第1058堀:いつも通ってきた道
いつも通ってきた道
Side:ユキ
「……正直にいうわ。セナルはこちらに置くべきじゃないわ。というか、さっさとルナに処分させるべきよ」
セラリアの意見に、ほかの嫁さんの大半がそうだそうだという感じで頷いている。
「旦那様のお考えは分かります。確かに彼女の協力が得られるのであれば、中級神派ではない、単に生存を最優先としている神たちの所在はわかるでしょう。ですが、迎え入れるのは内部に危険を持ち込むと同義です。私はセラリア様の意見に賛成です」
と、スーパーメイドのキルエでさえ、セナルとその仲間たちは処刑してしまえという意見だ。
まあ、これまでは単に誤解から戦闘になっただけの神たち、ヒフィーやノーブル、ノノア、ノゴーシュ……相変わらず「ノ」で始まるやつが多いな。
と、違う違う。今まではあくまで誤解で、その誤解を解けばそれなりに仲良くやれていたが、今回の生存最優先の神様連中は、相手が誰だろうと生き延びるためには牙を向ける覚悟をしているということだ。
つまり、先ほどのセナルの宣言は私たちに殺される覚悟はあるか?という意味でもある。
旦那を殺すぞというやつに、セラリアたちはぷんぷんというわけだ。
わざわざ敵を内にいれる理由はないってな。
「そうです。だって彼女はダンジョンマスターを殺しています。危険です」
そしてだれよりミリーがやばい。
もう完全に目が据っている。さっさと奴らは滅殺すべしって全身で言っている。
「はいはーい。ミリー、ちょっと落ち着きましょう。別にダンジョンマスターを殺しているっていうことなら、そこのコメットを切り殺したメンバーが既に内にいますよ?」
「そうね。ユキさんの意見に賛成ってわけじゃないけど、ラッツの言う通り。ダンジョンマスターを殺したという経歴を持った聖剣使いたちがもういるわよね」
即座にラッツとエリスが落ち着かせにかかる。
ミリーは何って言っても俺の身の危険に超敏感だからな。
「2人とも何言ってるの! あの女は因縁があって一人だけをやったってわけじゃないのよ! どこかのおバカが精神制御なんかしたからとか言うわけじゃないの! もう何人ものダンジョンマスターを意図的に殺してきたの! きっと今回もユキさんの命を狙うのがホントの目的で協力するなんて言ったのよ!」
「おーい。なんか私が馬鹿にされてないかい?」
ミリーの言うことに揃ってうんうんと頷く嫁さんたちがいる。
ま、横でツッコミを入れるコメットはとりあえずスルー。
あれはミリーの言うとおり、お前の詰めが甘かった。
「そうよ。その可能性も否定できない。あなたそのあたりどう考えているのかしら?」
「いや、それはいつものように『指定保護』だな。これがあれば裏切れないし、逃げもできない。いやぁ、これって意外と便利もんだよ。拘束具としても使えるからな」
「それは…。けど、あんたってホント極悪よね。最初は奥さんたちとか保護したい人を守るためのものかと思ってたけど、これって単なる裏切り防止の術よね?」
「ああ、当初の目的はそれだったからな」
いかにこちらが好意で助けようが何をしようが、諸般の事情でこちらを裏切るなんてことは世の中よくあることだ。
特にこんな剣と魔法と魔物の世界で文明レベルが中世ヨーロッパ程度なら裏切り、毒殺なんて日常茶飯事だろう。
そんなところへ敵味方の選別方法もなく直接乗り込むかってんだ。
どんな強力な武器や道具より、一番必要なのは世の中信頼できる、信用していい味方なんだよ。
俺はどっかの誰かじゃないから、後ろからバッサリとかごめん被る。
「でも、その術が破られる可能性だってあるわ」
「そんなことを言い出したら、ウィードに隕石が落ちるとか、核兵器が飛んでくるとか心配しないといけなくなるぞ。そもそも、嫁さんたちというか、セラリア。お前だって当初は俺を殺るつもりだっただろうが」
「……あぁ、そんなこともあったわね。でもね、あの時は妹のためだったのよ」
そう、危ないとかいう割に、今いる嫁さんたちの中にだって俺の命を狙ってきたメンバーが多数いる。
セラリアはエルジュの害になるのなら俺を殺すと真っ向から宣言した男前だ。
で、その次はどこかの魔王様だっけ?
