第517堀:旅路と変わらぬ漢
旅路と変わらぬ漢
Side:ユキ
予想外に出発が遅れて、明朝どころか、日本の出勤ラッシュに近い出発となってしまった。
まさか、ドレスで来るとはな。しかも馬車に荷物わんさか積んで。
お姫様の出発準備はこっちでやるべきだったか。
キャサリンもカグラも自分たちのことで一杯一杯、お姫様の準備をメイドに任せてしまったのが原因。
まあ、結局は、お姫様が着替えや持っていく荷物に文句を言って駄々をこねたのが、時間がかかった原因だから、2人の責任というわけでもない。
着替えと荷物選別で2時間もかかるか。
お忍びって意味が分かってないんだろうなー、アレ。
そもそも、同じ言葉を話しているのに、話が通じていないっていう状況だからな。
高望みをするだけ無駄だというのが、ようやくわかった。
なので……。
「あの、ユキさ、ユキ。姫様を寝かせちゃってよかったの?」
横にいるカグラが心配そうに簀巻きにされて他の荷物と一緒になっているお姫様を見ていう。
というか、やっぱり昔から英才教育受けているから、砕けた話し方するのは無理か。
そりゃそうだよな。すぐに習慣ってのは変えられないよな。
俺たちは下々の者ってわけじゃないし、今後のことを考えるとご機嫌取りはしたいし、いくら演技の為とは言え、なかなか踏ん切りがつかないよな。
貴族には貴族の砕けた話し方があり、庶民には庶民の、そしてウィードにはウィードの、日本には日本の。
他国文化に合わせるというのはそれだけ大変なのだ。
と、そこはいい。
お姫様簀巻きの件だったな。
「いいんだよ。朝の遅れを取り戻すためだ。というか、もう道中ずっと寝ててもらった方が、こっちとしては都合がいい。あれが起きていると面倒でしかない」
「……も、申し訳ありません。私の不手際です。どうか、ご、ご容赦を……」
俺の説明を聞いて、文句と勘違いしたキャサリンが顔を青くして謝ってくる。
「別に誰も悪くないよ。ああ、あのお姫様をああいう風に育てた、ハイデンの王様にはあとで迷惑料も追加でもらっておくとしよう」
なんだかんだ言って、あのお姫様の存在は俺たちにとっては最大の障害であり、それを用意したハイデンの王様は策士と言わざるを得ないだろう。
なにせ排除もできない、敵でもない、役にも立たない、頭がお花畑なだけ。
恐ろしい手段を講じてきたものだ。
「……迷惑料って。まあ、いいわ。で、ユキが応援で呼んだっていうあの2人は役にたつの?」
カグラは姫様のことはもう納得したのか、アマンダとエオイドを見て言う。
「ちょ、ちょっと、エオイド変なところ触らないでよ!?」
「ま、まって、僕、馬に乗ったことないって知ってるだろ!?」
「きゃ!? ……この、スケベ!!」
「ぐあっ!?」
アマンダに殴られてエオイドが落馬というか宙を舞う。
……役に立つか。
「……役に立つ。それは確実だ」
「……間があったわね」
「流石に、足手まといではないですよ。ほら、あれ」
タイキ君が話に加わって、落馬したエオイドを指さす。
そこには、無事に着地をして、走りながら馬に追いついているエオイドの姿がある。
ちゃんと鍛えてはいるようだ。
身体能力強化とかもできるようになっている。
「もう何度も見てるから身体能力が高いのはわかるわよ。でも、騒動を起こされるのはいやよ。これからお父様と話さないといけないのに……」
「まあ、そこは心配いらぬて。妾があやつらの面倒は見るからのう。あれも、一種のじゃれあいじゃよ。ついでに訓練になる」
そう言ってくるのはデリーユ。
アマンダの師匠をやっていて、本人もノリノリなので任せている。
デリーユはウィードに残された側でカグラやキャサリンと顔を合わせたのは最近だが、俺の嫁さんであることや、その実力も見せているので、文句を言うことはない。
「まあ、あの2人は特に問題はない。で、目的のカミシロ公爵領はどのくらいで到着するんだ?」
「えーと、地図でわかっていると思うけど、この道をまっすぐ進んで、今の速度だと3日ぐらいかな」
「そのぐらいですね」
「やっぱりそれぐらいかかるか。車でいくべきだったかなー」
「やめてよ。あんな鉄の馬車なんかに乗って移動すれば騒ぎになるわ。ハイデンの王都連中は今ピリピリしてるし、兵が動くかもしれないわよ」
そう。なぜ車に乗っていないのかというと、こっそりカミシロ公爵と話し合いをしているのがばれないためだ。
カミシロ公爵の説得がどれだけかかるかわからない以上、変に警戒される要素は減らすべきだろう。
はぁ、DPで地上げして移動できれば楽だったんだがな。
そうも簡単にいかないのが世の中ということか。
「まあ、他の目的もあるんだし、馬でのんびりでいいじゃないですか」
