第1070堀:問題は元から解決しないと意味がない
問題は元から解決しないと意味がない
Side:トーリ
「じゃ、俺たちが応接室で話を聞いてくるから、トーリたちはこの部屋で待機だ」
「はい。わかりました」
「うん。わかったよ」
「よろしくお願いします」
私たちの返事を確認して、ユキさんは隣の応接室へと向かっていきます。
「いやぁ、だけどいつ見ても不思議だよねー。マジックミラーって」
こんなもの見慣れているはずのリエルだけど、いつもの調子で隣の部屋の様子を見ながらそんなことを言っている。
そう、隣の応接室との間には、取調室ほどではないけどちゃんとマジックミラーが仕掛けてあって、中の様子がこちらでも見れるようになっている。
「取り調べには便利なんですよね。事件の被害者が犯人の顔をみるには特に」
「こちらの様子は向こうからは分からないからね。犯人に被害者が脅される心配もないからいいよね」
「うん。反対側から見ればただの鏡だもんねー。で、あのソファーでうなだれているのが、噂のお姫様?」
「はい。彼女がダファイオ王国第一王女のフィオラ・ダファイオ様です」
そうポーニが教えてくれたけど、リエルが言ったように顔を伏せていて分からない。
今見えているのは、綺麗な森林を思わせる深緑の長い髪とそれに結ばれた茶色のリボン。
ポニーテールってそういえば私たちの中にはいなかったなーなんて変なことを考えてしまう。
ジェシカは一応サイドテールみたいなものだっけ? それで、ミコスはツインテールだし、うん、やっぱり珍しいよね。
と、そんなどうでもいいことを考えている間に、ユキさんたちが部屋をノックした音がテーブルの真ん中に置かれたスピーカーから聞こえてきた。
流石に隣の部屋の音までは直接聞こえてはこないので、設置している盗聴器で話している内容を聞くんだ。
『失礼します』
ユキさんがそういいながら部屋に足を踏み入れた途端、今までうなだれてたお姫様とおそらく外交担当であろう男性が揃って慌ててその場で起立をする。
『『……』』
でも、2人とも無言のままだ。
まあ、コアに手を出せば処罰の対象って良く知ってるはずだし、仕方ないのかな?
だけど、こちらとしてはなるべく穏便に済ませたいから、ユキさんは苦笑いをしながら……。
『まあまあ、そう緊張しないでください。そしてどうぞ、お座りになってください』
『この度は私の不注意でこのようなことになってしまい。大変申し訳……』
『いえ! この度の騒ぎは私個人が起こしたことです。ですので咎めはこの私だけで! そして、どうか先のお話は……』
そういうフィオラさんってやっぱりお姫様だけあって美人なんだけど……ん?
なんだろう? 美人なんだけど……。
「なんか、美人だけどかっこいいね」
「あ、それだ」
「お二人とも何をこんな時に言っているんですか。まあ、わからなくはないですが。確かに凛々しいという表現がよく似合いますね」
「ポーニも同じじゃん」
「まあまあ。でも確かに私たちにはいないタイプだよね。ジェシカがまあ凛々しいって感じではあるけど……」
「確かに、ジェシカ様は騎士ですし、どことなく雰囲気は似ていますね。ですが、なんというかフィオラ様は……胸が……」
「「……」」
なるほど。よりジェシカよりも凛々しく思えたのは、あの胸なんだ!
フィオラ様は胸がぺったんとまではいわないけど結構慎ましやかなんだ。
だからより凛々しく見えるんだ。確かに顔は美人ではあるけど凛としているし、スタシアの凄みとはまた違った視線の鋭さがあるから、なんかお姫様とは思えないんだよね。
「……つまり僕たちの仲間だね」
「そうですね」
「え?」
なんかリエルとポーニが意気投合し始めた。
胸がないのってそんなにダメなのかなぁ?
