第524堀:希望から絶望 そして無情
希望から絶望 そして無情
Side:ユキ
飲み過ぎで一日空けてしまったが、特に問題もなく俺たちはハイデンを目指して再び旅路についていた。
「キャサリン殿、いやバイデ伯爵としては、バイデはすでにウィード領という認識なのですかな?」
「はい。ほぼ見捨てられた状態でしたので、それでなおハイデンに忠誠を誓えというのは無理があるかと」
「うーむ。そちらの不満は理解できるが……難しいな。せめて、ハイデン所属のまま、ウィードとの外交窓口、交易港というのはだめかな? ありのままを報告すれば、傍から見ればただ寝返っただけになる。それは争いの火種になりかねない。それはユキ様たちも望んではいないだろう」
「それは、そちらの言い分です。ハイデンはすでに姫殿下やカグラ殿の召喚によってウィードの王族を拉致誘拐しているのです。その問題に対して、バイデではなく、どのような補償をするのですか? すでに、帝国との和解にも手を貸してくれている状態です」
「……うーーーーん」
そんな感じで、カミシロ公爵とキャサリンは話しながら道中進んでいる。
思ったよりも、というか、カミシロ公爵の方も、ハイデン王都の様子がおかしいことに気が付いていたらしく、今回の事で向かうつもりだったとのことだ。
まあ、今は、バイデとキャサリンをどうにかしてハイデン所属に戻したいらしく、説得しているが、上手くいっていないようだ。
ああ、ならベータンのようにでいいんじゃないか。
「租借地のような形でどうですか?」
「租借地ですか? どういうものでしょうか?」
ああ、租借地っていう単語はこの大陸には存在しないのか。
いや、この世界に存在するかも疑問だな。
確か租借地って概念が生まれたのは地球でも1850年を過ぎてからだっけ?
まあ、地域を丸ごと、一定の条件で他国に貸し渡すっていう発想はないよな。
中世ヨーロッパとかの文明レベルだとそのまま実質支配だろうし、わざわざ借り受けるぐらいなら奪い取った方がいいよなってなる。
実のところ、戦い奪い取るという方法が、現在の地球では倫理的、世間的によろしくないから、借りています。と言っているだけなのだが。
植民地と違って、借りた国の法律が適応されるから、理不尽な命令とかがあるわけではない。植民地は支配している国が、その土地に住む人々にたいして、自分たちの都合のいいように法律などを組んでいるから、それよりはマシと言える。
とまあ、植民地は抜きにして、そういう風に説明をする。
「……なるほど。金銭や物資を支払い、バイデを借りるということですか」
「これで、文句はある程度防げるのではないでしょうか? キャサリン殿がバイデに残って監視するという立場ですし、裏切ったわけでもない。ウィードとしても、バイデという足掛かりは欲しいですし、帝国もウィードやハイデンと積極的に戦争がしたいわけでもないですから、こういう中立的な土地があってもいいでしょう」
「ふーむ。しかし、バイデは交易都市。貸し出すにしても、その額は生半可では……」
「それは勉強してもらうしかありませんね。元々、そちらの不手際ですし、こっちとしては特に奪い取ったままでも構わないのですから。こちらだけに譲歩をさせるというのは不公平でしょう」
「むむむむ……」
まあ、国の重鎮としては、何としてもいい条件に持っていきたいのは当然。
悩むよね。
と言っても、本当にこっちはハイデンと喧嘩をしたいわけでもないし、助け船をだすか。
「譲歩というとあれですが、そちらの魔術学府の生徒を守ったとも取れるのです。カグラも含めてね」
「ああ、なるほど、そっちの方面で説得してみましょう。ウィードの方々のおかげで、学生に被害はなく、貴族としての誇りあるならば、ということですな」
「そういうことです」
バイデがとられた、とみるから問題であって、バイデと未来ある学生を救ったといえば聞こえはいい。
「さらに、帝国との緩衝にもなるでしょう」
「確かに。今回の件で険悪になっているのは間違いない。その間にウィードが入るのはありがたいですな。租借地でお金や物資を取れて、バイデの防衛はウィード任せでいいということか」
と、何が悲しくて、ハイデンの様子を探る道中でこんな交渉事をせにゃならんのだ。
必要なこととはいえ、あーめんどい。
世の中、悪を成敗して終わりではない。ということで、正義の味方が暴れたあとの後始末は誰かがひーこら言っているわけなのよ。
「へー、カグラのお姉さんは、その魔術研究局ってところで研究員やってるんだ」
「僕たちの学府でいう、7階生以降か、先生クラスか」