「まあなー。でも、馬での移動が思ったより疲れるからめんどい」
こう、パカパカと振動がくると最初はいいけど、時間がたつにつれ疲れに変わる。
俺、現代っ子なので。
「他の目的? なにそれ?」
「何かありましたか?」
「あー、敵がどこまでこっちの動きを把握してるのか確かめることだな。いや、そもそも敵の狙いを絞るためか」
「どういうこと?」
「車で移動すると、敵は追い付けないだろう? でも、馬なら敵が追い付ける」
「え? 敵が追いかけてきているの!?」
カグラは慌てた様子で後ろを振り返る。
「いやいや、そういう意味の追いかけるじゃない。ほら、タイキ君から国ぐるみって話を聞いただろう?」
「ええ」
「その話が本当の場合、生きているキャサリン殿とカグラ、お姫様は邪魔なんだよ」
「……つまり暗殺者が差し向けられているということでしょうか?」
「そんな……」
「さあ、本当の所はよくわからん。でも、今回のバイデ援軍は失敗しているから、どちらにしろなんか手を打つだろう。援軍の方は昨日お帰り願ったし、早馬はすでにでているだろうから、この結果を知ったハイデンがどう動くか見ておけば色々わかりやすい。バイデに何か起こるのか、道中の俺たちに何か起こるのか、それとも何も起こらないのか。個人的にはなにか仕掛けてきてくれた方がわかりやすいんだけどな」
といっても、カミシロ公爵への接触を図っているのは、敵は知らないだろうし、こっちに暗殺者が来る前にバイデで始末されるだろうけどな。
こっちに来るなら敵の情報伝達速度が異常に高いとわかるし、バイデに敵が入り込んでいるってことだしな。
どちらにしろ、敵が動けば、戦いの目的はキャサリンたちだったということになる。
動かなければ、よくわからん。
「まあ、そういうことで、のんびり馬で移動するしかないんですどね」
「のんびりって、警戒しないと……」
「常時警戒なんてしてられないというか、こんな平原で追いかけてくるのがいれば簡単にわかる。警戒が必要なのは夜ぐらいだろうさ」
「……夜」
カグラは深刻そうにつぶやく。
「そこまで心配しないでも、夜の護衛はこっちでやるから心配するな」
「……大丈夫なの?」
「いや、正直全員寝ててもいいと思うぞ。その指輪があるし」
「……そういえば、この指輪があったわね」
カグラは思い出したように自分の指に付けているチート指輪をみる。
まあ、実は口をそっと塞ぐとか、水の中に放り込まれるとかすれば死ぬんだけどな。
あと埋められるとか。
流石に暗殺にきた連中がそんな面倒なことをするとは思えないけどな。
というより、カグラはこの道中、暗殺よりも気をつけなければいけないことがあるんだよな。
本人はまだ自分がその被害にあっていないから自覚がないのだろうが。
実は、俺やタイキ君のいう別の目的はこっちが本命だ。
その本命がしっかり動くために、時間が必要で、馬という面倒な移動手段をとったのだ。
車で行けば目立つとかいってたが、アイテムボックスにしまえばいいだけだし、そこまで面倒ではない。
いや、本当に敵の狙いを探るということも嘘ではないのだ。
だが、俺やタイキ君にとっては、こっちが大事なのである。
今は馬の移動で接触は極めて少ないが、夜になれば否応なしに接触が増える。
くっくっく……。
夜が楽しみだぜ。
そんな感じで、特に昼間は問題なく移動に時間を費やし、夜には予定通り野宿となる。
「いまは、ここらへんか?」
「でしょうね。思ったより馬って進まないんですよね」
「そりゃー。機械みたいに休みなしってわけにはいかないからな」
「それでも、朝の遅れも考えると上々でしょう」
「まあな」
タイキ君と一緒に地図を見ながら話をする。
予定よりは早いが、朝遅れた分がなければもっと進めた。
やっぱりあのお姫様は文字通りお荷物だな。
そんなことを考えていると、デリーユとリーアが入ってくる。
「おーい、ユキ。あの姫は飯を食わせて寝かせたぞ」
「本当にあのお姫様お気楽ですねー。デリーユとかセラリアとは全然違うからびっくり」
「あれと一緒にするでない。セラリアも同じことを言うぞきっと」
そりゃ、あのお姫様がどこの国にも存在していたら世界は平和になるか、滅びているだろうさ。
「お兄様。お風呂の準備できました」
「……野宿でお風呂が存在するのか甚だ疑問なんだけどね」
ヴィリアとドレッサも俺が頼んだ仕事が終わって戻ってくる。
「自分で用意できるなら入りたいだろう?」
「……まあ、そうなんだけど」
「ドレッサ。清潔にするのは大事ですよ。お兄様の言うことは間違っていません。魔術で作ったものですし、簡単に元に戻せますから、訓練も兼ねていて完璧です」
「……そういうことを言いたいんじゃないけどね。まあ、いいわ。で、だれから入るのよ? 流石に全員は無理よ」
