第343堀:とんだ再会
とんだ再会
Side:ヒーナ ホワイトフォレスト宰相
『姉さん。なんで? なんで出ていくの? この国にいたらいいじゃない!!』
ああ、懐かしいですね。
この夢を見るのは何度目でしょうか?
当時の私は、何も考えていませんでした。
この国にいれば、すべてが丸く収まる。
そんな淡い夢を抱いていました。
姉の気持ちも考えずに。
そう、私こそが姉を追い詰めていたのに。
ただ、自分の都合のいい環境を、一時でもいいから守るためにそんな言葉を吐いたのです。
『それじゃ、駄目なのよ。私が、皆と聖剣を持ったのは、こんな吹いたら冷めるぬるま湯につかるためじゃないの』
『わかんない!! わかんないよ!! ぬるま湯なんかじゃないよ!! みんな楽しくすごせてるじゃない!! コメット様のことは残念だけど、皆、お姉ちゃんたちを恨んでなんかないよ!! だって、皆を守るためでしょう!!』
少し悲しい目をした後、姉さんはゆっくり口を開きます。
『他の皆のことは聞いてるでしょう?』
『し、しってるよ。助けた人たちの中の悪い人に捕まって、イジメられてるって……。でも、ほかの聖剣使いさまも助けて、ここに来ればいいんだよ!! そうだよ!! それがいいよ!!』
必死に私が紡いだ言葉は、姉さんたちが望んだ世界とはまるで遠い世界で、国の事情も全く鑑みない、本当に子供の絵空事でした。
『……それは無理だ』
『レフェスト、クロウディア、話はついたのね』
気が付くと、レフェストさんと、クロウディアさんが後ろにいます。
クロウディアさんは姉さんと同じように旅支度をしていました。
『な、なんで……ですか? ディア姉も姉さんも、ほかの聖剣使いさまも一緒にここにかくまってあげればいいじゃないですか!!』
『……各国は聖剣使いの力に恐怖を抱いているし、そんな恐怖の力を一国に集中することなんて認めるわけがない』
『だったらこっそり……』
『それも無理だ。彼女たちは、今は亡きコメット様の願いを果たそうとしている。いや、コメット様をその手で斬り捨てたからこそ、今のこの状態を認めるわけにはいかないのだ』
『そ、そんな……』
王様であるレフェストさんも止めてくれないと知って、姉さんを掴んでいた手がするりと落ちる。
もう、止められないんだと……。
『だが、私も国の長として、国の安定のためには、お前たちの行動が邪魔になるというのは分かる。何度も言うが、こういうことは徐々に解決していくべきだ。性急にやっても何もかわらん。かえって、問題が起こるだけだ。だから、私はお前たちの手助けはできんし、敵になるかもしれない。これが最後だ、本当にそれでもいくのか?』
『分かっています。お兄様。それでも……』
『それでも、私たちはやるって決めたの』
視界が歪んでいく。
当時の私はその時、大泣きして、陛下に抱えられてお城に戻ったんでしたっけ。
『まったく。バカ共が。こんな小さい妹を置いて行くことはなかろうに。せめてこの子が大きくなるまで待ってやれなかったのか……』
それから、私は必死に勉強しました。
いつか姉さんを見つけて、安心して戻って来られるような国にしようと……。
「……今日は、腰の方も問題なさそうね」
そんな夢を見たせいか、寝ざめはよく、この前やったぎっくり腰の痛みも、今日に限ってはなぜか落ち着いていた。
「こんな日が続いてくれればいいのだけれど、無理ね」
苦笑いをして、今日だけの幸運と認めてしまう。
なにせ、宰相。
殆どずーっと、机仕事なので、椅子に座ってやるのは普通。
他の文官たちもそうだし、この腰の痛みとは、これから、恐らく死ぬまで付き合うことになるだろう。
私も歳をとったものだわ。
子供の頃は、自分がこんなことでひーひー言うとは思ってなかったのに。
何時間も、机と向き合って勉強していても、襲ってくるのは眠気ぐらいだったのにね。
「今の姿を姉さんが見たらなんて言うかしら?」
不意に、先ほど見ていた夢の姉さんを思い出して、笑いがこぼれる。
夢の内容は喧嘩別れみたいな内容だったけれど、私としては、夢の中でも姉さんに会えたことは嬉しかった。
「お母様。起きていますか?」
そんなことを考えていると、娘のトモリが部屋に入ってくる。
「ええ。起きてるわ」
