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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
新大陸 学府編

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落とし穴46堀:贅沢な時間の使い方

贅沢な時間の使い方





side:ユキ



ざざーん。ざざーん。


そんな寄せては返す音だけが耳に入る。

目の前に広がるのは青い空と青い海。

誰の話声も聞こえない。

ただ、自然の営みだけが聞こえてくる。

砂浜は遠く、防波堤を真似てつくった、海にそびえるコンクリートの上。

ま、ここはダンジョンマスターのスキルを駆使して作ったのだから、海が荒れるということもないのだが、俺の趣味で海水浴とは違う位置に、この防波堤もどきを作った。


なぜか?


それは簡単だ。

夏の海で泳ぐ。

これは定番である。

しかし、それ以外の季節の海は何をして遊べばいい?

その質問は、島国日本に住んでいる人には愚問であろう。

答は……。


ビュッ!!


空を切る音が聞こえ……。


ポトン。


そんな音がして、青い海に、赤い点が浮き沈みする。

そう、釣りである。


釣り、それは遥か昔から存在する、魚をとらえる罠の一種である。

釣りの歴史は、いろいろ文献があるが、一番古いので、約4万年前の旧石器時代にまでさかのぼることができ、日本でも骨を利用した釣り針が出土している。

即ち、釣りとは、人とは切っても切れないものであり、海とともに生きてきた島国の日本人としては、母なる海に日々の糧を求め、歴史と共に有った物であり、現代にいたっては、レジャーとしても確立している。


そして、俺のしている釣りは浮き釣り。

玉浮き、生き餌を使ったタイプで、のんびり浮きを観察するものである。

ルアーや毛ばりのように、疑似餌を使うスポーツフィッシングと違って、体を動かさないタイプだ。

いや、正確には、浮きの沈みをよく観察して、餌を飲み込む前に引っ張り上げて、口に引っ掛けるのが浮き釣りの正しいやり方である。

釣った魚が針を完全に飲み込んでいたら、失敗と思っていい。

まあ、そんなのはしっかり釣りを楽しむ人のルールであって、俺みたいにのんびりするために竿を置いている者にはどうでもいいことである。


さて、話は変わるが、贅沢な時間の使い方とはなんだろうか?

ここでミソなのは有意義な時間の使い方ではなく、贅沢な時間の使い方ということ。

有意義というのは、意義がある時間の使い方なので、鍛錬とか自分にとっていいことに時間を使うことを意味する。

しかし、贅沢は違う。

俺の考える贅沢な時間の使い方。

いや、これ以上、贅沢な時間の使い方は存在しないと断言できる。

それは、時間を無駄に使うことである。

誰にとっても、もちろん自分にとっても、無駄に使うことである。

ボーっと過ごす。

これ以上、有限である自分の時間の贅沢な使い方はないだろう。


ということで、現代社会に疲れた俺は度々、時間を贅沢に使い、ボーっと過ごし、心を癒すために海に行ったのだ。

こんな風に、ただ空を眺め、たまに竿を上げる。

この時間の緩やかな、無駄な、時間の流れが俺を癒してくれる。

何も考えなくていい。


「……のんびりですわね」

「……ん。初めての経験」


横で一緒に竿を垂らすのは、今回の護衛役のサマンサとクリーナ。

ジェシカとリーアは俺のドッペルと一緒に、クリーナの国へ向かっている。

サマンサの時とは違って、公爵の領地ではなく、王都に行かなくてはいけないので3日ほどかかる。

アルフィンという聖剣使いの件で俺が多少余裕がなくなっていたので、ちょっと休みをとりたいと嫁さんたちに言ったら、すぐに許可をもらえた。

出発関連は任せて、俺はこうやって自分を見つめなおす。

というか、贅沢に時間を無駄にしてのんびりしているところなのだ。

で、のんびりするのが俺の庭、ダンジョン内ということで、護衛も、日の浅い2人で大丈夫だろうということで、この2人と一緒に竿を下ろしている。

最初は2人とも、この時間を無駄にするという、贅沢な時間の使い方に慣れていなかったのだが、元々2人とも、片や公爵家次女で毎日を忙しく過ごしていて、片や学府でシングルナンバー3という肩書を持ち、毎日を勉学、魔術の探求へと時間を使っていた。

