第1956堀:それでも保っている
それでも保っている
Side:ユキ
『そういうわけで、腕の立つ冒険者ならいくらでも歓迎ってところだな』
そういうレウギルド長。
話の内容を聞く限り、かなりやばいような気もするし、余裕があるような気もする。
「ミリー、どう思う?」
俺は同じように横で冒険者ギルドの内情を聞いているミリーに質問してみる。
俺よりもギルドの運営に関わっているから、大事な意見だろう。
「……そうですねぇ。正直に言えば、ここまで冒険者が枯渇するようなことはありえないというか、良く保っているというか」
「だねぇ。人手不足が目に見えているっておかしいと思う」
キナもミリーの意見に同意のようで頷く。
まあ、全員出払って防衛に従事中とか、本当に人手不足だよな。
「というかさ、どうやって町の方の冒険者ギルドは稼働しているの? 防衛の砦にほとんどの職員も移しているっていうのはきいたけどさ」
「そうよね。普通の依頼をこなせないってなると、色々文句が出てきそうだけれど……」
そう疑問が飛んでいると、画面の向こうから声が響く。
『おーい。チノクの姉ちゃ~ん! 来たぞ~!』
その声は、大人の声ではなくまだ幼い声高の声だ。
『えっと、お客さん、依頼人ですか?』
ヴィリアが遠慮がちにチノクたちに聞く。
まあ、説明はあとでも受けられるし、仕事を優先してくれっていうのは普通だしな。
『ああ、いや、新米冒険者ですね~。まったくのゼロってわけじゃないんですよ~。ちょうどいいですから、顔合わせをしておきましょう』
そう言われてヴィリアたちは会議室を後にして、受付の方に顔を出すと。
『チノク姉ちゃんにレウのおっさん。と、誰だ?』
『初めて見るな』
『美人さんだね』
そこには、初めて会った時のアスリン、ラビリス、フィーリア、シェーラを彷彿とさせるちびっこが立っていた。
まあ、編成は男子2名女子1名という3人であり、健全と言えるだろう。
とはいえだ。
「いくら何でも幼すぎじゃろう」
「あ、デリーユ。来てたのか」
いつの間にか会議室にはデリーユがやってきていて、モニターに映る少年少女たちを見ていた。
「うむ。ほれ、陸上戦艦の開発が急がれておるじゃろう? それで、南端のジャングルというか、あそこの調査も進みが鈍いんじゃよ。というか、拠点を確保して、じっくりやっておるからのう」
「あ~、そうだったか。ナイルアやハヴィアも陸上戦艦の開発に回ったしな」
「そうそう。いま、南部で現場を指揮しておるのはワズフィだけじゃ。まあ、現場に行かなければ定点観測とかで生態系を調査しておるから何も問題はないとは言っておったがのう」
なるほどな。
人がいない状態での南端の森の環境を知れるのはいいことだろうな。
と、そこはいいとして。
『こちらの人たちは~、新しくきた冒険者の方々ですよ~』
そう、アンドの冒険者ギルドの話だ。
『ええ、こんな姉ちゃんたちがか?』
『ほっそいよな?』
『でも、有名な女性の冒険者さんって美人が多いって聞くよ~。あこがれるな~』
うん、ちびっ子から見てもヴィリアたちが冒険者だっていうのは疑わしいらしい。
これならナイトマンの正体が露見することはないだろう。
『ま、そういうことだ。チノクも歯が立たなかった人たちだ。お前たちも世話になることもあるだろうし、挨拶しとけ』
『チノク姉ちゃんに勝った!? すげー、よろしく! 俺、ダナナっていうんだ』
『僕はタナウっていうんだ』
『私はミナっていいます』
『おう、よろしくな。私はキシュアっていうんだ』
という感じで、ヴィリアたちも自己紹介をしていき、チノクが補足をしてくれる。
『キシュアさんたちは最近到着したようで、色々わかっていませんから、そこらへんをフォローしてあげてくださいね~』
『そういうことか。任せてくれよ』
『だね』
『町の案内ならやるよ~』
『それでこのダナナたちは、このアンドの町では数少ない新人冒険者で、今は町の雑務などをやってもらっています。なので、町の案内などは、言葉に間違いなく有能ですよ~』
なるほど、ちびっ子たちを紹介したのは町でのことで困らないようにというのと、顔見知りを作るってこともあるのか。
実際そこら辺大事だしな。
『俺たちも他の冒険者や軍人たちと一緒に魔物退治したいんだけどさ、駄目だって言われているんだよな
』
『まあまあ、仕事は増えているけど、それでも装備品は揃えられないしさ。ちゃんと訓練受けてからにしようって』
『だね~。死にたくないもん。地道にやろうよ』
『ということでな。血の気の多いダナナとかに軽く説明とか手ほどきもって感じだ』
『それで、3人は仕事が終わったんですか~?』
『あ、そうそう。ほら、これ依頼書のサイン』
3人は仕事を終えて戻ってきたようで、手続きを済ませ、お金を受け取ったら次の仕事へと向かっていく。
『よく働くのですね』
『ああ、今では貴重な戦力だ。でもな、あいつらを戦場に出すことはできないのは分かるだろ?』
『そりゃな。あれじゃ死にに行くようなもんだよ』
キシュアの言葉に同意だな。
別に現場を甘く見ているわけでもないだろうが、激戦区はさらに違うしな。
『というか、あれ以上の歳の冒険者は防衛に回されているんですよね~。まったく。おかげで職員たちが町の雑務の解決に回っている始末ですよ~』
