第377堀:ダンジョンアタックする魔物たち
ダンジョンアタックする魔物たち
Side:スティーブ
本日は晴れ。
雲一つない青空ではなく、雲が混じる普通の晴れ。
草原には風が程よく吹いて草がなびき、森には木漏れ日ができ、そこに動物たちが集まっている。
恐らくはこれを平和だというのだろう。
だが、そう言うのはやはり一面でしかないとおいらは知っているっす。
だっておいらたちが、その平和を享受していないっすから。
この平和な気持ちの良い天気の中にあって、薄暗い影に潜み、装備を整え、息をずっと潜めているのがおいらたち。
この姿をみた一般の人は平和だとはいわないっすよねー。
まあ、その平和を保つために働いてるつもりではあるんっすけどね。
そんなことを考えつつ、装備の確認をしていると……。
『HよりLへ、予定に変更なし。繰り返す。予定に変更なし』
そんな連絡が入るっす。
「了解」
『そちらの準備の方はどうか?』
「発見しているエクス近辺、4か所全ての遺跡への派遣は既におわっているっす。現在、装備の点検、再確認中」
『了解。速やかに点検を済ませて、いつでも突入できるようにしておけ。ノーブルと接触をしたポープリたちはそろそろ演武に出席する予定だ。その隙に侵入を試みて色々な情報を集める手筈に変更はない』
「了解」
素早く各隊に連絡をとり現状を確認する。
大将がオペレートしてることを聞きたいっすけど、準備が終わってからっすね。
ということで、各自の準備が終わったことを確認して、大将に再度連絡を取る。
「LからHへ、全部隊準備完了。いつでも作戦開始できます」
『了解。その状態で待機せよ』
「で、大将がなんでオペしてるっすか?」
『ああ、オペレーターは各隊で別についている。俺は総括みたいな感じだな。余裕があるから直接話しているって感じだ』
「なるほど」
『そっちが潜入して、細々報告を上げ始めると反応はできんな。吟味することで忙しくなる。だから、この会話も最初だけだろう。まあ、死ぬなよ』
「敵さんが、おっかないトラップとか仕掛けてないことを祈るっすよ」
『そういえば、スティーブが潜入するところは本命だったよな?』
「そうっすよ。監視で人の出入りが確認されているっすから」
そう、おいらの担当場所は、4か所の内で唯一、人の出入りがある場所。
敵が何かをしている可能性がある最有力候補であり、4か所の中で一番困難だろうと言われている。
だからこそ、おいらが派遣されたわけっす。
『と、ポープリたちが動き出したな。時間合わせ、1100より探索を開始する』
「了解」
全員が腕時計を見つめる。
『5、4、3、2、1、……作戦開始。諸君の働きを期待する』
さて、いよいよ始まったっす。
「作戦通り、1人はここで入り口を監視。残りの4名は2名づつで、別れて捜索、情報収集を開始するっす。行動開始」
直ぐに潜入組のおいらたちは遺跡の入り口に近づく。
人の出入りはあるのだが、外に見張りは立っておらず、接近するだけなら特に問題は無い。
まあ、だからと言って、楽勝だぜーって思うことはないっす。
この遺跡、通路が最初は一直線なんでそこで誰かと鉢合わせする可能性が高いっす。
それから奥は先行偵察をしていないのでわからないっす。
色々心配な要素はあるっすけど、そこら辺はなんとか経験で越えていくしかないっすね。
一帯の索敵が済んだのか、ハンドサインを部下がくれるっす。
(辺りに気配なし)
(暗視装置、サーマルセンサー、魔力センサー、音源センサー共に反応なし)
よし。
特に問題はなさそうっすね。
(魔力遮断装置を起動。光学迷彩は敵をやり過ごす時のみとする。全員侵入開始)
音もなく遺跡に侵入し、一直線に伸びる通路を歩いて行く。
『HよりLへ、そちらの潜入を確認。ノーブルたちに特に反応はなし。作戦を続行せよ』
その連絡に声を出して返事することはない。
ただ報告を聞いて、作戦を続けるだけっす。
しかし、しばらく歩いているつもりなんですけど、トラップも何もないっすね。
もしかして、ただ使えるか様子見に来ただけで、本命は別だったってやつっすかね?
そんな心配も出てきたんで、どれぐらい歩いたか確認をとる。
(どれぐらい進んだ?)