「そういえば、アマンダもエオイドも別の大陸の魔術学生なのよね。どんな勉強してたの? ああ、デリーユさんとの稽古抜きでね」
と、カグラと修学旅行で連れてきた2人はこんな感じで道中、どう見ても仲の良い友達という感じでやっている。
まあ、仲が悪いよりましではあるが、なんかやっぱり予定とは違っている。
俺がそんな感じで、カグラたちを眺めているのに気が付いたカミシロ公爵は思い出したように口を開く。
「しかし、カグラや姫様が召喚を成功させるとは、思いもよりませんでした。不幸中の幸いなのでしょうな」
「そういえば、今まで英雄の召喚をやったことは?」
「今まで一度もありませんな。そもそも、あのペンダントは基本的に魔力を蓄積するいざという時の予備と考えられていまして、言い伝えを信じている者はいませんでした」
「しかし、カミシロ公爵は水神から聞いていたのでは?」
「いえ、水之辰命様は呼び出された側で、呼び出した召喚という術を把握しているわけではなかったのです」
「ああ、なるほど。召喚は初代の王族と精霊の巫女がやったことですから、カミシロ公爵は召喚をしらないということですか」
「その通りです。ただ、水之辰命様からは誘拐と違いないと聞きまして、安易に使うようなことはないように言っておりました。まあ、その前に魔力を取り出して自分で撃つ方がまだマシだろうと思いましたが」
「そりゃそうでしょうね」
おとぎ話の召喚をするより、自前の弾薬増やした方がマシなのは当然の判断だ。
今回の場合は自前の弾薬増やしてもほぼ無意味なレベルだったけどな。
「まあ、そういう意味でも、バイデがウィードの領地になりましたといっても、荒れるでしょうね」
信じてもいなかった召喚が成功してバイデが救われましたって言うのは、頭がおかしい発言だもんな。
「そういえば、最後の一人って言うのは変か、そのハイデンの精霊の巫女様は今どこに?」
「精霊の巫女様はハイデンの王都で過ごしておられますね。王族のように治政などをするのではなく、ハイレ神殿で司教を務めています」
「今回のハイデンの件が終われば一度会ってみるべきか」
「そうですな。それがいいでしょう。初代様たちの再現なのですから」
再現ねー。
それを契機に妙なイベントが起こらないことを祈るよ。
「ん? 皆、止まれい!! 空に人じゃ!!」
デリーユがそう叫んで全員の意識が空に向かう。
確かに、3人ほど浮いている。
いや、飛んでいるって言うのが正しいか。
それはまっすぐこちらに向かってくる。
「あれは……、サーベル魔術隊か」
「サーベル魔術隊?」
「ハイデンが抱える、魔術隊の一部隊だ。近接戦での魔術運用が凄まじい特殊部隊です。そして、その隊長は……」
カミシロ公爵がそう言い切る前に、カグラが叫ぶ。
「クレイ様!!」
「ああ、こんなところにいたんだね。僕のカグラ!!」
ブッ!!
やべ、噴き出した。
なに? まさか、お約束のあれか?
「そう、クレイ・イゴット。カグラの婚約者でもあります」
きたー!!
イケメン、婚約者!!
おひげはあるけど、この時代でおひげをそりそりしているのはごく少数。
あれが普通。
つまり、俺とタイキ君大勝利!!
エオイドも今まで文句言ってごめんよ。
これからは、お祝いということで、のんびり道中を楽しもうじゃないか!!
「姫様もよくご無事で!! 何という幸運だ!!」
クレイというイケメン髭はそう言いながら、後ろの部下と一緒にこちらに歩いてくる。
……剣を引き抜きながら。
「……これは、どういうことだい、クレイ君?」
「ク、レイ、様?」
「カミシロ公爵様申し訳ありません。これからくる魔術の世の為に、死んでいただきたい。カグラと姫様はいい研究材料になりそうなので、ありがたく使わせていただきます」
きたーーー!!
イケメン謀反!!
くっそ、俺の野望達成は遥か彼方らしい、呪われてんのか!?
タイキ君も横で、絶望的な顔をしている。
一発逆転、どんでん返しとか勘弁して。
あとワンアウトでゲームセットの所を、4者連続ホームランで逆転とかいうレベルですよ。
ピッチャー絶望。
そんな感じで、俺たちの頭が愉快な間に、事態はどんどん進んでいく。
「これは、陛下の意志なの?」
「おや、バイデ伯爵ですか。女の身で勘違いをしている売女に答える必要はないな」
「なっ!?」
「まったく。陛下もメスに爵位を与えるなどと、馬鹿なことをするから支持をどんどん失う。まあ、陛下も、前陛下と同じく、初代とかいう幻想にしがみつく愚物だからしかたないか、あんなおとぎ話より、もっと現実的で素晴らしい物を見せてあげよう」
そういうと、クレイさんは、懐から宝石を……っておい!?
