第362堀:奴隷選び
第362堀:奴隷選び
Side:モーブ
ついにこの日がやってきてしまった。
来てほしくない日というのは必ずやってくるもんだなー。
そんなことを、この新大陸では上品なテーブルに置かれている、これまた上品なコップに注がれている水を見て思う。
「はぁー」
「どうした、具合でも悪いか?」
深くため息をつく俺に、心配そうにノードンが声をかけてくる。
「いや、王室御用達だって聞いてな……」
いや、実は奴隷を選んでいじられるのが嫌なんだって、言えるわけもないから、とりあえずそれらしいことを言う。
「ああ、緊張してるのか。なに、良い店主だ。そこまで硬くなる必要はないぞ」
本当に緊張だけならいいんだけどな……。
あー、どういう奴隷を選べば無難なんだ。
誰か教えてくれー。
「考えていることは、おおよそ理解できる。が、あきらめろ」
「ですね。どのみち弄られますし、なんというか、後継者って感じで探した方が、方針もあって回避しやすいんじゃないですか?」
ライヤとカースは、前にエリスたちを連れてきた作戦を継続して行うようだ。
確か、ライヤは戦闘に長けたのを、カースは学が良さそうなのをだったな。
俺だけ、バラバラだったから、そこをユキに突かれたわけか。
そうか、俺もカースの言う通り、何か方針を決めて奴隷を選べばいいのか。
これならいける。きっといけるぞ。
「お待たせしました」
と、ようやく店主が来たようだが、なんと珍しいことに女の店主か。
歳は30前半ってところか、奴隷商で女店主なんてのは色々な意味で凄いな。
「よう。元気そうだな。セフィーヌさん」
「おかげさまで、ノードン様」
「様はよしてくれい。こちとら、ただの傭兵だ」
「そして、私の恩人であり、今はお客様。丁寧に接するのは当然でございます」
「むう。そう言われると、何も言えんな。だが何かあれば言ってくれ、力になれることがあるなら手伝うぞ」
「はい。その時は頼らせてもらいます」
一々、動作が上品だ。
これは王室御用達というのは間違いないだろう。
しかし、なんで王室御用達の奴隷館があるのか不思議でならないけどな。
奴隷なんてのは、下っ端扱いがほとんどだ。
良くて、ちょっとした貴族の遊び物がいい所だろうが、王家の血筋に奴隷を引き入れるのは品性とかで、良い顔をされないんじゃないだろうか?
「なあ、セフィーヌさん。こいつらの緊張を解いてやってくれないか? 王室御用達って聞いて緊張しているようでな」
「まあ、王室御用達なんて大げさな。流石に王家の出入りがあるわけではありません。よくて公爵家の下働きの確保でございます。奴隷の首輪での諜報活動や裏切りを避けられますので、下は奴隷で固めたいという貴族の方が多いのです。それに加えて、私は見ての通り女ですし、同じ女性相手の教育がしやすいのでしょう。その点で他のお店よりは、貴族様の前に出しても恥ずかしくないようにはしてありますわ」
なるほどな。
セラリアの嬢ちゃんや、エルジュの嬢ちゃんの時も、身内の裏切りみたいな問題だし、そう言う意味では周りを動き回るメイドや雑用は奴隷の方が安全かもしれないなー。
「少しは緊張が解けたようですね。では、改めまして、私はこの奴隷館の店主のセフィーヌと申します」
「ああ、モーブだ。よろしく」
「ライヤだ」
「カースです。よろしくお願いします」
軽く挨拶をすると、流石、貴族相手に商売をしているせいか、視線が鋭く、素早く、俺たちをくまなく観察する。
「視線移動が見られるな。もうちょっと、全体を見るという風にした方がいい。熟練の者だと警戒するぞ。それか、その視線の鋭さを変えるべきだな。警戒していますと言わんばかりだ。驚いた、興味津々といった表情などでごまかすべきだな」
ライヤがすぐに注意を飛ばす。
指摘されたセフィーヌは目を丸くして驚いている。
「なっはっは。セフィーヌさん。こいつらは私以上だよ」
「ノードン様以上……ですか。ライヤ様、ご忠告痛み入ります」
「いや、相手によって変えているだろうから、余計な口出しだったらすまない」
「いいえ。いい経験になりました。で、こちらに来られたということは奴隷をお求めでしょうか?」
「そうだ。見ての通り、そろそろ良い歳でな。腕は鈍る一方だ。だから、いい人材でもいれば、教えて伝えるのもいいかなと思ってノードンに紹介してもらったんだが、まさかこんな大商人を紹介されるとは思わなかった」
「あらあら、御上手ですね。で、ご予算はおいくらほどで?」
「恐らく、無理をすれば、この店で一番高いのもいけるぐらいだ。ということで、いい人材を見繕ってくれれば助かる」
「まあ、それほどですか……。かしこまりました。少々お待ちください」
ライヤの奴が上手く手持ちの額をごまかしたな。
ユキから手渡された予算は、今まで他国からぶんどってきた資金とか援助とかで貰ったのが溜まっているので、下手すればここの経済が傾くほどだろう。
……今思えば、ここで食料買いあさって動けないようにするとかの方がいいんじゃねーか?
