第273堀:厄介な事には隠し札
厄介な事には隠し札
side:モーブ ウィード冒険者ギルド専属
俺たちは、いつもと同じように、亜人族の村?の詰め所でのんびりしていた。
早朝の訓練を終えた後は、俺やライヤ、カースは一応自警団のトップという扱いになるので、こうやって、日がな一日詰め所に詰めて、村の問題にいつでも対処できるようにしている。
これがひどい退屈なんだ。
冒険者ギルドで街の専属になった感じなんだよ。
やることもほぼおんなじ。規模が……どっちもどっちだな。
ギルドはギルドであっちこっちに依頼で飛ばされることもあるし、村は村で基本活動範囲は広い。
でも、常時トラブルがあるわけでもないので、こうやって暇なときは暇すぎて死にそうになる。
『わあぁぁぁぁぁー!!』
そんな、声が薄いガラスの板を付けた黒い物体から聞こえる。
そう、こっちの暇つぶしでユキがテレビを設置してくれた。
DVDとかの使い方も覚えたから、暇つぶしにはちょうどいいんだが、いろいろ見てると、ウィードに戻るのを忘れて、そのまま徹夜するというおっかない代物なんだよな。
ま、今日は、ユキたちが学府で決闘祭りの中継を送ってくれてるから、いい暇つぶしにはなっているが。
なにか、ビデオカメラで今撮っているものをそのままテレビに送るライブ中継の実験をしているらしく。
俺たちにも、問題がないか、視聴するようにいわれたのだ。
確か、電波?よりも魔力の方が伝達率がいいので、魔力系で送受信のなんたらかんたらってザーギスが言ってたような……。
『さ、白熱の試合でしたが、まだまだ始まったばかり!! 次の第二試合も楽しみにしてください!!』
『30分の休憩が入りますので、その間にトイレなどを済ませてください。具合の悪い方は救護室の方へ……』
細かいことはいいか。俺にはよくわからん。
ああいうことは、専門家だけがわかればいい。
俺は、どのボタンを押せばテレビやDVDが見れるかわかればそれでいい。
適材適所というところだ。
「おーい。モーブ、ウィードから追加の物資買ってきたぞ」
「はい、モーブさん。ビール」
「お、サンキュー」
買い出しに出ていた、ライヤとカースが戻ってくる。
追加の物資といってはいるが、買い出しと言っているように、個人使用のモノばかりだ。
銃とか、びっくりどっきり兵器は、常にスティーブたちの部下が管理して補充を行っている。
というか、この亜人の村?とは言っているが、この新大陸で秘密裏に直接ダンジョンが通じている唯一の場所だ。
ミノちゃんとジョンがトップを務める、大軍用ダンジョンはすでにエナーリアに知られていて、ミノちゃんたちがエナーリアと交渉している。
なので、ミノちゃんたちのダンジョンはあくまでも、この新大陸の常識が通用する場所になっている。
つまり、表向きは弓矢とかバリスタを備えていることぐらい。
無論、大事用に兵器を常備はしているが、この村みたいに大々的に配備はしていない。
いや、村というより、ダンジョンに配備だな。
村とダンジョンは別々の組織といっていいだろう。
一応、保護という名目で俺たちが派遣という形になってはいるが、村人たちはダンジョンへの施設への立ち入りは許可されていないし、侵入することもできない。
そうしないと、いろいろな意味であぶないからな。
「なんだ。試合はまだユキのが終わっただけか」
ライヤが、テレビを見てそうつぶやく。
「どういうことですか? てっきり、さっさと終わると思っていたんですが。モーブさん見てましたか?」
カースは不思議そうな顔をして訪ねてくる。
「ああ、なんかユキがいろいろやってたな。何が目的かは実際わからんが、俺には時間稼ぎと、わかりやすさを重視した感じだったな」
「時間稼ぎはわかるが、わかりやすさってのは?」
「あれだよ。いつもの意味不明の能力で戦闘不能に追い込むって手段をとらずに、ユキが格闘戦みたいなのをしてたぜ」
「そういうことですか。確かに見世物であっという間に片づけてしまうのは、それはそれで問題ですからねー」
「なるほどな。確かに、見世物の意味もあるから、より派手に、よりわかりやすく相手を圧倒して倒さないと、周りからブーイングがでるからな」
「俺たちも、よその土地は面倒だったからなー」
「ですねー。呼ばれて行っても、向こうでは無名の冒険者パーティー。ギルド長たちは俺たちの能力や実績を知っていても、そこの冒険者ギルドで仕事している連中にとっては面白くない話ですからね」