「ま、まあ、あの時は仕方なかったというかなんいうかのう……」
俺の視線から目をそらすように顔を横に向けてボソボソと応える。
「あー、デリーユはその時、ユキさんのこと全く知らなかったんだしね、仕方ないよ」
ま、確かにリーアの言うように、それまでの経験則から『敵』と判断していたっていうのは確かだ。
だけど、話なんか一切聞く耳持たずに、ただ襲い掛かってきたってのも事実。
いやぁ、あの時はスラきちさんがいなければ止められなかっただろう。
そう言う意味でもセナルとの差はないけどな。
なにせ、信念に基づいてダンジョンマスターや腐敗した国をつぶしてきたんだしな。
「……申し訳ありません。ただ、私はジルバの騎士として仕事をしただけでありまして」
「……僕もほら、ベータンが落ちたっていうし? 将軍として出ないわけにはいかなかっただけだからね」
「お二人は仕方ありませんわ。あくまでお国のために忠誠をつくしたのですし、そもそもユキ様を限定して狙ったわけではございませんし」
ジェシカとエージルに関してはサマンサの言う通り、まぁ、あくまで国の指示に従って敵を排除しようとしただけだ。
セラリアやデリーユよりまともな理由だ。
上が停戦指示を出せば従うし、協力体制になれば素直に協力する。
「ん。そういう意味ではサマンサの方がよほどひどかった。ユキとタイキを不審者として魔術で脅して門前払いした」
「はぐぅ!?」
クリーナの容赦ない一言がサマンサの胸を貫く。
ああ、確かにそんなこともあったなー。
「いや、それって別にサマンサさんは悪くないでしょう。あれって、ポープリさんが単に話を伝えていなかっただけでしょう?」
と、とっさにフォローに回るのが、俺と一緒にサマンサに門前払いされたタイキ君だ。
彼は今回のセナルを味方というか協力者に迎えるって話も、特に否定ではない方だ。
まあ、タイキ君も散々敵味方の関係で振り回されてきた方だからな。
仲間を守るためも含めて、敵かもしれない相手を内に入れることだって多々あっただろう。
伊達に勇者王とは呼ばれていないのだ。
と、そこはいいとして、タイキ君の言う通り、あれはあくまでポープリの職務怠慢が原因なのは間違いない。
サマンサ自身はあくまでおとなしく帰ってもらおうとしただけで、攻撃の意思もなかったしな。
「そう言った意味では、何って言っても、ユキたちを無理やり召喚で呼びつけたあげく、戦わせようとした人たちが一番ひどいんじゃない。ねぇ、カグラ?」
「そ、そ、それは!? ち、違うのよ。えーと……」
エノラのその言葉にカグラが大いに動揺する。
直接命を狙われるというのとは別だが、自分たちじゃ手に負えないから、戦場の、それも最前線で戦ってこいっていうのはどうなんだろうな。
うん、危険度で言えば一番高かった気がする。
たしかに俺を一番追い詰めたとも取れるよな。なにせ、あの時は生身をさらしたんだし。
「はは、それで言えばあくまで私はあくまで『バイデ』を攻めていた側ですし、カグラがユキ様を呼び出したのは仕方のないことです。いずれにせよ、話はついていますから大丈夫ですよ」
「そうだよ。だって、カグラと姫様が呼び出してくれたから、おかげでミコスちゃんは超幸せだし。スタシアもそうだよね?」
「ええ、ミコスの言う通り、私もいま幸せですよ。だからかカグラそんなに心配しないでください。そして、エノラも脅かしすぎです」
「ごめんごめん。私も同じよ」
「もー!! って、ユキ。なんでこんな話を?」
「いや、俺の命を狙った、狙うから危険。指定保護をしても危険。ってことになると、嫁さんたちだってそう判断すべきなのが多いよな?」
「「「……」」」
俺の言いたいことが分かったのか、全員が沈黙する。
そう、危険云々を言い出したらきりがないし、嫁さんたちの中にだって俺の命を狙ってきたというのは山ほどいる。
セナルがダンジョンマスターを何人も殺してきたとかいうが、それで言うなら魔王デリーユもトップクラスで危険人物だしな。
それに、セラリア、ルルア、シェーラなんて国としてダンジョンの対処に当たってきたこともあるだろうし間接的にダンジョンマスターぶっ殺した可能性だって否定できない。
