第1955堀:冒険者ギルドの腕試し完
冒険者ギルドの腕試し完
Side:ヴィリア
目の前に迫るのは私よりも小柄なギルドの受付嬢であるチノクさん。
武器は片手剣と盾という、バランスが良いと言われている装備です。
キシュアさんたちの3連戦で先手を取らせると敗北は必至と思ったのでしょう。
これはわざとやりましたね。
ちらりと視線の3人に向けると、3人とも別の方向を見始めます。
露骨ですね。
今までの戦いで私の手段を潰した。
縮地による速攻、突き、投げ以外を使えということです。
つまりは速攻ではなく……。
ゴッ!
チノクさんが振るってきた木剣に合わせて私も同じように木剣を振るい、刀身が当たり音が響きます。
手に響く衝撃はかなりあります。
つまりそれだけチノクさんは力があるということです。
と、そんなことを考えているうちに、ぶつかり跳ね返った剣を改めてこちらに振ります。
普通であれば、少しは驚くところですが、この程度は今までのことで予想がついていたということですね。
はぁ、これで驚いてくれれば隙を突けると思ったのですが、本当に面倒なことを。
しかたなく、チノクさんにけがをさせないように、ある程度打ち合いを演じるしかありませんね。
ガン、ゴッ、ガキッ……。
そんな音が訓練場に響きます。
もちろん盾を使った殴打も含めてです。
ですが、そこまですると。
「……ここまで露骨に合わせられると実力の差を実感しますね~」
「あはは……」
当然私が手を抜いているとばれるでしょう。
まあ、別に手を抜いてはいません。
力加減を間違えば私かチノクさんが武器を取り落としますからね。
繊細な力加減で五分にしています。
……実力の差があるからこそ、できる芸当と言われると何も言い返せませんが。
ガキン!
ひと際大きい音がします。
かなり力を入れていましたね。
するとチノクさんは跳び引いて距離を取ります。
私も追撃をするつもりはないので、一旦休憩というか様子見の体勢になります。
さて、どうこれからチノクさんを怪我なく降参させるべきかと考えていると。
「手加減はしてほしいのですが~、今のところ誰からも攻撃を受けてはいませんので、お願いします~」
チノクさんは自分の敗北を悟っているというか、理解しているようで、そうリクエストしてきます。
ここまで言われると、やらないわけにはいきませんね。
「分かりました。では盾に攻撃をするので、構えていてもらえますか? それなりに力を入れますので」
「分かりました~。え~と、それなりで死にませんよね~?」
「大丈夫です。治しますから」
私がそういうと、見守っていたスィーアさんが声を上げます。
「はい。私は回復魔術も使えますので、多少の怪我は治せますから安心してください」
「回復魔術も使えるんですね~。じゃ、遠慮なくどうぞ~」
スィーアさんの発言を聞いて、チノクさんは覚悟を決めたように盾を構えます。
まあ、大けがはさせるつもりはありませんので……。
私は一足で近寄りつつ、盾を目標に剣を横に振るいます。
ゴッ!
ちゃんと盾が壊れていないか、ガードをしているのを確認して、さらに力を籠め。
「え? ちょっ!?」
盾を構えたままのチノクさんをそのまま剣で掬い上げるように上に弾き飛ばします。
とはいえ、この訓練場は屋内にありまして、天井まではせいぜい5メートル程度。
なので、受け身を回転して取る間もなく天井に衝突。
「ぐっ」
流石に体ごと上に弾かれるとは思っていなかったんでしょう。
そのままうめき声をあげていますが、まだルールで決めた地面に倒れ伏しているわけではありません。
つまり……。
「次行きます」
私がチノクさんの返事を聞くまでもなく、激突して落ちてくる彼女に追撃を仕掛けます。
ちゃんと手加減をしてけがをしない程度にとどめますが、さらに上に跳ね上げられ。
「ぐえっ」
二度天井にたたきつけられます。
ゲームみたいに空中では多段ヒットというのは出来ませんからね。
一発当てるだけで飛んで行ってしまいますから。
さて、二度は上手く行きましたが、三度目はどうでしょうか?
