第258堀:素晴らしき作戦
かつてないほど、完璧な素晴らしい作戦。
素晴らしき作戦
Side:サマンサ・アン・ヒュージ
既に時間は21時。
学府も街も酒場以外は殆ど眠りにつく時間。
一部の生徒たちが蝋燭や、灯りの魔術で僅かばかり部屋を照らし、静かな勉学の時間へ当てている。
「……はぁ」
学び舎の一室、私、サマンサ・アン・ヒュージは悩んでいました。
もう何度目になるでしょうか?
銀の杯に注いだワインに映る自分の顔をみてため息をつく。
「……お嬢様。そろそろお休みにならないと、明日に差し障ります」
後ろで、昔から私の供をしてくれている、サーサリが心配そうに言ってくれます。
サーサリは私より年上で、スタイルは私には及びませんが、剣技に優れ、我がヒュージ家でも指折りの騎士です。
ですが、そんな騎士の地位より、私の供を選び、学府まで付き合ってくれました。
こんな公爵家の次女にはもったいない従者ですわ。
彼女の指導のおかげで、体術を交えた魔術決闘もそこまで躓くこともなく勝ち進んでこれましたし、剣だってそれなりに使えるようになりました。
でも、この程度では……。と、そんな考えがよぎるのです。
そして、数秒の沈黙を持って、ようやく私は忠義厚い従者に言葉を返しました。
「……そう、ね。休まないと、いけませんわね」
返事はしましたが、自分でもびっくりするぐらい、空っぽな返事でした。
ああ、私の真意はそこにはないのだと言っているようなものですわ。
その空っぽの返事を聞いて、何も察せない従者ではないサーサリは直ぐに少なくなったワインを継ぎ足し、氷を入れてくれます。
あ、私の得意魔術は氷なので、こう暑い日には贅沢に氷を生み出しては涼に使っています。
無論、サーサリにも使わせています。
主だけが贅沢をするなど、貴族の名折れ、自分に付き従っている者たちを満たし、ようやく自分を満たせるのです。
国とは、貴族とは、従ってくれる者たちが、国に住んでいる者たちが、存在しなければ成り立ちません。
たった1人だけの国や、貴族など存在しないのです。
なのに近頃、それが分かっていないバカ共が多いのです。
平民は搾取されるだけの存在と思っているバカ貴族共が。
平民……彼らこそ、国の一番の宝。私たちの祖先が貴族として立ったのは民を守るため。
貴族とは、その立場から平民に分類される人々へ特殊な態度を取らなければならないことも多々あります。ですが、それはすべて、民を守るため。間違っても民から搾取し、虐げるためでは決してないのです。
……ふぅ、いけませんわね。
今は学生の身、公爵のお父様の娘なだけであって無位無官。
下手なことをすれば、自分の身を滅ぼすどころか、自分の家にまで多大な迷惑をかけてしまう。
……実際、己惚れていて、とんでもない失敗をしました。
それも、お家が潰れてしまいかねない失敗を。
私もある意味、平民を虐げる対象と見ていたのでしょう。
あの日来た、身なりは雑ではありますが、丁寧な編入生たちを、ユキ様を追い返してしまったのですから。
……でも、あの失敗があったからこそ、自分がどれだけ己惚れていてたかわかりましたし、追求すべきことを見失わず、人を正しく評価する、上に立つ者としての在り方をあの人は示してくれましたわ。
※ユキとしては、学長の弱みを握りたかっただけです。天秤の傾きがサマンサ<学長だっただけ。
カラン。
そんな音が杯からして我に返ります。
氷が溶けて、動いたのでしょう。
「お嬢様。冷えておりますから、少し飲まれてはいかがでしょうか?」
「ええ、ありがとう」
杯を傾けて、冷えたワインをのどに流し込みます。
程よく冷えたワインがのどに清涼感と酒精の火照りを与えます。
「……ユキ様のことを考えておられたのですか?」
「……ええ。ユキ様には失礼なことをして、多大な迷惑をかけてしまったのに、あのように庇っていただけて、更には、学府での案内を私のような愚物に頼むなど、どこまで素晴らしいお方ですわ。それだけで私は感謝しなければならないのに、……それでも、と思ってしまうのですわ」
※ユキはこれ以上のトラブルはいやなので、一度痛い目を見たサマンサなら問題なくやってくれると思っただけ。
「お嬢様が愚物とは全く思えませんが、ユキ様の度量、器の大きさはお嬢様と同じように、とてつもなく大きく感じております。そして、惹かれるのは当然のことかと」
普通なら罵声を浴びせ、今回の件でかなりの罰を受けてもおかしくないのです。
ユキ様は学長に全ての責有りと仰いましたが、私はそうは思いません。
あの時、ユキ様は私に学長へ取り次いでほしいと丁寧にお願いしていたのです。
それを一蹴した私に責任があります。
それでも、私の気持ちをくみ取り、庇っていただけました。
ユキ様こそ、私が目指すべき理想の体現者なのかもしれませんわ。
※何度も言うけど、ユキにとっては、噛み付いても仕方ないし、予定通り学長を釣る作戦だった。
