第274堀:勇者の技
勇者の技
Side:ユキ
『さあ、いよいよ第二試合が始まろうとしています。観客の皆様はなるべく早く席にお戻りください』
そんなアナウンスが控室まできこえてくる。
拡声器の性能はそれなりに良いようだ。
「で、タイキ君、準備はいいのか?」
俺はそう言って目の前でのんびり座っているタイキ君に話しかける。
「ええ、大丈夫ですよ。体は十分に温まってますし」
「……代わりに、エオイドは死にそうだけどな」
タイキ君はぐるぐると肩を回して、体がほぐれていることを見せているが、代わりに、エオイドは返事する余裕すらないのか、肩で息をするだけだ。
「ま、ここまでやれば、緊張している暇すらないでしょ? この後、さらにユキさんがエオイドをしごきますか?」
タイキ君がそう言うと、聞こえてはいるらしく、ビクッと震えるエオイド。
「……やめとくわ。これ以上は動けなくなりそうだからな」
「じゃ、一緒に見学ですね」
「それがいいな。訓練しないなら、自分が戦う舞台を確認しておくべきだろう。タイキ君の戦いを見るのもいい経験になるだろうからな。動けるか、エオイド?」
「……はい」
ようやくここで、返事だけを返すエオイド。
うん、疲れ切った声をしちゃって。
ま、返事ができるなら十分に戦えるな。
本当に疲れている奴は、返事する前に寝入ってるよ。
「で、タイキ君はどんな方法で行くんだ?」
「無論、剣で行きますよ」
「剣って、物理はだめだぞ?」
「わかってますって、これ、杖を剣にしてるタイプなんですよ」
「ああ、自前の剣は使わないわけね」
「そりゃー、あれ使えば俺も聖剣使いの仲間入りですからね」
「自分で処理してくれるなら、聖剣使いの仲間入りしてくれていいぞ?」
「勘弁してくださいよ。そんな面倒事、誰がやりますか。ただでさえ通常業務が忙しいっていうのに」
ですよねー。
俺も絶対やりたくないわ。
特に、タイキ君の勇者の剣は3属性を込めた特殊なエンチャント剣で、この新大陸で1本につき1つの属性という常識を破っている。
それを所持するだけでも、大問題なのに、それを自由に操れるとすれば、もう新大陸での一番の注目の的だろう。
普通なら眉唾ものだといわれるだろうが、現在、ライブで中継中、記録にも残るし、言い逃れは不可能となる。
「そう言えば、俺の相手って誰なんです?」
「いや、俺は知らない。アーデスも慌てて集めてたみたいだからな。特に興味もなかったし。事前情報欲しかったか? 霧華なら知ってるとおもうけど、呼ぶか?」
「あ、いえ。そこまでしなくていいですよ。俺もなんとなく聞きたかっただけですし、世の中、相手の手札を全部把握して勝負できるって状況は稀ですしね。俺にとってはいい訓練ですよ」
「そうか。ま、せいぜい足元救われないようにな」
「でも、こういう舞台に立つとは思いませんでしたよ。なんていうか天下一武○会みたいじゃないですか」
「ああ、それは思った」
そうそう、優勝とかはないが、感覚的には天下一武○会だ。
プロレスみたいなリングじゃなくて、舞台なのがやっぱりそっちを連想させる。
「おら、わくわくしてきたぞ」
「いいねー。俺そのセリフ言い忘れたわ」
「あちゃー、もったいないことをしましたねー」
でも、俺も同じようにネタ技はしたけどな。
そんな雑談をしていると、ララ副学長が控え室に入ってきた。
「あの、時間になりましたので、タイキ殿は外へお願いします」
「はい、わかりました」
タイキ君は立ち上がり、そのまま外へ向かう。
「ほれ、エオイド、お前から何か言ってやれ」
「あ、はい。頑張ってください」
「おう。師匠として良い所をみせてやろう」
それに続くように、俺たちも控え室から見学できる位置まで一緒に出ていく。
『では、第二試合の前に両選手の紹介を行いたいと思います。まずは、学府第、なんと8位!! シングルナンバーと呼ばれている、学府最高戦力!! ソエル・ウォーバー!!』
わぁあぁぁぁぁーーーーー!!
