第463堀:混迷する状況
混迷する状況
Side:タイキ ランクスの勇者王
接近はダンジョンの監視から知っていたけど、ちゃんと門からの連絡を受け取ってくるという原始的な手順をとった。
それは、こちらが遠隔で相手の状況を知れるということがばれないようにという、こちらの手段を一つも漏らさないための、タイゾウさんやユキさんが考えた方法だ。
兵士の危険もあるかもしれないが、そうなったら、最低限の礼儀も知らないやつらに手を抜く理由もなくなるといわれて何とか我慢した。
はやる気持ちを抑えて、兵からの連絡を受け取り、親書を読み、走ることなく、ゆっくりと近衛兵たちを連れて門へと向かう。
そして、到着した先には、今までさんざん迷惑をかけてくれたクソビッチ姫と、嫉妬ばかりの脳筋のノゴーシュがいた。
……が、なにか様子が変だ。
コメットさんがしゃがんでいて顔を見せず、横にノノアさんが寄り添って、その二人を心配そうにクソビッチと脳筋が見ていた。
状況がよくわからない。
コメットさんの具合でも悪くなったのか?
「あ、タイキ!!」
俺がどう声をかけたものかと思っていると、クソビッチが俺に気が付いて名前を呼んだ。
てめぇに呼び捨てにされるほどの仲じゃねーよ。
「今すぐ宿を用意しなさい!! ノノア様のお弟子様の具合が悪いのよ!!」
お前に指図されるいわれはないわ。
しかし、コメットさんは身内だし、知らぬ間にノゴーシュとかに攻撃されたかもしれない。
クソビッチはこの反応からなにもしてないだろう。
とりあえず、ヒフィーさんも心配するだろうから、すぐにコメットさんは保護するか。
「……わかりました。ではそちらのお弟子さんはこちらに」
「はぁ!? 私たちも一緒に決まっているでしょう!! この裏切り者の卑怯者が!! 国を滅ぼしたように、抵抗できない女性を一人にしてこっそり殺すつもりね!!」
……黙れやクソビッチ。
その人はリッチでもうしんでまーす!!
あと、俺が殺そうとするならここら一帯消し飛ぶから!!
舐めるなよ、ユキさんのメンバーの非常識っぷりを!!
というか、お前自分の立場わかってねえだろう。
後ろの近衛兵たちが殺気だってるわ。
俺も腸煮えくりかえっているけど、ここは我慢だ。
ちゃんとノゴーシュを決闘でぶちのめして、刀を回収して、レイを処刑して、逃げようとするクソビッチを捕らえて完膚なきまでに叩きのめす。
今、動くのはよくない。
我慢だ、我慢。
「わかりました。皆様もご一緒に、こちらです」
「ふん。まったく礼儀がなっていませんわね。これだから謀反人は」
「隙を狙って、などと考えるなよ? 勇者が不意打ちして首が落ちるなどというのは恥であろう?」
……やっぱりこいつら、この場でやっていいんじゃないか?
なんでこんなに自信満々なんだよ。
『タイキ君、落ち着け。非常に不愉快ではあるが、その役目は私のはずだ』
俺の怒りがすぐに平静に戻る。
コールから聞こえてくる声は、静かでしかし怒りを含んでいたからだ。
その声の主はタイゾウさん。
おう、声だけでそこまでとは、もうデストローイは決まったな。
救いはないし、慈悲もない。
『あー、タイキ君。コメットの様子がわかった。タイキ君やタイゾウさんにとっては不愉快だったんだろうが、コメットにとっては、渾身のギャグにしか聞こえていなかったみたいだ。コールで連絡がきた。さっきのやり取りも、腹がよじれそうだと』
ユキさんからの連絡で一気にいろいろな気力が抜けた。
……ああ、そういうことですか。
確かに、粋がっているバカにしか見えないよな。
まあ、らしいといえばらしいよなー。
はぁ、相手の挑発に乗る必要もないか。
「こちらです。騒ぎが起こっては困りますので、監視を兼ねた兵士は置かせてもらいます」
「ふん。臆病者ね」
何とでもいえ。
今日が最後の晩餐だからな。
我慢してやろうじゃないか。
……なんか、俺の方が悪役っぽい気がするのだけど、気のせいだよな?
