第1944堀:最前線の町へ
最前線の町へ
Side:ヴィリア
「なるほど、中央のクリアストリーム教会への探りを始めたわけですね」
『ああ、ヴィリアたちの報告から、北部とはほぼ連携を取っていないだろうと予想が出来たからな』
お兄さまは、中央部でクリアストリーム教会への調査のために、冒険者ギルドの協力を取り付けたようです。
「当然。明らかに亜人の扱いが違う。それも戦争になってもおかしくない状況。戦争を引き起こしたいのならともかく、隠している意図が全く分からない」
「だな。目的が見えなさ過ぎて逆に気持ち悪い」
「そうですね。戦争を引き起こしたいというのであれば、刺激をするために亜人を拷問していたというのは、まあわかるのですが、そういう傾向は無く隠ぺいに走っています」
ニーナさんたちの言う通り、やっていることが矛盾しているんですよね。
「魔王の仕業だというのであれば、逆に今の時点で亜人を理由に煽って北部や南部の国々を煽って、戦力を分散させる方がいいと思うんですけど?」
『それはヴィリアの言う通りだな。俺でもそうする。まあ、ほかに狙いがあるならとも思うが、今が絶好のタイミングだと思うんだよな。中央部は殆どがクリアストリーム教会に賛同しているし、ギアダナ王国を中心とした亜人派の国も戦力は削れたし、オーエを中心に南部の国々も今は南から北上してくる魔物の相手で手一杯。そして北部も魔物が攻め寄せている。崩すなら今だよな?』
あはは、お兄さまが現状をまとめてくれましたが、これ以上ないぐらい、新大陸の人の生存圏はギリギリのようです。
魔王というのがいたとして、この機会を逃すでしょうか?
それともお兄さまが言っていたタイミングを見計らっている?
そんなことを考えていると、キシュアさんが口を開きます。
「結論は急がなくていいだろう? 現に今十分に混乱しているが、まだ間に合うタイミングだ。言い方は悪いがな」
「キシュアの言う通り、敵が動けばわかりやすいってだけ。その時は一致団結を促しやすい」
確かにその通りなのですが、その場合は……。
「二人とも、なに普通に言っているんですか? その場合、かなりの被害が出ることになるんですよ?」
スィーアさんの言う通りです。
その場合、魔王と思しき人の侵攻で多くの人々が苦しむ……。
いえ、亡くなることになります。
それは……。
「スィーアは癒す側だからそういう意見になるだろうが、私たちだってできることには限りがあるからな」
「敵というか、何がこの新大陸にいるのかさっぱりわかっていない。魔王の名前はあるけれど、姿かたちは無い。一番の原因と思えるクリアストリーム教会に関しては、北部と中央部で亜人の対応が全く違うし、外にいる私たちは現状どこから手を付けて良いかわからない。下手に動けば、さらに酷いことになる」
「だな。最悪、ウィードが全ての原因とか言われて、南部の国々を率いて大戦争だぞ?」
「そう、敵は倒せるけど、その場合死屍累々。色々な意味で。国の立て直しとかもしないといけないし」
うん、洒落になりませんね。
その場合、統治をするのはお兄さまを中心として、私たちも必ず手伝うことになるでしょう。
下手をしなくても、どこかの国に行って復興の手伝いを長期に手伝うことに……。
つまり、お兄さまと離れ離れ。
「それは絶対に避けたいですね!」
「むう。確かにそれは避けるべきですね」
私は思わず声が大きくなってしまいましたけど、スィーアさんたちは気が付いていないようです。
いえ、声が大きくなったのはわかっていたでしょうが、それはその場合の苦労を思えばと勘違いしているでしょう。
『まあ、それは最悪に近い可能性だな。避けたいのは同意見だ。だが、動かないわけにもいかない。少しでも情報を集めて、その最悪はもちろん不幸になる人々を少しでも少なくするために行動する。これに異論はないな?』
「ないな」
「ない」
「ありません」
「はい」
私たちはお兄さまの言葉にすぐに返事をします。
ここにいるメンバーは誰一人そんな結末は望んでいません。
『色々わからないことは多いが、色々な要素が絡まっているっていうのは分かった。当面はクリアストリーム教会の北部と中央部の隔たりというか、亜人の扱いの違いを調べる。そして、ニーナたちは……』
「ペトラ清司教とコンタクトを取ること」
『そうだ。中央部はなぜかペトラの名前をだすとたじろいだ。何かしら影響があるのは間違いない。そして、ドドーナ大司教に関しても強く出れていない。不思議なんだが、まだ決裂してはいないってことだ』
「あそこまで自由にやっておいて、なんで北部のクリアストリーム教会と手を組めるって思うんだ?」
本当にそこはキシュアさんの言う通り不思議でたまりません。
北部の本部があるクリアストリーム教会に真っ向から喧嘩を売っているとしか思えない所業なのですが。
『さあ? そこら辺も調べて行けばわかると信じたい。この手の連中は下手をすると、自分たちのすることはすべて肯定されてると思っている場合もあるからな』
「それは……話し合いは……」
『その場合は殲滅というか、力ずくになる。マジで言葉が通じないからな』
はい。
その手の連中は話を聞かないというのはよくわかります。
今まで冒険者をしてきて盗賊はその手合いが多いですし、お兄さまの手伝いでその手の関係者もいるにはいましたから。
『さて、面倒な話は遭遇してからということで、今はヴィリアたちの方針だ。今はイオア王国に到着したんだったか?』
「はい」
そうでした。
今回お兄さまと話しているのは、私たちがイオア王国に到着したからです。
あのウエサの町での魔物襲撃から、私たちは移動をはじめていました。
一応寄った町などは調べましたが、特に亜人に対する差別なども行われておらず、普通に暮らしていました。
気になることと言えば、イオア王国は北部に近く、魔物が強くなっているという話でしたが、そこまで魔物の襲撃がなかったことぐらいでしょうか?