ラッツの紹介と共に、舞台へ上がってくるのは……。
あれ? 水色の綺麗な長いストレートヘアーをなびかせる美少女。
……美少女? 女!?
「ふぁっ!?」
タイキ君も予想外だったのか、俺の横でへんな声を上げている。
『ごらんのとおり、綺麗な女生徒です。いやー、この学府。侮れませんね。こんな可憐な美少女がシングルナンバー、学府最高戦力とは』
『ちなみに、彼女は家名を持っていますが、貴族ではありません。このウォーバー家は、聞いたことがある人もいるかもしれませんが、商家でそれなりに有名な商人です。各国の王室への品物提供を行っているとのことです』
おおっーーー。
驚きの声が広がる。
まあ、王侯貴族とつながりがあるっていうのは、なかなか珍しいしな。
『こういうところが、学府の特徴と言っていいでしょう。彼女は危険な場所で戦わなくてもよい立場ではあります。しかし、自分が持てる才能を生かしたいと、この学府に入学し、その才能をグングン伸ばし、学府最高戦力、シングルナンバー入りを果たしています。これこそ、実力主義の中で生まれた天才と言っていいでしょう』
はぁー、大商人の娘ね。
下手すると、王侯貴族より贅沢できる立場だろうに。
何が彼女をここまで駆り立てたのか。
「……戦闘狂だったりな」
「……やめてくださいよ。どうしようか必死に悩んでいるのに」
タイキ君にとっては予想外すぎるよな。
女性が相手とか、色々不利すぎる。
敵として相対するなら、遠慮なんかしないだろうが、実際自国のお姫様おっぱらったし。
でも、今回は決闘だ。
敵というのは間違いだし、味方というわけでもない。
「クリーナ、サマンサ、あのソエルって子は知っているか?」
「あっ、そうだ。2人とも何かしりませんか」
長ったらしい、紹介をしている間に、嫁さんたちから情報を引き出そう。
「……ん。知っている」
「知らない方が可笑しいですわ。クリーナさん、ソエルさん、私、そして第1位、2位の方が女性です」
「は? トップ3の全員が女性か?」
「……? ああ。ユキ、勘違いしている。この新大陸は女性の方が、なぜか魔術を使えることが多い」
「はい。ユキ様の大陸はどちらも同じようですが、こちらは魔剣使いや聖剣使いといい、魔術は女性の方が使える方が多いですから。むしろトップ10の中に女性が5人しかいないというべきですね」
そう言えばそうだった。
……この新大陸の男性は肩身が狭いだろうな。
「なるほど。であのソエルさんの得意な魔術は……」
『さて、彼女の得意な魔術ですが……、これは驚いた。なんと、トリプルです。火、土、風の3属性使いです!!』
「……ラッツの言った通り、複数属性使い。私は4つ。この前ユキから風を教えてもらって5つ。火、水、土、氷、そして風」
「私は格段と落ちて2属性ですわね。攻撃手段として使えるのは主に氷だけですわ。水は攻撃に向いていませんので。……その、非才の身で申し訳ありません」
クリーナはともかく、サマンサは自分のことを話して落ち込んでいる。
無理に言わなくてもいいだろうに。
この場で抱きしめるのは、色々恥ずかしいので、頭を撫でる。
「あっ」
「非才とか関係ない。ほら、サマンサの親父さんやお母さんといっしょだ。愛があればいいだろう? 2人で、皆で頑張っていこう」
「……はい!! ありがとうございます!!」
「……ん。サマンサ、皆で頑張る」
「そうですね。非才とかで言ったら私とか村娘でしたし」
「……勇者が何をいいますか」
そうやって、嫁さんたちは仲を深めているが、タイキ君はいい顔を浮かべている。
「何かいい戦いかたでも思いついたか?」
「ええ、都合がいい。ちょっとアレを試してみます」
「えっ、タ、タイキさん。一応相手は第8位ですよ!? いくらタイキさんが強いと言っても……」
ああ、エオイドはタイキ君の本来の性能を知らないから心配するよな。
「ま、そこは心配せず見ておけ。タイキ君はすごいぞ。な」
「ですね。エオイドよく見ておけよ。これが俺の実力だってな」
……俺と同じく、お遊びの方向での実力発揮だと思うがな。
『では、その第8位のソエル・ウォーバーの相手を務めるのは、この人!! ジルバ、エナーリアからの編入生で順位不明!! しかーし、あのユキ選手と兄弟同然の付き合いをしているので、その実力は、私個人としては高く評価をしております!! その名も、タイキ!!』
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!
