第1057堀:彼女の決断
彼女の決断
Side:ユキ
まったく。人に歴史ありとはいうが、神にも歴史があっても何も不思議じゃないか。
とはいえ、このまま何事もなかったかのように旅立たれても、こちらが迷惑をこうむるだけ。
そう簡単に楽になどさせてたまるか。
「はいはい。感動の終末のところ申し訳ない。ほれルナ」
なにせ、こっちには何せ元凶の上級神である駄女神がいる。
この程度のことは……。
「わかってるわよ。ほいっと」
そんないかにも気の抜けた掛け声とともに、消えかけていたセナルの姿が再びはっきりとする。
あっという間に元に戻った。
とはいえ、せいぜい神様の中では一番下っ端程度だ。
ハイレンよりもさらに弱い。
「え?」
とはいえ、本人にとっては驚きだろう。
残存魔力を意図的にたれながして、話が終わったところで消えるつもりだったのだ。
それが阻止されるとは思いもよらなかったのだろう。
何より敵として恨んでいた上級神の手によってだしな。
「ルナ様! 助かったよ! ありがとう!」
そういってハイレンがルナに飛びつく。
「いいってことよ。このぐらい」
お礼を言われたのがうれしいのか、なにやら調子に乗っているルナ。
このまま調子に乗せて問題すべてを解決と行けたらいいのだが、このルナの解決方法には問題があるのはこのセナルの話を聞いて理解した。
やっぱりこいつに問題解決を求めてはいけない。
と、そこはいいとして、俺たちの突然の乱入にセナルは驚いた顔をしていたが、その一人であるルナに三度視線を合わせて目を細め。
「じょ、上級神!?」
「やっほー。久しぶり? とはいえ、私はあまり面識ないのよね」
「……」
そのルナのそっけない返しに、さらに怖い顔になるセナル。
うん。如何にもできるって感じの中年の女性がにらむっていうのはホントに迫力あるな。
三角眼鏡とスーツがあればさぞ似合っているだろうと思える。
「はいはい。そんなに睨まないでよ。助けてあげたんだから一言ぐらいお礼があってもいいと思うけど?」
「……それは感謝しますが、なぜ?」
「なぜって、ハイレンたちみんなが、このままセナルとお別れしたくないって顔をしていたからね」
「は?」
「あなたと同じよ。私も知り合いは助けてあげたいのよ。それに、何より勝手に消えようとしているおバカを逃がすわけがないでしょう?」
「……後半の意味はわかりますが、上級神たるあなたが一個人に感情移入をすると?」
ルナの言動にすっかり驚いているセナル。
いやぁ、こいつはたいていこんなんだぞ。と言ってやりたかったが、そこはぐっとこらえる。
「そりゃ、私に従ってくれてるんだもん。それは贔屓するわよ。中級神だってそうだったでしょう?」
「確かに、それは……。ですが、ならばなぜ、私たちを……」
「いや、働かざる者食うべからずでしょ。何にも努力していないのにただ助けてとか虫のいい話でしょう?」
「ですが、ただ死を迎えるような状況に追い込まなくても!」
「はいはい。猶予は人の数倍はあったわよね。それまでに何らかの自衛の手段をとるとかできたでしょうに。それすらしなかった貴方たちが悪いわ。というか、あなただって神でしょう? 曲りなりにも中級神に認められたんだから、それぐらいしなさい」
「……」
ルナに畳みかけるようにそう言われて沈黙してしまうセナル。
まあ、気持ちはわからんでもないが、猶予もそれなりにあったみたいだしな。
それでどうにかできなかったのは、やはり自業自得のような気もする。
ちなみに、これが日本の政治家の発言であったのなら、速攻で解任となりえるだろう。
相手も神とはいえ、やはり人を見捨てるようなことをしたのだから、一発アウトを言い渡されるに決まっている。
なにせ、世間の皆さんは優しい世界しかみないからな。
厳しい現実の選択は認識や認めたりしたりしない。ただ救えなかったということだけで失敗として責め立てる。
って、今はそこはいいか。
「というか、そもそも私に逆らってまで助けたかった仲間がいるんでしょう? で、実際、私に逆らった結果、救われた連中はいるの?」
セナルが助けたかった仲間が、今でも少しは存在して、生きているのだろうか?
