第293堀:こっちも密談
こっちも密談
Side:サマンサ
「なあ、サマンサ。姫様自ら、街の王都の案内をするほどのことか?」
私はユキ様にそう聞かれます。
ああ、凛々しいお顔。
そのまま近づかれると、キスしたくなります……。
でも、今求められているのは、私の愛ではなく、私の知識。
その役目も果たせぬまま、ユキ様の愛を貰おうなど、ただの愚物。
そのような事、たとえユキ様が許しても私が自分自身を許せません。
愛とは、ただ貰うだけでなく、お互い与え、そして支え合うのです。
「サマンサ? 大丈夫か?」
「あ、はい。申し訳ありません!! 少し見惚れていました」
「……そんな大層な顔じゃないと思うけどな。で、そこは一旦おいて、姫様の案内ってのはあると思うか?」
「いえ。そうそうあるとは思えません。一応、ユキ様はジルバ、エナーリア両王家の血筋を引いているという建前があるとはいえ。今のイニス姫様は国王陛下の名代なのです。この場合は相手が血筋を引いていようが、王位継承権があろうが、結局はただそれだけなので、今現在、国王陛下とほぼ同等の権限を持つ人物とは、立場が天と地ほどに違います。血筋や王位継承権で言えば、それは私だってそうなのですから。これでも公爵家、王家の分家ですから」
「そうだよな。ということは、本当におバカか、こっちの情報を精査して直々に様子を見るべしと考えたかだな」
今は、夕食が終わり、与えられた部屋でのんびりしつつ、先ほどのイニス姫様が夕食に乱入し、明日の王都案内を務めると宣言したことについての話し合いをしています。
「ついて来ていた、ファイゲル様はペコペコ謝っていましたわね。クリーナさん、ああいうことは普通なのでしょうか?」
「……あれは師匠の十八番。暴走する姫様の後始末で頭を下げるのはよくあると昔から聞いていた」
『ふうん。クリーナの話が本当なら、それ完全に探りを入れているわね』
コール越しに会話に参加しているセラリア様がそう言います。
腕には、サクラとユーユがいてとてもかわいらしいです。
いつか、私も自分の子供も抱くと思うと、幸せすぎです。
「セラリアはそう思うか」
『ええ。というか、この場合は、そのイニス姫が馬鹿という考えは捨てるべきね。何か目的ありきで行動していると思った方がいいわ。そもそも、本当に馬鹿で阿呆なら将軍職になんかついていないわよ。そんなのを上につけると戦力をすり減らすだけ。個人の部隊を持たせての遊撃隊の方が使いやすいわ』
セラリア様は元々将軍閣下だったらしく、こういう関連のことはとても鋭く優秀です。
「セラリア様の言う通りだと思います。本当にお転婆なだけのお姫様なら、それに越したことはありませんが、それを前提に持ってくるのは間違いでしょう。何かあっては遅いのですし、注意は払っておくべきかと思います」
「それが妥当か。しかし、予定ではビクセンさんの案内で王都観光をしつつ、適当にダンジョンを作って直通ルートを作ろうかと思っていたんだがな……」
『それは無理そうね。案内がお姫様なら、お忍びの護衛もいるでしょう。下手な動きはしない方がいいわ。まあ、お姫様と知り合ったのを利用して、物件を紹介してもらう方がいいでしょうね』
「それは監視してくれって言ってるようなもんじゃないか?」
『それはそうでしょうけど、ないよりはマシでしょう? 今あるアグウストとの直通は兵舎の真下よ? 王都内にある方がいいでしょう?』
「確かに王都に拠点があるのはやりやすいが、色々ばれる可能性もあるんだよな。ばれると非常に厄介なことにしかならないし……」
確かに、拠点は必要ですが、私たちウィードが持つ技術が知れれば放っておくはずがありません。
ヘタすると暗殺者を向けられるほどの脅威です。
「師匠の家は?」
「クリーナのお師匠、ファイゲル様は私から見た感じ、アグウストの忠臣という雰囲気が漂っていますわ。それは悪いことではないのですが、良かれ悪しかれ、報告されてしまいそうです」
「俺もそれは同意だな」
「それなら、当初の予定通り、師匠を物で釣って、指定保護下に置けばいい。それなら口止めもできる」