「え、なにその高評価」
「ほら、行って来い」
「ちょっ!?」
ラッツの過剰な紹介で会場が盛り上がり、本人のテンションはダダ下がりになる。
ある意味、スゲー恐ろしいわ。
タイキ君は恐る恐る、舞台の真中へ、ソエルさんがいる場所へと足を進める。
『さて、そのタイキ選手の能力ですが、ほぼ不明です。見ての通り、剣を媒体として魔術で戦うタイプなので、スピードを生かしたタイプと見るべきでしょう』
いや、エリス知ってるよね?
タイキ君の戦闘スタイル知ってるよね?
だって、出会いがしら、嫁さん全員で連携攻撃仕掛けたし。
殺す一歩手前まで行ったし。
『となると、ソエル選手は相手に攻撃させないよう撃ちまくるのがスタイルと書いてありますし、これは接近する前に、ソエル選手がタイキ選手を倒せるか? その一点に集約されると思いますね』
いや、この新大陸の魔術は、タイキ君レベルには無効だしな。
無論、嫁さんたちにも効かない。
『あなたが、学長を下したエリスさん、傭兵団の一員の方ですか』
『えーと、はい』
あ、会話はララ副学長が持っているマイクから、決闘場全体に伝わっているのか。
『では、タイキさんもエリスさん同様、相当の使い手と見てよろしいでしょうか?』
『いや。エリスさんにはちょっと及ばないですね』
うん。
いろんな意味で間違いではない。
ガチのぶつかり合いなら、タイキ君の方が有利だが、ウィードのほぼ全体の金銭権限を持っている彼女は各国でも恐れられているのだ。
無論、国交を持っているタイキ君の国もエリスには頭が上がらない。
支援金とかの捻出もしてるしな。
『ちょっとですか。……私はアーデスさんのように油断はしません。最初から全力でいかせてもらいます』
『はい。いい試合にしましょう』
そう言って、2人は距離をあける。
俺の時もそうだったが、結構離れていて、魔術の詠唱をするための距離のようだ。
これで、手数で攻めるか、一発ドカンといくか、という各々の判断になるわけだ。
そして、ララ副学長が片手を上げ……。
「最後まで全力を尽くし、魔術をつかえ!! それが最強に、多くの人を守る力に至る道である!!」
そう、マイクを使わず、綺麗な声が決闘場に響き……。
「これより、ソエル・ウォーバー対タイキの決闘を開始します。……始め!!」
振り下ろされた。
わあぁぁぁぁぁぁあーーーーー!!
歓声が響くと同時に、ソエルが即座に人より大きい岩を生み出す。
『おおーっと!! 第一試合とは違い、ソエル選手すぐに攻める気だ!!』
『確かに、タイキ選手は剣を媒体としていますので、近距離での高火力と推測ができます。そうなる前に叩き潰す。正しい判断だと思います。と、魔術を放ちました。あれは土の魔術でストーンシューターですね』
おおっ、思った以上にスピードが速い。
これ、直撃したら一般人はぺちゃんこじゃね?
一瞬でグロ画像で規制決定だよ。
で、スピードは速いので、そのままタイキ君に直撃するはずなのだが……。
『おっと? 大岩が空中で止まりました。タイキ選手には届いていませんし、ソエル選手が視界を塞ぐために止めたのでしょうか……って、おおーーー!!』
「なっ!?」
おおーーーー!!
驚きの声と共に、大岩が真っ二つになって、地面に落ちる。
そして、その先にはタイキ君が剣をだらりと下げて、こう呟く。
「大○斬」
お、王道できやがった!?
あの技こそ、硬い物体や敵を切り裂く、大地の技。
奴は、この舞台であの必殺剣を完成させるつもりか!!
確かに、このファンタジー世界に相応しい剣技ではある。
しかし、大人になればなるほど、その技を言うのは恐れおおくなる。
だって、それは子供の頃の夢だったから。
……それを、タイキ君はやるつもりか!!