ここまでやったけど、実は全員死んでいたとかは、ちょっとやめてほしい。
それだと仲間を救うためではなく、ただの弔い合戦でしかない。何も残らん。
いや、セナルがスカッとなれば、それでいいのか? うーん、でも、本当にスカッとできるかはわからんが。
「私がそれを素直に言うとでも思いますか? どうせ私たちは皆、貴方によって神格をはく奪され、消滅させられるだけなのでしょう?」
なるほど。私たちね。いちおう残存部隊はいるようだ。
となると、情報源はたっぷりだな。
ハイレンのおバカのせいで味方だよー。怖くないよー作戦はもう無理だが、もう一つの選択がでてきたわけだ。
「そうねー。セナルたちには相応の罰を与えないと、キチンと私に従ってくれて、死の淵にあっても今も頑張っている神たちに悪いわよね」
「……」
「とはいえ、今はあんたに罰をあたえられないのよねぇ」
「はい?」
審判を覚悟していたセナルは不思議そうに首をかしげる。
「だから、私はまだセナルを処分するわけにはいかないのよ。影が薄いこの男との約束でね」
「おいこら。誰が影が薄いだ。お前のキャラが濃すぎるだけだ」
とりあえず速攻で、影が薄いって暴言は否定しておく。
とはいえ、ルナがしっかり俺との会話を覚えていたっていうのは助かる。
下手にツッコまなくて済むからな。
「あなたは……なるほど。その感じ上級神の部下ってところかしら?」
俺の存在を初めて認識して、一瞬驚いたような表情になったが、すぐに目つきが鋭くなり、それはそれは冷たいお言葉が投げかけられる。
いやぁ、流石できるOLって感じだな。迫力が違う。
とはいえ……。
「部下というのはやめてくれ。どちらかというとこの駄目神の被害者だ。あんたに近い立場かもな」
「ちょっと待ちさないよ。何が被害者よ!?」
「うっさい。勝手に連れてきた挙句、この世界の魔力枯渇を何とかしろって? 馬鹿か、世界規模の天変地異をどうにかしろとか、どれだけとんでもない大仕事を押し付けるんだよ」
改めて口にだして、この駄目神から頼まれていることが途轍もなくとんでもないことだと改めて理解する。
なにせ、世界環境の改善とか、地球でもまだ成しとげてねえよ。
むしろ本当に人が原因で気候変動が起きているのかっていう確証すらえられていないからな。
ただ単にここ100年前後のデータでそう判断しているだけだ。
それを考えると、この世界の魔力枯渇も何か人為的とかはっきりした原因があるのではなく、水が乾いてゆくような単に自然の流れという可能性もあり得る。
つまりだ、解決策が必ず存在すると決まったわけではない。
だが、俺の言葉をきいてさらに目を吊り上げる。
「上級神様が連れてきた、選んだ人って、つまりはダンジョンマスターということで良いのかしら? でも勝手に連れてこられた? それってどういうこと?」
「そうよ。この世界のダンジョンマスターたちが皆駄目だったから、わざわざ異世界からこいつを連れてきたわけ! そして聞いて驚きなさい! このやる気のなさそうなダメな男が、なんとこう見えても、既に複数の大陸の魔力枯渇現象を食い止めて安定させるという快挙をなし遂げているわ」
「まさか……」
そんなのとても信じられないという表情でこちらを見るセナル。
「いや、勝手に成果にするな。どこの土地でもいまだに情報を集めている最中だ。俺がやっているのはダンジョンによる循環器を取り付けて無理やり何とかしている状態だ。本来の正しい状態には程遠いだろう。というか、誰がダメな男だ」
こいつはこういう時だけ、俺を褒めてくるっていうのがどうもわからん。
そのせいで俺にセナルの意識が向いているじゃないか。
あと、人をけなすか褒めるかはっきりしろ。
「ユキ。やる気がないって所は否定しないわけね」
「ああ、無理やりこんな難度の高いことを押し付けられて、それでもやる気が起こるやつの方が珍しい。しかも誘拐だしな」
それでこんな女神を信奉して真面目に働くような奴がいれば、それはただの馬鹿だ。どこかのねじが外れているだろう。
俺としては、セナルのようなこの第三軍といえる神たちの心情よりだな。