どちらとも、時間は有意義に使うことはよくしていたが、贅沢に使うというのはしたことがなかったみたいだ。


「……ユキ様のいう通り、これこそ本当の贅沢ですわね」

「……ん。肯定。稼いだお金を使うわけでもなく、ただ時間を浪費するだけ。でも、この余裕は必要だと思う。この感覚は普通では得られない」

「ええ、なんというか。この、のんびりした時間の流れは他では得られないものがありますわね」


2人ともそう言って、ぼんやり水平線を眺めている。


「まあ、色々考え事がある人も、海を眺めに来ることも多いぞ」

「……それはわかりますわ」

「ん。この海原を前に色々考えるのは効率的に思える。……理由はないけど」


たぶん、それは、母なる海に惹かれているんだよ。

この感覚は、本当にやってみないとわからないんだよな。

ただボーっとしている。

流石にそれだと、退屈するので魚を釣るということをしているのだが。


クンッ、ククンッ。


そう思って竿を見ていると、明らかに何かが食いついた反応がある。


「2人とも、俺の竿見てみろ。ああやって、何かが食いつくとあんな感じに竿の先が反応する。無論、浮きも浮いたり沈んだりしている」

「あ、本当ですわ」

「聞いてはいたけど、実際見ると納得」


とりあえず、現場を見せるのが一番勉強になる。

2人の視線を集めたうえで、竿を引き上げる。

すると、思った以上の、いいサイズの魚がかかっていた。


「すごいですわ」

「すごい」


2人とも驚いているが、俺も驚いている。

防波堤から竿を振って釣れる魚なんぞ、たかが知れているはずだが……。

ああ、ここで釣りするのは俺たちだけだし、魚は人を警戒していないのか。

普通、釣りが有名な防波堤ではちっさいのが数匹釣れるか、砂の中で餌待ちしている、ヒラメなどぐらいしか大物はかからない。

と、そんなことより、さっさと針を外すか。


「あー、やっぱり飲み込んでるな」

「飲み込むですか?」

「どういうこと?」


2人は魚釣りがこれが初めてだ。

だから、針を飲み込むとかいう話は理解できないだろう。


「ほら、糸が魚の奥深く、見えないところまではいっているだろう?」

「はい」

「ん。それはわかる」

「本来、釣りの目的は魚を取って食べる。つまり食料を手に入れることだ。そして、釣り竿や釣り針は道具。つまり、正しい釣り方は飲み込む寸前に引っ張って、口に引っ掛けてて釣るのが正しいんだ。なぜかというと……」


