第1065堀:ことが終われば次がある
ことが終われど次がある
Side:ユキ
こう思うのも毎度のことだが、現実っていうやつは物語のようには終わってくれない。
物語であれば、巨悪を倒した主人公は結婚して、幸せにくらしましたとさ。めでたしめでたし。と終わるのだ。
そうならないのは今回も同じのようだ。
「じゃ、さっそく今後の予定を決めるための会議を始めるわ」
「「「はい」」」
セラリアの宣言に全員揃って返事をする。
これも毎度のことだが、嫁さんメンバーにタイゾウさんタイキ君などと、ウィードの本来の存在意義を知っているメンバーが勢揃いしている。
「まず現状ですが、今回シーサイフォからのオーレリア港に向かい消息を絶った使節団の捜索要請から始まった一連の騒動については、色々な問題は残りつつも収束に向かっているわ。私たちの出番もほとんど終わり。ホント長かったわ」
セラリアがそう纏めると、全員が頷く。
確かに長かった。
俺もそう思う。
「長かったわよねー。最初はいったいどうなることやらと思ったし」
「ええ。それに、物資がかなり吹き飛びましたよ」
「DPとお金だってかなり吹き飛んだわ」
ミリー、ラッツ、エリスがしみじみと呟く。
ミリーにはあちらの冒険者ギルドから魔物などの情報をあさってもらったし、ラッツについて言えば俺たちの拠点のためだけじゃなく、オーレリア港再建にズラブル大帝国への支援物資の提供までとずいぶん頑張ってもらった。
そしてエリスにはその物資や人員、さらには軍を動かすための予算管理。ホントに一番頭が痛かったことだろう。
なにせ今回は、空母も動かして戦闘機も出撃させた。ま、俺としては戦力がしっかりと確認できたのは良かった。
残念なのは戦車たちの活躍の場がなかったことだ。なにせ最後は『互いの誇りに賭けて』っていうやつになったから、その場にノコノコと戦車で出て行ってサッサと片づけるってわけにはいかなかったからな。
まあその分、防衛戦力に回せたことを喜ぼう。
そんな風に振り返っていたら、リエルが突然質問をしてくる。
「えーと、結局のところ、ズラブル大帝国が勝ったってことで良いんだよね?」
「あ、私もリエルと同じように。結局どういう風にまとまったのか、よくわかってないです」
「……ん、ハンスは生きている。ハイーン皇国も残っている。一体どうまとまったの?」
「あー、そっちの説明はしてなかったな。えーと、なんていえばいいのか……」
俺が答えに窮していると、ルルアがそれはねと代わりに説明してくれる。
「そうですね。ズラブル大帝国の判定勝ちで、融和政策になったというところでしょうか」
「うむ。報告書を見たかぎりではそうじゃな。ハイーン皇国を潰すと周りの反発もでかいからのう」
「だねー。それに、今回すぐにゴタゴタが収束したのはハイーン皇国の方も徹底抗戦をしなかったからだからねぇ。さっさと自分たちの負けを認めて、ズラブル大帝国に降伏をした。何より国民の安全のために」
そして、デリーユやエージルが追加の説明をしてくれる。
まさにその通りだ。
「ま、そんな感じだな。ハイーン皇国は最後の一兵までなんて戦いは選ばなかった。そして、国民をも巻き添えにはしなかった。潔く負けを認めたから、勝ち負けで言うなら間違いなくズラブル大帝国の勝利だ。だが、ハイーン皇国も国力を減らすことにはなるだろうが、残ることになる。泥沼の戦いにならなかったのを喜ぶべきか、ハイーン皇国が残ったことを後悔することになるかはこれから見えてくることだな」
「ですわね。ユキ様の言う通り、このハイーン皇国が残ったことの意味がどうなるかはズラブル大帝国の手腕次第でしょう」
「そっかー。ズラブルは勝ったんだねー」
「まあ、でも勝ってからが大変ってやつだね」
「……私たちも本当に大変。で、一応戦いは終わったけど、ズラブルやハイーンはこれからどう動く予定なの?」
