第1949堀:私たちができる事
私たちができる事
Side:シェーラ
『新大陸の中央部はなんか根が深いというか、調べてみればあっけないかもしれないが……』
そんなことをユキさんが言っていたのを思い出します。
珍しく、いえ、よくあることなのですが、今は調べ物の期間ということですね。
答えを探し、情報を集める。
ウィードではよくあることです。
ロガリでもそうでしたし、イフ大陸でも色々調べました。
ハイデンにおいても、ズラブルでもです。
ユキさんならきっと答えを見つけるでしょうが、私たちは少しでもお手伝いしたいということで、ミリーさんの所に来たのですが……。
「予想以上に書類があるわね。これ全部調べているの?」
ラビリスの言う通り、思った以上に書類が多い。
まあ、電子化をしているはずですし、そちらでも見れるのでしょうが、それでも紙として置かれていると圧倒されます。
「そうよ。ほかにも印刷して保管しているのがアイテムボックスの中に沢山」
「そうそう。あ、でも私たちみたいに紙で見ないなら、普通にパソコンとか、コールの画面で見られるよ」
なるほど、必ずしも紙の束に目を通す必要はないと。
とはいえ……。
「データは読み飛ばすのよねぇ」
「ですね」
毎日の日報などならともかく、こちらはどこにどんなヒントがあるかもわかっていないのです。
となると、紙媒体でしっかりと読み込む方がいいでしょう。
「で、どこを使っていいのかしら?」
「あ~、そっちのお客さん用のテーブルでお願い」
「ほかの机はグランドマスターやロックさんが使うからね」
なるほど。
確かにここは冒険者ギルドの施設。
そうなると、グランドマスターやロックギルド長の席があって当然です。
まあ、私も手伝いに来たとはいえ、専用の机が欲しいというわけではないので、これで良いでしょう。
ということで、さっそくソファーに座って、書類を手に取ったのですが……。
「あら?」
「これは、ギルドの仕事の書類では?」
お互いに顔を見合わせつつ、手に取ったテーブルに置くと、それは間違いなく、ギルドの仕事の書類です。
内容は、魔物の討伐依頼。
日付と依頼料、担当した冒険者たちに、結果。
そして処理済みのサインがされています。
つまり、これは依頼を終えたということでしょう。
「そうよ。そういうのも集めているの。何せ原因不明だし」
「なるほど。ギルドの仕事から何かヒントがないかということですね?」
「ふ~ん。言っていることはわかるけど、無作為過ぎない? ユキの予想というか、調べているのは歴史の方よね?」
ラビリスの言う通り、現在中央の不自然な動きについては昔のことが関係しているのではという予想が立っています。
事実、オーエが出来た時、つまり建国の理由、亜人が南へと逃げたことを考えると、何かあったのは間違いありません。
なにせオーエを狙い撃ったような対応だったのですから。
なので、現代の仕事の書類を見ても何かわかるのかと思うわけです。
「それね~。私たちも話したんだけどさ、かなり昔の話、魔王説もだけど、ユキさんが見つけたオーエに民衆が逃げた理由とか、そういうのが絡んで調べているんだろうけど、それってさ、今生きている人がそこまで重視するかな~って首を傾げたんだよ」
「どういうこと?」
真っ向からユキさんの考えを否定する言葉に、ラビリスは首をかしげます。
私もその理由は気になります。
「キナから言われて私も気が付いたのだけれど、それだけ大昔のことで亜人を迫害、差別はあっても、税金を落とす国民をわざわざ追い出すってすると思うか?って言われたのよね」
「……なるほど。確かに不思議ね」
「言われてみれば、その通りですね。エルフのような長命種は追い出しているでしょうし、何を根拠にこんな負担になることをしているのでしょうか?」
「そう。シェーラの言う通りなんだよ。確かに国の中心部で密かに隠していることはあるだろうけど、それで各領地にいる亜人をすべて追い出せとかなる?ってね」
元々指摘されていたことですが、ここにきてひと際不自然さを醸し出します。
「確かに、魔王と手を組んでいる亜人がいるってだけじゃ、わりに合わないわね。つまり、現代において何か別の要因が絡んでいる?」
「そうね。ラビリスの予測は当たってると思うわ」
「つまりユキさんの言う、過去は関係ないと?」
「いえ、実際魔王がって言われてるから利用されているのは間違いないわ。ある意味のカモフラージュじゃないかしら?」
ふむ。
魔王の昔話を利用しているというのは確かにその通りなのでしょう。
とはいえ、それで国の中心部だけでなく、地方の貴族たちも従っているというのはおかしいという話ですね。
どこの貴族も一緒というと失礼かもしれませんが、領地経営が上手く行っており、予算に余裕があるなんてのは珍しいことなんですから。
それで、自分の領地の収入が減るようなことを推し進めるとなると、やはり、表向きの噂とは別に、何かしら現代におけるメリット、デメリットが存在しているというのは間違いないでしょう。
そう、考えていると、ラビリスが書類を確認しながら口を開きます。
