第417堀:休む暇無し
休む暇無し
Side:ユキ
俺はいま、ウィードにある銭湯に来ている。
簡単に言えば公衆浴場。
そこに、ジェシカを連れて、仕事で汚れたヴィリア、ヒイロ、ドレッサを洗おうと思ったのだ。
無論、臭いの関連とかで、家族風呂の方を利用していて、ちゃんと管理の方に掃除を念入りにと言っている。
「ぬふー」
だが、なぜか俺が一緒に風呂に入って、ヒイロを丸洗いしている。
いや、理由としては、久々にお兄と一緒に入りたいといわれたからなので、特に問題はないはずなのだが……。
「ぬぎぎぎ……」
「……じっー」
どういうわけか、ヴィリアとドレッサが俺とヒイロをガン見している。
なにか変なことがあるのだろうか?
……知らないうちに、ウィード内での銭湯に入るときの作法なんかできたりしたのか? と不安に思ってしまう。
俺がそんな風に不安顔をしていたのを察したのか、ジェシカは2人に声をかける。
「2人とも手が止まっていますが」
「え?」
「なに?」
なにやら、真剣に俺のことを見ていたせいか気づかず、なにか話しかけられたという感覚はあったみたいでジェシカを見ている。
「はぁ……。ヴィリア。そんなにヒイロがうらやましいなら、次に洗ってもらえばいいでしょう」
「しょ、しょんな、こ、こ、ことは……」
ああ、ヴィリアはヒイロがうらやましかったのか。
お姉さんという立場が邪魔していたんだな。
うむー、俺がヴィリアたちの兄という立場だが、最近は忙しかったからな。
ヴィリアは昔と同じように、無理して頑張っていたんだろう。
常時甘えん坊ならこまるが、こういう甘えはいいだろう。
むしろ、俺としては素直に言ってほしい。
まあ、ヴィリアの性格じゃしかたないか。
「よし。ヒイロは終わりだ」
「えー」
「次は頑張っているヴィリアだから。我慢してくれ」
「ヴィリお姉の番?」
「お、お兄しゃま、わ、わ、私はしょ、しょんな……」
「……お兄、お姉をお願い」
「おう」
顔を真っ赤にしているヴィリアを連れていく。
気づいてやれなくてごめんな。
ということで、泡々にしていく。
「……じっー」
あれ、ドレッサの視線は先ほどと変わらない。
でも、ドレッサは最初、なんであんたと一緒に入らないといけないのよ!! って怒ってたしな。
流石に今回の汚れや臭いを落とすのに使う場所を二つも用意してもらうのは申し訳ないといって納得させたんだが……。
やっぱり、俺が変態とみられているのか?
いや、アスリンやフィーリアに手を出しているってばれたときのドレッサの汚物を見るような顔は忘れられない。
あれがきっと正しい反応だと思う。
まあ、ラビリスとシェーラにお仕置きされていたが……。
「じっー……」
「ドレッサ。いい加減に、人の旦那の裸体をガン見するのはやめてください」
「ドレお姉。むっつりすけべー」
「なっ!? ち、違うわよ!! だ、だって、私が一緒に入ったのは、ユ、ユキの提案だし!!」
ああ、なるほど。
お年頃にはちょっと配慮が足らなかったか。
なんというか、嫁さんたちができてから、女の人と一緒に風呂というのに抵抗が少なくなってきているんだろうな。
いや、そりゃ既婚だったり、うら若きとかなら遠慮するが、ドレッサはまあ、せいぜいシェーラより少し上くらいって外見で、俺にとっては子供レベルだった。
「確かに。ですがユキはガン見していませんし、ドレッサみたいに大事なところをまじまじと見たりしていません」
「だ、大事なところって、なによ!!」
「えー、ドレお姉。それはお……」
「ぎゃー、いっちゃだめだからね!!」
「顔を真っ赤にして説得力がありませんね……」
うん。
気にするなって言われても気になるよね。
それがお年頃ってものだ。
「だ、だから違うって!! ユキ!! 気が付いてるならフォローしなさいよ!!」
「あー、まあ、そこらへんにしてやれ。お年頃なんだから」
「だ、だれがお年頃よ!! わ、私は立派な大人の女よ!! お、おち……」
と、ドレッサが口走りそうになった瞬間、俺が洗っていたヴィリアが飛び出して、口をふさぎに行く。
「それ以上は口にしては駄目です!!」
「ちょっ!? ヴィリア、あぶなっ……!!」
泡々なヴィリアにより、仲良くすっころんで気絶する2人。