とりあえず、釣り具箱からあるアイテムを取り出す。


「それはなんですの?」

「小さい鉄の棒に、フックが付いている?」


見た感じは、クリーナのいう通り。

これは魚が針を飲み込んだ時に使うもので、フックに釣り糸を通して、それを辿り釣り針を探し当てて……。


コン。


そんな硬いものと接触する感覚が手に広がる。

これが飲み込まれた釣り針だな。

釣り針の構造上、かえしがついているので、針を外すときはかなり力がいり、魚の口が裂けてしまうことが多い。

それを、魚の体内でヤレバ。


ゴリッ。


そんな音がして、とりあえず釣り針は回収できた。

しかし、釣り針を強引に体内で外された魚は血を流してビクンビクンしている。


「……う」

「……なるほど。体内で釣り針を外せば当然の帰結。そして、鮮度が落ちる」

「クリーナのいう通り、魚も内臓をずたずたにされて死んでしまうし、死んでしまえば鮮度が落ちる。だから口に引っ掛ける必要があるんだ。サマンサにはつらかったか?」


サマンサは、魚が取り置き用のバケツ中で、海水を血で染めているのを見て少し青い顔をしている。


「いえ、私も普通に魔物などを倒したりしています。ちょっと魚をこういう風に見ることはなくて慣れていなかっただけです。大丈夫ですわ」

「そうか。ま、無理するなよ」

「はい」


とりあえず、アイテムボックスの能力があるので、そっちにさっさと魚をしまう。

わざわざ鮮度を落とす必要もないからな。

こういうのは便利だよな。アイテムボックス。

すると、服を引っ張られる感覚がして、その方向を向いてみると、クリーナが俺を引っ張っていて、自分の竿を指さしていた。


「ユキ、私の竿の反応。魚かかってる?」


そう言われて、竿に目をやると、確かに波で来る反応とは全く違うしなりかたをしている。


「釣れてるな。自分で釣ってみるか?」

「ん。やる」


クリーナは即座に返事をして、竿を持ち、リールを巻く。

すると、竿がビクンビクン反応し始める。


「ん!? 引っ張られる!!」

「落ち着け、引きずり込まれるレベルじゃないなら、普通に巻いていけばいい。魚だって意にそぐわない方向に引っ張られるのは嫌だからな」

「納得」


俺の説明に納得したのか、カリカリとリールを巻いて、ついには魚を釣り上げる。


「クリーナさんすごいですわ」

「ん。ありがとう。みて、釣れた」


そう言って、魚を見せてくれるクリーナは年相応の女の子だ。

クリーナはサマンサよりも下でシェーラよりも少し年上、中学生ぐらいなのだが、今までクリーナを見てきてこういう顔は初めてだ。


「よかったな。えーと、釣り針は……運よく口に引っかかってるな。どうする? 自分でとってみるか?」

「ん。やる」


そう言って、クリーナはサマンサと協力しながら魚の口についた釣り針を回収する。


「綺麗にとれた。魚は死んでいない」

「ええ。そうですわね」

「よかったな。しかし、思ったよりも釣れるな。サマンサの竿も反応しているようだし」

「え!? ほ、本当ですわ!!」

「サマンサ頑張れ」

「ええ!! 私も釣り上げて見せますわ!!」


そして、サマンサも初めての感覚に戸惑いつつも、魚を無事に釣り上げる。

どっちとも、普通に食えるサイズだ。

だから、俺は家族の台所を預かる身として思ったわけだ。


「この大きさがそれなりに釣れるなら、今日の晩御飯は魚料理だな」


なんとなく、俺はそう言った。

いや、台所を預かる身でなくても、釣りをしに行くのだから、釣れればおかずが一品増えるぞとかいうだろう。

そう、そんな思いで、特に深く考えもしないで言ったのだ。

だが、2人はその言葉で動きを止める。


「魚料理ですか?」

「あの、美味しい?」

「ん? ああ、もっとも俺たちは大家族だからな。もっと釣らないと、皆の分がないから、メイン料理にはできないだろうな」


俺がそう言うと、2人は即座に釣り針に餌を付け直して、海へと放る。


「沢山釣りますわよ!!」

「ん。美味しいものを食べる」


ああ、海水浴の時のあのご飯か。

皆食い倒れていたな……。

嫁や女性としてはどうかと思ったが、ご飯を美味しいと言ってくれるのは俺としてはうれしい限りだ。

今日は、他の皆はお仕事だしな。

そうだな、美味いと言ってくれたご飯を用意して、疲れた皆をねぎらってやるべきだな。

さて、それなら、今からやるべきことは……。


「よし、2人とも、竿を持って別の場所に行くんだ」

「え?」

「なぜ?」


2人は不思議そうにこちらを振り返る。


「魚を釣る場所はここだけじゃない。少し移動しただけで、魚が釣れたりするポイントがあったりするんだ」


そう、釣りをするうえで一番大事なのは、釣る場所である。

魚のいない所に餌を落としても釣れるわけがない。

ならば、魚が多い場所に餌を落とせば食いつく。


「なるほど」

「ん、理に適っている」

「じゃ、今日の晩御飯を沢山釣るためにいい場所を、別れて探そう。見つかったらそこで3人で一気に釣る」

「わかりましたわ」

「わかった」


2人はすぐに、糸を巻いて、竿を上げ、思い思いの防波堤のポイントで竿を振る。

さて、俺が狙うのは……。

防波堤の一番先。

防波堤とは本来、波を防ぐためにある。

構造上、内海と外海とに分かれるのだ。

内海というのは、防波堤で囲われて、常に穏やかで、入り口が狭い船着き場のような場所をいう。

逆に外海というのは、外洋に面していて、海が荒れるとすぐに影響を受ける海のことを指す。

つまり、内海と外海では環境が違うといっていい。

そして、防波堤の一番先というのは、内海と外海の境。

内海に住む魚は、外海からくる餌を待ち、外海に住む魚は流れが集まっているので、そこに集まりやすい習性がある。

お互いの餌場ということだ。

まあ、全部が全部通用するわけではないが、ここはできたばかりで、釣りをするのは俺たちぐらい。

だから……。


「おっ、来たな」


浮きと竿が小刻みに反応して……。


「ここだ!!」


引っ張って口に針を引っ掛け、即座に巻き取る。

いいサイズの魚が釣れている。

しかし、まだ一匹目。

ここが入れ食いだとは限らない。

何度か試さないと。

結局、そこは俺の予想通り、入れ食いの場所で……。


「ああ、またきましたわ!!」

「私も」

「こっちもだ」


3人で沢山魚を釣って、晩御飯前に戻り、捌いて料理をして、皆で楽しい晩御飯を食べた。


「今日は楽しかったな」

「はい。とても楽しかったです」

「お腹もいっぱい。幸せ」


2人は自分が釣った魚が食卓に並べられて満足げな顔をしていた。

うん。

ボーっとするのは途中で終わったけど、こういうのもいいよな。

今度は皆を連れて、魚釣りをするのもいいかもしれない。





さて、みなさんは経験あるか知りませんが、竿をたらしてボーっとするのはいいものです。

子供のころは待つ釣りは退屈でかないませんでしたが、忙しくなって、この釣りをすると何か心が洗われる気がします。

秋も深まり、食べ物がおいしくなる時期ですが、食べすぎにご注意を。


では、また次回

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