と、そんなイライラがあったりもしたが、意外にもクソビッチと脳筋は特に暴れることもなく、宿でおとなしくしていた。
おかげで、本部との連絡ができるから、そこだけは感謝してもいい。
「なんであんなにおとなしいんでしょうね……」
『そりゃー、自分たちの状況を把握していないか、どうにかできると思ってるからじゃないか?』
「どっちにしても、頭お花畑じゃないですか、やだー。で、そっちから見て童子切の方はどう思いましたか?」
そう、この場で一番の問題は童子切だ。
アレの封印が解けるのが、一番厄介なんだよな。
最初から、クソビッチや脳筋は論外。
『俺やタイゾウさんはいまだに封印は解けていないって見解だな。バカはちらちらと刀を見せつけていたし、子供かって感想だな』
「それは同意見です」
正に新しいおもちゃを持った子供だった。
あれでよく剣の神とか名乗れたな。
『そういう意味では乗っ取られているっていう話も分からんでもないけどな。ああ、そういえば、前ランクスに侵攻してきた方向から、魔物が500ほど進軍して来てたから、それはすべて処分したってジョンから報告がきてる』
「やっぱり、別働隊がいましたか。狙いはどこだったんでしょうね?」
『ちゃんと進軍方向も確認してる。ランクス王都方面に300。この村へ200ってところだ。二方面作戦だな』
「そうですか。ジョンたちがいて助かりましたよ」
『まあ、あらかじめ予想していたからな。火器での排除だったから楽だったとよ』
そりゃー、そうでしょうね。
こっちの世界ではいまだに剣と弓、そして魔法ぐらいですから。
『スティーブと霧華もすでにビッツのダンジョンの最奥にたどり着いている。いつでもコアを抜き取って、奪取可能な状態で待機している』
「周りは十分に固めたって感じですね。後は、明日の決闘と処刑ですか。大丈夫ですかね?」
『そこらへんはわからん。決闘するのは俺じゃなくてタイゾウさんだしな。まあ、負けるとは思ってないけどな。どうせ無効化スキルをやるだろうから、不意打ちはあり得んだろうなー。唯一飛び道具の警戒をビッツに払わないといけないが……』
「いやー、あれに飛び道具が使える腕も筋力もありませんよ。我儘お姫様ですよ?」
『だろうな。護衛も連れてこなかったことがこっちにとっては監視がしやすくなって楽だよなー』
「で、そのタイゾウさんはどうしてるんですか?」
『さっき寝た。明日に備えるだってさ。いつもの通りに飯食って風呂入って寝た』
「変わりありませんね。というより普段より健全な生活ですね」
『タイゾウさんは、徹夜がデフォルトみたいだしな。まあ、明日頑張るんだし、今夜は俺たちが監視だわな。と言っても、タイキ君も早く休めよ。一応大将だからな。明日の決闘次第では、相手が狙ってこないとも限らないからな』
「わかってますよ。でも、多少緊張しているのか、眠れないんですよ」
『ああ、ピクニック前は眠れなかった性質か?』
「さあ、どうだったですかね? とりあえず、なんか気分がですねー」
『いろいろ、そっち、ランクスにとっては締めだからなー』
「あ、そういえば、そこで不思議だったんですけど、なんで各国の王は酒呑童子の封印に関して何も聞かなかったんでしょうね?」
『それは、全然前知識ないしな。被害が出てもランクスが最初だし、ある意味、動きやすいと思ってたんだろう。魔物にノゴーシュ、ビッツが襲われ死亡で済むから』
「そういうことですかー」
そんな話をしていたら、眠気がやってきて、布団に潜り込み、処刑日を迎えることになる。
翌日の天気は晴れ。快晴。
うーん、処刑日の快晴って喜ぶべきことなのかね?
そんな感想を持った。
まあ、雨だと濡れて面倒だし、いいことなのかなーと思っておくことにする。
俺はどうせ、見届ける役で、座ってるだけが主な仕事だからなー。
クソビッチと脳筋も流石に寝坊するようなことはなく、すでに来ていて、裁判に異議を申し立てる気満々である。
「では、これより、元近衛隊副隊長レイの裁判を行います」
「ふざけるなぁぁぁ!! 姫様!! ノゴーシュ様!! どうかこの愚か者どもを!!」
引っ立てられたレイは処刑人を見てすぐに喚いた。
というか、泣きついた。
もうちょっと、そんな罪は犯していないとか言えないのかね?
異議あり!! で、追いつめようとした準備が台無しじゃねーか。
まあ、おかげで、クソビッチとノゴーシュがさっさと立ち上がって乱入してきたのはこっちとしてはありがたいが。
「その裁判は不当である。力による決めつけの裁判など無効。不当に国を奪ったタイキこそ処刑されるべきである」
「そうですわ!!」
おいおい、この場で宣戦布告かよ。
そのバカな発言で、すでに近衛兵たちは2人を取り囲んでいる。
しかし、2人は臆することなく、刀を抜く。
2人? なんでビッツも刀を抜いてるんだ?