そう、カヤの言う通り問題はこれから。
戦争で勝つことよりも、勝ち取った平和を維持することの方がはるかに難しい。
これからどう動くかが、今後の平和が長く続くか、戦乱の世の中になるかのカギになる。
「そこはとりあえず、セナルがいた教会の調査だな。張本人は俺たちが押さえたが、それで一件落着ですといわれて、はいそうですかと頷くだけってわけにはいかない」
「当然ですね。国として調査はしなければいけないでしょう」
「……ん。とはいえ、この先はウィードが手を出すのは最小限にした方がいい」
「そうね。クリーナの言う通り、戦乱は終わった。あとはあちらの統治の問題。私たちよそ者が口を出していい分野ではないわ。あと気になっているのは、海の方だけど、そっちはあとで報告があるのよねあなた?」
「ああ、ハイーン皇国が海上戦力を整えていた理由についてはちゃんと伝えてくれるってさ。ま、海上戦力については特にこっちと連携したいだろうからな」
「それは当然ね。さて、今までの流れはいいかしら? 私たちが関与していたシーサイフォから始まった一連の問題は解決したといっていいわ。そっちについてはあとはその国々が勝手に調整すること。私たちの目的は新しく開けたあの地で魔力枯渇の調査をすること。これはいいわね?」
セラリアが確認をとると、みんなもしっかり頷く。
おー、俺ですらいい加減目的忘れそうになってたけど、ちゃんと覚えているんだな。
「とはいえ、ズラブル大帝国の領土はとんでもなく広いですよ? そこからどう調査するんですか?」
「その辺りは現状の延長線上からだ。ミリーはあちらの冒険者ギルドでの情報収集。これでズラブル大帝国側についていた冒険者ギルドが上になるだろうしな。その権限で調べられる範囲は全土に広がるだろう」
「ああ、確かに」
あの大陸では冒険者ギルドも東西に分かれて争っていたからな。
今回ズラブル大帝国が勝利したことで冒険者ギルドも優劣が付くだろう。
「とはいえ。まだ火種の一つではあるからな。そこにも注意してくれ」
「確かにそうですね。わかりました。私はそこを注意しておきます」
そう、冒険者ギルド自体の決着がついたわけじゃないからな。
そこは注意しておかないといけないだろう。
まあ、とはいえその問題すらも俺たちは関与しないだろう。
それもズラブル大帝国が頑張らないといけないところの一つだ。
「大山脈の調査は引き続きエージル。頼む」
「わかったよ。僕に任せて」
「そして、コメットはブルーホールを中心に海の継続調査だ。あそこは海にある唯一の拠点だ。研究対象にはもってこいだろう?」
「そりゃ当然。任せてくれ」
魔力枯渇現象の調査場所もかなり増えた。
大山脈についてはゲーエンを探すってこともあるが、あの場所は元々ハイレンの展開した大結界のすぐそばだ。
そこを調べることの意味は大きい。
「あとは、リーア、ジェシカ、クリーナ、サマンサは引き続きユーピア、ショーウが個人的に確保していたのとズラブル大帝国が管理提供してくれた本の調査だ」
「はい。まかせてください」
「ええ。おなかが大きくて出向くような行動は出来ませんからね」
「ん。本を読むのは任せて」
「お任せくださいな。ひとまずはしっかり分類からですわね」
俺としてはホントは、もうすぐ出産間近の嫁さんたちには家でゆっくり過ごして欲しいところなんだが、それは逆にストレスになるっていわれたからなー。
っていうことで、とりあえず溜まっている本の整理と調査を頼んでいる。
もちろん、嫁さんたちだけではそうそう終わる内容じゃないので、最近ようやく発足した大陸間交流同盟の魔力枯渇現象合同研究チームにも手伝わせる。
あっちはとにかく数だけはいるからな。それに文献の調査はそもそもお手の物であり、人海戦術が可能だ。
