第1940堀:試験の為の試験
試験の為の試験
Side:ナールジア
目の前で夢が形となっています!
この興奮は武具を作り上げるときのモノとは、全く違います。
多くの職人、魔術師の手を借りて、この巨大な物を作り上げたのです!
「あははは! すごい! すごいね! 人は、こんなものを作れるんだ!」
「そうなのです! 人の可能性は無限大なのです!」
一緒にモニタリングしているエージルさんやフィーリアちゃんも興奮の極みです。
まさか、こんな鉄の要塞を動かすことができるなんて!
いえ、計算上できることはわかっていました。
ですが、それがこうして目の前で動くの見るというのは、まったく違います。
ああ、初めて鍛冶や冶金をしたことを思い出します。
いえ、それ以上のモノ。
フィーリアちゃんの言うように、人の可能性を、無限大の可能性を見た気がします。
「あ、コメット姉様、ザーギス、中はどうなのです? こちらから読み取れるデータ、および外からの様子では異常が無いように思えますが?」
おっと、そうでした。
興奮するのはいいですが、この起動実験はあくまでもデータ取りのためのモノ。
多くの技術をつぎ込んだ陸上戦艦。
まずは、起動して、魔力障壁を利用したホバリングができるかです。
それが出来なければ動くことはありえません。
まあ、実際動いているのですが、データで過負荷がかかっていないかを確認することも大事です。
『こちらコメット。艦橋からは特に問題はないね。ザーギスどう?』
『こちら、ザーギス。戦闘指揮所、CICより連絡します。現在問題は発生していません。起動時の過負荷も問題ありませんでした。ただいま船室の確認をさせています』
ふむふむ、現在、試作陸上戦艦の起動と多少の走行は問題がないようですね。
あとは、移動継続状態での耐久性、高低差での姿勢制御、戦闘時の機動、過負荷確認、攻撃兵器の稼働実験と……色々ありますね。
完成には程遠いですが、それでも第一歩を踏み出しました。
「了解なのです。ナールジア姉様どうします? 起動から稼働の第一シーケンスすべて順調に完了したのです」
「そうですね。あと10000回ぐらいは第一シーケンスをとって、ヒューマンエラーも含めたトラブルの洗い出しはしたいんですけど、すべてをこなしても問題はありませんよね?」
私はフィーリアちゃん、エージルさんにそう確認を取ります。
「結局のところ、全部試験をしないといけないのは間違いないのです。なら一連の流れを全部してしまうのは間違いではないのです」
「僕もフィーリアの意見に賛成だね。元からどっちにしようかって話はあったし、目立ったトラブルもないんだし、全部通してやってみて、異常が出たらそこで中断の案でいいんじゃないかい?」
「そうですね。最初の起動実験は上手く行きましたし、心配していた不調もありません。では、プラン前倒しでいきましょう。コメットさん、ザーギスさんもそれでよろしいでしょうか?」
『もちろんさ、どんどん行こう!』
『ええ。確かに安全試験は大事ですが、どこまでやれるかも試すのも大事なことです。ああ、その時はヤユイさんを呼んでもらいましょうか。あの人は乗り物であれば、その乗り物の最大限の性能を引き出してくれますからね』
「いいですね。今度ユキさんに打診してみましょう」
いや、未来の展望は明るいですよ!
バンッ。
そう思っていると、指揮所の扉が開けられます。
何か、起動の振動でどこかトラブルでしょうか?
けが人が出ているなら、すぐに医療班の出動を、いえ、私がエリクサーをもっていった方が早い?
と考えていると、ドアから入ってきたのは。
「ヤユイを派遣してほしいことについては理解した。とはいえ、起動実験の話は聞いていないが?」
そういって、笑顔でいるユキさんたちが入ってきます。
うん、なるほど、その笑顔は……。
「嬉しいですよね! すでにここまで完成しているとは思っていなかったですし、それに起動実験の許可は聞いていますが、起動実験の実験の許可がいるというのは聞いていませんよ~」
「あ、そう言っちゃうか。悪意とかないよね?」
ユキさんはなぜか拍子抜けたというか、よくわからないことを言います。
「当然だよ。起動実験の時に失敗なんてしたら、そのまま陸上戦艦運用が流れる可能性もあるだろう? 起動実験の実験は必要不可欠さ」
「その通りなのです。これは各部がちゃんと動くかの試験の試験なのです。兄様たちを失敗につき合わせるのも、時間の無駄なのです」
うん、二人も当然のことを言ってくれます。
今の私たちは早急な陸上戦艦の開発、完成が求められています。
なので、起動試験でつまずくようなことは避けたい。
だからこそ、試験の試験を行っているわけですね。
「あ~、わかった。わかったが、一応俺たちも進捗は聞きたいし、見たいから声かけてくれないか? 誰かが必ず駆けつける。有事の際に責任を取るためというのもある。ナールジアさんたちをこういうことで失えないからな」
「なるほど。確かにその通りですね。わかりました。これからは連絡いたします。と言っても……」
私は視線をエージルさんやフィーリアちゃんに向けると、彼女たちはすぐに頷き。
「まあ、僕たちは今日から毎日試験の試験をずっとする予定だからね。見ての通り、現物は既にできている」
「あとは、試験をずーっとこなすのが続くのです」