(直線だったのでおよそ700メートルです)
やっぱりそのぐらいっすか。
しかし、思ったより長いっすね。
まあ、深く考えても仕方ないっす。今は奥に行ってみるのが大事っすね。
そして更に倍ぐらい歩いていると、進行方向から足音と人の話す声が聞こえてくる。
(全員、光学迷彩用意。入り口を見張っている連絡員に連絡。待機部隊から、追跡させて)
(((了解)))
全員その場で動くことなく、相手が来るのをじっと待つ。
「しかし、この通路長いよな」
「そうだな。まあ、再利用してるんだし仕方ない」
「でもよ、こんな場所じゃなくても研究なんてできるだろ? なんでまた陛下はこんなところでやっているんだろうな」
「そりゃー、警備がしやすいからだろう。お前が言ったように道が長いし、狭いとまでは言わないが、音が響く、侵入者がいたらすぐにわかる」
「あー、なるほどな。門番が奥にいるのも?」
「そうだ。外で見張っていると、どこから不意打ちが来るかわからないし、ここで何かやっていますよーって言ってるようなものだしな」
「上も色々考えてるんだなー」
「そういうことだ。まあ、物を運ぶ俺たちとしては大変なんだがな」
「だよなー。まったく、魔術学府のお偉いさんか何だか知らないけど、これを見せる価値はあるのかね?」
「俺たちが何を言ってもしかたないさ。命令通りに運ぶだけだ」
「ま、いいけどな。俺たちはいい暮らしさせてもらってるし、陛下がいいっていうならいいんだろうさ」
そんな話をしながら2人はおいらたちに気が付かずに通り過ぎていく。
(先ほどの会話をすぐに大将へ。こちらは情報収集が仕事っす。考えるのは向こうにまかせるっすよ)
(((了解)))
色々と考えたくはあるっすけど、今、おいらたちがすることじゃないっすからね。
しかし、門番ねー。
倒さないと中に入れないとかは面倒だなー。
その場合も想定はしているっすけど、仲間1人を囮にするっすからね。
危険が大きいのであんまりやりたくないっす。
そんなことを考えて進んでいると、階段にたどり着く。
(全員、気を引き締めていくっすよ。階段はトラップの宝庫っすから、厳重に注意を)
一歩一歩確実に降りていく。
圧力式とか、ピアノ線とか、魔力式のトラップが無いか、慎重に周りを観察して降りていく。
だが、特にトラップはなくそのまま下の階層にたどり着く。
色々と腑に落ちないっすけど、さっきすれ違った相手は特に訓練しているような感じはしなかったし、トラップはつけていないっすかね?
で、少し奥に進むとようやく開けた広間みたいな場所にでて、奥に門がそびえていた。
大体6メートルぐらいっすかね?
門には兵士が4人、門の上にも、警備の兵士が更に4人ほど立っている。
よくよく見ると、広間の入り口近くの両サイドには扉があって、広間に入ってきた相手をすぐに囲める態勢になっている。
なるほど、こりゃ通路にトラップは要らないわけっすね。
通路を無音で歩くのはほぼ不可能。すぐ気が付かれて迎撃態勢を整えられる。
上手くここまでたどり着いても、これ以上は奥に進めないし、軍事施設というのはすぐにわかる。
盗賊ごときでは、どうすることもできないっすね。
情報が流れていないのが多少不思議っすけど、最初からこの場所を別の施設ということで話しているなら特に疑問に思われないっすね。
国の備蓄施設とかにしてるなら、最初からここに盗賊が入り込もうとは思わないっすね。
集団で攻めても数を生かせないし、ようやくたどり着いたら門を突破するというお仕事。
どうせ、エクス王都にすぐ連絡がいくようになっているだろうから、そこまで距離も遠くないのですぐ援軍もくるって寸法っすね。
といっても、特に今のおいらたちには問題にはならないんすけどね。
これが、セキュリティの鉄扉とかだったら非常に面倒だったんすけど、上が空いているっすからね……。
(全員、門は閉じられているから、上に飛ぶっす。音に注意)
(((了解)))
映画の定番なら何かを引っ掛けて、壁をよじ登って、鉄条網をうまく抜けるとか高難易度なんすけど、よじ登る必要はないし、鉄条網もありはしないので楽っす。
超レベルでの俺TUEEEって素晴らしいと思うっす。