こいつのためになんか働きたくはない。とはいえ、困ったことに面倒な能力をもっているのは事実なので、とりあえずはしょうがなく仕事をしているって感じだな。
「ま、この通り、俺としてもこの上級神と名乗るルナに迷惑をかけられている立場だ。そこである程度は俺に権限があるということだ。あんたを生かすことぐらいはできるだろう」
「それで、私に何を求めるつもりかしら?」
セナルは即座にそう言葉を返す。
おお、タダより高い物はないって理解しているようで何よりだ。
「話が早くて助かる。とはいえ、求めるものは結構めんどくさい。魔力枯渇現象の解決に手を貸してくれ」
「要求が漠然としすぎているわね。というか、私たちにはそもそもそれができなくて消滅の危機にあるの。で、そんな間抜けな神の言うことが信じられるのかしら?」
「いや、信じるというか、この場合放っておけばそっちは魔力が枯渇して消えるだけだ。協力すれば消滅しないだけの魔力補給はさせてもらう」
「なによ。結局ただの脅迫じゃない」
その通り。死にたくなければ仲間になれ。
別の意味ではそういうことだ。
だが、また別の視点から考えれば……。
「なんていって反抗するのは簡単だけど……、これで生き延びられるともいえるのね」
「そうよ。このままユキに協力しないってことなら、こっちで処罰よ。さっきも言ったように他の者たちに示しが付かないからね」
ルナはそうはっきりと言い切る。
協力しないとお前は死ぬとはっきりと宣言した。
いや、違うな。ルナのことだからきっと面白処罰にはなるとおもう。
だって、セナルの横でハイレンがそれはそれは心配そうにこっちを見ているからな。
殺すなんて判断になれば、きっと止めに入るだろう。
なにせ、セナルの動機は単に友人を助けるためってことだからな。
直接的な被害はこの地のダンジョンマスターとあの決戦でセナルの魔物と戦ったズラブル軍とハイーン軍だけだ。
「……私が裏切るとは考えていないのかしら?」
「んー。確かにそれはゼロじゃないな。とはいえ、ハイレンと話していたところを見ると、そういう可能性は低そうだと俺は思う。対策も取らせてもらうしな。あ、ダンジョンマスターたちを殺して回った経緯はキチンと聞かせてもらうぞ」
「それは単純な話よ。私たちが生き残るために、ダンジョンマスターがため込んだ魔力をもらったのよ。信仰をこちらから持って行ったんだしね。逆恨みに聞こえるかもしれないけど、ダンジョンは資源化しているんだから、それを私が取りに行っても問題ないわよね」
確かにその通りだ。
結局のところ、単なる神とダンジョンマスターの勢力争いといえばそれまでだ。
それについては、この状況を作り出したルナが何かを言えた立場じゃないだろう。
「で、どうする? もちろんこっちを裏切らないように対策を取らせてもらっての上だが」
「それはそうでしょうね。何もせずに信用するって言われるほうが警戒するわ。それに、少なくともそっちの下についている間は生きていられるみたいだし」
やっぱりそこが大事か。
いや、誰だってそうか。
「とりあえず、よろしくってことで良いか?」
「ええ。でも、気を付けることね。貴方はいままでうまくやってきたみたいだけど。今後もそうとはいかないかもよ?」
おいおい、こんなところで殺害予告か、って。
流石にカグラとエノラが警戒して目を細めている。
とはいえ……。
「ああ、残念ながら今までだってうまくやってきたつもりはない。なにせこんなのがいるからな」
「ああ。納得」
「こら、そこの二人。もっと敬いなさい」
それだけは無理だ。
今回はセナルの行動に色々な意見がでました。
みんな思いがあるように、彼女たちにも思いがあります。
ただそれだけなのです。
神だからといっても元は人。感情に流されないのが神だというなら人の気持ちはわからないでしょう。
不便ですよね。あっちを立てればこっちが立たず。
人の世のはそんなものです。
それでもユキたちは突き進みます。
理不尽を更なる理不尽で塗りつぶしましょう。