私のおっぱいだってちゃんと普通に母乳はでるし、子供たちも喜んで飲んでくれるんだけどなー。
なんて他所道にそれた私たちを置き去りに話は進んでいく。
『はいはーい。まずは落ち着きましょう。そちらに悪意あったかたどうかは、この場の様子を見ればわかりますから』
『ですね。まずは座りなおしてください。お話も落ち着いてできません』
『は、はい。すみませんでした』
ラッツとエリスの笑顔の裏に見える『お前うるせーよ』ってオーラをもろに浴びて静かになるフィオラさんと外交官さん。
ホントにあの笑顔ってすっごく怖いよねー。
なんて一幕があってようやく2人が座ると、ユキさんが自らわざわざお茶を用意して2人に出している。
『どうぞ。長い話になりそうですから、飲みながらゆっくり話しましょう』
『長いもなにも、ただ私が目の前にあった貴重なものに思わず目を引かれて手を伸ばしてしまっただけです』
確かにね。
フィオラさん自身が実際にやったのはそれだけ。
でも、その背景はそんな簡単なことじゃない。
沢山沢山大変なことがあって、わざわざここにやってきた。
『私の罪は明らかなのに、今更私たちに何を? このまま強制送還ではないのですか?』
『流石に公式にウィードを頼ってきた人たちをそんな風に送り返してはこちらの評判に関わりますからね。それぐらいはお判りでしょう?』
『……確かにその通りではありますが。それでも私がしたことはウィードの命ともいうべきコアに手を出したのですよ?』
『別に盗んだわけでもないのですから、大丈夫ですよ。何より、その程度のことを考えないとお思いですか?』
うん、ユキさんの言う通り。
悪意があって盗んだってわけでもない。ただちょっと押しちゃっただけ。
今のフィオラさんの様子を見れば、そんなのすぐにわかる。私たちはいろんな犯罪者たちをそれこそ沢山見てきたから。
そしてなにより、コアをたった一つ取られただけでウィードが止まってしまうほどやわじゃない。
世の中はフィオラさんみたいな人だけじゃないっていうのは私もリエルも、それに誰よりユキさんがよく理解している。
だからその程度のこと、何をされても十分対処できるよう最初からそういう仕組みでこのウィードは作られている。
『いえ。確かに大事なものならば備えは必須です。……なるほど、この程度ことは想定済みですか』
『まあ、それぐらいでないと、こんな面倒な国は運営できませんよ』
うんうん。
毎日毎日喧嘩や暴力沙汰だってあるからね。
多く人と国が交わるウィードはいつでも大変。
多少のことは笑って済ませないとね。
とはいえ、『コア』のことまでがちょっとしたことなのかは、疑問だけど。
……あれ? そういえば、コアがたとえ事故とはいえ手を出されたことってこれが初めてだよね?
うん、そのはず。
……すごく意外だけど他国ってこのコアに関してはホントにアンタッチャブルなんだね。
それをあえてやってのけたフィオラさんって意外とすごい?
『さて、コアの件はこれで終わりとして、一度保留にしていた件です』
『……水不足のことでしょうか?』
『はい。上、まあ女王陛下と話をして結論が出ました』
『それは私たちにとって……』
うん。悪いことじゃないと思うよ? 多分。
まあ、私たちに迷惑をかけたんだから、それ相応の代価はもらうけど。
『はい、いいことですよ。水の方は何とか検討してみることになりました』
『本当ですか!』
ユキさんの前向きな回答に思わず立ち上がるダファイオ王国の二人。
まあ、もうダメかと思ってたのが、助けてもらえるっていうんだから当然の反応だとは思うんだけど……。
『はいはい。落ち着いてください。このような場で、嘘偽りを言うわけがないですし』
『その通りです。ですがあくまでも検討の段階です。実地の状況を詳しく聞かなければ何をすることもできません。ただ単に水を地面に一度撒けばいいみたいな話ではないですよね?』
『あ、はい。失礼しました』
喜色満面食いついてきたところを、ラッツとエリスが即座にピシッと抑えにかかった。
うん。容赦ないよね。ちょっとぐらい喜ばせたっていいと思うんだけどな。
『二人が言ったように、水をどうにかするにも詳しい話を聞かないとどうしようもありません。ということで、お話を聞かせてもらえますか?』