あ、でも、ダンジョンコアからの生産があると意味がないのか。
その前に、俺たちが買いあさっているのがばれるからダメか。
うーん。やっぱりこういうことはユキに任せるべきだな。
「お待たせいたしました。まずはこちらの子をご覧ください」
そう言って、セフィーヌが連れてきたのは奴隷じゃないだろう、と言わんばかりの上品なドレスを着た女の子だ。
「この子は、小国ではありますが、今は亡き某国の姫君でして、知識、教養、能力は折り紙付きです。が、少々世間知らずなところがありますので、そこら辺はご注意を」
お姫様ってどういうことだ?
いや、紛争みたいなのはどこでもあってるけど、お姫様が奴隷になるのかよ?
……俺が言えたことじゃないか。
「もしかして、意図的に奴隷になっていますか?」
「素晴らしい洞察力ですわね。カース様。その通りです。私の店は女性奴隷専門であり、このように敵国の姫君を閉じ込めておく為の牢獄の役割もあるのです」
「どういうことだ?」
「モーブさん、つまりですね。敵国の姫というのは、放っておくわけにはいかないんです。彼女を旗印にして、また騒乱を起こされても困りますから」
「そりゃそうだ。でも、奴隷の首輪でそういうことはできないだろう?」
「ええ。ですが、だからといって、彼女たちを王城に閉じ込めておくのも、占領した国から不満を買いますし、処刑なんてもってのほかです。でも好待遇で迎えすぎても身内から不満が出るし、身内がその亡国の姫と協力して謀反を起こす可能性も考えなければいけません」
「いや、結婚でもして、仲良く治めるってのはありじゃないか?」
よくある話だ、負けた国の姫君を下級貴族に与えて、統治をしやすくするってユキが言ってたし。
「……違いますよモーブさん。既にそれを通り過ぎているんです」
どういうことだ?
「カース様の言う通りです。彼女は、婚姻による身分と領地の安堵を拒み、最後までエクス王国の覇王、ノーブル陛下に逆らったのです。流石に、ここまでの相手を娶ろうという貴族の方はいませんし、逆に謀反を疑われるので、絶対に手を出そうとはしません」
「じゃ、俺たちに売るのも問題じゃないのか?」
「いいえ。それは問題ありません。一般の方では奴隷の首輪を解除できるわけがありませんし、エクス王国領内で、彼女のことはすべての奴隷商は知っています。いくら金を積まれようが解除はしません。他国に連れていかれて解放というのも手ですが、その時は厄介者がいなくなっただけですし。次、国内で見つけた時は斬り捨てればいいだけです。奴隷の首輪がなくなれば、この国ではこの子はただの罪人ですから。万が一、兵を集めてエクス王国に牙をむくのであれば、それこそ、温情無しで処刑できます。というわけで、ここまで事情が厄介だと一般の人も買い手が付きませんし、かといって、捨て値で売ることも今までの採算が合いませんし、捨て値で売れば私が謀反の手引きをしたと睨まれます」
難しいことはよくわからんが、ひじょーに厄介なのは分かった。
「よし。分かった。その姫さんを貰おう」
「え?」
「ちょ、ちょっとまてモーブ。話を聞いていたのか!?」
「そうですよ。まだ他の子を見てもいいでしょう!? 流石にこのお姫様を買うとすっからかんになりますよ!?」
慌てて止めに入るライヤとカースを手で制止する。
「まあまあ、落ち着け。俺たちは後継者が欲しいだけで、特に謀反とかをする気力はないだろう?」
「そりゃそうだが……」
「多少、跳ねっ返りのほうが、根性がある。王様に噛みついたとか、申し分ないだろう?」
「でも、流石にお姫様は監視がきますよ? ですよね、セフィーヌさん」
「ええ。流石に姫をというと、私もしっかり報告しないといけないし、国も監視を向けてくると思いますわ」
「願い叶ったりじゃないか。姫さんが逃げ出さない、変なことを考える奴らとの接触を防げるし、そう言う事を考える輩をあぶりだすのにも使える。だろ?」
「「「……」」」