そう考えつつ、天井に叩きつけたチノクさんに追撃を加えようとすると。
「そうっ、何度もっ!」
そう声を漏らしつつ、反撃の構えを見せています。
流石に三度目はダメですか。
なら、その迎撃を躱しつつ、今度は上方向ではなく横方向。
「へっ!?」
迎撃が躱されて驚いているチノクさんに対して剣を横に振るう。
具体的にはレウギルド長の方へと。
そして予想外の攻撃だったようで、まともに入り、そのままレウギルド長へと吹っ飛ぶチノクさん。
「うおっ!?」
レウギルド長は驚きつつも、飛んでくるチノクさんをよけることなくキャッチ。
「あぶね~な。大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます~。痛みは打撲程度で済んでますね~。いや、あれだけ吹き飛ばされて不思議ですけど~」
そのままチノクさんを下ろしつつ、状態を確認します。
どうやらその程度で済んだみたいですね。
まあ、木剣をぶつけたわけではなく、ひっかけて飛ばしたような感じではありましたので。
さて、あとは……。
「一応、地面に倒れてはいませんが、どうしましょうか? 続けますか?」
続けるにしても聞いておいた方がいいでしょう。
向こうがやるとなれば、もうちょっとやり方を変えなくてはいけませんが。
「いやいや~。私の負けですよ~。それでいいですよね~ギルド長?」
「ああ、ここまでチノクが遊ばれるとは思わなかったけどな。普通は逆なんだがな」
「ですね~。侮っていたわけではないのですが~、圧倒的でしたね~」
そんことを言っているうちに回復魔術である緑の光がチノクさんに降り注ぎます。
「おお~。遠隔で回復とはかなり優秀ですね~」
「本当だな。痛みはどうだ?」
「しっかり無くなっていますよ~? これなら普通に治療だけでも食べていけるのでは~?」
チノクさんの予想は間違っていません。
なにせスィーアさんはエナーリア聖国の初代聖女様でもありますから、回復魔術の実力はルルアお姉さまやエルジュお姉さま、リリーシュ様、ヒフィー様、ハイレン様たちにも劣りません。
まあ、所属が聖剣使いであり、イフ大陸が主な活動場所なのでウィードではあまり目立ちませんが。
「できるとは思いますが、この時代。幾ら治しても減ってしまっては私自身の身も守れませんから」
スィーアさんはチノクさんの言葉にそう返します。
普通であれば、優秀な回復術師は最優先で守られるので、自分自身の身を守る必要はありません。
とはいえ、私たちは建前上冒険者。
戦いの中に置いて、回復魔術師だからと言って見逃されることはありません。
むしろ最優先に狙われます。
何せ真っ先に倒さないと、敵が次々と回復して前線に戻ってくるんですから。
で、そのことはレウギルド長たちも理解しているらしく。
「ま、冒険者になっているから当然だよな」
「ですね~。腕がなければクリアストリーム教会の方にでも引っ込んでもらうんですが、あそこまでの実戦の腕と、今の遠隔での回復魔術とか、戦場では引っ張りだこでしょうね~」
「だな。後方に置いて回復に専念してもらえれば、戦死者は減らせるだろう」
そんなことを話し始めたので、すかさずキシュアさんが口を開きます。
「そこの話をしたいんだが、その前に結局のところ私たちは試験に合格ってことでいいのか?」
「ああ、それはもちろんだ。これだけの腕ならすぐに戦えるだろう」
「とはいえ、見た目と実力が違いすぎて、根回しどころか、私かギルド長が同伴しないとトラブルの元ですが」
チノクさんの言う通りだと思います。
自分で言うのもなんですが、私も含めて一応冒険者らしい格好をしていますが、それでも私を除いて容姿はすぐれていて可愛らしいので、戦えるとは思えません。
私の評価に関してですがお兄さまだけに好かれれば良いので気にしておりません。
もちろん、侮られるような恰好はしていないという自負はありますが。
ですが、そこら辺から戦い慣れていない小娘たちだとみられるのは当然のことです。
その侮りも利用しようというのがお兄さまの狙いではあったのですが。
「現場に出る時にはチノクか俺が付き添えばいいだろう。それよりも説明だ。これならだいぶ戦力になるとみていい。損耗も避けられるだろう」
「はい。まあ、実戦になるとわからないことはありますが、私もキシュアさんたちなら問題ないと判断します」
どうやら合格はもらえたみたいですね。
これで門前払いだとこちらで独自に動く羽目になりますから、面倒が増えました。
……最悪ナイトマンの再来という形もありえたでしょう。
「よし、詳しい話をするから場所を変えるぞ」
ということで、私たちは表の受付ではなく、その隣にある会議室のような場所に移動します。
「ここは元々新人さんの教育とか、大規模な魔物の討伐をする前の会議室として使われるんですよ~。はい、お茶です~」
そう説明しつつ、チノクさんは私たちにお茶を出してくれます。
つまり私たちはもてなすに値するということですね。
普通の冒険者だけなら、何も出さずに説明するだけですし。
「さて、お茶を飲みつつ話を聞いてくれ。とはいえ、ドドーナ大司教から送られたってことは北部が厳しいというのは聞いているな?」
その言葉に全員頷きます。
ちなみに、クリアストリーム教会の蛮行については、信用できる相手だと判断すれば別で手紙を渡す予定です。
北部の戦線を放棄されては困りますからね。
「よし。まあ具体的にどれだけ厳しいかというのは知らないと思うので説明しよう」
そこからは、私たち、ウィードが集めた情報よりは精度は低いですが、嘘を吐いているようではないと判断できる情報説明がなされました。
「ということで、現在イオアのアンドは砦と防壁を頼りに押し寄せる魔物を討伐して何とか耐えている状態だ。すぐに崩れるというわけではないが……」
「ここ半年でさらに魔物の攻勢が激しくなり、冒険者はもちろん、軍の方にも被害が拡大して、人手が足りなくなっている状態ですね~。おかげで細かい仕事をしている暇がないという状態です~。おかげで新人とかを育てる余裕がなくて~。まあ、前線に送られるとなるとなりたがるものが少なくて~」
なるほど。
人が足りていない現状、町の細かい仕事よりも戦いに人を投入したいということですね。
とはいえ、それは新人を戦場に駆り出すということになりますし、それは被害が出ることを覚悟しなければいけません。
やる気があるならともかく、ベテランが死亡しているような状況下でなりたがる新人はそうそういないでしょう。
こうして私たちはアンドの状況を詳しく聞いていくのでした。
新人が育てる余裕がないというのは行き詰っているようにも見えますが、地方から集まってくる人もいるので、何とかトントンという感じでしょうか?
まあ、詳しくは聞いてみることが大事ですね。