「どうでしょう? やってみるのはいいですが、私たちはイニス姫様が常に一緒ですから、その会話に持って行けそうにないですわ。そもそも、下手すればアグウストへの裏切り行為になりかねません。ファイゲル様がそんな提案を受けるかどうか」
ファイゲル様は思ったより忠誠心が高そうなので、こちら側に引き込む、こちら側だけに有利な状況にはできない気がします。
クリーナさんの言う、研究一筋の人物というのは、あえて作って見せていると思えます。
『なら、同時に色々やってみたらどう? 兵舎の方からは少し離れた場所に出口を作って、アグウストが知らないメンバーをやって、別ルートで拠点を手に入れさせて、お姫様の案内での物件も手に入れる。そして、クリーナの師匠の懐柔も行う』
「それが安全だな。じゃ、ミリーと霧華で、明日はアグウスト王都の拠点を確保してもらおう。ミリーがリーダーで、霧華はサポートな」
『わかりました』
『承知しました』
「クリーナは明日、ファイゲルさんを連れて家で交渉してくれ。俺たちが姫さんを引き受けるから、その間に色々やってみてくれ。ああ、交渉に使っていいアイテムの内容はナールジアさんやラッツ、エリスと相談してくれ。こっちだけに有利なんて内容は受け入れそうにないからな、向こうにも有益なことを提示すれば、頷く可能性も高くなるだろう」
「ん。わかった」
『はい。どんなアイテムがいいですか? いろいろありますよ』
「ナールジアさん、お手柔らかにお願いしますよ。こっちではナールジアさんの作るアイテムとか伝説レベルですから」
「そうですね。そこら辺の調整を誤るとそれだけで騒ぎになりかねません。クリーナ、ラッツ、私は、さっさと戻って、話し合いに行くべきね。ユキさん、いいですか?」
「ああ、頼む。話がまとまったら、報告をくれ」
「はい。わかりました。じゃ、戻るわよ2人とも」
「ん。わかった」
「お先に。みんなまた向こうでー」
そう言って、テキパキとやることを決めて、対応を怠らないユキ様。
カッコいいです。流石は、神から認められし人!!
私も、しっかり妻として、ユキ様を支えていかなくては!!
「さて、残るは明日の姫さん案内の王都観光だが……。なあ、サマンサ。アグウスト国特有の習慣とか文化、礼儀作法はないか? これをすると不味いって言うのは?」
「……いえ。特に思い当たりはありません。しかし、相手はイニス姫様ですし、王族相手の礼儀で文句を言う臣下がいるかもしれません。ファイゲル様はクリーナさんが引っ張るのですし、理解ある方が王都案内の付き添いに来てくれると助かるのですが」
「ああ、まあ定番だな。そういえば、そこら辺の情勢はどうなんだ? 王都の街並みを見る限り、そこまで荒れてはいないように、……平和に見えるが」
「私の知りうる限りは特に問題はないようです」
『そう。なら後は、ミリーと霧華が明日独自に探りを入れるべきね。変なことでトラブルに巻き込まれるのは嫌だし』
「そこら辺の、詳しい情報を手にいれるのは大事だな。ミリー、霧華、聞いた通りだ。明日は拠点を探しつつ、お国の情勢に関する情報も集めて来てくれ」
『任せてください』
『はい。わかりました』
「あと、トーリ、リエル、カヤはタイキ君たちと一緒に、学府の警戒な。魔物の増殖や強力な個体がいつ出てきてもおかしくない。油断だけはしないように。ポープリとララはいつもの通りに学府運営をたのむよ」
『『『了解』』』
ユキ様はそう言うと、今部屋にいる皆を見回し、間を置いて口を開きます。
「残りのメンバーは王都観光をしつつ、図書館で調べ物だな。聖剣使い関連、魔力枯渇関連の本があるといいけどな」
『そうね。聖剣使いたちは頑なだし。全く情報がないのよね』
「まあ。まだ捕まえて10日そこらだ。そう簡単に口を割るなら、最初から世界を滅ぼそうとか言うわけねえよ」
確かに、聖剣使いを捕まえて、まだ一か月も経っていません。
そんなことで口を割るなら、最初から世界をどうこうしようなどとは思わないでしょう。
でも、不思議です。
魔力枯渇関連はともかく、既に聖剣使いは全て捕まえているのですから、もうそっちの方向は心配しなくてもよいのではないでしょうか?
