第115掘:道などいくらでもある
道などいくらでもある
side:セラリア
一気に色々ありすぎたわ。
いえ、魔族の件で私達がうろたえているというのが正しいでしょう。
夫だけが、平然とザーギスから話を聞いていたが、他のほとんどが上の空だ。
だって、それは仕方のないこと。
私が生まれた時から、いえずっと昔から魔族と魔王は生きとし生ける者の敵だったのだから。
が、蓋を開けてみれば、侵略者どころか、魔王ができ国が興った理由、原因は私達にあったというのだから。
ザーギスのいい分が全部正しいとは思わないけど、色々な持ちうる情報から、ある程度は真実だと判断できてしまう。
他の3か国の王達も私と同じ結論に至っているのだろう。
いや、ある程度歴史を紐解けば、そこら辺の真実に気が付いている王もいただろう。
だが、事実だとしてもそれを肯定するわけにもいかない。
しかし、このウィードという、特殊な場所で漸く頷ける、いや真実を見る為の状況が揃ったというわけだ。
一国だけとは違い複数で、この事態を認識することで、手を取り合う事が可能となったわけだ。
一国、いや、一人でこの真実に気が付いても、気がふれたとしか思われない。
ウィードだからこそといっていいだろう。
「ふう、ちょっと休憩を入れましょうか。キルエ、アンナ頼めるかしら?」
「「はい、かしこまりました」」
こういう時の生粋のメイドはありがたいわね。
彼女達だって学があるのだから、この話についていけているはず。
それなのに、しっかりメイドとしての職務を全うしている。
「じゃ、俺もなにかお菓子でも……」
そうやって、夫が腰を上げる。
「待ちなさい。貴方は私と一緒に座ってるの」
一番正常、いや、全体的にみると夫がオカシイのだろうが、私からすれば頼もしい夫。
とりあえず聞きたい事があるので、お菓子を運ぶなどという役をやらせるわけにはいかない。
「えー」
「えー、じゃないわよ。少し聞きたい事があるの、いいかしら?」
「ふう、何が聞きたいんだ? 全体に聞かせたい話なら休憩が終わってから方のがいいんじゃないか?」
「いえ、少し分かってない事だから、私も少し混乱してる事があるの。トーリやリエルとかもそうじゃない?」
そうやって、トーリ達に視線を向けると頷いている。
「さっきさ、ユキさんが和平云々で、和平なのにウィードに攻め込むとかよくわかんないだけど? 和平って戦わない事じゃないの?」
リエルが首を傾げ、ミリーやカヤ、デリーユが頷く。
「ああ、そこら辺か」
ポンと手を打つ。
私も薄っすらとユキの考えは読めているが、私が説明するよりはユキが説明するほうがいいだろう。
「和平ってのは、リエルの考えている通り、これ以上戦わずに血を流さずに済む方法だ。でも、それは結果論なんだよ」
「結果論?」
「いや、結果論というより、終わった後の話だな」
「どういうこと?」
「そうだな、和平って道があるとしよう。でもその道は一つじゃない」
「うーん?」
「うーーーん、じゃリエルが俺と勝負に勝ったら好きな御飯を一週間作ってあげよう。と、約束したらどうやって勝負する?」
「えー、勝てるわけないじゃん!? ユキさん強いもん!! そんな事ならユキさんを誘惑する方がいいよ」
「そういう事だよ」
「え?」
「勝負に勝てない、無理と思うなら、他の道を探す。結果は同じ」
「ああ」
リエルがポンと手を打つ。
「和平と言っても色々な道があるってこと?」
「だな、特に今代の魔王様は話し合いって道を選ぼうにも、誰も人族は相手にしないだろうな」
「あっ」
そう、和平を推そうにも魔王には手札がほとんどない。
会話など望めない。
手を取り合うことも、弁明もできない。
「だから、俺が魔王ならウィードと繋がっていると宣言して、多少血が流れようが、話ができる相手を作る。このままやっても、埒が明かないからな」
「ユキさんは、血が流れようとこれが一番和平に早くつながると思ってるんだね」
「魔王様はそんな事をしないで話し合いを推すってザーギスとレーイアは言ってるがな」
ユキがそうやってリエル達に説明をしていく。
かなり簡略化してるわね。
和平に至る道は一つじゃないか……。
その和平すら、沢山の和平があるのにね。
ユキが示した和平は確実に和平がこの時代に結べる確実な手。
いや、結べなくても、確実な足掛かりになる。
だが、今代魔王のいう和平は、なんとかどちらも被害が無いようにやろうとする和平だ。
甘い、だがレーイアが嬉しそうに話すところからみると、しっかり支持のある魔王なんだろう。
道は果てしなく長く、思想は賛同するべきだが、過程で失われる命はどう見てもユキの案より多いだろう。
これも、和平の道の一つ。
戦争の末、人族達が魔族に屈服して、敗北の末の和平もあり得る。
これも和平の一つ。
人族としては決して受け入れがたい結果だ。
逆もまたしかり、魔族の敗北の末の和平は……滅亡しかないか。
人族が魔族からの和平を受け入れるわけがない。
「レーイアの話だと、救出ぐらいは人員割くという話だし、そいつ等をひっ捕まえれば魔王とウィードが話し合う事が可能だろうな。みんなが許可してくれればだが」
「僕は異議なーし」
「私もお兄さんの意見に文句はありませんね」
リエルやラッツが賛同する。
遅れて他の皆も賛成と声を上げる。
「「皆さんお待たせいたしました」」
キルエとアンナが準備を整えて来たのか、全員に軽食と飲み物を給仕していく。
そこで皆お茶を飲み一息つく。
夫を覗き見ると緑茶をのんびり啜っている。
「あー、お茶は熱いのに限るね。いや、冷たいのが悪いわけじゃないけど」
「そうね。緑茶は熱いのがいいと思うわ」
私が飲んでいるのはダージリン。
でも、夫が飲んでいる緑茶の事もわかる。
無論リエルやナールジアが飲んでいるコーラフロートも、甘いけどそれはそれで美味しいのだ。
トーリはお水。
エリスやミリーはコーヒー。
ラッツはミルクティー。
デリーユはローズティー。
ルルアは薬茶。
シェーラはココア。
皆色々だ。
それでも、皆一緒にいる。
きっと、貴方なら魔族や魔王とも一緒にお茶を飲めるのではないかしら?
さて、のんびりお茶でもしましょうか。
俺は緑茶派です。




