第1935堀:想定よりも
想定よりも
Side:セラリア
「……ということで、ウィードにいる魔術師、鍛冶師を全部投入できれば、わずか7日で完成する予定です!」
そんなことを自信満々に言うのは、我らがウィードが誇る最高峰の魔術、魔力、武器、研究、の研究者であるナールジアさん。
あ、本業は鍛冶や冶金なんだけど。
と、そこはいいとして、まずは……。
「「「いや、無理だから」」」
ナールジアさんの想定をさっさと全員で否定する。
幾ら緊急で必要とはいえ、陸上戦艦を開発するためにウィード所属の魔術師や鍛冶師を全部投入することなんてできない。
以前、話し合った情報漏洩を防ぐためにも、そんな増員は認められない。
人の動きですぐにばれるし、隠すのもほぼ不可能。
いえ、造船所を作るっていうのは既にばれているし、そんなに動員すれば、各国にも何事が起ったのかというのがばれる。
別にばれても構わないのだけれど、そこまで力を入れる状態でもないのよね。
そして、魔術師も鍛冶師もウィードの産業を担っているのだし、ほかから全部引っ張り出すと、色々止まって大混乱になる。
なので、論外ってわけ。
ナールジアさんもそれがわかっていないわけもなく……。
「そうですか。まあ、流石に無理ですよね。なので、こちらを」
そういって、書類を私たちに魔術で飛ばしてくる。
うん、本気で考えていなくてよかったわ。
そして、その書類には……。
「ということで、現実的な感じですね。増員率や物資の提供率などを段階的に書いています」
確かに、新たに渡された書類には段階的に増員などをした場合の作業効率に関して書いてある。
先ほど言った非常識な総動員などではなく、10人単位から50人単位ぐらいで、まあ、ギリギリ何とかなるかなという感じ。
そこで、あることに気が付く。
「ねえ。この開発期間が12日って書いてあるけど、ウィードの全魔術師と鍛冶師を導入して7日って言っていたわよね?」
「はい、言いました」
「何この差?」
数で言えば100倍近く違う。
まあ、素直に100倍速くなるとは思っていないけど、それでも、遅くないかしら?
「何を言っているんですか。そんな増員されても説明とか、割り振り、休憩所の建設、食事の提供、シフトの作成とかを考えると、そっちに時間がかかりますよ~」
「「「ああ……」」」
その返答に納得しかなかった。
数は確かに力だけど、すぐに動かせるわけではない。
その人数を確実に運用できるようにするための準備が物凄くかかるのだ。
それを考えれば、総動員レベルを一週間以内にまとめあげて成果が出るっていうこと自体がおかしいわけだけど。
「……話はわかったわ。とはいえ、陸上戦艦の設計図は見せてもらったけど、それがたった12日で出来るものなの?」
問題はそこよね。
元々は海に使うための軍艦を作る施設。
そして製造計画に関しては一ヶ月単位での進捗の予定だ。
それがいくら何でも人数や物資を用意したとはいえ、たった12日でどうにかなるものなのか?
「正直に言えば、試運転を考えると前後する可能性はあります。とりあえずの完成は12日という感じです」
「まあ、そうよね。初めて作るものだし、その完成度を高めるための荒野での試運転も含めるのだから。とはいえ、動けるものを作れるのかって根本的な所が心配なんだけど?」
そう、あまりにも開発期間が短すぎるのよね。
予定していた、ウィード製の軍艦だって半年を予定しているのに、それが12日っておかしすぎるでしょう?
「ああ、そこに関しては、ちょっと事情が違うんだよね」
私の疑問に答えたのはナールジアさんではなく、エージルだった。
「どういうことかしら?」
「簡単に言うと、軍艦の製造に関しては、私たちが主導ではあるけど、生産するのは職人たちだ。まあ、造船所で働いている人たちって意味だ。そこはわかるかい?」
「ああ、エージルたちは指導はするけれど、組み立てをするのは職人というか、職員たちってことね?」
「そういうこと。だから、私たちが作るのと、彼らが作るのには速度に差がでてくる。特に物質の移動に関しては」
エージルはそう言葉を切ると、魔術を使ってあるモノを私の前に運んでくる。
「これは?」
「陸上戦艦の装甲だよ。これを最低10メートル四方のサイズの奴を移動して取り付ける必要があるんだよ」
「それは、魔術をちょっと使えるだけじゃ難しいわね」
目の前にある装甲は手にずっしりとした重さを伝えてくる。
大きさなんて精々10センチ四方しかないのにだ。
これを10メートル規模で持ち上げるとなると、人力では不可能ではないけれど、よほどのステータスがないと無理だ。
魔術師での浮遊を使っても相当の魔力を消費する。
なるほど、人手がいるわけだ。
「というか、これかなりの技量がいるんじゃない?」
こんな重量物を指定の場所まで移動するとか、簡単なことではないわ。
「そうそう。だから、それを補佐する道具の使い方とか説明がいるわけだね。そういう指導があるから、軍艦一つ作るのにとても時間がかかるわけだ。とはいえ、今回は……」
その言葉をコメットが引き継ぐ。
「私たちが全力で手伝うからね。もちろん、軍艦を作る予定のメンバーも手伝わせて手順の確認とかさせていくけどね。そうでもないと速度は上がらないよ」
「そういうことか」
今回は緊急事態、そして、初めての試作品であり、初めての造船所の稼働に近いのだから、トップが実働を担うってわけか。
まあ、本来トップは指示を出して待つのが常だけど、いえ、この場合私たちがトップであり、現場のコメットたちはいざとなれば自分たちで陣頭指揮を執って作れるものね。
