第1943堀:そんな馬鹿なと思うことがある
そんな馬鹿なと思うことがある
Side:ユキ
「初めまして、ユキ様。このギアダナ王都の冒険者ギルドの長をしています、サナルと申します」
そういって、サナルギルド長が綺麗な礼を取る。
冒険者の統括ということで、荒々しいイメージがある人もいるだろうが、冒険者ギルドは国に認められている大規模組織。
国とのやり取りができない阿呆が務まるわけがないってことだ。
もちろん、貴族でも馬鹿がいるし、ギルド長にもいるだろうし、良し悪しはあるだろうが、この人はそういう礼儀ができるタイプだったんだろう。
そんな感想を持ちつつ、その挨拶に返答をする。
「今日は、急な訪問に、応えていただきありがとうございます」
「すまんな。サナル」
俺の返答に合わせて、ドドーナ大司教が気軽にそう答える。
「はっ、ギアダナ王国内でウィードの名前を知らない者はいないでしょう。そしてユキ様は王配、この対応は当然のことでございます。あと、ドドーナ大司教、軽いですよ」
ドドーナ大司教にはサナルギルド長も気軽に返す。
ちなみに、ドドーナ大司教とはエナやミコス商会のメンバーを経由して知り合っている。
実際に会うのは初めてだが、ヴィリアたちのことや物資支援のこともあって歓迎ムードだった。
ちなみに、護衛にはギアダナ王たちの所からはもちろん、リーアたちも付いてきている。
流石に一人では向かわせられないってさ。
あ、それと。
「それで、彼女は?」
「ああ、こちらはミリーと申しまして、こちらの冒険者ギルドの長をやってもらっているんですよ」
そう、ミリーも同行している。
ミリーは妻と紹介するかと言ったら、冒険者ギルドの所属で通した方が話がしやすいということだったのでそういうことになっている。
まあ、片っ端から奥さんですとか、俺もあれだと思うし、向こうもミリーに気を遣うし、名前ばかりと思うかもしれない。
これでもかなり仕事はできるしな。
「ほう。荒野の方にも冒険者ギルドはあるのですね。しかし、連絡は取れていませんでしたが……」
「大昔のことですから、今回ようやく機会が巡ってきたので挨拶をと思いまして」
「なるほど。確かに荒野へと出た者はそれなりにいたと聞いています。それがようやく会えたというのは良いことです」
ほう、どうやらサナルギルド長もオーエを超えた先の荒野については知っているようだ。
「とはいえ、大昔すぎるので、そちらのことは全く分からず、独自のルールで運営している状態です」
「それはそうでしょう。あの魔物が多いと言われる荒野で生き抜いてきたのですから、相応のルールが出来ていて当然です」
ミリーの説明に特に疑うこともなく、頷くサナルギルド長。
疑わないのかと思ったのだが、疑っても仕方がないと割り切っているかもな。
何せ、真実の見極めようがない。
オーエを超えて荒野へと冒険者を送りだすわけにもいかないからな。
あと、俺たちウィードという売り出し中の国が、そんなことで嘘を吐くとは思っていないというのもあるだろう。
ここで俺たちが嘘を吐けば、信用して許可をだしたギアダナ、そしてついてきてくれたドドーナ大司教の名前に泥を塗ることになるわけだ。
まあ、荒野よりももっと遠い場所よりやってきているので、嘘はついていないともいえるけどな。
「それで、ミリー殿を私に紹介しに来た。ということでよろしいのでしょうか?」
確認するようにそう聞いてくるサナルギルド長。
まあ、今のところ本題には入っていないし、そこでミリーを紹介すれば、そこが本題のように見えるだろう。
だが、俺たちの目的は残念ながら違うんだよな。
「いや、申し訳ないのですが、紹介は一部でして、ご相談があるのです」
「ご相談ですか? ドドーナ大司教がいるのもそのために?」
向こうも察していたようで、ドドーナ大司教に視線を向ける。
ただの挨拶だけなら、ドドーナ大司教はいらないしな。
「そういうことです。サナル、協力をお願いしますよ」
「こういう時だけ丁寧になるのかよ。で、師匠が来たってことは何か厄介ごとか? 戦力で言えば、師匠が出張れば問題ないだろう? 下手しなくても俺よりも腕が上だ」
「すぐに結論を出すな。私も老いには勝てんし、別に戦力の話ではない。話をしに来たといっただろう?」
「話? 今更師匠が知らない話があるのか?」
サナルギルド長は首をかしげつつ、何かに気が付いたようで顔をしかめる。
「まて、貴族がらみのことは喋らないぞ? 弱みとかそいうのは無いからな? 下手に首を突っ込むもんじゃない」
ああ、そっちだととらえたか。
いや、あながち間違いでもないか?
