第424堀:お掃除の成果
お掃除の成果
Side:ヴィリア
「えーっと……、どうしたの? その包帯?」
いつもの通り、早朝からお仕事を受けに冒険者ギルドにきたのですが、やっぱりキナさんに見咎められました。
それはそうでしょう。
なにせ、ドレッサは額に包帯をぐるぐると巻いているのですから。
「ただ気合い入れで巻いてるだけだから、気にしないで」
ドレッサはその答えでごまかすつもりなのでしょうが……。
「いやいや、血がにじんでるってば!?」
血がにじんでいるので、ごまかせるわけがありません。
仕事に出る前に、体調チェックをするのですから、あんなわかりやすい血の滲んだ包帯をつけていれば当然止められます。
「昨日、仕事から帰ってきたときはそんな傷なかったよね?」
「はい。これは、昨日の夕食のときにできた傷です」
「夕食の時? なにかに襲われたの? そんな報告はなかったけど……」
「いえ。実は……」
私が言おうとしたら、ヒイロが横から続きを言った。
「なんかしらないけど、ドレお姉がいきなり机に頭をぶつけ始めた。そして、血がでるまでやった」
「はぁ?」
キナさんの反応は当然だと思います。
私も最初は気が狂ったかと思いました。
でも、違ったんです……。
「とりあえず、なんともないから。大丈夫よ」
「大丈夫なわけないでしょう? こんな状態で仕事に出したとかミリーに言ったら、私が殺されるわよ。せめてなんでそんなことしたのか理由を教えて? 情緒不安定で任せられる仕事じゃないのはわかっているでしょう?」
「そ、それは……、そ、そんな気分だったのよ!!」
「いや、それじゃ、仕事は任せられないよ。危ない状態じゃない」
「うぐっ……」
予想通りと言いましょうか、ドレッサは自ら原因を言うわけありませんよね。
しかし、このままはぐらかしていると、今日のお仕事は2人で作業です。
それは避けたいので、手を貸すことにしましょう。
「キナさん。ちょっといいですか?」
「ん? なに? まだ、ドレッサから話を……」
「その件です。私に心当たりがあります」
「え? 本当?」
「ですが、あまり公衆の面前で話すものではないので、奥の部屋でいいですか?」
「別にいいけど。じゃ、こっちに来て」
「あ、ヒイロ。ドレッサをそこで治療してください。そのままじゃ、お仕事に出るのは無理そうですし、ヒイロも少しは回復魔術を使えるでしょう?」
「りょうかーい」
「……何を言う気なの、ヴィリア」
「それは、真実です。そうですね。少し詳しくいうなれば、お兄様ですね」
私がそういうと、くわっと目を見開いて、顔を赤くし口をパクパクさせています。
やっぱり……。
「ち、違うのよ!! ありえないから!!」
「ドレお姉じっとしてー」
「あ、ごめん。って、ヴィリア!! 変なこと言ったら承知しないわよ!!」
そんなドレッサの様子を見ていたキナさんも私が言おうとしていることが真実に近いとみているのか……。
「なるほど、ヴィリアちゃん。こっちの部屋でじっくり話そうね」
「はい」
「待ちなさい!! ヴィリアァァァー!!」
「ドレお姉。うっさい」
バキッ!! ドゴン!!
私が最後に見たのは、ドレッサがうるさいので、ヒイロが杖で殴打して、床に突っ込むドレッサの姿でした。
まわりの冒険者が引いていましたけど、仕方ないでしょう。
傷が広がったかもしれないですが、自業自得ですね。
治っていなかったら、ルルア様を頼りましょう。
「で、何が理由かな? あの、ドレッサの必死さから考えて、ほぼ当たりだと思うけど」
「私もそう思っています。簡潔に言いまして、おそらく、お兄様のことを好きになったと思っています」
「直球だねー。でも、ドレッサはそのお兄様に反応してたし、私も当たりだと思うなー。で、確認だけど、お兄様ってユキさんのことだよね?」
「はい。その通りです。私がお兄様と呼ぶ方は世界にただ一人です」
「ははっ、ヴィリアは本当にユキさんが好きだね」
「自慢のお兄様です。何も恥ずかしがる必要はありませんので」
「そういう素直な気持ちをいえるのはすごいと思うよ。でも、そのユキさんには素直に気持ちをいえないでいるみたいだけど?」
「……それは、なんというか、妹のように見られていますし、お兄様の傍にいて私が役に立つのか? とか思ってしまって」
「なるほどねー。確かに、今のユキさんの横に立つのは大変そうだねー。でも、ミリーとかはOKしているようだけど?」
「はい。お兄様の奥様たちにはいろいろと応援をもらっているのですが、未だ未熟者なので……」
「生真面目だなー。まあ、それがヴィリアちゃんかな。私も陰ながら応援させてもらうね。と、話がずれたね、なんで、ドレッサはああなったの? いつもなら、呼び捨てで普通に話してるでしょう?」
「さあ、詳しくは知らないのですが、昨日、机に頭を打ち付けながら……」
『ありない。ありえない。なんで、私の悩みとかがわかるにょ。普通なら、怒るところなのに、普通に話すとか、なんなのよ。あいつ。というか、なんで頭からユキのことが離れないのよ。あーもう、出てけ、でてけー』
「みたいなことずっと繰り返していました」
「ああ、なるほど。ユキさんが大人の余裕と優しさを見せて、ドレッサは揺さぶられちゃったというか、堕ちたわけね」
「たぶん。で、ドレッサはそういうことには慣れていないみたいで」
「否定するために、ひたすら机に頭を打ち付けていたってことかー。若いわねー。というかドレッサらしいわね。素直じゃないというか」
「という理由なので、どうかドレッサのお仕事参加を認めてもらえませんか? 流石に2人はきついので」
「あー、うん。わかったよ。それならミリーに怒られる理由もないしね」
そんな感じで、キナさんにも納得してもらったので、そのままお仕事に行くことになりました。
「……本当に変なこと言ってないでしょうね?」
「言っていませんよ。事実だけです」
「その事実ってなによ!? いってみなさいよ!!」
「ドレッサはお兄様のことが……」
「わー!! わー!! そんなわけないでしょう!?」
「じゃ、朝、キナさんからもらった、お兄様の隠し撮りの写真私にください」
「あれは私がもらったから私のものに決まってるでしょう!! 関係ないじゃない!!」
と、このように無駄な抵抗をしているドレッサです。
ちなみに、なぜキナさんがお兄様の写真をもっているかというと、ミリーさんからのお願いだそうで、お金になるのでとっているとのことです。
……しかし、なぜ、半裸のお兄様の姿を撮れるのでしょうか?