素直に事実を告げます。
そうなんですよね。
これからは、ずーっと、耐久試験になります。
活動する場所は、私たちが今いる海岸近くの平原ではなく、荒野という砂塵が舞う場所ですので、せめて平原でのデータは獲りつくして、本番である荒野での活動データも欲しいところですね。
「なるほど、そういうことですか。確かに間違ってはいませんね」
「だね。あはは、やっぱりみんなは凄いや」
「なははは、スタシア、トーリ、褒めても何もでないよ。いや、もうすぐ2番艦もできる予定だし」
「そうなのです。今回の実験で動くことは確認できたのですから、データ取りできる艦は多いことに越したことは無いのです」
「マジか」
ユキさんたちがさらに驚いた顔をしていますが、とりあえず説明をしておきます。
「はい。嘘じゃありませんよ。すでに設計図がある以上、試したい機能などはありますが、あくまでも拡張で補える段階です。なので、装甲などの外装を作っておいて、ブロック式にした内装を取り付けられる状態です。すでに5番艦までの準備をしています」
「「「5番艦!?」」」
驚きの声がさらに上がりますが……。
「別に不思議な事じゃないさ。予算内だし、試験でいつ壊れるかなんてわからないからね。完成するか不明だし、予備を作っておくのは当然の話だろう? ねえ、ユキ?」
「……そう、だな。まあ、予備があるのは助かる」
エージルさんの説明でユキさんはすぐに納得してくれます。
そう、初めて作る兵器、乗り物なんですから、どんな不具合が出るかもわかりません。
すぐに整備はもちろん、修理などがスムーズにできるように設計するのはもちろん、予備の部品や、代わりの艦を用意しているのは当然の話です。
どこかのいつか届きたいロボットアニメみたいに、試作機がほぼ破壊されて、ガンダ〇2号機だけで運用とか、整備性最悪で顔真っ青にしかなりませんからね。
ユキさんが、量産機の方が好きだと言っていたのが、こうして陸上戦艦を作り始めてわかりました。
あのアニメの環境、まあ艦のだけのことではありますが、最悪でしたからね。
いえ、部品に関しても、圧倒的に少ないし、運用するのは本当に面倒ですよね。
まあ、ワンオフというのは夢があるのですが。
「ということで、今回の試験の試験に問題らしい問題がなければ、2、3番艦を完成させて、データ取りを始めるのです。残念ながら、アニメのようなオンリーワンの艦にはならないのです」
「そりゃな。現実はそんなもんだよフィーリア。それで、今日から試験の試験に付き合う人がいるわけか」
「はい。そうなります」
ユキさんたちが出せる人員があればというのが付きますが。
「ユキ。僕がいるからそこらへんはどうにかならないかい? 今の状況で、現場を回しているメンバーはもちろん、ウィードの運営に関わっているメンバーは動かせないだろう?」
「それは……そうだな」
そうなのです。
エージルさんの言う通りで、現在のウィードの皆さんは新大陸はもちろん、ウィード内部で運営や外交などで主要人物は大忙しなんですよね~。
まあ、だからエージルさんを今開発メンバーで引き込めたのはありがたいって感じなんですけど~。
「よし、先ほど言っていたヤユイの派遣を、監視、視察も兼ねよう」
「ふえ!?」
ユキさんは思い切ったことをしましたね。
まあ、エージルさんは研究者なんでこっちに出ずっぱりですし、ユキさんたちの所に仕事として戻るというと、オレリアさんたちしかいませんからね。
「あ、あのユキ様。私は仕事が……」
「わかってる。陸上戦艦の開発期間だけ、こっちで仕事だ。基本的にはグラス港町が主体だろう?」
「あ、はい。それは確かにそうですけど……。現場というか、シスア様やソーナ様はもちろん、漁港に出ることはあるのですが」
「そこは仕方がない。その時は、リュシに任せる。今はこの場にいないが、リュシもある程度自由は利くし、何より医者の卵だ」
「なるほど。確かにルルアさんとすぐに連絡できる人はありがたいですね。医療の知識も十分でしょうし」
私もリュシさんとは面識がありますし、彼女ならテキパキ動いてくれるだろうという自信はあります。
「いや、造船所の医療については基本的には、ここで勤務している医者に任せるぞ? そっちの人事に文句はない」
「ああ、リュシさんと入れ替えるとかそういうのは無いですよ。ですが、いざという時に対応できる人が多いのは良いことですから。私たちは怪我なんかしたら、すぐに回復魔術かポーションですからね~。それで、治療が微妙になることもありますし」
やけどとか、ちゃんとした治療をしないと跡が残るんですよね~。
「ああ、なるほど。医者一人じゃ辛いだろうな。というか、けが人とかが出た報告は聞いていないが?」
「今のところ大けがはありませんよ。まあ、鍛冶もしているので小さなやけどや打撲なんてのは当たり前に起こっていますけど」
鍛冶や冶金をしていると当然のことです。
「そうだな。それはそうなるな。と、そちらの要求は分かった。あとで手続きしてくる。それで、試験している陸上戦艦の情報を教えてもらっていいか?」
「はい。任せてください!」
ここからが本番ですね!
さあ、狂気が走り出す。
何物にも止められない、理論武装で作り続ける。
だって、試験の試験っていうのはやって当然だしね!