いや、おいら以上の化け物ならゴロゴロいるっすけどね。大将とか……。
ま、そこはどうでもいいや。考えてもしかたないし。
そんなことを考えつつも、簡単に門の上にたどり着く。
あっけないとは思いつつも。おいらたちの姿が見えていないので仕方がないっすね。
というか、排除する必要があったら、この門兵さんたちとか全員ぶっころの可能性もあったし、よかったっすね。
(予定通り、ここの調査は戻るときに余裕があればするっす。ここはいったん通り過ぎて、中身を確認するっすよ)
そうハンドサインを出すと、全員頷く。
今のところ問題はなく、大将にもメールと写真の経過報告を送って、それからさらに奥へ進む。
すると、更に場所が開けてそこには街が広がっていたっす。
流石に大将の作るダンジョンのように疑似的な空なんかは存在していないっすけど、地面は遺跡の石造りから土に変わっていて、暗さもなく、ところどころに木が生えており、ウィードとどこかしら似ているところがあるっす。
時間帯が昼頃ということもあってか、人が普通に出歩ている。
とりあえず、その様子を眺めつつ、街の中へ踏み込んでいく。
あ、今更っすけど、光学迷彩ならお互いのハンドサインみえなくね? って話だけど、このときだけ腕の光学迷彩を解いてるっす。
お互いの姿はサーマルセンサーで確認しているし、問題ないってことっす。
見られても、手だけ浮いてたって感じだから、勘違いか、頭がおかしいぐらいにしか思われないっすからね。
人の心理も利用するのは大将のお手の物。
とりあえず、大きさはそれなりで、かなりの人が住んでいると思える広さだったっす。
律儀に、広場みたいなところに街の地図がおいてあったっす。
大体四方5キロってところっすね。
大将の初期のころのダンジョンっぽいっすね。
その地図を写真に収めてから、人目のつかない家屋の屋根に上る。
路地とか定番の所なんて行かないっすよ。
こっちのほうが安全っすから。
「さーて、予想通りといいましょうか、予想以上といいましょうか……。ともかく、大将に報告を」
「了解」
ここでようやく声を出して指示を出す。
「とりあえず、中の調査はおいらたちに一任されているっす。まずは地図を見て調べるところを絞ってみるっすか」
写真に収めた地図をコール画面で展開、全員で確認する。
「……こっちは恐らく居住区っすね。細かい建物が密集しているっす。逆に反対側は大きい建物が多いから、何かしら組織だって作業を行う設備とみるべきっすね」
「そうですね。で、どうします?」
「ここから2、2でわけるっす。居住区の探索はそっちが。大きい建物、作業場らしきモノをおいらが引き受けるっす。大将からの連絡では、ノーブルおよび、エクス軍の動きは見えないらしいっすけど、油断はしないように。連絡はいつでも取れるようにしておくっすよ」
「「「了解」」」
そうして、おいらたちは大きい建物へと移動していく。
恐らく、おいらたちの方が危険っすよねー。
しかし、本当にダンジョンの中に街を作ったような感じっすね。
ここまでしっかり管理してるなら、書類とかありそうだから、それを狙うのがいいっすね。
ついでに、さっき通路ですれ違った人たちが魔道具とか言ってたから、それに関係する場所もあるだろうし、そこも調べられたらいいっすねー。
しかし、何というか、大将が心配したように、上手く行きすぎて逆に心配になるっすよね。
調べものしてたら、取り囲まれたりー……。
ま、その時はその時っすね。
今は、少しでも多くの情報を手に入れることが大事っすね。
どっかの特殊工作員とか、潜入ゲームみたいに、ボス戦とかありませんように。
そんなお約束は現実にはいらないっす。
というか、なんでダンジョンに配備されるべきおいらたち魔物がダンジョンアタックしてるっすかね?
深く考えちゃいけないんだろうなー。
スティーブたち潜入開始!!
長い一日は既に始まっています。
ポープリたちが目を引いて、エリス、スティーブ、霧華と一斉に行動を開始。
一体なにがでてくるのやら。
これが、こんなこともあろうかとという便利な言葉を出すために、皆が必死にやっている姿ということですね。
何事も地道な作業が大事なわけです。
一文で済むことも裏では大変だという話。