風呂場で気絶とかマジでできるんだなーと思う反面、気絶するレベルの衝撃ってまずくね? と思い至って、慌てて2人の状態を確かめに近寄る。
「大丈夫か!?」
「ええ。2人とも高レベルですし、この程度では傷つきませんよ」
とりあえず、本当にケガがないか、2人の泡を洗い落としてしっかり確かめる。
見たところ外傷はないようだな。
あとは、頭とか打っていないかだが、回復魔術をかけたあと2人に異常がないかを聞いておかないとな。
「おーい。お姉たち、おきろー」
「「あっ」」
そんなことを考えていると、ヒイロがとことこ近寄ってきて、シャワーを顔面に浴びせる。
「「ぶはっ!?」」
すぐに気が付く2人。
というか、顔にシャワーはきついだろうなー。
だが、そんなことより、次のヒイロの言葉の方がきつかった。
「お姉たち。お兄にオマタ見せるとかヘンタイー」
ああ、そういえば、2人とも見えているな。
俺としては緊急事態だったし、妹感覚なので全然意識が向かなかったのだが、2人はやはりお年頃でそうもいかず……。
「「え? きゃーーー!?」」
と、叫び、いろいろ迷惑をかけることとなった。
どこの世界も、女性は難しいものだ。
とまあ、汗を流して、今日もそのまま家で晩御飯かと思いきや、帰り道の途中、リリーシュからコールがかかってくる。
幸い、ヴィリアとヒイロは送り届けたあとだったので、ドレッサが住んでいる軍の宿舎の方へ移動して聞くことにした。
『……そうだ。良ければ、そのユキという人物のことを聞かせてほしい』
なるほどねー。
名前が挙がっていなかった農耕神ファイデという人が訪ねてきたわけだ。
「え? え? このおじさんも神様なわけ?」
身内の神様を知っているドレッサはリリーシュと対面しているみすぼらしいおっさんが、神様ということに驚きを隠せないでいる。
「世の中、いろいろあるんだよ。お前だって奴隷だったろうに」
「そ、そうだけど、でも、神様があんな格好って……」
「話を聞く限り、ウィードに潜入するために来たみたいだからな。俺にばれないようにするためには必要だろう」
「でも、ウィードの出入りは監視しているんじゃないの?」
「そりゃー、監視はしているが、一人一人、ステータスまで完璧に見ているわけでもないからな。しかも隠ぺいで隠しているし、神様だしな、一般の兵士じゃ見破れん。あと、特に武器の携帯とかはしていないし、そんな根掘り葉掘り調べるのは失礼だからな」
「それって危険じゃないの?」
「神様が危険なら、もうどうしようもないと思うぞ。あと、スキルとか魔術封じは効いているみたいだから大丈夫だろう」
ついでに、俺たちに近寄るやつは厳重に監視と調べがはいるからな。
「で、ユキのことをって言ってるけど、なんでかしら?」
「そりゃー、簡単。俺の得体がしれないからだよ。それなのに、ルナからの信頼は篤いし、向こうからすれば気に食わないってことだ」
「あー……」
「かといって、調べようにも、俺個人の情報は結構あやふやだからな。セラリアの王配ってことになって、軍部を預かってはいるが、近衛隊じゃなくて魔物隊。目立った戦果はなし。頑張って調べても、ラーメン屋台してるぐらいかね?」
「……聞くだけだと確かにおかしいわね」
「とりあえず。あのファイデがどういう意図で来たのかを聞きましょうかねー。ほかの神様の使い走りなのか、それとも、自分の目で確かめに来たのか。あるいは両方なのか……」
ま、俺としては予定通りというか、予想外というか、調べが進まないことにしびれを切らして、それ相応の大物とかがくるかなーと思っていたけど、まさか神様ご本人がくるとはねー。
ついでに、そっちの思惑も全部しゃべってくれたら、ドレッサたちのお仕事もただの清掃活動になるから安全なんだけどなー。
『そうねー……、教えるのはかまわないけど、ユキさんのことを知ってどうするつもりかしらー?』
『俺個人としては、良き人物なら話をして協力しあえればと思っている』
『個人としてはねー。ほかの馬鹿共はー?』
『さっき言った通り、対抗心を燃やしているな。神からの賜りものを、簡単に人に授けては、神への侮辱だとかなんとか……』
『ええーっと、このダンジョンのことでしょうか?』