「守りの英雄っていう肩書で一応紹介はしてくれるが、こんなおっさんたちだからな」
「専属ってことで第一線を引いているように見られるんだよな」
「ま、若くても、それはそれで問題ですけどね。それで毎回、モーブさんが不満があるやつは決闘で、わかりやすくぶっ飛ばしてましたからね」
そんな話をしながら、2人は買った物を冷蔵庫に入れていく。
「と、いうわけだ。別の意味で見てて面白いから、一緒に見るか?」
「そうだな。買い出しも終わったし、特にやることもないしな」
「ですね。すでに終わっているつもりでしたし、あるなら見ますよ。というか、買い出しもDVD鑑賞のためですしね」
そういって、カースが適当に選んだ弁当をこっちに差し出す。
「丁度、休憩時間だからな。ゆっくり飯でも食うか。お、ステーキ弁当か」
「ああ、好きだろう?」
「おう」
箸を取り出して、すぐに弁当を開け食べ始める。
うん。弁当っていうのにうめーよな。
ま、長持ちはしないから、携帯食料とはまた別だよな。
だが、今までの硬いパンの飯よりはましだ。
「しかし、何でおれたちはここに待機なんだろうな。いや、学府に連れて行けっていうわけじゃなくて、今までのことでだ」
俺は飯を食いながら、ふと思ったことを言う。
「俺たちが出れば、多少はまともに行く場面もあっただろうに。特に街への偵察とか、魔剣使いの姫さんと絡まれることもなかったんじゃないか?」
「いや、その時は俺たちがドッペルに慣れてなかっただろう?」
「あ、まあ、それは仕方ないが、他の時もだ。ジルバ王都やべータンの街にわざわざ亜人って分類される嬢ちゃんたちを連れて行ったこともだ。理由はわからんでもないが、俺たちがいればより安全性や舐められるようなこともなかったんじゃないか? 聞いただろう? スティーブのやつ馬小屋に泊まったって言ってたぜ?」
そう、ユキは俺たちを新大陸調査隊に選んでおきながら、最初に助けた亜人の村から動かそうとしていない。
俺たちが、調査隊の中で一番動かしやすいはずなのにだ。
「……なにか、考えがあるんだろう。あのユキが、お前が言う通り便利な俺たちをここに放置するわけがない」
「……だよな。ここに何があるんだろうな」
「んー。……まあ、聞けば教えてくれると思うぞ?」
「それじゃ、つまらん。推測でもして賭けでもしようぜ?」
「賭ける物は?」
「また、買い出しでいいじゃねーか? トランプもじゃんけんも、飽きてはいないが、新鮮なものがほしいからな」
「妥当だな。で、カースは賭けに参加するか?」
そこで、なぜか沈黙したままのカースに俺とライヤが目を向けると、深く何かを考えているようだった。
「どうした?」
「あ、いえ。モーブさんに言われて、今までのことを考えていました」
「今までのこと?」
「はい。今までのこと。この新大陸に来てから今日までのことです」
カースはそう言って、食べた弁当を片付けて椅子に深く座りなおす。
「モーブさんの指摘通り、俺たちを動かさないのは、俺たちをここから動かすわけにはいかないからです」
「ここから?」
「ええ。他にも理由はあります。俺たちが一切、新大陸で諸外国に知られていないという点です」
「知られていない、か。なるほど、今やユキたちはこうやって公の場で姿を現している。そうなると、動けばすぐに周りに知れる」
「はい。それは利点でもありますが、内密に動きたい場合には不利に動きます。霧華たちという裏部隊はいますが、それもあくまでユキたちを支援する裏です。ですが、俺たちは諸外国から完全にノーマークで動けるんです。ユキとの繋がりがないと思われている俺たちは、いざというとき、自由に動ける形なんです」
「いざっていうのは?」
「それはわかりませんが、国や有名人としての縛りが全くないのはありがたいことです。俺たちはユキにとって切り札という役割でしょう。霧華たちも無理すればいろいろ動けるでしょうが、残念ながら彼女たちは魔物の分類です。そして、人と対応する能力も俺たちより下です」
「そりゃそうだろうな」
「だから、彼らが身動きが取れなくなったとき、俺たちが、代わりに動くんです」
「そういうことか。しかし、その事態になったということは……」
「ええ。ユキが身動きが取れない、対処が間に合わないというレベルは、考えたくはないですが、非常に厳しい状態だと予想ができます」
えーっと、ユキが動けない、対処できない事態って、それは俺たちが動いてもたかが知れてるんじゃないか?
