第1069堀:問題だけど問題にできない
問題だけど問題にできない
Side:ユキ
『緊急事態 商業区 噴水ダンジョンコアの盗難発生』
そのそのエマージェンシーコールが鳴り響いた時は、ホントに驚いた。
まさか、ウィードの人々の命を支えるライフラインとして必要なダンジョンコアに、実際に手を出す奴が出るとは思わなかった。
いや、いるに違いないと思っていたからこそ、ウィードの運用に必要なダンジョンコアは複数存在していて、お互いを補完するようにしてあるのだが……。
「ユキさん。警察署から連絡が来ました。一人の女性が水遊びをしていたら偶然コアに触れてしまい、押し出してしまったのが原因ということみたいです」
そのトーリの言葉で事態は速攻で収束したのは分かったが……。
偶然触れた程度で簡単に取れるような代物じゃないんだよ。
ほぼ間違いなくわざとだ。
コアの価値を知った馬鹿か。
それともウィードの動力源を奪いに来たアホか。
ともかく元々噴水のコアはそういったやつらへの囮だ。
本当は盗みが目的だったが、思ったよりも周りの反応が早く捕まってしまったので、そういう体にしたというのが真相だろう。
ウィードに住む、または利用したことがある人たちはコアがなければ施設が動かないというのを良く知っているから、そのライフラインであるコアに手を出す奴を見逃すわけがない。
下手したら速攻リンチで殺されていてもおかしくはない。
そういう意味では、そのコアに手を伸ばした奴は運がよかったんだろうな。
というか、そもそもコアの意味を知らないような連中がウィードにやってくるか?
事前に重要事項として十分説明しているはずだ。
下手をしなくても重罪で、かなりの罰金刑に処されるんだしな。
それを考えると、やっぱり狙ってたってのがしっくりくるな。
などと、背景を考えている間に、リエルの方に部下から連絡が来たようで……。
「うん。僕の方にも同じ証言が届いているよ。でも、その女性が……今話していた水に困っているところのお姫様みたいだよ?」
報告を受けたリエルに続き、その話を聞いた俺とラッツ、エリスは片手を顔に当ててあちゃーって感じになった。
「確かに、彼女にとって滾々と水が湧き出るそのコアはさぞかし魅力的に映ったことでしょうね。で、お姫様は?」
「はい。とりあえず警察署の方に同行してもらっています。本人もどうやら無意識だったようで、悪意は全く感じられなかったとそのお姫様を護送した者は言っています」
「……余程切羽詰まっているわね。とりあえず、対処はあなたたちに任せていいのかしら?」
「ま、担当は俺だしな。ったく……、問題にもしたくない」
「迂闊にロシュールに伝われば、その小国は制裁を免れないでしょうからねー」
「ホント、本末転倒ですね。とはいえ、すぐに解決策も浮かばないわけですが……。とりあえずお姫様からお話を聞きましょう。一緒に面会にきた外交担当の方にも連絡をしないといけませんね」
おそらく俺と面会をしたあの外交担当の人は顔真っ青だろうな。
そもそも国の安定を求めてやってきたはずなのに、お姫様の行動で国が大ピンチ。
というか護衛とかどうなってるんだか……って、それで思い出した。
「ステータスやスキルを見る限り聡明そうなお姫様だったんだけどな。予想が外れたか?」
「どうでしょうねー。ステータスはマシな方でしたけど、今回の件は国の存亡に関わりかねないってやつですし……」
「そんな時に目の前に解決策が転がっていたら、そりゃ手を伸ばしたくもなりますね」
「あら? あなたが優秀なんていうのは珍しいわね? そこまでのお姫様なのかしら?」
「まあ、当然レベルはセラリアとまでは行かないが、それでも十分一軍を率いられるレベルだし、スキルも軒並み揃っていたな。軍の指揮や戦闘スキルはもちろん、考古学まで含めた種々の学問、魔力のスキルとかもあってありゃ万能系だった。ま、あれだな。アーリアお姉さんを思い出したな」