『ヒフィー殿、その通りだ。いろいろな画期的な物資はまさに神の御業。いや、俺達でも不可能だ。つまりルナ様という上級神からの力を無尽蔵に与えていることになる。それは、人にとっても良くはないだろう。だから、即刻、物資の供給のとりやめ、連合も解散せよってのが向こうの言い分だな』
『『……』』
あまりの回答に、リリーシュもヒフィーも口ごもる。
それはそうだろう。
神の御業、ルナの恩恵とかじゃなくて、ただの地球からの技術支援だからな。
しかも、基礎技術。
地球でも、この程度の支援活動は一般的。
ポンプがないところにポンプという技術を教えるのは、普通に行われている支援活動だ。
この程度で、威張るとか、不必要にお金を取るなどすれば総スカン決定。
無論、必要資金などをとるのは問題ない。
まあ、状況によりけりで、異世界というところにいきなり放り出されて、地球の知識を使って食いつないできたというのはありだろう。
しかし、俺の場合はちょっと状況が特殊。ダンジョンマスターという立場もさることながら、多数の日本人との接触、存在の確認がなされている今、現状で下手に地球での一般的支援レベルの技術でお金を巻き上げているのは、いろいろな意味で拙い可能性が高いのだ。
わかりやすいところで言えば、競合相手がより格安でこのポンプなどの技術解放を行った場合、ウィードとしての立場も悪くなるし、なにより同郷の確率が高い地球人との友好関係がグダグダになりかねない。
あと、地球側から介入があれば、あっというまにこちらが淘汰される可能性もある。
そこらへんも考えないといけないのが難しいところだ。
損して得をとれ、情けは人の為ならず、巡り巡って自分に帰ってくるもの。という感じだ。
無論、地球でも最新技術は国々でトップシークレットだ。というか企業ごとで機密であり、ちゃんとしている。
我々日本の一般人が知りうる程度の技術提供を惜しむならば、しょせん偉人の猿真似、どうにもならんという話。
大事なのは、その次の隠し札を持つことだ。
ちなみに、ウィードの次、隠し札、トップシークレット技術というのは魔術と科学を利用した技術開発系である。
と、いらんことに頭を使ったが、ファイデたちにとっては確かに理解の及ばないものばかりだろう。
人は自分たちより上がいるというのをなかなか認めたがらない。
いや、差があるとしても、ちょっとな感じと思うのだが……、ファイデたちの場合は、この理解できない技術の源と仮定するのに都合が良い存在がいる。
それが、言っての通り、ルナという駄女神で駄目神のことだ。
簡単にファイデたちの理論を説明すると。
ウィードの技術とか人が集まるのが理解できない>だって神である自分たちができない>だから、しょせん人の俺にはこんな技術は無理>なら、ルナの力に違いない>ではルナに負担をかける俺は悪者である
という素晴らしい論法が出来上がるのです。
自分で整理してみたけど、すげーぜ!! 無茶苦茶だけど、世の中こんなもんだよなーと思ってしまう。
教諭の論文強奪とかたいていこんな話だよな。
よく、事件ドラマものである話。
君にはできるわけがない>これは私の論文として……>だから君には死んでもらう>刺されて>きゃー>犯人は必ず見つけて見せる。じっちゃんの名にかけて!! となるわけだ。
ま、そこの思考回路はいいとして、明後日方向の発言をするファイデ相手にあの2人はどう言葉を返すのかねー。
そんなことを考えながら、ジェシカ、ドレッサと一緒にお茶を飲みながら眺めていたのだが、リリーシュが口を開き……。
『では、こう、お伝えくださいな。恥さらしまくって同じ神として恥ずかしいから、さっさとくたばれ』
と、いい笑顔であのリリーシュが毒を吐いていたので、3人で思い切りお茶を吹いた。
「「「ぶはっ!!」」」
一体どんなことがあって、あのぽけぽけリリーシュがブチ切れるんだよ!?
まさに神理論というわけですな。
ありえないから、更に上の人のおかげと思い込むわけですはい。
道具とかでもよくあるよねー。
これはお前では使いこなせない!! だから使いこなせる俺がもらってやる!! という定番。
まあ、これからどんな会話が繰り広げられていくのか!!
ユキは風呂から上がっても忙しいみたいです。
あ、ヴィリアたちのお風呂シーンを妄想した人はアウトー。