なぜか、三者三様に驚いてやがる。
「確かに、そうですね。これなら、不穏分子の炙り出しに使えます。王城に使いを出して協力を打診してみます。向こうも、そう言う不穏分子を警戒して、ここに回したのですから、きっと協力してくれると思います。しばらくは行動を制限することになると思いますがいいでしょうか?」
「構わねーよ。どうせ、外での基礎訓練は1、2年はいるだろうからな」
俺がそうやってセフィーヌと話していると、後ろでライヤとカースがなにかボソボソ話している。
「……考えようによっては、注意を引くという役割も果たせないか?」
「……ですね。しかも、エクス王国と協力体制をとってです。一番理想に近いですよ。まさか狙ってやったのでしょうか?」
「いいや、そんなわけがない」
「ですよねー」
お前等……。
ま、そこはいいか。
「ま、動き出すのはちょっと待ってくれ」
「何か問題でも?」
「ああ、姫さんに意思を聞いていない。やる気のない奴を後継者にできないからな」
「あ、申し訳ありません。あまりにも画期的な発想で失念していました。さあ、ご挨拶をしなさい」
そう言われて、挨拶をしようとする姫さんだったが……。
「そんなことはいい。姫さん、話は聞いたな。逃げ出そうとしても、連絡を取ろうとしても多分殺される。それでも俺たちについて来て、腕を磨いてみようって思うなら返事をしろ」
俺がそう聞くと、すぐに姫さんは返事をする。
「やるわ!!」
部屋の外にも響き渡る、良い声で良い気迫だ。
それをノードンも感じ取ったのか、感心した様子だ。
「ほぉ、これは、当たりかもな。いくらスキルがあっても根性がないとどうにもならん。だが、この姫さんは、言っては悪いが、国が無くなったことが、後押しする結果になってるな。なあ、セフィーヌさん。他にこんな子いないか? ロゼッタ傭兵団にも欲しい人材だ。あ、モーブと同じように監視もOKだ」
「えーと。いないことはないですけど……。これぐらいしますよ?」
「高っ!? 今回の魔物の宝石全部うっぱらってようやく半分かよ!?」
向こうも戦力補強を考えたのだろうが、値段がトンデモなかったみたいだ。
「じゃ、支払いたのまー」
「わかった」
「お前等本当にため込んでたんだな」
「毎度ありがとうございます。監視役の手続きに時間がかかりますので少々お待ちください」
ふう。
これで、ユキの弄りは完全に回避だな。
『それで、名前も聞かずに宿に連れてきて、ようやく自己紹介したって? ひー、お腹痛い。モーブ、お前、凄い所をすっ飛ばすよな』
宿に戻って、ユキと連絡を取ってこの様だ。
くそ、俺はなんでこんなミスをするんだ。
「そこまでいじらないでやってくれ。成果としては十分だろう?」
『ああ、そうだな。お姫様とはこりゃ情報が期待できるだろうよ。しかもエクス王に逆らってんだからな。ついでに監視もモーブたちにつく、これは好都合だな。そのお姫様たちは監視の穴を縫って、ドッペルと入れ替えよう。こっちで情報を聞き出す』
「頼む」
『で、さっさと名前は聞いておけよ。何事もまずは挨拶からだしな』
「分かってるてーの」
……しかし、今更どういう聞き方をすればいいんだ?
お待たせしました!!
しかーし、細かい容姿とかはまだ書いていません。
大事なのはお姫様ということ!!
でも、感想欄の案を使わてもらったよー。
後の話で詳しい容姿とか話がでてくるからお楽しみ。
さて、話は変わって現在4月15日です。
メッセージや感想で地震での安否を気遣うコメントが見受けられました。
そのやさしさにまずは感謝を述べたいと思います。
ありがとう。
で、見ての通り無事です。
14日、のんびりウイニングポスト8 2016で馬が全然勝たないのでイライラしていた時に揺れました。
福岡の揺れは最初が大きかっただけで、後は特に問題なくすやすや寝れました。
熊本の皆は大丈夫かね?
あと、初めてのウイニングポストだけど、全然わかんねー。
じゃ、また次回!!




