第400堀:知るということ
知るということ
Side:タイゾウ・モトメ
うむ、世の中は広いものだ。
穏便に見えて、悪辣極まりない。
戦いとは、目の前の敵より、身内に注意すべしとはよく言ったものだ。
まあ、ヒフィー殿やコメット殿の為ではあると理解しているが……。
『ブッブッーー!! ハッズレー!! 答えは2番!! 大国の位置をずらすでしたーー!! というか、なんでヒフィーが知らないのよ?』
『コメットからそんな話は聞いていません!!』
『えー、ユキ君からの説明で察してくれよ。子供じゃないんだから。発想元は私がバッサリやられたときの理由と同じだろうに……』
『しっ、しかたないじゃない!! わからないんだもん!!』
……ヒフィー殿はなんというか、知識の共有、把握といったところに難点を抱えているようで、ルナ殿が出す問題を結構外していた。
上というのは、出来上がった結果だけを知ればいいのが基本ではあるが、流石に任じられたことの把握ができていないのはどうかと思う。
しかし、ああいうふうにコメット殿と姦しい言い合いをするのは、微笑ましくもある。
ユキ君たちと会うまでは、かなり無理をしていたのだなとよくわかる。
『ぶははは……!! ヒフィー、あんた顔真っ黒よ!!』
『ほら、顔拓、顔拓。って、ぶははは……!! ヒフィーの顔真っ黒でおかしい!! って、ちょっとまった、それ以上近づいたら、私も汚れるって!!』
『……死なば諸共っていったわよねー!!』
『ぎゃー!?』
『ふくっ!? お、お腹がよじれる。 お腹、い、いたい……!!』
『くそー……。ルナさんも巻き込んでやる!!』
『はっ!? ちょっと、コメット!? や、やめっ……ぎゃーー!?』
『……しばらくお時間を下さい。3人を着替えさせてきます』
そう言って、ラビリス殿が3人を設置された簡易風呂に引っ張っていく。
……前言撤回。
これはやりすぎだな。
ヒフィー殿とコメット殿が仲違いをしないか心配だ。
大人しく、顔拓を終えたノーブル殿たちは、異文化を確認して罰ゲームをそれなりに楽しんでいるのだが、ヒフィー殿とコメット殿は血みどろの足の引っ張り合いをしている。
……この罰ゲーム考えたのは、私だと言い出せないな。
魚拓ならぬ顔拓はどうか? とユキ君やルナ殿に伝えたら一発OKされて意味が分からなかったが、こういう結果を予測していたのか?
『あ、スティーブだったな。ちょっといいか?』
『ん? どうしたっすか、シュミットさん? タオル足りなかったっすか?』
『このイナゴの佃煮というのはまだあるのか?』
『おお、そうだ。スティーブ殿。このイナゴの佃煮の作り方はしっておるか? 見た目はあれだが十分に美味い。イナゴならどこでも取れるので、食料事情の厳しい所にはいい物なのだが……』
『確かに宰相の言う通りですな。スティーブ殿、どうか教えていただけないでしょうか?』
『こら、やめぬか。宰相、ビンゾの気持ちは分からんでもないが、無償で教えてもらおうというのは厚顔無恥もいいところだ。しかるべき対価を支払い、その上で教えを乞うべきだろう』
『『はっ、申し訳ございません』』
『でさ、スティーブ君。さっき食べたきゅうり?の漬物も美味しかったけどさ、あれもこっちで作れるかな?』
『こら、サクリ。我の話を聞いていたのか?』
ノーブル殿たちは、この雰囲気にのまれてというか、すっかり馴染んでいて、罰ゲームも余興の一環として楽しんでいるようだ。
正直、こっちの方が私とは話が合いそうな気がする……。
普通にイナゴの佃煮を食べているし、ヒフィー殿とコメット殿はまだちょっとかじるだけで精一杯なのだがな。
男と女の違いというか、ノーブル殿たちは話を聞く限り、常に最前線で戦ってきたみたいだから、そこら辺の食事事情に好き嫌いを言っている余裕はなかったのだろう。
日本でも草の根を食べてでも飢えをしのぐような状況に陥ってたからな。
……それでよくもまあ、本土決戦すれば勝てるとのたまったものだ。
「タイゾウさん。次はどの食材を持ってきますか?」
「ん? ああ、タイキ君か。すまない。それなら、次はゼンマイだな。確か、そっちの冷蔵庫の野菜室に入っていたはずだ」
「ゼンマイ?」
どうやらタイキ君はゼンマイという山菜をしらないようだな。
今の日本は食糧難でもないらしいから、そう言う意識は低いのだろう。
「そうだゼンマイだ。山菜の一種で、セリなどと言った春の七草と同じぐらいに有名な山菜だ。そして、セリは毒セリなど近種があり危険があるが、ゼンマイはそう言った類いもなく、山に入れば川沿いに大抵生えている。大体食べられているのは新芽のほうで、上が渦を巻いているような形をしている」
「ああ、あれですか。わかりました」
そのままではかなりアクが強く、それをしっかり取らないとつらい物があり、そのほかにも色々な処理があるから、そう言う意味でもなかなか食べられていないのか?