『な、なんということでしょうか!! 飛来してきた大岩を斬った!!』
『おそらくは風の魔術ですね。飛来して斬った岩がそのまま下に落下するわけはありません。しかし、パッと見た感じ、綺麗な切り口です。すさまじい近接魔術と言ったところでしょう』
いや、違うんだ。
人間は疲れ切った時、最小限の行動、つまり無駄のない動きをしようとする。
無駄のない攻撃とは、つまり最大火力となり、武器と身体能力が完全に調和し、斬れるという結果が生まれる。
どこかの先生の説明そのままだけどな!!
実際は、魔力操作でエオイドの強化をまねて、剣の強度を上げてるんだろうけど。
『しかし、タイキ選手なぜか動きません!! その隙に、ソエル選手。少し大きさを下げて、手数にでた!!』
『それでも、人より少し小さいぐらいです。先ほどの速度で撃ちだせば致命傷になるでしょう』
動かないタイキ君に対して、ソエルさんは手数に打って出てきたみたいだが……。
タイキ君はそれを待っていたんだ。
なにせ、見せ場だからな。
ドドドド……。
そんな重い音が響いて、岩は舞台へと落下する。
「う、そ……」
ソエルさんも信じられないといった顔をしている。
それもそのはず……。
『なんと、タイキ選手。無数の岩を全て斬った!! これはすごい!!』
『なるほど、動かないのはこの攻撃が無意味だからですか。これでは勝負たりえないと』
エリスの言う通り、この程度では、タイキ君を動かすことは叶わない。
彼が動くときは、3つの剣技を全て見せてからなのだから。
「……なぜ動かないのです」
ソエルさんも、ようやく自分が手加減されていることに気が付いて、底冷えするような声でタイキ君に話しかける。
声をかけられた本人は、剣をだらりと下げたまま、のんびり答える。
「だって、ソエルさんもまだ全力じゃないでしょう? まだ見せてもらったのは1つだけ。そして、この戦いの挑戦者はソエルさんだ。俺から動く理由がない。いい試合にしたいんだろ? まずは俺をここから動かすのが先だ。それとも、これが全力だった?」
おおう、美少女相手に挑発をかけるとは、タイキ君らしくない。
まあ、全力出せば、本当にあっという間だしな。
あの剣技を披露するなら、ソエルさんの使用魔術の属性は都合がよすぎる。
あくまでも、ネタ技だから、意外性はあっても常時使える技でもないし、俺とあの技を練習したら火力が違いすぎて実用性がないと証明されるしな。
そういう意味でも、あのソエルさんは都合がよすぎるのだ。
「いいでしょう。確かに私は全力で行くと言いましたが、試した部分もあります。あなたが私に相応しい相手かどうかを。だから、これならどうでしょうか!! ファイアーウォール!!」
ああ、怒ってるよ。
本人もそれなりに自信のある攻撃だったんだろうな。
で、次は炎の魔術に切り替えてきたか。
炎の壁で、普通ならよける以外回避方法がない。
つまり、タイキ君を動かすという目的を達成できる。
……普通ならな。
「岩のようには切れませんよ!! もとより形のない物!! 動かなければ黒焦げです!! 近接しかないあなたには迎撃不可能です!!」
だが、タイキ君は動かない。
ソエルさんは、俺の時のアーデスと同じように、よけたタイキ君を追撃する準備をしている。
が、なぜ炎を切れないと思った?
そして、タイキ君が剣を振るう。
いや、その姿を捉えられるのはウィードメンバーだけだろう。
ブワッ!!
「え、え……」
ソエルさんは目の前の出来事にただ口を開けるだけである。
そう、目の前には、確かに炎の壁が斬られて、タイキ君をよけて真っ二つになっている。
剣を振り切った姿なので、だれもが、こう思うはずだ……。
『なんと、炎を斬った!! 斬ってしまった!! 真っ二つ!! 真っ二つです!!』
『……風の魔術の応用だと思われますが、これはすごいですね。ただ一撃を送るだけでは穴が開くだけで、すぐにふさがります。しかし、二つに斬るということは常時すさまじい風を送って、炎を分断させる必要があります』
流石にエリスも驚いている。
実際は魔術をつかってないからな。
文字通り、スピードで切り裂いたのだ。
「海○斬」
タイキ君が呟く。
そう、この剣技こそ水や炎という不定形の物を切り裂く海の技。
「ま、まさか、ここまでとは。いいでしょう!! 私の風の魔術を見なさい!!」
ソエルさんはそう言って、魔術を発動させる。
……ん、これって魔術術式がっておい!?