「紛失している残りの聖剣。その行方が分からんからな。どこで火の手が上がるか想像がつかん。魔力枯渇関連も、聖剣使いたちが言う、彼女がどこで亡くなったかも不明だ。ピース曰く、俺と同じように侵入対策で、転移トラップでつなげた孤立した空間らしいからな。詳細が全く不明だ」
ああ、そう言うことなのですね。
残りの聖剣が行方不明。
ユキ様が言うように、とても大きな不安の種ですわ。
『スィーアやキシュアは、最近ぽつぽつと喋り始めているけど、どれもピースと同じような情報なのよね。肝心の所はさっぱり』
確かそのお2人はエナーリア聖国、我がローデイ国の祖でしたね。
正直、信じられないと言った思いがあるのですが、ユキ様が嘘をつくわけがありませんし事実なのでしょう。
ですが、私が聞いた限りでは、どう考えても為政者の思考ではありません。
裏切られたというより、流れに逆らいすぎた印象が強いです。
失礼ではありますが、なぜこのような方たちが一時的とはいえ、国のトップになれたのか不思議でなりません。
「そこら辺は、じっくり行くしかないだろう。6大国の内4か国間は既にダンジョン経由で、簡単に移動できるから何かあってもそれなりに対応できる。亜人の国もここの交渉や予定が終わり次第、サマンサの親父さんの伝手で行く予定だし、残り最後の1つもジルバの友好国だ。足元は固め終わるから、本番はそこからと思った方がいいな」
『いままではうまく進み過ぎていたって感じかしら?』
「だな。前も言ったが、こうやって歴史を振り返るとか、環境問題を改善するためには莫大な時間と情報収集がいるんだよ。気長にやるしかない。幸い、重要拠点は押さえて、俺たちが目立たないように、お偉いさんとの繋ぎもできている。ある意味順調だろう」
なるほど。そう言う考え方もありますわね。
しっかり、足元を固めて目的に挑む。
言われれば納得ですが、それを本当に行うのは難しいものです。
私だって、次への手がかりがすぐ見つかると思っていましたから。
「幸い。雑学、飯の種って言ってるから、図書館通いには文句は言わないだろう。調べ物のローテーションは決めておかないとな。あ、この国から俺たちが出た後でも調べられる態勢はいるから、一般からの図書館を利用するための方法も聞いておかないといけない」
そして、そんなことを話していると、不意にワイワイやっていたアスリンが私の膝上に倒れ込みます。
「アスリン、どうかいたしましたか?」
私もクリーナさんも、アスリンとフィーリアは可愛い妹みたいなものです。
皆が癒しと言われる理由はよくわかります。
あの、無邪気な笑顔は色々殺伐とした日々を送っていた私には陽だまりと言ってもいいぐらいです。
ほっこりするような、気持ちよい日差しの中にいる感じがするのです。
「あ、サマンサお姉ちゃんごめんなさい。少し、眠く……」
アスリンはそう返すとスヤスヤと寝てしまいます。
もう、日が落ちて随分経ちますものね。
普通なら、お風呂に入ってもう寝る時間です。
「あ、ユキ様。アスリンのお風呂とか、ご飯はどうするのですか?」
そう、ここで食事はしたがあくまでドッペルの栄養であって、アスリンの本物の体が栄養を取ったわけではありません。
勿論、お風呂も入っていません。
「んー。これが家なら起こすんだけど。まだまだ、細かい所は話し合わないといけないからな……」
気が付けばユキ様の膝上にはフィーリアが頭を乗せて寝ています。
……妹同然の相手に羨ましいとか思いませんわよ?
「それなら、大丈夫よ。私たちがいるから、起きたらご飯とお風呂にいかせるわ」
「そうですね。そこは任せてください」
そう言うのはラビリスとシェーラ様、ラビリスとシェーラ様はアスリンとフィーリアよりちょっと年上の姉みたいな感じで、こうやって2人の面倒をよく見てくれます。
どちらとも、それなりの教育どころか、片やユキ様の代わりにダミーのダンジョンマスターを演じ、片やガルツ王族の姫です。
十分どころか、私の方が身分も立場も低いという凄い状況です。
いえ、それを言うのならば、女王陛下に、リテアの聖女様などと比べれば、本当に私の生い立ちは中途半端です。
ですがそのような高貴な生まれの方々も、私と仲良くしてくれます。
ともに夫を支えるため、私も意見をどんどん言って皆の力になろうと心の底から思います。
そんな決意を新たにしていると、ユキ様は思い出したように、口を開きます。
「そうか、頼むよ。じゃ、俺たちもさっさと終わらせて、戻って、ご飯食べてお風呂入るぞ。お風呂抜きとかいやだろ?」
「「「嫌です!!」」」
お風呂抜きなんてありえません!!
肌の手入れや髪の手入れを怠るなど、女として、妻として失格でしょう!!
と、夜更かしも天敵です!!
……時計は既に10時を回っています。
早く話を終えなければ!!
さて、次回から加速しますよ。
いままでちりばめてきた伏線回収のプランがようやくたったわけです!!
いや、いくつかのパターンは考えていたのですが、どうも個人的にチープになりすぎまして、伏線もあまり回収できないので、こうやってのんびり旅をさせつつ、自分は考えていたわけです。
では、次回を待て。
あと、寒くなってきたよね。
炬燵のでばんやな。
あと、ご飯も暖かいお鍋かね。