『はいっ』
そこからは、いつもの情報収集タイム。
ダファイオ王国の現状と、水をどこにどうするべきかの話し合いが始まる。
「ふぁー。なんか眠くなってきちゃった~」
「リエル、寝ちゃだめだよ」
「流石に先輩、それはないです」
「わ~ってるって、寝てないよ~」
応接室ではユキさんたちが用意したダファイオ王国の地図をテーブルに広げて予定を確認していく。
『つまり、まずは緊急対応として、水を必要としている村にあるため池に水を供給して、それから水源の調査に協力してほしいということですね?』
『はい。今年は仕方ないとしても、さすがに毎年ウィードから水の供給を頼むのは我が国としても正直なところできませんし、また、ロシュールの印象も良くないのは重々分かっておりますので、ぜひ原因を究明して解決できればと思っています』
ふむふむ、各村にはため池があるからそこにまずは水を供給して、一時しのぎをしてから水源がある山の調査するつもりみたい。
「まあ、普通ですね。てっきりウィードに頼り切りになるんじゃないかと思っていましたので、ちょっと意外でもあります」
「だねー。僕はてっきり、ユキさんに水が湧き出る道具をくださいってお願いすると思ってたよ」
「私も思ったけど、フィオラさんのいうことはわかるかな。いつまでもウィードが助けてくれるわけじゃないし、何とか原因を究明して対応した方が将来のためだし」
うん、このフィオラさん、予想以上に先を考えているのかもしれない。
『確かにその方がいいでしょう。女王陛下は元はロシュールの第二王女ですからね。次期ロシュールの女王であるアーリア様とは今でも仲がいいのです。その評判が落ちるかもしれないですからね』
『はい。今回のことはどうかご内密にお願いいたします。表向きはただの観光でいらしていただくということで』
『わかっています。そもそも今回のことはただの自然災害。誰が悪いというのはないでしょう。しかし、相手方の国とのことはいいのですか? 村や町が殺気立っていると聞きましたが?』
『その点は今のところ大丈夫です。今はとりあえず水不足となっている村人たちは別な地域へ移動させていますので』
なるほど、水で困って一時避難させているのか。
まあ、一時しのぎにしかならないけど、これも有効な方法だよね。
『ですが、なにせ予算にも限りがありまして……』
『まあ、村人たちを全員避難させてしまえば税金も回収できませんし、資金や物資は減る一方ですね』
『はい。ですので、そういう点からもなるべく早急に対応をお願いしたいのです』
『……うーん、予定の確認と調整をやってみます。また明日にお話ししてもいいでしょうか?』
『はい。ありがとうございます。よろしくお願いいたします』
ということで、今日の話はとりあえず終わって、フィオラさんたちは宿へと戻る。
それで、残ったユキさんたちはというと……。
「やっぱりあのフィオラ姫は優秀だな。こっちがすべてを解決してくれで終わらなかったな」
「ですねー。まあでも、王族なら当然あれぐらいのやり取りはできないとだめだと思いますけどねー」
「ラッツも意外と辛口よね。でも、いいことです。ちゃんと先を考えられる人なので、説明も省けました。ただお水をくださいと言われたときは、もうどう説得しようかと悩んでいましたから」
「まあ、そんなことお願いされたら大変だよねー」
「ですね。ま、村が生活できるほどのお水を定常的に出せる魔道具。そんなのはどう考えたって一種の国宝です。そんなものを開発してるとかいう時点で驚きなのですが」
「とはいっても、私たちならため池程度の2つや3つ簡単に満杯にできるぐらいの魔力はあるけどね」
「トーリの言う通りだが、そういうのじゃ根本の解決にならないからな。フィオラ姫の言う通り、原因の調査をする方向で固めるぞ」
「「「はい」」」
さあ、私たちはズラブルから戻ってきたばかりなのに、どうやらまた別の冒険が待っているようだね。
うわべだけでなく根本を解決しましょうという話。
繰り返してたら意味がないからね。
とはいえ、意外と根本を解決するのはとても大変です。
さあ、どうやるのでしょうか?