『な、なんと、ソエル選手が増えました!? 4人います!! わ、私の見間違えでしょうか?』
ラッツが叫んだ通り、ソエルは4人になっていた。
変な術式だったが、あれだろう、光の屈折率を変えて、分身を作り出したんだろうな。
非常に維持がめんどいタイプだ。
水の魔術で作った方がらくじゃね? ってソエルさんは水なかったか。
『お、おそらく風の魔術の応用だと思いますが。学長、彼女のあの魔術はご存知でしょうか?』
『ええ。彼女の奥の手ともいう魔術ですね。風というのは風を起こすだけでなく、ああいう風に応用をすれば、鏡のような役割も果たします。そして、あの分身は激しい風で構成されていますので、近づけば、それだけでダメージを受けるでしょう』
『なるほど。これは、流石にタイキ選手も動かないわけには……』
「空○斬」
パパパンッ!!
エリス、甘いぞ。
最後の1つの技は、心の目で、本質を見抜き、そこを一点に攻撃する。
即ち、この場合はあの分身を起動させている魔術の起点を一気に破壊する。
いや、実際は魔力感知でどこが起点か調べたんだろうが、同じ意味だしOK。
これぞ、見えない敵を討つ、空の技。
闘気はこの世界にあるか不明だし、魔力で代用だろうが。
しかし、ソエルさんとの魔術の相性がよかったからだろうが、ここまで、あの技を真似る、いや、これはオマージュだな!!
熱い気持ちが分かるぞ、男の俺たちは子供の頃、真似をしたんだ!!
「あ、あ、ありえない。一瞬で……」
愕然とするソエルさんに、タイキ君はついに動く。
『おおっと、タイキ選手が初めて、動いた!! ……ん? しかしこれは、様子が変だ!!』
『剣を逆手に持ってますね? 何の意味があるのでしょうか? ナイフでもないですし……』
エリス。そこはツッコんじゃダメなんだ!!
ロマンなんだ!!
様式美なんだ!!
それが、夢だからだ!!
「ソエルさん、今度はこっちから行かせてもらう」
「っつ!?」
タイキ君の言葉で、ソエルさんは攻撃のチャンスを不意にしたと悟り、防御態勢を取る。
『おおーっと!! タイキ選手が今度は攻撃するようですが、その宣言で、岩の壁をだし、炎で包み、風が吹き荒れる!! これは近寄れない!! 近寄ればダメージは必定だ!!』
『……いえ、タイキ選手は攻撃を敢行するようです。腰を深く落として、飛び出した!!』
さあタイキ君、やるんだ!!
大地を斬り、海を斬り、空を斬り、そして全てを斬る技。
『タ、タイキ選手の剣が光っています!?』
『こ、これは雷でしょうか!?』
「ア○ンストラッシュ!!」
よく言った!!
タイキ君、君をパクリという奴は日本にはいない!!
これはオマージュだ!!
見せてやれ!!
日本の男の子がこぞって真似をした、伝説の技の威力を!!
そして、閃光がソエルさんを守る防壁を覆い尽くし……。
ズドーン!!
爆音が響き渡る。
『ソエル選手、防壁ごと閃光に飲まれたーーーーー!!』
『音から察するに、すさまじい威力なのはわかりますが、これは、ソエル選手の安否が気遣われます』
あ、やっべ。
つい興奮してたが、アレ大丈夫か?
ふむ、タイキ君は特に慌てていないから、手加減はしたんだろう。
そして、煙が消えると、横たわるソエルさんが姿を現し、ララ副学長が慌てて近寄り、安否の確認をおこうなう。
『大丈夫です。命に別状はありません。気絶しているだけです。この勝負、タイキ選手の勝利です!!』
わぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁーーーーー!!
大歓声が決闘場を埋め尽くす。
『素晴らしい、魔術戦に観客は大興奮のようです。私もかなり驚きました』
『はい。私も見たことのない魔術もあり、色々と勉強になりました。まだまだ、魔術の世界は奥が深いということですね』
『……おっと、ソエル選手が目を覚ましたようです。負けはしましたが、素晴らしい戦いを見せてくれた彼女に、そして、勝利を収めたタイキ選手に惜しみない拍手を!!』
パチパチパチ……!!