まあ、ズラブル大帝国の機密文書は見せられないが、見せていいものはどんどん回さないといつまでたっても終わらない。
「で、スタシア。確かそっちの大陸の一角にゴブリンの村があるって話があったな。それはどうなっている?」
「え? ああ、その話ですか。はい。そちらについては既に連絡が取れています。こちらからの訪問に関してもとくに問題はないとのことです。ただ、十分なおもてなしはできないですがということだそうですが」
「そうか。ちゃんと話を付けていてくれたんだな。それについては、あんまり待たせるもの失礼だな。近々行くことにしよう。その際にフィンダールの方にも寄るからよろしく言ってくれ」
「はい。わかりました」
そして、調査が止まっている各国の魔力枯渇現象の方も進めていかないといけない。
「イフ大陸の方は、コメット何か動きはあったか?」
「こっちは特にはないねー。ああ、ホワイトフォレストの方は一度調べてみる価値はあるかもね。北方全体としてはそもそも人はいない上に、一年の半分以上は雪に覆われている。あそこは当時、隠れ家的なことで急遽探し出して作り上げただけだから、まだまだ何かある可能性もある」
「確かにな。じゃ、ホワイトフォレストの方に協力要請だな」
「あいよ。私の方からやっておくよ」
「あとは、中央の魔力集積地であるランサー魔術学府だが、そっちはポープリ。問題はないか?」
「ああ大丈夫、問題はないよ。今のところ、間引きがうまくいっている。ベツ剣使いたちが協力してくれるからね」
「そうか。それはよかった」
イフ大陸一番の懸念はランサー魔術学府が存在している大陸中央の山だ。
あそこには魔力が集積していて、いつ魔物の氾濫が起きるかわからない。
細心の注意が必要だ。
そしてそれだけじゃなく、そこも魔力枯渇現象を調べるのに格好の地だともいえる。
「で、私たちのことはいいとして、ウィードがあるロガリ大陸の方はどうなんだい? 特に竜山の方はどうなっているんだい?」
「里長のガウルは相変わらずハイエルフの女王ミヤビと一緒にウィードを満喫しているな。時間があれば、魔力枯渇現象について聞きたい。あと、悪竜っていうのも聞いておかないとな」
物語にも出てくる、国を襲い災害とすら呼ばれている竜の存在っていうのは確認しておかないといけないだろう。
「ザーギス。ガウルさんからそこらへんは聞いたか?」
「いえ、そちらまで手は回っていませんね。なにせ私は私で、各地の観測所のデータを纏めやら道具を作るので精一杯ですから。というか、そもそも里長やミヤビ女王などについては私よりもセラリア女王のお仕事かと」
「ああ、そういわれるとそうだな。セラリア。そっちの方はどうなんだ?」
「残念。そういうのはしてないわね。まあ、嗜好品を輸出してくれって言うのはあるけど。それはどこの国も一緒ね。で、私の方はいつもの通り外交ね。最近はズラブル大帝国の動向にかかりきりだったからずいぶん書類が溜まっているのよね」
特にロガリ大陸も動きは無しか。
あとは溜まりに溜まっているいつものお仕事を何とかするってことか。
いやホント、お仕事が多い女王ってのは大変だねー。と他人事の様に思っていたら、クアルから爆弾が。
「陛下の仕事の件で。合わせてユキ様にもぜひ面会をしてほしいという要望が多数入っております」
「あなたも人気者よね」
「……はぁ~。まずはそっちかー。確かに魔力枯渇現象の調査も大事だが、とにかくまずは溜まっている仕事を処理していこう」
「「「はい」」」
結局、大忙しの仕事は片付いても、いつもの忙しい日常が戻って来るだけか。
いやーそれより何より、俺あての面会とかゾッとするんだが。
大きいことが終われば、のんびりできるとかはないのです。
仕事の次には仕事が待っている。
世の中そんなもんです。
雪だるまがずっと執筆しているようにね!
休みっていつなんだろうね。