「サーサリ。あなたから見たユキ様たちはどうですか? 身分などは考えずに、今までの行動に対する評価は」
不意に私はそんなことを聞いてしまいました。
サーサリは良くも悪くも実直、こういう評価は包み隠さずズバっといいます。
昔、私がちょっとしたことから助けてもらった貴族のご子息がいました。
当時は私も子供でしたから、そのご子息が運命の相手とはしゃいでいたのですが、サーサリはバッサリと……。
『あれは、トラブルからすべて仕込みですので。あのご子息には近寄らない方がいいかと。中身もさっぱりです。お嬢様の才能と、お父上の権力が狙いでしょう』
そんなことを言われて、泣いてしまいました。
泣くしかできませんでした。
……だって、それが事実だという証拠も揃えて持って来たのですから。
だから、私はサーサリに言ってほしかったのかもしれませんわ。
ユキ様は私に相応しくないと、そうすれば私はユキ様をあきらめることができるのではないかと。
「……評価だけで言うのであれば、問題は特にありません。いえ、違いますね。問題ないどころか、ユキ様は傑物でしょう。あの学長相手に終始優位に交渉を進める手腕。傍にいる護衛の強さは私以上の者ばかり。その護衛たちを妻だと公言し、要らぬ揉め事を避ける先見性。そしてその護衛の1人は、魔術決闘で学長をあしらうほどの魔術師。それらを総べるカリスマと信頼、力。さすが、ジルバ、エナーリアの王族の血縁というべきでしょうか……」
※ユキとタイキのフラグ対策の結果です。
私はサーサリが予想以上に高評価を出したので驚いてしまいました。
だって、どんな相手であれ、必ず悪い所を言う彼女が1つも指摘しないのです。
「サーサリ。ユキ様の悪い所はどこかしら? 流石に無いわけではないでしょう?」
私は恐る恐る聞きます。
これで、悪い所などないといわれては、ユキ様をあきらめることはできそうにありません。
「はい。ユキ様とて人です。悪い所は確かにあります」
「どこです?」
「ユキ様は物事に対して、常に平等にあろうとしております。あとは女子供に優しいところでしょう」
「……それは悪い所なの?」
「悪い所にもなりうるということです。平等が過ぎれば、人の心がないと思われますし、女子供に優しすぎればそこを付け込まれるでしょう。ですが、この2つはユキ様にとっては武器なので、そこまで悪い所になりうるかは微妙ですね。既に、いい塩梅、バランスを把握していらっしゃいます。学長相手に優位に交渉をすすめたのですから」
「……なるほど。平等とはいかない交渉のテーブルで、幼い姿の女の子相手に、交渉を優位に進める手腕がある以上、既に悪い所を克服しているというわけね?」
「はい。……あとは、大将自らが、赴くということでしょうか? ですがこれも……」
「物事に完全はない。ならあそこまでの護衛を連れている状態で臨んでいるから、間違いではないと?」
「はい」
「……サーサリ。私がなぜこんな質問をしているかわかっています?」
「ユキ様をあきらめられたいのでしょう?」
サーサリは躊躇いもなくそう言ってきます。
「なら、なんで、ユキ様を褒めるようなことばかり!!」
「大丈夫です。お嬢様の気持ちは届きようがありません。あきらめるしかないのです。お嬢様もわかっているのでは?」
「そ、それは……」
私はそういわれて、涙があふれてきます。
「お嬢様はユキ様に釣りあっていません。力も、才能も、血筋も、何もかも」
※ユキは一般人サラリーです。
そう事実を突きつけられて、私は必死に耳を塞ぎます。
「や、めて」
「ユキ様をあきらめたいがために、ユキ様の評価を下げるなどと愚かなことはおやめください」
「いや」
「いいえ、聞いてください。お嬢様、ここであきらめるなどと言う弱腰ではだめです。なぜ、自ら愛してほしいといわないのです?」
「そ、そんなの……絶対断られるに決まって」
そう、わかっている。
私があの中に入れるとは全く思えないのだ。
怖い、更に拒絶されて、会話ができなくなるのが怖い。
「ユキ様や周りの奥様方は、迫ったとしても、危害を加えない限り、友好的に接してくれるはずです。一度断られようが、何度もアタックするのです!! ユキ様以外の旦那様は私が認めませんよ?」
「サーサリ?」
「私もいつかお嬢様の従者から外れる時が来るでしょう。その時、お嬢様の隣に、お嬢様を預けてもよい、素晴らしい相手がいれば私も嬉しいのです。その相手が今まさにいます。ですから、どうか、あきらめずに、ユキ様へ思いを伝えてください」
「で、でも……」
「分かっております。ユキ様はああ見えてとても身持ちのお堅い方。奥様たちの笑顔や信頼を見ればすぐにわかります。ですから、今しばらく時間をください。必ず、お嬢様を受け入れてくれるようにいたします」
「サーサリ……。分かりました。私がこんな状態では公爵家の名折れ。絶対にユキ様の側室に加わって見せますわ!!」
そう、この実力主義の学府でトップ10まで上り詰めたのです。
自分の夫ぐらい、つかみ取って見せますわ!!