「タイキ様!! 素敵でしたーーー!!」
あ、アイリさんがタイキ君へ手を振っている。
横にいるリエルとフィーリアはなぜかぐったりしている。なんでだ?
「……はぁ、ここまで力の差があるとは思いませんでした。素晴らしいですね。タイキさん」
「いや、ソエルさんもすごかったですよ」
「ふふっ、そう言ってもらえてうれしいです。ところで、質問をよろしいでしょうか?」
「はい、構いませんよ?」
「話を聞いた限り、あちらでタイキさんへ手を振っている彼女が奥様とか」
「ええ。妻のアイリです」
「ほかに、側室などは?」
「いえ、いませんけど……」
ん、なにか面白い流れになってるな。
録画してて正解だな。くくく……。
「タイキさんほどの方でしたら、側室がいても当然でしょう。よければ私が立候補してよろしいでしょうか?」
「はぁ!?」
「無論、アイリさんを排斥しようなどとは考えておりません。ちゃんと彼女とお話を通しますので。あ、お父様に連絡しないと。ではまたあとで」
「ちょ、ちょっと!?」
タイキ君が止めるのもむなしく、ソエルさんは走り去ってしまう。
こりゃ、面白くなってきたな。
相手は大商人の娘だし、下手な貴族よりよっぽど、タイキ君には都合がいい。
いや、タイキ君本人の意見は無視で、国としてな。
心根もよし、あとはアイリさんと仲良くやれるかだな。
『ソエル選手、走り去っていきました。流石に負けるというのは堪えたのでしょう。と、第3試合は休憩を30分挟んでからになります。ご来場の皆様はこの間にトイレなどを済ませてください』
『はい。この時間で、今回の決闘祭に協力してくれたスポンサー、協力者、提供者を紹介いたします。まずは、決闘場の開放をランサー魔術学府、決闘場の警備を傭兵ギルド、街への告知を……』
そんな放送が流れる中、トボトボと勝利したはずのタイキ君が、負けたような顔つきで戻ってくる。
「……どうしましょう?」
「……がんばれ。俺はこれをやってきた。大丈夫、さっきの会話はしっかり録画してる。逃げることはできん」
「ぐはっ!? ちょ、それは消してくださいよ!?」
「それはできない。ソエルさんの承諾も受けないといけないし、これをタイキ君たちで見て彼女の人となりを把握するのに必要だろ?」
「ぎゃー!! 公開処刑ですよ!!」
あきらめるがいい!!
そんなやり取りをタイキ君としていたんだが、後ろから変な声が聞こえてくる。
「……あ、あの」
「「ん?」」
振りかえるとそこには、緊張に顔をこわばらせたエオイドが立っていた。
「お、俺、タイキさんみたいな戦いできませんよ!?」
既に泣きそうになっている。
だけど、俺とタイキ君はその姿を見て笑う。
「な、なんで笑うんですか?」
「そりゃ、エオイドはエオイドのやり方しかないからな」
「だな。俺たちを真似る必要なんてない」
そして、俺とタイキ君はエオイドの胸に拳をトンと当てる。
「全力ぶつけてこい。自分が弱いってのはしってるだろ?」
「はい」
タイキ君は、ただ挑めと告げる。
だが、エオイドにとっては決闘はおまけだ。
タイキ君の挑めとは別のことを指している。
「アマンダに、自分の気持ちを決闘で見せてみろ」
「はい!!」
そう、これはエオイドとアマンダの舞台なのだから。
頑張れ、男の子。
誰もが夢見てまねした、飛天○剣流と双璧をなす、掃除道具ほうきで再現された必殺技!!
あなたも、昔あったのではなかろうか?
逆手にもって……。
さて、次はいよいよエオイドの番です。
今まではいうなれば、前座。
本番はこれからだ。
で、皆さんに報告があります。
モンスター文庫より9月30日「必勝ダンジョン運営方法2」が発売されることになり、先日15日に表紙が公開されました。
興味のある方はどうぞ。
そして、この「必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない」ですが、
本日9月16日をもって、5000万PVと540万ユニークを達成。
皆さんが今まで読んできてくれたおかげです。
ありがとうございます。
では、また次回にて。