まあ、国内にも魔物が相当数はびこるようであれば、物資の輸送もままならないでしょうから、討伐をしていると言われれば納得ですが。
『じゃあ、後は冒険者ギルドに接触して、イオア王国との関わりの確認と、クリアストリーム教会の動き、そしてイオア王国の前線の状態を調べるだな』
「簡単に言っているけど、どれも面倒事。わかっている?」
『わかってる。とはいえ、ヴィリアたちは目的をようやく達成できる場所にたどり着いたんだ。始まりってことで頑張ってくれ』
「ま、そりゃそうだ。今までの旅路あくまでも北部の様子見だったしな」
「ですね。とはいえ、そこまで荒れてはいませんでしたが。例外がウエサの町でした」
そうなんです。
スィーアさんの言う通り、確かに野生の魔物は強かったのですが、それでもゴブリンやウルフと言った小型の魔物ばかりで、オークが出れば珍しいというぐらいには、街道は安全でした。
それに遭遇したのが2回、空から目撃したのが14回という感じなのです。
この6日という期間で。
下手をしなくても、ちゃんと街道を警備したり、しているからこその成果でしょう。
『その報告書は読んでる。そこは嬉しい誤算だな。ウエサの町に魔物が迫ったときはほかもまずいのかと思ったが、そこまで無いようだな。そういえばほかの町というか、国で魔物の襲撃があったとかは情報はあったか?』
「そこら辺のことも含めてイオアの冒険者ギルドで情報を集める。とりあえず、今のところそういう話は聞いていない」
「ああ、国をまたぐと違うしな。イオア王国に入ってからもウエサの襲撃事件は聞いたけど、ほかの話は聞いていないな」
「ですね。それだけは幸いです。あくまでもアレだけ。とは言いませんが、今のところ、近隣で大きな被害は出ていないようです」
本当にそれだけは良かったです。
スィーアさんの言う通り、魔物襲撃事件ですが、今のところウエサの町だけで起こったようで、ほかの被害は聞こえていません。
あくまでもアレは単独だったんじゃないかというのが、私たちの中での判断です。
『そうか。まあ、情報を集めてみないとわからないが、今のところは平和で何よりだ。で、そういえばイオア王国に入ったのは知っているが、場所に関してはどこなんだ?』
「はい。今はドドーナ大司教とサナルギルド長に言われ、いえ、推薦された場所です」
「イオアの最前線。通称北部三大砦防壁」
『なんだそれ?』
「イオア、最北部のエイア、そしてほぼ同じ位置でイオアと左右対称の位置にあるガナイア。これが、北部における最高戦力というか、魔物を最も押しとどめているとされている国で、そこで一番魔物が押し寄せる砦であり、防壁として機能しているところを北部三大砦防壁って呼んでいるらしい」
『なるほど。らしいと言えばらしいな。となると、ドローンや使い魔で周囲を確認した方がいいか?』
「してくれると助かる。周辺調査はしておきたい。それに私たちはその三大砦防壁に来たわけじゃない。一歩前の町。ここで冒険者とかは、周りの魔物を退治したり、宿を取ったりする。砦は軍が基本専門」
『そりゃそうだ』
そう、私たちはイオアの王都を過ぎ、最前線の一歩前の町へとやってきています。
ここで、物資の補給はもちろん、宿など、人の営みが行われています。
砦はあくまでも敵から守るための拠点であり、補給拠点というより、軍の駐留場所というのが正しいわけです。
民間人に大事な防衛拠点の内情を知られるわけにもいきませんからね。
「私たちはこれから冒険者ギルドに行くんだけど、その間にユキには、いや本部は周辺のデータを取ってくれると助かる」
「ええ。これから冒険者ギルドから仕事を受けるでしょうし、最悪、そのまま最前線というのもあり得ますからね」
ないと思いたいのですが、切羽詰まっていれば戦える人たちを送り込むぐらいはするでしょう。
それで人々が守れるのであれば。
『わかった。まあ、状況によりけりではあるが、最悪は全力出していいからな?』
「あはは、そんなことにならないといいですけど」
「その場合、私たちは間違いなくヒーロー、勇者扱い」
「その時はヴィリアにナイトマンやってもらうか?」
「ありかもしれませんね」
えっ!?
またやるんですか!?
ついに到着したヴィオラたち冒険者一行。
そして、気が付けば6日経っている。
つまり……?