『なるほど。それで受付もがらんとしていたわけか』
『そういうわけです。さて、引き続き説明をしたいので会議室へと戻りましょう』
ということで、会議室に戻り説明の続きをすることになる。
『まあ、ちょっと邪魔というわけでもないが、話の腰が折られたから改めて最初から話すぞ。って言ってもそこまで話してないがな。あっはっは』
『何を笑っているんですか。まあ、戦える冒険者のほとんどは防衛に向かい、残りは輸送や近辺の魔物の討伐などに駆り出されている状態です。なので、今のようにダナナのような本当に戦えない新人が町中の仕事を頑張っている状態なわけです~』
『ま、最近は魔物が多くなっていて、損耗率が高くなっててな。応援要請は色々出しているんだが、北部に関してはどこも同じらしくてな。中央のファイアナ王国に連絡を入れてそこら辺の人員の融通をしてもらっているところだったんだよ』
『ファイアナ王国にですか? 独自でイオアが動くことは無かったのですか?』
『イオア国内であればよかったんだがな。物資はもちろん、腕の立つ冒険者なんてのは国外からも集めるからな。色々仲介役を担っているファイアナ王国に頼むのが、北部のルールというか、面倒がなくていいってことだ』
当然と言えば当然の話ではある。
北部の国々はファイアナ王国が中央にいて色々仲介をすることで、支援をしているという状態だ。
つまり、ほかの国とのやり取りも任せられているのは何も不思議な事じゃない。
なにせ北部のすべての国々の戦況を把握しているからな。
下手に隣の国だけに支援を求めても、ほかの戦線のバランスもあるだろうし、下手をするとバランスが悪くてトラブルの元にもなりかねない。
とはいえ……。
『話はわかった。でも、独自のルートがないわけでもないはず』
ニーナがそう指摘してくれる。
そうなんだよな。
確かに、ファイアナ王国がほかの国とのバランスを取ってくれると言っても、別に各国で独自のつながりがないわけでもないはずだ。
『ああ、そりゃあるが、こうした戦況の中で独自に動くと色々問題があるからな。ちゃんと上を通すようにしているな。もちろん、切羽詰まってくればそれもなくなるだろうが……』
『今は、まだ何とかなっている状態ではありますね。いまだに町には活気があふれていますし、何とか人員が追加で送られてくれば。下手に増員は難しいって言われていますからね~』
『動員が無理ですか?』
『まあな。冒険者にしろ、軍人にしろ、ここで一時的に増やして魔物を撃退したとしても、今後は仕事が減るからな。あるいは、新天地を求めてさらに北へ向かうかになる。ああ、こういう政治的なことはわからないか?』
『いえ、理解できます。知り合いに領主がいますので』
安易な増員はできないか。
いや、ごもっともな理由だな。
軍人というのは平時においては基本金食い虫だ。
国家存亡の危機に何を言っているんだと思うかもしれないが、戦後に国が無くなるのであればある意味何も変わらない。
もっと切羽詰まればどうにかするかもしれないが、今はそれほどでもないということだ。
もちろん、冒険者も同じだ。
まあ、冒険者は軍人と違って自分で稼ぐ職業だから、国の負債とはならないが、それでも国が推奨したってこともあって後始末で色々あるだろうしな。
……国民総動員っていうのはそれだけ緊急事態でしかやらないわけだ。
国が敗北してもやらないところがあるぐらいだしな。
『目の前で町が賑わっていますからね~。冒険者や軍人にならなくとも商売、つまりお金稼ぎができていますから~』
チノクの言う通り、町は賑わっている。
儲ける方法がほかにもあるのだらか、命がけの職業に付きたがるのは余程切羽詰まっている人に限られるだろうな。
それに、新人の冒険者にしても下手な新人を入れて戦死させてしまえば、軍人も冒険者ギルドも評判が下がる。
それは士気の維持にも直結するからな、下手にできることじゃない。
うん、クソ面倒だな。
「……胃が痛くなる話ね」
「本当にそうね……」
「そうじゃな。迂闊に徴兵もできんか……」
レウギルド長からの話をきいて、ありありと組織運営の抱える問題に想像が出来たのか難しい顔をする3人。
俺も同じか。
『ともあれ、今のところは被害は出ているが保っている感じだ。お前さんたちのような手練れが来てくれたことは感謝しかない。それで、具体的な配置に関してだが、夜には日中の部隊が戻ってくるからそこから話を聞いて、明日の第三隊と連携を取ってくれ』
『第三隊? 冒険者をチーム分けしているって感じか?』
『その通りだ。敵は多数どころか大勢だからな。こちらも大人数で組まないとあっという間に囲まれてやられちまう。はじめはそれでやられて、かなりやられた』
『手痛い失敗でしたね。とはいえ、怪我の功名というとあれですが、それ以降冒険者も集団で動くことに文句を言うことは無くなりましたけど~』
なるほど、個性の強い冒険者たちが集団行動をしているのには疑問があったが、そういうことがあったのか。
手痛い敗戦があり、冒険者は冒険者で軍のような動きをやるようになったと。
予想以上に、最前線の町は激しい攻防が行われているようだ。
アンドの町もそれ相応に戦いの歴史があるようです。
当然ですよね。
ウィードがいない間も人は動いているのですから。