まあ、どのみち今の日本が豊かなのは喜ばしいことだ。
あの戦いで命を落とした多くの人々に意味はあったのだと、この目で分かるのが嬉しい。
見て聞いて、今の世界がどれだけ発展しているかも分かる。
その世界に自分がいられないという寂しい思いもある反面、タイキ君やユキ君をみて、老兵はただ去るのみ。という言葉の意味をひしひしと感じている。
未来は若者が作るべきだと。
というか、ユキ君の発想は私にはどうあがいてもできそうにない。
こんな風に、相手の戦意をそぎつつ、事象の理解を進めるなんて方法はそうそうできることではない。
「はい。これですよね? ゼンマイ」
「ああ、そうだ。そっちに置いてくれ、ありがとう」
さて、なぜ私が台所で腕を振るっているのかについてだが、主に私が罰ゲームの主犯にされているからだ。
顔拓しかり、イナゴの佃煮しかり、ここら辺もユキ君の悪知恵といっていいだろう。
2人が仲違いしても、矛先はユキ君には向かない。
罰ゲームを提案して作っている、つまり私が悪いということになる。
元から身内である私に、2人が本気で怒りをぶつける可能性はユキ君たちよりも低いだろうという判断だ。
そもそも、不勉強の結果だから、そこをつけば大人しくなると思うが。
女性に対してそういうことを指摘するのは、どうもな……。
「しかし、あの番組を作るのに、タイキ君も協力したんだろう?」
「あ、はい。本来であれば、俺たちの大陸の人に見せる予定でしたから。どうですか? できは?」
「今の日本をしらない私が言うのもなんだが、ああいう知識を広げるための放送というのはいいな。素晴らしいと思う。元々、映像記録という概念が無いこちらの世界では効果はかなりあるだろう。私たちのほうは大本営発表などで、あまり提示される情報を信頼していなかったからな」
「あ、あははは……。やっぱり、大本営発表って、当時でもあまり信用されてなかったんですね」
なるほど。どうやら、タイキ君も大本営発表というのを知っているらしい。
つまり、それほどということだ。
「と、あちらもいよいよ、本題に入ったようだな」
「ああ、ようやくですか」
映像では既に墨だらけのかっこうから身綺麗になった女性が3人戻ってきていて、クイズを再開している。
だが、既に事前知識というのは終わって、これからは裏話だ。
今までは、ユキ君やコメット殿が集めてきた研究の結果を伝えることであり、それは、ノーブル殿たちの行動が無意味どころか、逆に悪化させる結果となっている。
さらに、ノーブル殿たちがこの国を作り上げた切っ掛け。
かの魔王戦役の発端がコメット殿にあると知れたらどうなるか……。
既に、暴れた際の予防策はユキ君が十重二十重に敷いているが、それでも被害はでる可能性があるから、このスタジオのメンバーはユキ君の直下の魔物たちで行っているのだ。
自らの思いが踏みにじられたとき、冷静に物事を判断できる者はそうそういない。
いや、結果が分かっていても、一矢報いるという覚悟を決める者も、存在する。
『……というわけ。今のところ、ランサー魔術学府の中央山地に魔力が集積している状態なの。魔物が発生する理由はさっき問題でだしたから覚えているわよね?』
『魔力が一定量以上集まると、魔物が発生する』
『その通り。これは、ウィードがある大陸では半ば常識だし、ランサー魔術学府近辺の魔物の出没率を考えればそこまで大きく外れてはいないでしょう。……で、そこから考えると……』
『ヒフィー殿や我々がことを大きく動かせば、魔力の集積が早まり、魔物が溢れかえる可能性があるわけですか……』
『あんた達だけってわけでもないわ。この6大国どれかが、下手に動いても問題なの。幸い、ユーー、ラビリスが他の5大国には大きな繋ぎを作っているし、ランサー魔術学府は知っての通りポープリとの繋がりがあるから、既に間引きとか監視を常にしているわ』
……ルナ殿。
「あれ、絶対、ユキさんって言いかけましたよね?」
「……そうだな。何のためにラビリス殿が影武者に立候補したかわからんぞ」
現代戦において、自らの位置を晒すというのは自殺行為だ。
位置というのは、どこにいるのか、というだけでなく名声なども意味する。
有名な人物を倒す、あるいは殺されるというのは、軍の全体の士気にかかわる。
確かに、有名な人物がいれば軍の士気は高まるが、その分リスクもでかいのだ。
だから、ユキ君は、その考えの基、信頼の置ける人にさえ、制限をかけて自分の存在自体をあやふやにしている。
自分が重要人物ではなく、ただの凡人で何も力が無いと振る舞っている。
それこそが、自らを守る最良の方法だと分かっているからだ。
だれも知らないというのは、それだけで物凄い利点になる。
が、そのユキ君の思惑をぶち壊せるのが、映像の真中でクイズの司会をしており、神々を顎で使えるらしい、女神ルナ殿ということだ。