私としては非常にうれしいのでかまいませんが。
「お姉たち、ごみ袋―」
「わかったわ。ドレッサ、ごみ袋を」
「あ、うん。はい、ヒイロ」
「ありがとー」
すててーと、仕事に戻るヒイロ。
「私たちも、真面目にやりましょう」
「……そうね」
流石にドレッサも、ヒイロだけが真面目にやっているというのはまずいとわかっているのか、それ以上の言い合いはやめて、真剣に清掃を始めます。
そうなると早いもので、気が付けば清掃をしていた路地はすっかり綺麗になっていました。
「あら? もう終わり?」
「みたいですね」
「でも、ごみ袋余ってるねー」
「そうね。時間もまだ終わったっていうには早いし、ほかの路地の清掃に行きましょう」
「そうですね」
そういうことで、別の清掃場所を探していたのですが……。
「あ、お姉たち。ここにごみがあるよー」
ヒイロのその言葉にその路地を覗くと確かにごみが散乱しています。
しかし、そこまで多くはないので、残りの時間で終わりそうな感じです。
「ちょうどよさそうですね」
私はそう言って、掃除に取り掛かろうとすると、ドレッサから待ったの声がかかりました。
「ちょっと待って。ここって初日に掃除したところじゃない?」
「そう言われれば、そうですね」
「うん。ヒイロたちが掃除したところー」
「なんで、わずか数日の間にこんなに散らかっているのよ……」
確かに、この路地は初日に掃除したところです。
ですが、なぜか見るも無残に散らかっていました。
「……考えても仕方がありません。先に掃除をしましょう。後で報告しておけばいいですし」
「……それもそうね」
「お掃除―」
汚されるのは腹が立ちますが、このままというわけにはいかないので、再び掃除を始めます。
といっても、この前に掃除しただけあって、そこまでゴミは多くはないので、さして時間もかからず終わりました。
「ふう。終わったわね」
「はい。ちょうどいい時間ですし、帰りましょうか」
ドレッサと私はそういって、ごみ袋をまとめて、片付けに入っていたのですが、ヒイロがなぜかボーっとしていました。
「どうしたのヒイロ?」
「うーん。なにか忘れてる気がする」
「忘れてる?」
「ああ、あれじゃない? ちょうどそこの窓から、バカな冒険者がごみを投げ捨てていたでしょう?」
「そんなことありましたね」
ヒイロに暴力をふるったので非常に腹が立ったのを覚えています。
「あ、そうだ!! えっと、その冒険者のおじさんがね……」
ヒイロがその言葉をつづけることはありませんでした。
なぜなら……。
『落ち着いてくださいよ!!』
『ええい、うるさい!! もう、ノノア殿に頼んで、ロシュール王都を占拠してもらう!! その勢いに乗って、このウィードも攻め取ればいいだろう!!』
そんな馬鹿な声に遮られたからです。
私たちは顔を見合わせて、静かにその声が聞こえる窓に近寄りました。
もちろん、録音するのは忘れていません。
『ほかの国がだまっちゃいませんよ?』
『そんなのは、ロシュールを私が牛耳ればどうにでもなる。王が代わったというだけだ。国の政変に口など出せんよ。ウィードを攻めるというのも、直接的ではない。内部に人員を送り込めばいいだけだ。気が付けば、我々の思い通りよ』
『なるほど、先にウィードではなく、3大国の一角を取ってから、堂々と工作員を送り込むわけですか』
『そうだ。セラリアの小娘がどう拒否しようと、国の方針だから逆らえん。下手に拒否すればほかの国も、ウィードに不信感を持つだろう。そうなれば、こっちの思うつぼよ』
『では、ウィードでの工作は?』
『うむ。一時中断だ。まったく、この街は面倒極まりない……』
その言葉の後、大きく窓が開かれ……。
「あの小娘が!!」
偉そうな服を着たおじさんが、ごみを私たちに向かって投げていました。
ペンッ。
「あう」
ヒイロのおでこにごみが当たりましたが、紙屑なのが幸いして、ケガはないようです。
でも、問題はそこではありません。
「なんだ。子供か……」
「あ、お前ら!!」
「何をそんなに慌てている? ただのごみあさりだろう?」
「こいつら、こんななりでも冒険者です!! このことを報告されるとまずい!!」
「何っ!? お前ら、このガキ共をとらえろ!!」
おじさんがそういうと、部屋の奥から、護衛と思しき人たちが、こちらに向かって走ってきました。
あまりの出来事に動けないでいたのが、ここでようやく我に返ります。
「逃げますよ!!」
「わかってるわよ!!」
「う、うんっ!!」
そうして、私たちは追われることになったのです。