なんというか、ドレッサがこの中で一番常識人なように見えるのは気のせいだろう。
魔術でのお風呂の用意は衛生面は当然の事、魔術の訓練にもなる素晴らしいことだ。
……そして、俺とタイキ君の野望達成の為の布石は整ったわけだ。
「そうだなー。タイキ君だれからお風呂に入るべきだと思う?」
「そうですねー。ここは、一番気苦労が多いカミシロさんからじゃないですかね。そのあとキャサリンさん、そしてお姫様……はもう寝ているし、その二人を優先して、俺たちが最後に入るってことでいいんじゃないですか」
「だな。そうだ、エオイドとアマンダはデリーユの訓練で疲れているだろうし、あの2人が先だな」
「なんか妾がひどいことをしたように聞こえるが、普通じゃぞ?」
「えー、馬と並走させるとか普通じゃないよー。デリーユって魔王だよー」
「魔王じゃよ。それを見て見ぬふりをしている勇者もどうかと思うがな」
そんな魔王と勇者の会話を聞きつつ、お風呂の見張りはどうするのかという話になるが、魔術による防御結界があり、お風呂自体も四方を壁で囲んでいて防御力自体も迫撃砲も防げるレベルだ。
なので、出入り口の監視だけでよく、俺やタイキ君、ルースが表で護衛となった。
カグラが入るのを見て夜ぼんやりと護衛するより、軽く雑談をしながら立っている。
「そういえばルースはどうだ? この新大陸は?」
「ユキ殿。どうと言われますと、何と答えればいいか困ります」
「ああー、なんていうか、実際見て聞いてハイデンの状況はどう思った?」
「……ふむ。ここまでやってきた手腕は認めるべきでしょう。まあ、個人的にはあの姫君やカミシロ殿を見るに、好きにはなれませんが」
まあそりゃそうだろうな。
はたから見れば子供を好きなように扱っているからな、生き死にも含めて。
国の為ならば、というのはよくある話だが、あそこまであからさまだと、自分がついて行って大丈夫か? 切り捨てられないか? という不安を煽るからな。
誅殺はやりすぎると味方がいなくなるって話があったような?
そんなことを考えていると、なにかが落ちる音が響く。
「きゃぁぁぁーーーー!?」
叫び声がお風呂から響く。
カグラしか入っていないのでカグラのものだろう。
その声を聞いたルースは真っ先に腰を浮かせ、お風呂場に飛び込もうとするが、それを俺とタイキ君で押さえる。
「陛下!? ユキ殿!? 離してください!! 彼女を守るのが我々の……」
「ルース、落ち着け!! ユキさんの防御結界が抜けるかよ」
「その時はここら一帯吹き飛んでるから、慌てず、声をかけて入ろう。カグラの裸体なぞ拝めば、後々問題になりかねん」
人、それをフラグという。
それは何としても避けなくてはいけない。
まあ、なんとなくカグラに起きたことは予想できているが。
「確かにそうですね。カミシロ殿ー!! ご無事ですか!! 中に入ってよろしいでしょうか!!」
そうルースが声をかける。
うむ、イケメン騎士の大声は心地よいものだな。
なにより俺やタイキ君が声を出さないでいいのが素晴らしい。
「え、あ、ちょ、ちょっと待ってください……!! どうぞ!!」
よし、カグラはちゃんと体をタオルとかで隠したな。
これで、出合頭に裸を見てしまうというのは回避できたな。
そういうことで中に入ると、タオルで体を覆ったカグラがお風呂から上がって、上を見つめている。
俺たちもそのカグラの視線を追って上を見ると……。
「……きゅう」
天井の障壁で気絶しているエオイドがいた。
「い、いきなり彼が空から降ってきたのよ。て、敵がいるの?」
カグラは震えながらこちらに走り寄ってくる。
「ルース、カグラを……」
守ってやれという前に、俺の方に来た。
タイキ君は小さくガッツポーズしている。
その間に騒ぎを聞きつけた他のメンバーもこちらに集まってきて……。
「おーおー、よう飛んだのう」
「飛んだじゃないですよ、デリーユ師匠!? エオイド!! 大丈夫!?」
話を聞けば、ちょっと食後の訓練をしていて、吹っ飛んだエオイドがお風呂に直撃したらしい。
予想通りのラッキースケベ野郎だが、気絶しているのがいただけない。
まあ、奴のラッキースケベがアマンダ以外にもまだ有効なのが確認できただけましか。
「く、訓練って、人が空を舞うような訓練なの……」
と、カグラは別の意味で身の危険を感じてしまって、俺にしがみつくという結果になった。
……これ、俺に対しての好感度上がってないよね?
奴の力は変わらなかった。
しかし、最後の方は情けない。
さあ、この結末はどうなるのか!!
ユキか!! タイキか!! エオイドか!! それとも別の誰かか!!
君たちはどう思う?