「キナの言いたいことは分かったわ。過去での大義名分はありつつも、現代で実行するには現実的じゃない。だから、どこかで何かを補填しているんじゃないかってことね?」
「そうそう。貴族なんて自分の手にあるものをただで手放すなんてしたがらないでしょ?」
「あはは……」
キナさんの言葉に私は苦笑いするしかありません。
言っていることは間違いではないですし。
「ちょっと、一応私やシェーラはウィードの貴族的立ち位置なんだけど? それに誰だって手のモノをただで手放したくはないわよ。まあ、貴族のイメージが悪いのはわかるけど」
ミリーさんがそうフォローしてくれます。
そうなんですよね。
ミリーさんはともかく、私はガルツで貴族の頂点と言われる王族。
その貴族たちを統制する立場であり、貴族と同じように領地をもつ身ですから。
まあ、私は幼かったので領地経営に携わってはいませんでしたが、それでも手放せないものがあるというのは事実です。
「あ~、二人ともごめんね。全員が全員ってわけじゃないし、立場的にタダで手放すっていうのは色々問題っていうのはわかるよ? でも、今回に限っては亜人を売っているってことだから、ちょっとどころか余程だよって話」
「そうよね。キナの言う通り、まともな領主なら、領地に住む人を減らすことを受け入れるなんて、よほどよね。その対価って何を望むのかしら?」
「ええ。人は替えが利きません。もちろん、領地の規模に対して養えないというのであればともかく、それ以上を出せば村や町の維持に関ります。それはつまり村や町がつぶれるということ。亜人をすべて引き払うというのは、その村や町が消えるということですね」
口に出してみると、異常な行動だというのがわかります。
確かに国の指示だとはいえ、村規模の亜人たちをすべてというのは不思議極まりないです。
もちろん、イフ大陸のように人族至上主義で、亜人たちが住む場所が限られているというのであれば話は別ですが、そこまで中央部は徹底してはいなかったようなのです。
村はもちろん、町でも排斥、差別のようなことはありつつも生活している人たちは普通にいるとのこと。
いえ、いたですね。
ここ数年の徹底した排斥の動きでどんどん逃げていると。
それでギアダナに移動や、南部へと移動したという話です。
ということは……。
「何かしら、今回の動きを取るために、取引が行われたということですよね?」
「そうそう、シェーラの言う通り。だから、その痕跡がその手のギルドの仕事書類にもあるんじゃないかな~ってね」
「仕事の書類なんて見る意味ある? とか言っていたわよね?」
「そりゃ歴史を調べろって話だったしね。でも、大事なのは歴史じゃなくて、今の亜人排斥を行っている理由と原因を調べるためだよね? そうなると、現代にも何かヒントがあってもおかしくはない。でしょ?」
「その通りですね。今に影響があるのであれば、何かしら痕跡があるはず。しかも多くの国をまたいで行われているのであれば、それも多いはずですね」
キナさんの言う通り、これは大きな痕跡が残っていてもおかしくはありません。
「そうね。となると、歴史調べは私がやるとして、仕事の書類を調べるのは二人に任せていいかしら?」
「え? 私は?」
「キナは一緒に歴史関連を調べて。今までやっているんだし、二人は今から始めてだから、分けた方が違いが分かりやすいでしょ?」
「あ~、まあそうか」
確かに、調べる部門が一種類というのはありがたい限りです。
複数に種類が及ぶと、それだけで整理が大変ですからね。
ということで、私とラビリスはギルドの仕事書類を調べることになります。
幸い、机の上の紙は種類ごとに分けられていたので、書類の整理から入る必要はないようですね。
「さて、書類の山を相手に調べていくわけだけど……」
「まずはデータ化ですね」
一枚一枚見ていくのですが、それを自分の頭の中だけで済ませるのではなく、目に見えてわかるように書類を整理していくというのが大事です。
つまり何をするのかというと。
「パソコンに入力ね。伝票系の整理システムでいいかしら?」
「はい。それがいいと思います。それで入力項目としては……」
そう、後でまとめて情報がわかるように情報処理系のソフトに入力していくわけです。
項目を分けることで、どこで何が、どれぐらいとわかりやすく見つけることができるでしょう。
「そうね~。まずは仕事内容。そして依頼者、国、ギルド、依頼料、時期、依頼人の男女ぐらいかしら? キナどう?」
「それぐらいじゃないかな~。あ、でも仕事内容は今決めて分類しておいた方がいいかな? 魔物退治とか、盗賊退治とか。ほら、町の人の手伝いとかもあるし」
「ああ、そうね。えーと……」
そんな感じで、私たちは依頼の書類の整理を始めるのでした。
ここは専門家というか、本職の職員さんがいてくれて助かりますよね。
……あれ? そうなると、仕事書類のデータ化に関してはお二人に任せておいた方がよいのでは?
改めて考えると、なんか間違ってね?ってことはありますよね。
とはいえ、話はまとまったから、口を出すのもっていうのもあってそのまま。
どこで言うべきか、それとも黙っておくべきかと、永遠のテーマです。




