか蚊帳の外みたいな感じだったからな。
でも、花見であぶれものなんて……。
「キャサリン殿。気にしなくていいですよ」
「え? えーっと、あなたは?」
「ああ、申し遅れました。私はタイキ君の叔父でタイゾウと申します。ユキ君とも仲良くやらせてもらっていますよ。今回は、ユキ君たちがお世話になったようで」
「い、いえ!? そ、そのようなことは!? ユキ様のおかげで、バイデは救われたのですから!!」
「はは、まあ、固い挨拶はいいでしょう。花見というのは、この花を美しいと思う人であればいいのですよ」
「は、はあ」
「まあ、慣れですよ慣れ。さて、ユキ君。あそこのお三方にも席についてもらおうか」
タイゾウさんは苦笑いしながら、棒立ちしている3人というか2人と1匹を見ている。
「おーい!! 花見始めるぞ!!」
「はっ!? 準備を任せてしまって申し訳ない。カグラ、お手伝いを!!」
「は、はいっ」
『……懐かしい光景だ。清酒もあるのか、いや、流石は天照大御神の使いだな』
やめて、あの駄女神がすげー凄そうに聞こえる名前で呼ぶのやめてくれない。
その使いぱしりの俺が名誉職かなんかに聞こえてくるから。
一種の名義詐欺みたいなもんだからなあれ。
俺が、そんな微妙な気持ちでいると、タイゾウさんが清酒の酒瓶を水龍に差し出す。
「水龍殿。彼に酒を飲ませるのは、あなたの役目だろう」
『……感謝する』
水龍は清酒を受け取り、墓の前に浮く。
『まさか、このような形で花見ができるとはな。ソウタ、今日は浴びるほど飲むといい。親父の酒や奉納されている酒をこっそり盗んではちびちび飲むだけだったからな。今日はそんな心配はいらんぞ』
そういって、酒をドバドバと墓にかける。
『美味いか? お前だけで飲み干すなよ。ちゃんと親族にも飲ませてやれ、故郷の酒を』
そして、酒瓶から酒が無くなり、墓の横に空瓶を置く。
『じゃ、私たちも飲むとしようか。今日の良き日の出会いと、桜に……乾杯!!』
「「「かんぱーい!!」」」
どんちゃん騒ぎは夜遅くまで続き、二日酔いで、出立は明後日になった。
まあ、こういう理由ならしかたないよな。
漫画の続きって気になるよね!!
4月も後半ですが、ここで桜のネタを持ってきました。
日本人にとってのある種の願いですよね。
こうやって、宗太もようやく桜を見ることができたのでした。




