第1968堀:手伝いたい気持ち
手伝いたい気持ち
Side:シェーラ
ラビリスの話に絶句しているミリーさんとキナさん。
まあ、それも当然です。
オークを命がけで倒して、報酬が精々1、2日分の宿代となればですね。
ああ、2日も泊まればいいじゃないかと思うかもしれませんが、安宿がいいところです。
武器なんて買い替えできませんし、ギリギリ整備できるかってところです。
オークを売れば相応の金額が手に入りますが、オークを持ち帰れるというのが前提にありますからね。
新人がオークを倒して持って帰るというのは、あまり聞きません。
命からがら、何とか勝って、討伐証明とお金になる部位を持って帰るぐらいでしょうか?
オークは成人男性ぐらいは最低でもありますから、それを持って移動するというのはかなり大変なのです。
新人がアイテムバッグなど持っているのは稀ですし。
つまり、魔物討伐の仕事は全然割に合っていないのです。
「ちょ、ちょっとまってよ。そんな話、ギアダナ王都で働いていたキシュアたちからは報告なかったよ」
そこでキナさんがそう言ってきます。
確かにその通りです。
流石に依頼料が低い、いえ低すぎることにキシュアさんたちが気が付かないわけがないのですが……。
「ああ、言い忘れていたけど、その額が低いのはギアダナの大森林から遠い場所って感じなのよ」
「遠い場所?」
そう、ラビリスが言うように、魔物討伐の依頼料が低いのはギアダナの大森林から遠い場所なんです。
それを確認するように、ミリーさんが私に視線を飛ばしてきます。
「間違いありません。ギアダナ王国周辺の地理は取得していますから。依頼場所に関してのことは間違いはありません。おそらく、魔物の脅威度が低いからこそ起こっているのではと」
「「あ~」」
私の言葉に思い当たるところがあったのか、また声をそろえて上げます。
「そういえば、魔物討伐が進んでいる地域って冒険者への討伐報酬って下がる傾向だっけ?」
「そうね。国や領主が騎士団とかの巡回と討伐を上手くやっているってことなんだけど、代わりに冒険者のその方向での雇用が少なくなるのよね。あくまでも手が足りない時の人手が冒険者だし」
「まあ、国や領主としても冒険者に頼るっていうのは、問題だ~っていう人もいるしね~」
「どうしてもその対立はあるわよね。成果、魔物や盗賊の討伐を冒険者に取られると何のための騎士団だってことになるからね」
お二人の言うとおり、元来魔物や盗賊などの討伐はその土地を守護する者たちの仕事です。
手が足りないからこそ、冒険者に頼んでいるというのが普通のことなのですが、手が足りれば冒険者は、言い方は悪いですが邪魔となります。
何せ、自分たちの手柄を奪う相手にもなりえますから。
とはいえ、冒険者ギルドと表立って敵対するようなことはありません。
幾ら、魔物や盗賊退治が少なくなったとはいえ、ゼロになったわけではありませんし、冒険者の必要性がなくなったわけではありません。
それに、冒険者ギルドというのは各国に伝手をもっており、下手な対応をすれば、ほかの国を敵に回しますから。
「話は分かったけれど、それでもオークを討伐してその程度だと、遠征費を考えるとマイナスなんじゃないかしら?」
「さあ、そこらへんは詳しくは調べていないけれど、少ないとは思ったわ。だって、ギアダナ王都やギアダナ大森林近くのオークの依頼料はもっと高かったし」
「ですね。およそ、宿代でも一週間分はありましたし、それなら貯蓄に、物資調達も何とかなるでしょう」
「そうね。それぐらいが普通だわ」
「だね~。命かけているんだし、毎日仕事に出るなんて冒険者の方が珍しいんだよ。一回仕事したら2、3日は絶対に休むし、さっきの話の報酬だと仕事にほぼ連日出ないといけないから、普通に死ぬんじゃない?」
「だから、仕事をやってられないから冒険者がいなくなるんでしょ? そういう方向で冒険者を追い出しているって感じね」
ミリーさんの言う通り、冒険者を追い出すための方策だと思って間違いないでしょう。
ですが……。
「それで追い出したのはいいのですが、そのあとどうなっているのかはわかっていません。そこまで露骨にやっているとなると、冒険者ギルドも苦言を呈するはずだと思うのですが」
そう、露骨に書類でわかるぐらいに、冒険者の生活圏を奪うようなやり方をしているとなると、冒険者ギルドとしても依頼が無くなり、収入が減り、立ちいかなくなります。
それは冒険者ギルドを否定するということ。
「確かにそうよね。あくまでも冒険者ギルドは利益を得て営業しているのよね。それは新大陸のギルドも間違いじゃない。……そこら辺をギアダナのサナルギルド長に聞く必要があるわね」
「だね~。でもさ、あまりそこら辺踏み込んで調べない感じの人だったって聞いているけど?」
確かに、ミリーさんがサナルさんがクリアストリーム教会のことで情報のやり取りをしているのかを、後で確認いたしましたが、どうにもあまりその手のトラブルには首を突っ込まないような気がします。
まあ、賢い生き方ともいえますが、冒険者ギルド長としてはどうなのでしょうとは思いますが。
「あ~、まあ、あの人はトラブルは避けるスタンスね。別にそれが悪いことでもないわ。下手に首を突っ込むと、あの新大陸の中央部ではクリアストリーム教会とか、それに賛同する国を敵に回すもの。普通の対応だと思うわよ? あくまでも一ギルドの長としては、それが精一杯だし」
「ま、だよね。私たちの所はギルド本部のおじいちゃん、グランドマスターとかがいるから動けるんだし」