「……はぁー、あなたって本当によく口が回るわね」
「そんなことはない。みんなが心配してくれるのは分かるが、ちゃんと対処していけばいいだけだ。それに、情報を集めることの大事さは教えてきたし、みんなも納得しているはずだ。何よりリスクのないところにリターンはない。今まで俺が危険を冒してないとか思ってるならそれは気のせいだからな。どこかで必ず代償を払っている。あくまでそこはバランスよくしているだけだ」
ダンジョンマスターの能力だって魔力、DPがなければ動かない。
それを集めるために四苦八苦してきた。
今回も同じことだ。
セナルから情報を集めるために協力してもらう。それだけの話だ。
「ま、状況からすれば、ジェシカを捕虜にした時が似ているか?」
「確かに似ていますね。メルト姉妹を捕獲して魔剣の情報を得るために色々していましたからそれにも似た感じでしょう。それに、護衛だって私たちは妊娠しているからできませんが、代わりにトーリやリエルたちがいます。当初の護衛不足の状態ではありませんから、私としてはユキの意見に賛成ですね」
「あ、うん。僕たちが絶対ユキさんを守るよ」
「はい。ユキさんは私たちが必ず守ります」
「……そこは間違いない。あとはセナルをちゃんと監視しておけばいいだけ」
そう、昔よりも条件は良くなっているんだ。
なにより……。
「敵対する神なんて昔からいくらでもいるしな。今更だ」
「確かにそういわれるとそうですね。あはは……」
「ヒフィーにノーブル、ノノア、ノゴーシュ、アクエノキ。まあ、確かに多いわね」
「うん。大丈夫だよ。私たちもお兄ちゃん守るから! それにセナルお姉ちゃんからは特に変な感じはしないよ」
「そうなのです。フィーリアもアスリンと同じで怖い感じはしないのです」
一番こういう人の悪意とかに敏感なシェーラ、ラビリス、アスリン、フィーリアがこういうのだし、裏切ってくるような可能性は低いだろう。
「はぁー、しょうがないわね。わかったわよ。とはいえ、ちゃんとセナルの監視体制は組むわよ?」
「それは当然」
俺だって死にたくはない。
そこはちゃんとしておく。
もとより、ドッペルでしか会う予定はないしな。
「それで、セナルの言っていたなんとか生き残っているっていう神たちはどこにいるの? その回収もしないといけないでしょう?」
「ああ、ハイーン皇国の皇都の教会にいるんだってさ」
「はぁ? なんでそんなところに?」
「ああ、セナルは癒しの女神ってことで一応信仰は今でも残っているんだ。ハイーン皇国が推奨している宗教でもある。まぁ、あの地じゃ最大勢力だな。下手するとリリーシュよりも上かもしれない」
「それで、なんであんなに弱って……って、そういうことね」
「そうだ。セナルは文字通り身を削って、自分への信仰心から集めた魔力を仲間に分け与えていたみたいだな。効率は最悪なのにな」
自分に集まった魔力を他人に渡してもロスが激しい。
さらに信仰されない神は猶の事消耗度合いが激しい。
で、足りない分はダンジョンコアを定期的に回収しては、仲間の神に魔力を与えていたってことだな。
いやー、かなり厳しいことをしていたってのがわかる。
「旦那様、彼女は間違いなく『女神』だったのですね」
「そうだな。で、せめて自分の周りだけでもって感じで必死だったんだな」
そう、切り捨てられた仲間をわが身を削ってでも見捨てられなかった。
だからあの時、あの戦場に出てきたわけだ。
聖女だったルルアもその思いはよくわかるだろう。
「ということで、ユーピアと話して色々作業を始めよう。手続きはちゃんとしないとな」
セナルに協力してもらうためにも、彼女の仲間の安全は最優先で確保しなくてはいけない。
嫁さんたちの半分近くはユキと敵対しておりました。
しかも露骨に狙っていましたよ。
世の中敵を味方にするのは意外と当たり前って話ね。
信頼関係を築く努力をしなければ後ろから刺されます。どっかのダンマスのように!
というかみんなはセラリアとかデリーユがユキを殺しにかかってたのは覚えてるかな?