「へぇ。あの隙の無いアーリアお姉様に似ている……ね。いいわね、その子」
はぁー、セラリアがすっかり獲物を狙う目になっている。
「まて、今回の失態で引き込むとかしないぞ」
「なんでよ? 大義名分も立つでしょう? ウィードがその罪を許し、さらには小国を助ける見返りに姫をもらい受ける。破格だと思うけど?」
「そんなの受けたらキリがないだろ。何より手間がドンドン増えていく。ほかも助けないわけにはいかなくなるし、下手すると犯罪を助長しかねないからな」
「それは分かるけど、今後どうしても出てくる案件よ? これからの対処を考えるためにも、一度受け入れるのも間違いじゃないと思うわ」
「確かにな」
そりゃ、一回試しに受け入れて周りの動きを見るっていうのもあながち間違いじゃないだろう。
それで真似して小国がこぞってそんなことをしてきたらアホの集団として認定できるしな。
だが、そんなことをするとなれば、俺は今回の問題のお姫様を受け入れなくちゃならない。
そんなのは基本的に面倒だ。だからここはちゃんと言っておこう。
「だがな、本人自身もあくまで国のために解決手段を求めて来ているんだ。俺に押し付けて甘い汁を吸いたいって連中が差し出してきているんじゃない。っていえばわかるか?」
「ああ。納得」
そう、俺たちとのつながりを持つことで何とかしようってつもりで交渉に来たわけじゃない。
あの姫自身もあくまで国を救う手段や知恵が欲しくてやってきたのだ。
だからまあ逆に、意に反してでも喜んで身を差し出して見せるぐらいのことは国のためだからためらわずにやるだろうが……。
そんなくっころで興奮できる鬼畜じゃないんですよ。
「ま、そういう人なら自国の有事の際にはためらわずに動くでしょうね。私がそうだったように」
「よくわかってるじゃないか。だからこそ生半可な対応はできない。そういうのを力づくで引き込もうとか、敵に回すと厄介にしかならないしな。こちらの人材に引き入れたいって気持ちはわかるが、それは全部解決してからだ。そういうのを匂わせると近寄ってこないぞ」
「ええ、わかるわ。私を女として見てた連中は全員ボコボコにしてあげたもの」
それはそれで違うと思うけどな。
何より、俺にまた奥さん増やせとかアホな話になるのは勘弁だ。
そろそろ何人いるか数えるのも面倒になってきたぞ。
単に責任が増えるだけでマジで大変。
いや、嫁さんたちは可愛いんだけどな。これ以上はって話。
「それに、今回はすでに面会に来ていたお姫さんたちをそのまま小国の自国調査隊として仕立て上げているんだ。成果としては十分だよ」
なにせ予算も削減、人材も自国で補ってもらえるから万々歳だろう。
「確かにね。これで手の届かなかった地域の調査も進むでしょうね。でも残念ね、可愛かったんでしょう?」
「おい、わかってて言ってるだろう。俺はセラリアたちだけで十分なんだよ。と、いつものやり取りはいいとして。ザーギス、ナールジアさん今回の水不足の件、解決できる方法ってどんなのがあるか? コアを使わずに」
「別にコアを使ってもいいのでは思いますが。そもそも、ロガリでは一応どこの国もダンジョンからコアを回収して魔道具の材料に使っているようですから、別段コアを使っても何も問題はないでしょう?」
「ですね。私もそれでいいと思います。問題は水を供給できるほどの魔力をどこから調達するかということになりますが……」
「いや2人とも、この件にコアを使うのはだめだ。今じゃ俺たちがダンジョンを使って勢力を広げているのは各国が知っている。『ウィードがコアを使う』ってことはそこにダンジョンを作られる可能性があるってことだ。こちらがどう言い繕ってもそういう疑惑はぬぐえない。だから、別の方法を用意する必要がある」
コアを置けば水不足の解決は確かにできるし、手間は少ない。
だけど、俺たちウィードがダンジョンを使っているのは周知の事実。
