外伝:ダンジョンに憧れを持つのは間違っているだろうか?
ダンジョン。
それは、神が作ったとも、魔王が作ったとも、それすらも意に介さない天災ダンジョンマスターが住む居城だとも言われる神秘の場所。
数多の怪物を吐き出し、財宝を蓄え、何のために存在しているのか、未だ解明されていない。
しかし、そこに人々は群がる。
それは、国防のためだったり、富と名声を求めるためだったり、その連中相手の商売のためだったり。
結局、なんだかんだで壮大に言われてはいるが、人にとっては生活を保つための手段の一つとなっている。
そして、時には遥か未来まで語り継がれるほどの冒険譚の生まれる場所。
さあ、今日もまた、そんなありふれた願いを抱えた人々がダンジョンへ集まる。
プロローグ:ダンジョンに憧れを持つのは間違っているだろうか?
ダンジョンに憧れを持つのは間違っているだろうか?
未だ解明されずにいる深淵の迷宮。時には魔王や神をも超える凶悪なモンスターたちの棲み処。
富と名声を求めその迷宮に臨む冒険者たち、パーティーを組み、ギルドを組み、その迷宮へと挑む。
その果てにあるのは、栄光か死か? それとも挫折か?
そんなダンジョンに憧れを持つのは間違っているだろうか?
いや、間違っているはずはない。
だって、こんなに心が躍っているのだから。
「さあ、これが始まりの一歩だ」
そして、前へと足を踏み出す。
僕もそんな物語を……。
「……えーっと、君は、じゃなかった。あなたは何が目的でこのウィードに?」
「仕事を探しに来ました。まだ働き手の募集があると伺いました」
「あー、じゃあ、ウィードに移住するんだな……、じゃない、移住希望ですか? それとも一時働きで?」
「移住希望です」
歩むわけもない。
僕はそんな冒険心で命を危険にさらせるほど根性はない。
だが、心が躍っているのは間違いない。
だって、このウィードというのは、今話題の新興国家。
国と呼ぶには小さいとよく言われているが、田舎の村の生まれの僕からすれば立派な都だ。
そして、それだけではない。
このウィードはなんとダンジョンの中に国家が存在する不思議な国なのだ。
遥か昔から天災の元といわれるダンジョンを制御し、各国へのゲートという魔術技術を使って色々貢献していて、各国から一目置かれている、将来性もあるすごい国なんだ。
僕もそのゲートという一瞬で遠くに移動できる魔術技術を使って、遥かリテアというかほぼルーメル寄りの村からはるばる来たわけだ。
リテアまで一か月近くかかったのに、リテアからロシュールにあるウィードに行くためにかかった時間は、ゲート使用料金を支払う時間ぐらいだ。
正直、そんな技術があるわけないと思っていたんだけど、こうやって体験するとワクワクしてくる。
そう、今、ウィードのダンジョンは冒険者だけでなく、僕みたいな食い扶持を得たい人たちにとって夢のような場所なんだ。
「しかし、リテアの方も仕事は結構あると思ったんだが……じゃない、あったはずですが、たしか農業を中心に」
「農業とその関係だけなんですよ。でも、ウィードならいろいろな仕事に就けるって話を聞いて」
「なるほど。確かに、職業選択の幅は広いですね。でも、そこまで甘い話でもないですよ? 基礎知識があるとか、ないなら訓練所とかにしばらく……」
「大丈夫です。僕、頑張りますから!!」
折角、村を出てきたのに、同じ仕事とか嫌だからね。
まだ、何になりたいとかはないけど、きっとウィードで見つかると思うんだ。
僕のそんな決意を見て取ったのか、受付をしていた人は少し困ったような顔をして、口を開く。
「……そうか。まあ、何事もやってみるべきだよな。じゃ、頑張れよ。この札を持って、緑の門へ行ってくれ。そこが移住希望者の受付だ」
「はい。ありがとうございます」
札を受け取って僕は緑の門へ歩く。
流石に何も調べなかったわけじゃない。
ウィードに移住するときに、文字が読めるとか、算術ができると優遇されるって聞いてたから、頑張って勉強してから、ここにきたんだ。
「はい、札を預かります。移住希望ですが、仕事や住むところなど、誰かの紹介はありますか?」
「いいえ」
「では、訓練所で説明会に参加していただいて、そのあと基礎訓練免除の試験がありますが、受けられますか? 特に料金などはかかりません」
「はい。お願いします」
「わかりました。では、こちらに名前をお願いいたします」
わー、これって紙だよね?
真っ白だ。
流石、今話題の新興国!!