上級神とかいうのはいまいちよくわからんが、神の世界でも階級があると思えばいいのだろう。
ユキ君は今回の問題、ノーブル殿たちの怒りがヒフィー殿やコメット殿へ向かぬよう、ルナ殿という切り札をきったのだ。正直、ルナ殿がユキ君の一番の天敵に見えてならない。
『なるほど。……我々は一歩も二歩も遅れていたのですね。守ると言って破滅に向かっていたとは。ルナ様、そしてラビリス殿、大変申し訳ない。そして、それを止めてくれたこと、まことに感謝いたします』
話を理解したノーブル殿は深々と頭を下げてお礼を言う。
真っすぐな御仁だ。
だが、これからさらに爆弾が放り込まれる。
『そう。理解してくれて嬉しいわ。でもね。あと1つ。伝えないといけないことがあるわ』
『まだ、なにか重要なことがあるのでしょうか?』
『ああ、魔力関連のことじゃないわよ。けじめって話』
『けじめですか?』
そう、けじめだ。
事故ではあったが、魔王戦役を引き起こしたのは間違いなくコメット殿であり、パートナーをしていたヒフィー殿の責任なのだ。
これを言わずに協力して、あとでばれれば内部崩壊しかねない。
その魔王戦役の当事者はノーブル殿たちと、ホワイトフォレストのごく一部の者たちだけ。
せめて、真実を伝える義務がある。隠すことは不義理にしかならない。
ヒフィー殿はこれがばれるのを嫌がったが、向き合わなくてはいけない。逃げてはならないことがあるのだ。
『ええ。ヒフィー本人から言わせようとも思ったんだけど、ちょーっと、色々な意味で本人に言わせるわけにはいかないから、私から言わせてもらうわ』
『……なるほど。責任感の強い彼女のことです。詳しい事情は話さず、ただ自分の責任というに違いない』
……ノーブル殿の推測はあながち外れてはいないと思いたいのだが、実際やっていたのは隠蔽工作だから何ともいえないな。
『さて、まずは簡潔に真実を使えましょう。あんたたちが本格的に立つきっかけになった魔王戦役。その発端を作ったのがコメットよ』
『『『は?』』』
ノーブル殿たちは理解できないという顔になった。
ま、当然だろう。
私もかの大戦の原因が目の前にいると言われても理解できるとは思えない。
『当然の反応ね。まあ、ヒフィーやコメットを見てわかると思うけど、意図的にやった事ではなく事故みたいなモノよ』
『当然でしょう。あのようなこの大陸すべてを巻き込んだといっていい戦役を、魔力枯渇や集積の話を知って、引き起こすメリットがどこにあるというのです』
『逆なのよ。知らなかったのよね』
『どういうことでしょうか?』
『さて、あんたたちは、ラビリスのウィードメンバーが必至こいて集めてきた情報を、分かりやすく映像化したおかげで、すんなりとこの情報を正しいと受け入れられたわよね?』
『はい。実にわかりやすいものでした』
『でも、当時のコメットには自分の研究成果がどれほど正しいのか、それをどうやって伝えたら理解を得られるかを悩んでいた。そこで、思いついたのが、自然と発生しつつある魔物の大氾濫を見逃して、大国を丸々一個潰して、分かりやすい結果を得ることだった』
『それは……』
『そう。あんたが悩んだように、コメットも悩んだ。でも、コメットの場合は基本この問題はコメット本人で片付けるつもりでいたから、誰にも魔力枯渇のことを話してはいなかったのよ。結果、部下というか聖剣使いのメンバーが魔物の大氾濫を止めるために、何も言わず、ただ反対するコメットを斬って、その大氾濫を止めた。だけど、それで、めでたしめでたし、になる世界じゃない。コメットの魔物の部下が大激怒して、世界に対して宣戦を布告。これが魔王戦役の始まり』
そう、つまりは……。
『身内の争いだったというのですか? あの多くの命が失われた戦いが……』
『身も蓋もない言い方をすればそうね。さーて、私からの長いお話しはおわり。……当時、多くのモノを失ったあんたたち2人が、ヒフィーとコメットに処罰を求めることは至極正しいことだと思うのだけれど、どうかしら?』
……私はいざとなれば、ノーブル殿たちの前に立つ。
今という時をくれた、彼女の為だ。今更惜しい命ではない。
そして、ノーブルが口を開く。
『ルナ様、私は……』
そして、エクス編というか、新大陸編は次で終わり。
あとはまとめと後日談を挟んで、新編へ。
さあ、ノーブルはどのような答えをだすのか。
そして、ヒフィーの罰は免れるのか? それとも……。
ま、察しのいい人は、タイゾウさんが出てきた時点で、ヒフィーの罰が察せられると思うな。
ヒントは、最初からヒフィーの隠蔽の意図はばれていた。つまりは……、次回を待て。
というかさ、休憩中にスマホ弄って上げてるけど、PCといろいろ違うから無駄に大変だよね。
これ家に帰ってから大人しくあげときゃよかった。
あと、いい加減、九州は福岡、くそ暑いです。