「その心意気です。ということで、まずは布石を打ちましょう」
「布石?」
「はい。ユキ様はお優しい、そこをついて友人となるのです。これはいけると思いますか?」
「ええ、その程度なら、いまでもご友人と言ってもらってますわ」
「それは僥倖です。そこで、ユキ様たちをローデイへの御実家に招待するのです。そこで、旦那様たちに事情を説明して、ご協力願いましょう。ユキ様の血筋と各国への影響力、そしてご自身の才覚。それを知れば、決して無下にするわけがありません」
「……なるほど。でも、エリス様たちが」
「確かに、ユキ様の奥様たちには、前もって話しておく必要はあります。ですが、ユキ様の奥様たちが、お嬢様のお立場からくる利益を考えて拒否するとは思えません。それほど聡明な方々です。まあ、個人個人の仲の良い悪いは、お嬢様とユキ様の奥様方しだいではありますが」
「わかりました。奥様たちには私から直々に話しますわ。私が勝手にユキ様に恋焦がれているのです。私から話さなくては意味がないでしょう。それが最低限の誠意ですわ」
※嫁たちはサマンサの嫁入りを望んでいます。
そして私はサーサリと詳しく話し合い、次の日からのユキ様嫁入り作戦を開始するのでした。
side:ユキ
「ユキ、サマンサに告白するのを絶対に失敗するってどうするつもり?」
俺は、あの会議の後、クリーナにサマンサの情報を聞いていた。
まかり間違っても、告白が成功することが無いようにだ。
「クリーナから聞いた情報からすれば、サマンサは貴族としての立ち振る舞いをしっかりしている立派な女性でプライドも高い。なら、俺がクリーナを嫁に迎えたと言うことを説明した上で、サマンサを側室として迎えたいという。これなら、有名な魔術師の弟子とはいえ、地位的にはクリーナがサマンサよりも下だ。だから、サマンサにとっては公爵を侮辱することに等しい。この告白を受け入れるわけにはいかないだろう?」
「おお、なるほど。ユキ、賢い」
よし、クリーナがOKするなら何も問題はないだろう。
これで、サマンサ自身は怒っても、一応俺の方が仮名義上、地位的に上だから、一応ローデイへの繋ぎはできる。
一度ローデイにいければ、あとは、クリーナから魔物の大量発生の兆しありとでも言ってもらって、サマンサお嬢さんには悪いことをしたが……という流れでいけば問題ナッシング!!
いや、流石に悪いから、こっそり告白する前に、嫁さんが告白しろってうるさいんだって言っておけば、サマンサ本人もそこまで傷つくことはないだろう。
貴族然としているなら、魔物の大量発生の兆しは無視できないだろうし、告白云々は嫁さんがしろっていってるだけだし!!
というか、サマンサ自体も俺たちと繋がりが出来ることは、悪い事ではないし、演技に付き合ってくれるはずだ!!
完璧だ。完璧すぎる作戦だ。
俺は自信を持って告白が100%失敗すると確信でき、ゆっくりその日は寝られたのでした。
さて、どうでしたでしょうか?
この素晴らしき作戦は?
正に、100%
誰もがそう思える内容だったと自負しております。
え、どっちに100%かって? いわせんなよ。
と、そこはいいとして、皆さんに相談があります。
前々から要望があった。
ユキの学生時代の話が2万文字程度で一話完結した作品がございます。
見たいと言うのであれば、必勝ダンジョンでこそっと載せたいと思いますがどうでしょうか?
では、次回の結果をお楽しみに!!