そう思いつつも、必死に覚えた文字で自分の名前を綴って、受付の人に返す。
「はい。確認いたします。クロッシュさんですね」
「はい」
「では、説明会場の案内まで時間がありますので、あちらの席に掛けてお待ちください。トイレの使用方法はご存知ですか?」
「はい。トイレは勉強してきましたから大丈夫です!!」
「そうですか、それは助かります。飲み物が欲しい場合はあちらの給水機で無料で飲めますのでご利用ください」
「はい。ありがとうございます!!」
「いいえ。ようこそウィードへ」
これが僕、クロッシュのウィードへの第一歩。
ただ、足音だけしかしない。
受付さんはすでに次の人の対応に移っていて、この一歩は僕だけしか知らない一歩。
僕はこれからウィードで頑張るんだ!!
「あのー、後ろの方が進めないので、席の方へ移動してもらってもいいですか?」
「あ、す、すみません!!」
慌てて僕は、荷物を持って席へと向かう。
ちょっと、浮かれちゃってたな。気を付けないと。
第一語り:ここから始まるは『変哲もない一人の少年の物語である』
「初めまして、移住希望の方々。私は移住などを管理する……」
そんな話が始まったが、つまるところ、観光案内パンフレットをよく見て、ルールを把握しろということだった。
移住の詳しい話については、訓練所についてかららしく、長旅で疲れていた僕は少し意識を保つのがつらい。
まあ、他の人も同じようなもので、真面目に聞いているのは一握り。
なんか、ウィードの偉い人の紹介とか詳しくやってたけど、そんな偉い人と会うわけもないし、ああ、本格的に寝そう……。
「あのー……、大丈夫ですか?」
「あ、はい。起きてます」
反射的にそう答える。
まずい。寝てたのがばれた?
印象が悪くなるかも、と声をかけた人の顔を見ると……。
「そうですか、具合が悪いんじゃないならよかったです」
そこには白いへんな服を着た僕と同じ年ぐらいの女性が立っていた。
「ウィードに来るために無理する人が多いんで、よく倒れる人がいるんですよ。だから、病院からの派遣で私が来ているんです」
「びょういん?」
「えーっと、怪我とか病気の人を治すための治療院ですね。それより、寝ちゃったってことは疲れがたまっている証拠ですから、今日の予定が終わったら早めに休むことをお勧めしますよ。ウィードに来て頑張るぞっていう気持ちはわかりますけどね」
「あ、はい」
「はい。わかっていただけたなら何よりです。では、えーっと、クロッシュさんはこれから基礎訓練免除試験ですね。こちらにどうぞ」
結構危なかったかもしれない。
このまま寝ていたら、試験どころか、びょういんに運ばれていたかもしれない。
とりあえず、この人のいうように試験が終わったら宿をとってすぐに休もう。
「この部屋になります。頑張ってくださいね」
「はい。ありがとうございます」
案内してくれたびょういんの人にお礼を言って部屋に入ると、20人近くの人が席に座っている。
この人たちも基礎訓練免除試験を受ける人なのかな?
でも、こんなにさっきの説明会にはいなかったような?
「君も基礎訓練完了試験希望かな?」
「え? 基礎訓練免除試験じゃないんですか?」
「ん? ああ、それでも問題ない。基礎訓練を終わった人の試験も兼ねているんでね」
「そうなんですか」
「まあ、君のように勉強してくる人も最近は増えたけどね。こっちとしてはありがたい話だよ。文字の読み書きと算術を一から教えるのはなかなか大変だからね。この試験をパスしないと、仕事は訓練所から提供されるものでかなり少ないからね。と、君の席はあちらだね。あの正面の時計、時計ってわかるかい? あの長針が真下、30分になったら試験を開始する。試験を突破できることを祈っているよ」
「はい。ありがとうごさいます」
僕はそうお礼を言って、席につき、心を落ち着ける。
大丈夫。
文字の読み書きはできるし、算術も足し算引き算も時間をかけて落ち着いてやれば大丈夫だ。
そして、試験の時間はやってきて……。
「そこまで。試験の結果は明日、この授業棟の掲示板に貼り出します。受かった人は事務に身分証の更新に来るようにしてください。では、解散」
試験は終わってみんな自由に部屋を出ていく。
そういえば、僕は試験が終わったらどこに行けばいいんだろう?