「その様子だと、腰の具合はよさそうですね。でも注意してください。お医者様からは一週間ほどは安静にといわれているのです」
「ふふっ。ええ、分かっているわ」
「なぜ笑っているのですか? なにか、おかしなところでもあったでしょうか?」
私の微笑みの理由が、自分の不備だと思ったのか、服装などを見直すトモリ。
「ごめんなさい。違うのよ。姿かたちは姉さんによく似ているのに、中身は私そっくりな堅物になってるから、少しおかしくてね」
「姉さん? ……ああ、聖剣使いのおばさまですか?」
「本人が聞いたらきっと怒るわよ。私でも、未だにおばさんって言われるのはイラッとくるから。あなたも、おばさん呼ばわりは嫌でしょう?」
「失言でした。しかし、今日になぜ? カーヤ様が出ていかれた日は今日ではなかったはずですが?」
「夢でね。姉さんたちが出て行った当日の日を見たの」
「……そうでしたか」
トモリはそう言って、少し困ったような申し訳ないような顔をする。
言い方が悪かったわね。
「ああ、気にしないで。悲しいとかそういうのはないから。夢の内容はあれだけれど。はっきりと姉さんの姿や表情を思い出せたのが嬉しくてね。それで起きたら、腰も痛まないし。何かいい日になるかもしれないわね」
「そうかもしれません。でも、安静の為に私が今日も傍にいます」
「……私を動けなくなった老人みたいに扱わないでくれるかしら?」
「それは流石に無理です。お母様は、このホワイトフォレストの宰相ですから。今回のぎっくり腰の件は、陛下も心より心配しておられますし、宰相が倒れれば国民の生活にかかわります。我慢してください」
「訂正するわ。私より頑固ね」
「お褒めに預かり光栄です。さ、朝食を済ませて、陛下との会議の後、書類業務です」
「……仕事は減らないのね」
「やっていただかなければ、国が止まります。仕事がいやなのであれば、私に立場を譲ってくれて構いませんが?」
「いやよ。まだまだ私は現役。娘にお役を譲るものですか」
「よかったです。あの仕事を任せられると、お母様と同じようになる自信がありますから、最低でもあと100年は続けてほしいものです」
「……少し、貴女を育てた親の顔が見たくなったわ」
「鏡を用意しましょう」
「叩き割るわよ」
まったく、こんなたくましい娘ができたと姉さんが知れば、一体どんな顔をするのかしら?
そんなことを考えつつ、朝食を済ませて、レフェスト兄さん、いえ陛下の元へ行くと……。
「おおっ、丁度良かった!! 見ろ、ヒーナ!! このクッション!! 山深くにいるという、スノウバードの羽を集めて作ったそうだ!! これを腰に置いて仕事をすれば楽になるぞ!!」
嬉しそうな表情で、聞くだけで高いとわかるクッションを私に差し出します。
「陛下、お心遣い感謝いたします」
「母の為にありがとうございます」
「ええい。他人行儀な態はよせ。種族は違えど、私とお前は兄と妹だ。馬鹿姉妹たちに国を押し付けられたあの日から、いや、コメット様に救っていただいた日から、私たちは、血よりも濃い絆で結ばれている。その娘のトモリも普通におじさんと呼んで構わんのだぞ。誰も文句は言わぬ」
こんな感じで、陛下、いえ、レフェスト兄さんは私や娘と接してくれる。
言っての通り、私と兄さんの関係は、誰でも知っている公然の秘密なので、そうとやかく言う人はいない。
「わかっております。ですが、今は公務中です。あきらめてください」
「はい。宰相のおっしゃる通りです。陛下のお気持ちには深く感謝し、理解もできますがご容赦ください」
「えーい。変なところで頑固になりおってからに。とりあえず、そのクッションは使え。いいな? いくら、私より見た目は老けているとはいえ、大事な妹だ。体は大事にしてくれ」「ちょ、へ、陛下!!」
「その喧嘩受けて立つわ。中庭にでろや。中身が枯れ切った爺が。そんなだから、結婚できないのよ」
「さ、宰相!?」
「おーし。兄より優れた妹など存在しないと教えてやろう。心配するな、腰に負担がかからないように一瞬でおわらせる」
「お、お2人とも落ち着いてくだ……」
無理よ。
お互いに痛い所を突かれて、一旦暴れるまで止まらないわ。
ここら辺は、対応能力不足ね。
ドカンッ!! ドドドドッ!!