「ちょ、ユキさんあれ、コアじゃないですか?」
「ああ、コアのように見えるな」
そう、クレイさんが持っているのはダンジョンコアらしきもの、しかし、ダンジョンという存在はただの洞窟になり果てている。
ということは偽物?
いやー、この場面で偽物取り出す理由はないよなー。
「見るがいい。召喚は貴様らだけのものではない!! そして知るがいい!! これが本物の召喚だ!!」
そしてクレイさんはコアに魔力を通すと、コアが限定起動したのか、召喚陣が足元に多数でてきて、そこからリザードマンがはい出てくる。
いや、なんでリザードマンやねん。
ここは悪魔じゃね? ほら、○ニデーモンとかグレー○ーデーモン。
ああ、そういえば、魔力頼りのモンスターは消滅したっけ?
なんつーか、迫力に欠けるよな。
と、思ったのは俺たちだけであったらしく、カグラやキャサリンはもちろん、カミシロ公爵まで顔をこわばらせている。
まあ、見たこともない魔物だし仕方ないか。
「しょ、召喚だと!? こ、こんなにたくさん、馬鹿な!?」
「そうだ!! お前たち御三家とは比べ物にならない力を私たちは手に入れた!! これからハイデンは、伝説を超えた魔術師たちの国となる!! その手始めに、御三家を討てばあの方もお喜びになるだろう!!」
「あの方?」
「そう、偉大なる魔術をよみがえらせ、比類なき力を持つあの方が動いたのだ!! 長い雌伏の時は終わり、今より新たなる伝説が始まる!! 叡智の集!! 賢者様がな!!」
「叡智の集だと、あれはカビの生えた、魔術道具研究部門だったはず……」
「はははっ!! だから愚かだというのだ!!」
……あ、うん。
説明ありがとう。
でもさ、そろそろ面倒になってきたわ。
なので、周りの皆に目配せをして合図をおくる。
「おい、そこの貴様。最後の時ぐらい大人しく話を聞けんのか? 短い寿命がさらに縮まるだけだぞ」
「えーと、そういう痛い話は、話が通じる相手だけにしてくれませんか?」
「ははっ!! あまりのすごさについて来れないようだな。……ならば死ぬがよい」
そういって、リザードマンがものすごい勢いで走ってくる。
普通の人間の脚力では出せない速度だろう。
「ユキ様!? くそ、ライトニング!!」
カミシロ公爵は魔術を放ってリザード……リザちゃんを止めようとするがそれは効かない。
猛然とただ走ってくる。
「ははっ!! そんな魔術が通用するか!! そして力も人が叶うものでは……」
ズドンッ!!
そんな音と共に、クレイさんの言葉は止まり、地面にはめり込んだリザちゃんが存在している。
いや、つぶれてる?
「うーん。あんまり鍛えてないんだね。このリザードマンは」
「そのようじゃな。妾の軽い一撃であれじゃからな」
「いやいや、ウィードの魔物と比べる方が間違っているでしょう」
「そうですよ。スティーブさんたちはあんなに動物的じゃありません」
「ねえ、エオイド。あれ全然強く見えないんだけど、なんであの人たち威張ってるの?」
「しっ!! だめだって、アマンダ。あの人たちにとっては強いんだから」
なんて会話を、リザちゃんに近寄ってするウィードメンバー。
デリーユの軽い一撃であれじゃ怖がりようがないもんな。
だが、どんなに大したことはなくても、お仕事はしないといけない。
「はいはい。おしゃべりはそこまでな。そこのおバカさんたちを捕縛するぞ」
「「「はーい」」」
「なっ……!?」
お約束のお約束のさらにお約束が重なると、どこで釘さしていいか悩むわー。
もっとひねれよ!! 頑張れよ!! 婚約者エリート!!
ユキ&タイキ心の一句
あと、感想にありましたが、みんなも疑問に思う事なので、こちらで書いておきます。
一つ、神様の数え方ですが「柱」が一般的ではないですが、正式な数え方です。まあこれは人が神様を数えるときですが。しかも日本の仏教限定。神道は「座」ということで人それぞれってことですね。
水之辰命を一匹と言っているのは龍の姿であるから、ユキ個人の数え方というより、爬虫類そのまんまの数え方だと思ってください。
本人たちは気にしてないので問題なし。
水龍という呼び方も見た感じそのまんま、だって水之辰命って長いじゃん。