そう考えていると、僕と同じように試験を受けていた女性が試験官の人に声をかけた。
「あのー、私は今日ここにきたばかりで、これからどうしたらいいのでしょうか?」
「ああ、君も基礎試験訓練免除だったね。えーと、あ、そこの君も同じだったよね」
「はい」
「ちょっと待ってくれ。案内の人を呼んでくるから」
そういって、試験官の人は部屋を出ていく。
残されたのは僕と、女性の人。
年齢は僕と同じぐらいで、身長は僕よりも低くて、優しそうな感じの人。
「僕、クロッシュって言います」
「ひゃい。わ、わだず……いえ、私、リュンっていいます」
どうやら、僕と同じような田舎出身みたいで、訛りがでたみたいだ。
「僕も田舎からなんだ。よろしくね」
「あ、はい。よ、よろしくお願いします。その、クロッシュさんも、お仕事を探しに?」
「うん。ウィードなら畑仕事以外もやれるって聞いてさ」
「わだずもです。ちょっとしたオシャレなお店の店員でもやれればなーって」
リュンも僕と同じように、村で細々と畑を耕して終わる人生がいやで、村を出てきたそうだ。
まあ、家族が嫌いというわけでもなく、お金が稼げれば故郷の家族に仕送りができるかなという思いもあるみたいだ。
そんな雑談をしていると、ふいに部屋の外が騒がしくなる。
「……待ってください。……長がわざわざ……」
「残念でしたー。僕は……長じゃないんだよー」
試験官の人ともう一人案内の人だろうけど、とても若い声が聞こえる。
なんかとても焦った声とのんびりとした声なんだけど?
何かあったんだろうか?
そう考えていると、扉が開かれ、さっきの試験官と猫人族の女性が入ってくる。
その女性は、どう見ても試験官の人よりも年下で、僕と同じぐらいの年齢ぐらいに見える。
「しかし……」
「しかしも案山子もないよー。君だって僕の指導を受けてただろう。いいんだよ。ここも僕の管轄だしねー。最近はみんなに任せっぱなしだからね。たまには僕も働かないとね」
「はぁ。わかりました。でも、何かあればすぐに連絡してください。多忙なんですから」
「大丈夫だって、今日はオフだからねー。と、お待たせー。君たちが基礎試験免除の人だね」
「はい」
「ひゃ、ひゃい!! そうです」
あれ?
なぜかリュンがとても緊張している。
「ありゃ? そこまで硬くならなくてもいいよ」
「いえ。副所長。それは無理でしょう……」
副所長?
「だから、僕はもう副所長じゃないって、それはトーリだから。そして所長はポーニ。僕は特務だよ」
「失礼しました。しかし、特務とは言え、このウィードを作った人を相手に気軽にというのはなかなか難しいでしょう」
ウィードを作った?
え、どういうこと?
もしかして、えらい人!?
僕もようやく目の前の人がとんでもない人だということに気が付いて、リュンと同じように体をこわばらせていると、その副所長?特務?と言われた人がこちらを見て……。
「そんなのは気にしなくていいからね。僕はリエル。これからウィードで暮らしていくんだ。仲良くやろうね」
「「ひゃ、ひゃい!!」」
僕とリュンは同じような返事をする。
「うーん。まだ硬いなー。まあ、これからだね。じゃ、部屋の案内をするよ。ついてきてね。そのあとは、美味しいご飯でも食べにいこう。ウィードにきた記念だ。僕がおごるよ」
え、え?
ど、どういうこと!?
「はぁ。君たち、パンフレットで見たと思うが、この人はリエル様といって、このウィードを作り上げた10人の1人だ。見ての通り、気さくな人でね。慣れないとは思うが、付き合ってくれ。邪険に扱うと拗ねるんだ」
「そんなことないよー。じゃ、行こうか」
「え?」
「あわわっ!? リエル様!?」
こうして、僕のウィードでの生活は始まることになる。
これからの生活に憧れを抱いて、リエル様と一緒にウィードの街を駆け抜けていく。
「ううーん。もう、食べれません……」
「……お腹いっぱいです」
「なははー。ウィードに来たら一度は食い倒れないとねー」
そ、そうなのか。
そんな習慣があるのか……。
「……リエルの嬢ちゃん。あんまり新人に無理させてると、ユキ様やトーリ様に報告しないといけないぞ?」
「ちょ、駄目だからね!! というか、僕は歓迎会してるんだよ!!」
リエル様を嬢ちゃん呼びのおじさん……都会恐るべし。
タイトルはネタです。オマージュなのでパクりにはあらず。
というか、内容を見ればその通りなんで、的外れでもありません。
時間軸としては、新大陸編の中盤あたりのことなんで結構前といえば前の話しです。
前々からウィードの話しが、というのがありましたので、そのための主人公ですね。
クロッシュ君が冒険者になるのか、普通に働くことになるのかは今後のお楽しみ。
続きはいつになるかはわからん。