「ちっ!! 幻術か!! 厄介な、前より更に偽物の区別がつかなくなっている」
「当然です!! 白毛の狐は歳を重ねるごとに、幻術の能力が上がるのです。より繊細に、精密に、経験の賜物というやつです!! しかし、兄さんも魔術の威力が上がっていませんか!?」
「エルフも同じように齢を重ねれば重ねるほど、魔力量があがり、魔術の威力も上がるのだよ!! だから、怪我しても私が治してやれるから、安心して、兄に負けるといいわ!! 腰は歳のせいで無理だがな!!」
「その腰へし折ってあげる!!」
女性に対してデリカシーが足りないのよ。兄さんは!!
ったく、仕事が残ってるから次の一撃で手早く終わらせるわ。
「うぉぉぉ!!」
「はぁぁぁ!!」
「ちょ、中庭の修繕が大変ですから、やめ……!!」
娘の静止を振り切って、私の極大のファイアーボールと、兄さんの極大のアイスボールがぶつか……。
バシュッ!! キィィン!!
……ることなく、私たちの間に入ってきた、剣士によって切り裂かれた。
魔術を切るなんて、よほどの手練れね。
でも、わざわざ、私たちのお遊びに割って入るような兵士はいないは……。
「まったく。お兄様は何をやっているのですか。城内とはいえ、城の顔ともいうべき中庭で魔術戦なんて!!」
「……」
そう叫ぶ声には聞き覚えがあった。
だけど、兄さんは驚きのあまり声を出せないみたい。
私もそうなのだけれど。
「久々に戻って来てみれば、なにじゃれてるのよ? こういうところがお転婆なのは、おばさんになっても変わってないみたいね」
「あ……あ……」
本当に声がでない。
だけど、声を出したい、でも、どんな言葉を紡げばいいかわからない。
だって、目の前に立っているのは……。
「貴様ら何者だ!! お前たちが剣を向けているのは、この国の王であるレフェスト陛下と、宰相のヒーナ様としっての狼藉か!! 陛下、宰相様、お早くお下がりください!! この無礼者たちは私がひっとらえます!!」
そう叫ぶ娘の顔を見ると、本当によく似ている。
「お、お待ちください!! トモリ様!! そのお方たちは!!」
ストング将軍が慌ててこちらに走ってきている。
ああ、彼が彼女たちを入れてくれたのね。
「ねえ、その子。なんかとっても見覚えがあるんだけど?」
「それはそうですよ」
あとで鏡を見せてあげましょう。
「お母様? お知り合いですか?」
私や兄さんの対応を見て、敵ではないと感じたのか、トモリが私にそう聞いてくる。
「お母様!? って、あれからずいぶん経つし、子供がいても当然か」
「お兄様は未だに独身みたいですが」
「それをお前に言われたくないわ。愚妹が」
とりあえず、戦闘どころではなくなったわね。
「愚妹? えーっと……妹? つまり……陛下の妹? ということは、聖剣使い!? で、では、こちらの方は……」
「そうです!! かの、伝説の聖剣使いの1人であり、トモリ様の伯母上でもあられる、カーヤ様です!!」
「で、でも、それだと少なくとも、お母様より年上のはずで……」
そうね。
なぜか、あの時とほとんど変わらないわ。
エルフのクロウディア様はともかく、狐人族の姉さんがなぜ?
「ふふん。それは聖剣使いの特権ってところね。ま、信じられないだろうから、分かりやすい証拠を……」
「証拠?」
「最後にヒーナがおねしょしたのは、12歳のころで、季節は……」
「だぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!! 黙ってください姉さん!! 本物って認めますから!!」
娘の前でそれはあんまりです!!
「いや、違うぞ。実はな、お前らが出て行ったあとの、13の……」
「兄さんも黙れやぁぁぁぁーーーー!!」
マジでデリカシーが無いわ、この爺!!
「……本物のようですね。私は、ヒーナの娘でトモリと言います。伝説の聖剣使いである、カーヤおばさまとお会いできてこうえ……」
ゴンッ!!
「カーヤお姉さんよ。いいわね?」
「は、はい!!」
ほら、怒った。
「使者の皆さま。どうかもう少しお待ちください。久々の再会でちょっと……」
「あー、うん。見たからわかる。どこか部屋で待っててもいい?」
「はっ!! ご案内します!! こちらです!!」
……え?
他国の使者がいたの?
やっばーーー!?
こ、国際問題になったりしないわよね!?
本編はついに、問題の再開です。
これから、問題なく話し合えるのか?
それとも、悪い方向に転んでしまうのか!!
次回を待て。
明日、いよいよガンダムブレイカー3発売日です!!
俺は、いつものようにジムで最初から最後まで戦い抜く所存であります!!
俺ガンダムを否定はしない。
だが、素組みのジムも悪くないんだ!!