確かに、お二人の言う通りですね。
冒険者ギルドの長とはいえ、支部の長ですし、一個人の判断で国の問題に口を挟む権利はありませんから。
ですが、それはつまり……。
「じゃあ、新大陸の冒険者ギルドの本部に問い合わせれば何かわかるんじゃないの?」
ラビリスがコーヒーを飲みながら普通に話します。
ギルドの支部じゃ、色々動きが取れないのであれば、本部なら何かできるのでは? と思うのは当然のことでしょう。
「まあ、そうだよね~。ミリーの方からそういう要請できないわけ?」
「要請はしたいけれど、冒険者ギルドの本部がどっち、つまり、今回の亜人排斥に関わっているかどうかわからないのよね。案外、北部と中央部で内部分裂とかになっていたら、なおの事面倒になるし、慎重に動いているわけよ」
「あ~、そっちか。本当に面倒だね~」
なるほど。
確かに中央部のクリアストリーム教会の独断ともいえる状態ですし、冒険者ギルドも北部とは方針を変えて動いている可能性も十分にあります。
下手に接触すれば、こちらの思惑がばれて面倒というわけですね。
「まあ、ラビリスとシェーラが調べてくれたことはわかったわ。私たちも改めて報酬の差異について調べてみるわ」
「そうね、お願い。私たちはあくまでも資料をデータ化しただけだし、本職である二人の方がもっと発見できることは多いと思うわ。そうよねシェーラ?」
「はい。私たちは今回お手伝いですし、冒険者ギルドのことはお二人の方が詳しいでしょう」
それは間違いないです。
まあ、私たちというか冒険者ギルドではない視点で何か見つかる可能性はありますが、そう簡単にはいきませんね。
「とはいえ、これで終わりっていうのもあれなのよね。何か手伝えることってある?」
「そうですね。私たちの仕事はウィードを安定させることですが、新大陸のことをまかせっきりというのは、ちょっと寂しいですから」
私たちはヴィリアたちの手助けというわけではなく、新大陸で頑張っているみんなの為に何かできることがないかと思っているわけです。
ユキさんとかはいつにもまして忙しいですからね。
とはいえ、ユキさんや新大陸に行っているメンバーが自由に動けるために、ウィードの仕事を頑張るというのは間違いではありません。
ですが、ウィードに残っている私たちからいうと、何か直接的にお手伝いがしたいという気持ちがあるんです。
「気持ちはわかるわ。私もユキさんやラッツ、エリスが難しい顔をしているのを見ているだけっていうのは堪えるし」
「普通の仕事なら自分は楽でラッキーなんだけどね~」
「そうね~。とはいえ、今回は下手をすると、ロガリというか、大陸間交流同盟を巻き込んだ大戦乱になるからね」
「あはは、否定できないからたちが悪い。とはいえ、友人たちの命にもかかわるしね。私も気持ちはわかるよ。こうして手伝っているしね~」
「何を言っているのよ。私が頼んだから来たくせに」
「仕方ないね。だって教えてもらうまでそっちの事情は知らないんだし~。と、そこはいいとして、ミリー二人が手伝えそうなことってないの? 今話したけどさ、私はウィードで手伝えそうなことなんて、冒険者ギルドとしての仕事ぐらいしか知らないし」
キナさんも私たちの気持ちを察してミリーさんにそう言ってくれます。
「うーん、気持ちはわかるけれど。私もキナと同じで自分の部署でしか手伝えることは教えられないのよね。それはわかると思うけど」
「ええ、それはね。ほかの部署の仕事を勝手に手伝うとか混乱の元だもの」
「はい。それは理解しています。ですから、そうですね……。どこに行けばいいのか何か情報はありませんか?」
流石に各部署に一々聞いて回ったり、メールを入れたりするのも向こう側に圧力みたいなものをかけることになりますからね。
「となるとさ、こういうのは多くの部署と連携を取っている人に話を聞けば一発じゃない? この場合新大陸で指揮を執っているってなると……」
「ユキさんか。キナの言うことに間違いはないわね。向こうが忙しいって可能性は十分あるけれど……。で、どうする? 二人が思いつかなかったわけじゃないと思うけれど」
「むう。私たちが行くと必ず手を止めて考えてくれるとわかっているわ。だから、避けていたわけだけど……」
「ですね。私たちから言うとちょっと……」
ユキさんなら快く受け入れてくれるでしょうが、その分忙しさはますはずで……。
と思っていると、ミリーさんが一つの書類を書き始めてそれを渡してくれます。
「なら、これでいけるわ。名目はさっきの報酬に関しての情報を二人からユキさんに伝える事」
「ああ、それなら会う理由になるね。そのついでに何か手伝えることがないか聞けばいいよ」
その二人の言葉にぽかんとする私とラビリス。
それは無理があると思う反面、確かに会う理由にはなるし、私たちの気持ちを伝えることもできる。
二人で顔を見合わせたあと、少し困ったように笑ってから。
「わかったわ。ちゃんと書類の話はしてくるわ。でも、ミリーも会いたいんじゃないの?」
「まあ、会いたいっていったらそうだけど、私はユキさんとはギアダナの冒険者ギルドとの折衝とかで顔を合わせているし、二人ほどじゃないのよ」
なるほど。
そういわれると確かにそうですね。
私たちはあまりユキさんと会う機会がなくて、こんな状態になっていると。
直接会えば改善するかもしれません。
ということで、私とラビリスはユキさんの所へと向かうのでした。
いわゆる、ユキ欠乏症というやつですね。
人によってまちまちですが、欠乏すると集中力が無くなりそわそわします。
嫁さんたちに多いです。