ユキがウィードの中で最強の札だぞ。
「まあ、政治的関係で動けなくなるってこともありますから」
「ああ、そっちか。ユキで対応できない魔物とかを想像したぜ」
「そりゃ、ユキならすぐ撤退指示をだすだろうよ。あいつは勝てない戦いはしない主義だからな」
「だな。そういえば、ここから動かすわけには行かないっていうのは、俺たちが知られていないとは関係なさそうな話だったが?」
確かに、知られていないという状態が望ましいなら、ウィードに引っ込ませればいいだけだ。
でも、現状は亜人の村で警護。
カースが言うように、やっぱり別の理由で俺たちがここに置かれているのか?
「はい。また別の理由で俺たちはここを動くわけにはいきません。今までユキが通ってきて唯一、ほぼ手出ししていないのがこの場所です」
「どういうことだ? 一応、村は守っているし、治安維持も協力してもらっているぞ?」
俺がそう言うと、カースは少し困った顔をして、棚に置いてあるノートを取り出し、ペンで何かを書き始めた。
「いいですか? ユキがこの場所を確保しているのは、あくまでも、ダンジョンの出入り口としての確保です。見てください、遠慮のないレベルでの武装の数々からそれはわかるでしょう?」
「ああ、でもそれが村を守るってことにもつながるだろう?」
「ですね。でも、村を守ることはユキにとってはどうでもいいことなんですよ。最初からユキは、さっさと交渉決裂してほしいって話をしていませんでしたか?」
「そりゃ、してたな。わざわざお荷物を抱えたくないのはよくわかるし」
そう、この新大陸では因縁レベルで人と亜人は争っている。
なので、ユキが亜人と仲良くなっているのは、現状色々と体裁が悪い……。
あー、これが理由か。
「気が付きましたか? ユキにとって、この亜人たちは弱みになりかねないんですよ。現在、ジルバ、エナーリア、学府、ローデイと個人的に交流があるとはいえ、これが知られれば後ろ指指されるどころか、周りが全部敵になりかねません。ジルバの王は完全敗北がありますし、ユキの実力と亜人の押さえ役と理解しているので、村の手出し云々は絶対喋りません。しかし、それが周りに知られてしまえば、この新大陸の一般常識として敵対感情を向けられるのは避けられません。そうなってしまえば……」
「なるほど、政治的に身動きができなくなるな」
「はい。いくらユキが強くて、力づくでどうにでもできても、相手は一般人が多数になります。そんな人たちに実力行使はしないでしょう。でも、それも今までの実績で解消されてますけどね」
「ん? どういうことだ?」
「今までユキたちが傭兵団として出してきた功績は無視できないレベルです。確かに疎んで、足を引っ張ろうとする輩もいるでしょうが、今回のビデオカメラを一般公開したのでおそらく止めでしょうね。こんなオーバーテクノロジーを生み出した相手を排斥するなんていうのは、国として絶対やってはいけないことです。技術を独り占めしようとしても、この時点で開発者や提供者のユキたちの顔が各国で売れることになります。自分たちでわざわざ金の生る木を捨てるようなことはしないでしょう。あるとすれば毒殺や、人質をとっての脅しですが……」
「それは無理だ。毒は効かないし、人質ってどうやって捕まえるつもりだ?」
「はい。ということで、現状、世情は問題ないですね」
「なら、やっぱり俺たちがここにいる意味が無いんじゃないか? だってよ……」
「いや、まて。なるほど、そういうことか」
ライヤが何か察したのか、俺の言葉に待ったをかける。
「この亜人の村が最大の火種ということだな?」
「ええ。この亜人の村が俺たち、いえ、亜人が勝利したという話を聞きつけて、各地で集落から人々が集まっている。ここで俺たちがいなければどうなったと思います?」