「私たちの魔力とその操作があるなら、重量はさほど問題じゃない。まあ、流石に陸上戦艦や軍艦を丸ごとというわけにはいかないけど、ギリギリ魔術で浮遊できる範囲で行うから作業が早いわけさ」
「魔術での物質の持ち上げも練習次第ですし、徐々にできることが増えてきますよ。まあ、効率的に軍艦を作ることができるようになります」
コメットの言葉に添えるように、ナールジアさんも説明を補足する。
なるほど、モノを持ち上げる魔術なんて基本は非効率の極みだから使いたがらないけど、こういう重量物を持ち上げるという目的があるなら、鍛えるようになるだろうし、その鍛錬の結果、より重たい物を持てるようになる。
それはつまり、造船の稼働率の上昇につながるわけね。
「いずれ、その魔術による重量物を持てるということも、明確に技能項目として免許制にするつもりだよ。それで、ほかの工事などでも安心して運用できるだろうし」
確かに。明確にどれだけのモノを動かせるというのがあれば、使う側も安心できるわね。
……造船所のみならず、ウィードの発展に欠かせない物になるわね。
まあ、魔術を神聖視をしている連中はぎゃあぎゃあいうでしょうけど、そもそもそういう連中はウィードにいないからいいか。
「ということで、私たちがフル稼働をするからこその12日というわけさ。ああ、もちろん、事前に作っていた物資もあることが前提だけどね」
「事前に?」
「そう。今見せている装甲だって、それを作る過程がいるんだ。色々実験してたからね。複合装甲なんだよ? 資料には書いていたと思うけど?」
そう言われて、前に渡されていた、陸上戦艦はもちろん、軍艦に使う装甲の素材についてを思い出す。
「確か、金属は数種類はもちろん、ほかにも色々挟むって言っていたわね?」
「そう。性質の異なる金属板を張り合わせ、剛性だけでなく柔軟性も併せ持っている。もちろん、破損した際の修復とかの性能も持っているんだ」
「……え? なんか前半は分かったけど、後半はどういうこと? 修復って、直るの?」
不思議な説明を聞いて、思わず聞き直した。
壊れた装甲が直るってどういうことよ?
「その通りですよ~。というか、剣が摩耗、切れ味が落ちたり、欠けたりしたときに自然回復するようなエンチャントがありますよね~。それの発展形ですよ~」
「あ~、そういう」
その説明である程度理解できた。
確かに、剣って意外と手入れが大事で、折れたり欠けたりなんてのはよくあること。
まあ、業物とかいわれる剣は、素材が良かったり、鍛冶師の腕が良かったりで、その摩耗を押さえることは出来るけど、やっぱり最後は折れたりする。
これは仕方がないこと。
でも、エンチャントで再生や維持などのエンチャントが付与された剣は欠けるぐらいであれば、自然と直るモノもある。
流石に折れるとダメだけど。
ちなみに、ナールジアさんが開発している武器は自動修復が当然のようについている。
ユキのおかげで物資をやまほど使える上に、貴重な素材も使えるので、そんな頭のおかしい性能になっているわけ。
それを陸上戦艦の装甲に使うっていうのは……合理的ではあるけれど……。
「実現できたってこと? かなり難しいと思うのだけれど?」
誰だってそれを望んでいる。
ナールジアさんが言っているのは、勝手に直る家や馬車と言っても過言ではない。
夢の実現と言える。
「あはは、流石に限定的ですよ? 剣じゃなくて、陸上戦艦の装甲ですからね。規模は物凄いですから。それに屋内なんて、時代や用途によって改装しないといけませんから、あくまでも装甲とエンジン部分などの重要な所のみとなっていますし、直ると言っても即座というわけにはいきません」
「それはそうよね」
破損して即座に回復なんて、そんなのはありえなさすぎる。
「破損の規模によりますが、予定の10メートル四方装甲を完全修復だと、1日かかりますからね~」
「「「……」」」
その説明に絶句する私たち。
「あれ? 遅すぎますか?」
「逆よ。こんな豪華な素材を作った部分が、何もしなくてもたった1日で直ることに驚きよ? ……それって装甲をわざとくりぬいたりして、生産ができるってことにならないかしら?」
そんなことが出来れば、物資を無限に取り出せる夢の資源の誕生になってしまう。
DPで取り寄せることもしなくていい物凄いことになってしまうわ。
「あはは、そうは上手くはいかないんですよ~。この修復機能ですが、相応の魔力と薬草を特別精製した特殊ポーションを使うことで出来るんです~」
「逆に安心したわ。ちゃんと制限があるのね」
それなら、各国からねだられたりというか、ばれた時に要求されることは無いでしょう。
と、思っていると。
「魔力に関しては私たちのように膨大な魔力、具体的には1万DPほど、魔力換算で100万ほどと、薬草の特別精製のポーションがいるってことです。つまり、私たちが頑張れば生産はできることは出来ますね~。まあ、すっからかんになるんであまりお勧めはしませんけど~」
「コストは確かに安いんだけど、100万の魔力なんて私たちが2人ほど空っぽになるしね。何かあったときに出撃できなくなるから、微妙なんだよね」
そうコメットが付け加えるのだが……。
「「「……」」」
たった二人と特定の薬品を損耗するだけで、この装甲材が復元というか、10メートル四方の鋼材が引っぺがしが可能になる?
……難しいところね。
想像以上に斜め上のオーパーツが出来ているということにナールジアさんたちは……。
気が付いているかもしれないが、パッとしないのであまり興味がないようです。
それを聞かされるセラリアたちは、別の意味で顔真っ青。