いや、持ってるのはコメットさんからの報告で聞いたけど、お前使えないだろう?
「卑怯者ども。この場から逃げられると思うな」
「ええ。他所の王族にここまでやっておいて、無礼打ちされても文句はありませんわね?」
……うーん。
なんだろうなー。この勘違いの方向性。
あれだけ自信満々だと、なんか悲しくなってくるよな。
まあ、いいか。
そろそろ、タイゾウさんに合図をだして……。
「卑怯者はこちらのセリフよ。刀を持っただけで強くなったと勘違いしている、偽りの剣の神が」
そんな声が聞こえて、ノゴーシュとビッツの横に降り立つ人影が一人。
ああ、タイゾウさんもう行ったのか、と思ってみていると……。
「貴様!? あの時の!?」
「え? あなたは!?」
「どちらとも覚えていたか。まあ、私を知らない者もいるようだし、改めて自己紹介をしようではないか。かつてノゴーシュに領土を奪われ、民を蹂躙された愚かな領主の息子であり、そこのビッツ姫にダンジョンマスター能力を移譲したアーウィンだ」
だれ!?
あれ!? 配役変わった!?
なに、一気にいろいろ情報が出た気がするんだけど!?
「ど、ど、どうなってるんですか!?」
『しらんわ!? 何だよダンジョンマスターって、しかもビッツにダンジョンマスター能力を移譲したとか言ってるぞ!? わけわかんねー!?』
ユキさんも知らないようで、すげー慌てている。
なかなかない光景だと思うが、それを見て笑っている余裕などない。
なにあいつ? 敵!? 味方!?
俺たちが混乱している一方で、アーウィンと名乗った男は、袴姿で刀を納刀状態で構える。
「そして、貴様がおびえて逃げた、上泉信綱殿の一番弟子だ。此度のことは、お前の首をただ取るためだけに仕掛けたものだ。さあ、偽りの剣神よ、私の刀の前にひれ伏すがいい。わが師の刀を受ける資格もない。お前にそこまでの技量はない」
「笑わせるな!! あの時の貧弱坊主の貴様ごときが刀を握って少し練習をしたからと言って、私に勝てるわけもなかろう!!」
はい?
えーと、どういうこと?
なんか、ノゴーシュが怒って、刀を抜いてアーウィンとかいう人と対峙しているよ?
逆にビッツは驚きで未だ固まってるよ?
落ち着け、落ち着くんだ。こういう時は、どっちとも制圧だな。
うん。もう状況がよくわからんし、ノゴーシュとビッツは敵対姿勢をみせたから、大義名分はある。
OK。そうしよう。
そして、制圧の連絡をユキさんに送ろうとしていると、タイゾウさんが来て止められる。
「待つんだ、タイキ君」
「いやー、流石にわけがわからないですよ?」
「まあ、詳しい事情はわからないが、さっきの話だけを聞けば仇討ちだ。動きも悪くない。むしろ素晴らしい。おそらくは本当に上泉殿の指導を受けたのだろう」
「はい!? 本当ですか!?」
「ああ。そして、私たちに気配を察知させることなく、あの中に飛び込んだ。殺気を向けていなかったということだ。敵ではないよ。ここは私に任せてくれ。ユキ君もいいかな?」
『……あー、了解です。任せます。でも危険があると判断したら一気に制圧しますよ』
「それはかまわない」
なんかそういって、タイゾウさんは対峙している2人に近寄る。
「両者とも待たれい。この兄弟子とノゴーシュ殿との勝負、同じく上泉信綱の弟弟子であるこのタイゾウが見届けまする。お互い、今一度、身を整え、遺恨なき決闘をしてはいかがか?」
「……ふん。よかろう。アーウィンを斬ったあとはお前を斬って、カミイズミノブツナを斬り、私が剣の神であると証明してやろうではないか」
「……なるほど。わかったよ。弟弟子の願いだ。死ぬ前に心の準備ぐらいはさせてやるよ」
あれー?
なんか、乗ってきた?
決闘好きなの?
馬鹿なの?
超展開でついていけねーっす。
というか、西洋ファンタジーからいきなり時代劇になってね!?
誰か説明プリーズ!!
さあ、楽しくなってまいりました!!
ユキにとっては予想外のことが起こりまくる今回!!
どう話が進むのかお楽しみに!!