「……そりゃ、すでに戦端が開かれてる。ああ、俺たちは亜人に対してのストッパーか」
「だな。考えてみれば当然だ。ユキは国のトップたちを相手にして、相手の弱みや自分たちの有用性を理解させて、状況的に手出しできないようにしてきた。が、この亜人の村は違う。人に恨みや偏見を持った、無秩序な集まりだ。そもそもトップがいない。各村の村長などはいるが、それはまとめ役というには心もとない」
「聖剣使いの件で、ユキたちの優先順位は亜人たちの件は後回しにしていますが、おそらく、下手をすると聖剣使いより厄介なことです。というか、この前の情報から照らし合わせて、本当にここが一番危ないとみるべきでしょう」
「この前の情報?」
「はい。亜人の国が存在するということです。これは、少なからず亜人が国家を作り、他国とやり取りがあるという証拠です。国は単独では存在しえません。必ず友好状態や戦争状態と言うつながりがあります。そして、現在、亜人は戦争状態と言っても小康状態。ローデイに至っては公然の秘密で流通という国交があります。つまり、亜人の国は人を完全に敵とみなしていないのです。いや、当然なんですけどね。国を存続させるために友好相手を増やす。ですが、その方針に従えない亜人たちも当然います。それが……」
カースはそう言って言葉を切り、沈黙する。
嫌な予想が外れてほしいとは思いつつ、確認をする。
「……集落を作っている亜人たちってことか?」
「恐らくは。そして今までは国を捨てて、個人個人で活動していたのでしょうが、俺たちの一件でこの場に亜人たちが集結しています。そうなると……」
「……人との主戦派が、戦争を始める可能性があるか……」
「ええ。ですが、その前に、まず開戦の狼煙として倒すべき相手がいます」
おいおい、それって。
「ここの亜人たちを押さえつけている、俺たちを排除することです。まあ、排除というか殺しにかかるでしょうね」
うぎゃー、聞きたくないことあっさり言いやがったよ!!
「だから、ユキはここに俺たちを置いたのか。確かに、ユキの嫁さんたちには獣人族も多いからな。いざというときに、相手を殺してまで止められるかって話だな」
「ええ。彼女たちの中には殺すべしという解決方法をとるのもいます。ですが必ず誰かの動揺につながる。だから、場慣れしている俺たちがここに置かれているんですよ。あわよくば関係を改善できればという願いを乗せて、人代表で」
「……まーた、面倒なことを。だけどよ、一体何をすればいいんだ?」
そう、この真実を知って一体俺たちは何をすればいいのか?
「いえ、特に。いつもの通りでいいんじゃないですか?」
「だな。一日二日でどうにかなる話でもない。問題が起こるなら報告が来る。俺たちはのんびり亜人たちと生活して友好を築くだけだな」
「はぁ、結局いつもの通りってことか」
俺は気が抜けて、テレビに目を向ける。
『さあ、休憩時間が間もなく終わります。第二試合が始まりますので、観戦されたいお客様方は席へお戻りください』
『えーと、はい、はい。迷子のお知らせをいたします。身長……』
お、どうやら第二試合が始まるみたいだ。
「あ、買い出しの賭け意味なくなったんじゃないか?」
「そうだな」
「ああ、それなら俺がいきますよ。変な方向に持っていっちゃいましたし」
結局、俺たちの暇は当分続くのだろう。
いや、どうなんだろうな。
明日、暴れられてもそれはそれで、報告書が面倒なんだが……。
久々のモーブたち登場。
ずっと、亜人の村に置かれているのは、抑止力でもあり、友好関係を築くためでもあったのです。
彼らが動くことがあれば、結構荒れていることになるでしょう。
聖剣使いだけが問題ではありません、世の中いろいろ問題あんです。
皆もそうでしょ?
さて、次回は勇者タイキの試合です。
お楽しみに。
あ、質問コーナー18回は少し遅れるかもしれない。ごめんよ。