何せ、1000年前からのタブーとなっているようなものを聴くんだからな。
「そういう話ではない。お前さんも北部からこっちに来て違和感を感じていたじゃろう? 亜人排斥の傾向について」
「あん? なんだ、そんなことか?」
「そんなことだと? 亜人たちがどんな目に合っていたかわかって言っているのか?」
あ、ドドーナ大司教がピキッている。
サナルギルド長も失言だったと気が付いたのか、すぐに慌てて否定に入る。
「違う違う。やばそうな貴族を暴くとかそういう話かと思っただけだよ。そうなるとかなりやばいだろう?」
「ん? ああ、確かに。貴族は方々に繋がっているからな。で、そこはいいとして、亜人の扱いを不思議に思ったことは無いか?」
「そりゃ、俺だって北部から中央に来たから驚いたが、そういう差別は人だってあるからな。ある村の出身とか、町の出とか。まあ、拷問まではしなくても、そういうのはあるだろ? だから師匠も今まで気にしていなかった」
「むう。そう言われるとそうなのだが、流石に今回の件はいきすぎだと思うだろう?」
「そりゃな。話を聞いてびっくりだ。クリアストリーム教会は何を考えているんだか。質問はしたんだろ?」
「それが、知らぬ存ぜぬ。我らというか踏み込んだギアダナ王たちを責めていた。だから、ペトラと連絡を取ると言ったら、ちょっと待てと言って沈黙だ」
「はぁ? ちょっとまて、上の指示じゃないってことか?」
おっと、これは驚いた。
この反応、最近のクリアストリーム教会の動きを把握していないという感じだ。
そして、ドドーナ大司教もその反応に驚く。
「逆に私がびっくりだ。なんで冒険者ギルドはこの程度のことを把握していない?」
「いや、今の内容は情報封鎖しないとまずいだろう。なにせ、クリアストリーム教会の中央支部は本部がある北部はもちろん、ペトラ清司教の意図に逆らっているってことだろう? 下手をしなくても、それが対外的にばれれば、ただの反乱者だろう?」
「ああ、確かに」
うん、サナルギルド長の言う通り、この話が拡散していないのは、下手すると大規模な反乱になりかねないからだ。
亜人に対する行為がクリアストリーム教会の意図と反するものであれば、ペトラっていうトップも動くだろうし、賛同してきた連中は糾弾というか、落とし前をつけなければいけない。
つまり、クリアストリーム教会と反クリアストリーム教会っていう立場に分かれて戦いが始まってもおかしくないわけだ。
だからこそ、下手な情報を流せないという話だ。
下手をすると、今回の企みに参加している国を含めて中央が真っ二つになるわけだからな。
「というか、そんな馬鹿なことをしているのか? すぐにばれそうなものだが」
抱いた疑問は俺たちと同じだったようだ。
だってガバガバすぎるよな。
誰かが伝えたりすればそれで終わりなんだが、それが起こっていないのが現実だ。
そう思っているとミリーが口を開く。
「それは私たちも疑問でした。しかし、今の今までそれに気が付いていない。何かしら亜人に対する相当な偏見、あるいは思考誘導がされていたと思うべきでしょう」
「思考誘導ですか。……否定したいところですが、実際にそうなっていますね」
ミリーの指摘通り、ありえないと思っていたけれど、ありえていたという現実がある。
まあ、予想以上に斜め上、いや斜め下の行動すぎて、ドドーナ大司教とかも信用していなかったしな。
事実は小説よりも奇なりってやつか?
アホな方向でだが。
「それで私たちはこちらに来たわけです」
「こちらといいますと、冒険者ギルドでしょうか?」
「ええ。この話のこじれ方というか、中央の亜人への態度、北部の亜人との協力体制を考えると、まずありえないと思いませんか? 下手をすれば北部の亜人というか、国が亜人たちの為に攻めてきてもおかしくはないんです。なにせ守りの為の貴重な戦力ですから」
「確かに、その戦力となる亜人たちを拷問しているとか、北部の国としては亜人たちの気持ちをなだめるために攻めてきても不思議じゃない。え? これかなりまずくない?」
「まずいですね。それがわかっているから反乱者とおっしゃっていたのでは?」
「あ~、そこまでは。北部の国が動くまでとは。せめて北部のクリアストリーム教会が動くかなと……。いえ、今の話だと北部の崩壊にもつながりかねないですから、全力で来るでしょうね」
自分で口にすることで、改めて整理出来たようだ。
とはいえ、何の解決にも進んでいないが。
「ですが、それだと変なのです。亜人をそんなに扱って、中央部のクリアストリーム教会にとってなんの意味があるのか。北部の怒りを買いたいというなら、隠す理由もないですし」
「……ああ、なるほど。仰りたいことがわかってきました。動機が不明すぎてよくわからないということですね?」
「そういうことだ。ギアダナ王や宰相も、わけがわからないと首をかしげている。私もわからん」
「いや、師匠は元々クリアストリーム教会とは懇意にしてただろう?」
「していたな。とはいえ、毎日顔を突き合わせていたわけでもないし、訪問したわけでもない。中央部の本部がどこにあるかも知らないから」
「そこからかよ!」
とまあ、そんなツッコミをしつつ、ため息をついたサナルギルド長は顔を上げ。
「中央本部の調査については?」
「ギアダナ王国が探っています。下手に私たちが動ける話でもありませんから」
「確かに。そうなると、亜人をここまで排斥、拷問してまで何かを得ようとしていることを調べることが、中央部のクリアストリーム教会の目的を知ることにつながるわけですね?」
「はい。その通りです。ですが、国が動いている以上は……」
「残っているのは歴史が古く、そこら辺に探りを入れてもおかしくない各ギルドですね。冒険者ギルドならなおのこと魔物退治の関係でクリアストリーム教会とはつながりは深いということですね」
「わかったなら、すぐに調べられるだろう?」
「師匠。そう簡単な話じゃないって。これかなり慎重に動かないとやばいからな」
うん、本当にドドーナ大司教はパワータイプなんだな。
そりゃ、今までクリア教会が勢力拡大できなかったわけだ。
北部のペトラって人たちが苦労したんだろうっていうのが……想像できる。
常識って案外押し付けとか教育で作られますからね。
亜人への対応もそれが当たり前だと思い込んでいる感じです。
まあ、調べようとした人や抗議をした人もいたでしょうが……。
ドドーナ大司教は腕っぷしと優しさで全てを解決してきて、仲間がフォローに回っていたようです。
正しい配置でしたが、それだと頭打ちになるので、別れたような気がしますね。