コアを置くってことはそこにウィードの拠点を置くことと変わりがない。
「なるほど。そういわれると確かにそうですね」
「あとで文句を言われそうですねー。まあ、でも水を供給するぐらいだったら……」
「それなら私からも提案ができるよ」
と、コメットが話に入ってきた。
ああ、そういえばコメットもダンジョンマスターではあるが、そもそも技術者だったな。
「私もホワイトフォレストに亜人たちを逃がした時は苦労したもんさ。なにせ場所は北方の雪に閉ざされた土地。火も大事だけど、いくら雪があるからって言っても飲み水を確保するのも大変だったよ」
「確かにな。雪を解かせば水は手に入るが、それは容易じゃない」
「そうそう。火を起こすには材料、燃料がいるからね。でもあんな雪山の中でドンドン木を切り倒して薪にするってのできないんだよねー。そんなことをしてしまえばすぐに辺り一面はげ山さ」
コメットの言う通り、雪山で一番大変なのは食料以前に飲み水の確保なんだ。
雪を食べればいいじゃないかと思うが、それは体温を下げる自殺行為となる。
そんな所に住むためには、水が凍結しては生きていけない。
氷点下の世界ではいかに水を水として確保していくかが第一の難問となる。
「じゃ、コメットも水を作れる道具について考えててくれ」
「わかったよ。その代わりって言っちゃなんだけど、ご褒美も期待するよ?」
「俺に用意できるものならな」
コメットなら新作のゲームとかが一番喜びそうだしな。それなら問題ない。
ともかく、これで水をどうにかする方法については、まあ問題ないだろう。
ま、最終手段としては、魔術で水を出すって荒業があるしな。
とりあえずはダムでも作って水を溜めれば今年ぐらいはしのげるだろう。
それからは状況次第だ。
今年一年雨が降らないようなら、そこはもう土地としては絶望的だろうし。
「よし、準備は頼む。とりあえず俺たちはあのお姫様と会ってくる。で、セラリア今回のことは……」
「ええ。単なる『事故』ってことで処理していいわ。実際に盗んだのならともかく、未遂で終わっているし、本人も盗むつもりはなかったって言ってるわけだし。ここでウィードとして騒いでも小国の立場が悪くなるどころか、仲介したアーリアお姉様の評判にまで関わるから、むしろ事故で処理したいわ」
「完全に私情だな」
「いいのよ。それでこそ人らしいでしょう? それに誰も混乱なんて望んでいないわ。潔癖すぎる正しさなんて毒でしかないのよ」
「そうだな。それが人ってものだ。じゃ行ってくる」
身内を大事にして何が悪い。
何よりそれで波風立たないっていうならそれに越したことはない。
ということで、俺たちはお姫様が連行された警察署へとやってくる。
「あ、ユキさん。それにトーリ副所長にリエル特務、ラッツ副代表、エリス副代表」
俺たちが警察署に着いたとたん、なぜかロビーで待ち構えていたポーニ署長が出迎えてくれた。
「どうしたんだ?」
「どうしたんだじゃないですよ。一応小国とは言え、一国のお姫様が重要参考人としてここにいるんですよ。私たちとしてはユキさんたちが来るまでホントに気が気じゃなかったんですから」
「ああ、そういえばそうだな。で、彼女は?」
「今は一応応接間の方で待機してもらっています」
「応接間か。やっぱりそういう対応になるよな」
「そりゃなりますよ。下手に逮捕なんてすれば国際問題ですから。というか、本人はひたすら謝りどおしなんで私たちとしてもやり辛いんですよ」
「やっぱり本人もまずいことをしたのは理解しているのか。ま、わかった。会ってくるよ」
さぁて、あのお姫様とはなんて話せばいいのやら……。
俺は警察署の応接間に向かいながら、いったいどう話そうかと悩むのであった。
波風立たないように処理をする。
誰だってそれで済むなら越したことはないのです。
あまりに正しすぎるのも考え物ですからね。
「正しさ」がすべてを救うわけではありません。
清濁を併せのまないとねー。




