第1051堀:邪魔者の対処
邪魔者の対処
Side:ユキ
全く……世の中本当にうまくいかないよな。
『聞け、小さき者たちとその主よ。我こそ神であり、今ここに神の国の建国を宣言する。ひれ伏すがよかろう』
そんな宣言とともに、神を名乗る馬鹿がいきなり決戦の場に現れたのだ。
「あいつ、どこから現れた? 最初からいたか?」
「いえ、反応からみるにこの場に突如として出現しました。魔物たちもあの女性の出現に合わせるように出てきています。状況から察するに女性が呼び出したものと判断します」
「鑑定情報は?」
「残念ながら近くに人がいません。もうしばらくお待ちください」
確かにズラブル軍とハイーン軍のど真ん中に現れた第三勢力の所に人を送りこめるわけもないか。
「あれって一体どこから現れたのかしら?」
「不思議じゃな。地図の方にもそのような反応はなかったしのう」
そう、セラリアとデリーユの言う通り、この戦場は余計な横やりがあってもすぐ感知できるようにこの一帯の土地を掌握していた。
それも、敵ダンジョンマスターが土地を取り返してこないためにも、かなり広くだ。
敵性ダンジョンマスターに土地を奪われたわけでもないのに、そんなただ中に唐突に神を名乗る女が現れたのだ。
しかも同時に魔物まで召喚している。
幸い、あの神を名乗る馬鹿がいきなりズラブル大帝国、ハイーン皇国に対して、降伏を勧告したおかげで、両軍は全軍が停止している。
まぁ、それだけ衝撃的な言葉だったということだ。
実際、誰だって突如空から降りてきた女が『神』とか名乗って、しかも建国を宣言したら唖然とするわ。
「なんで『神』なんて名乗るようなやつは、どいつもこいつもこういうのばかりなんだろうな」
「ちょっとー! ユキ、それだと私も同じに聞こえるわよ!」
いや、ハイレン。どう見てもお前だって同じだと言い返す直前に……。
「ハイレン様、落ち着いてください。ハイレン様は全然違いますよ」
「はい。その通りです。ハイレン様はとてもお優しく……」
カグラとエノラがとっさにフォローに回った。
ま、あのバカとここで余計な言い争いする無駄は避けて、少しでも情報を集めないとな。
「あなた。ダンジョンとして掌握してあるのなら、私たちの方で調べられるんじゃないの?」
「いや、あの地域の権限は別個に独立させている。スティーブたちを管理者にな。敵に奪われる可能性もあってウィードとは繋げていないから、俺や嫁さんたちにアクセス権限はない。今ここに映っているデータも、管理者であるスティーブたちがこちらに情報を流しているだけだ」
そう、多大なDPを消費したうえで確保したあの地区は、スティーブたちだけの所持するスタンドアローンの土地だ。
パソコンで言うならネットワークがつながっていない代物。
あそこを何とか掌握してもただ資金が多くかかって骨折り損のくたびれ儲けな状態にしてある。
どんな横やりが入るかわからなかったからな。そんなリスクをウィードと繋いでなるモノか。
そんなことを考えていたら、モニターをしてくれているミリーが。
「情報、スティーブから届きました。モニターに映します!」
全員の視線がモニターに集まる。
そこには……。
名前:セナル・デウシア
年齢:1689歳
種族:神
性別:女性
称号:上級神に逆らいし堕ちた女神 中級神派捕縛命令対象 発行経過年数1281年
スキル:神の威光(低レベルの者はひれ伏しやすい) 勇者選定(1人を神の騎士として力を授ける) 魔術……など細かい微妙スキル
レベル:724
ステータスはレベル700台の人族女性より少し強い程度。
※状態異常:信仰の減少により弱体化(能力3分の1)
「「「……」」」
んん…、ここにきて大物が出てきたのか?
「……なんじゃ、女神にしてはちと微妙じゃのう」
うん。俺もデリーユの意見に同意したいところなんだが……。
「あのリリーシュ様でもレベルは600ほどですから、十分高いかと」
「ルルアの言う通りだな。意外と高いぞ。アクエノキなんかコア使って復活した時は精々300ぐらいだったしな」
そう、ルルアの言う通り、この世界の神様のレベルはおおよそ500前後。
こいつはそういった意味では平均より少し強い程度で、ステータスに至っては人をレベル700にしたぐらいなので全然脅威ではない。
まあ、信仰が足りていないせいって書いてあるが、それでも精々3倍じゃあな。
「ああ、そんなのいたわね。ルナが直々に手を下していたから全然レベルとか気にならなかったわ」
だな。あれなんか、いきなり急所を蹴り上げられてそのままダウンだからな。
あれで神とか言われても誰も信じないし、ステータスすら確認をしようとも思わないだろう。
「というか、ユキさんのおかげで、レベルはあくまでも参考程度っていうのを身に染みて感じていますからね。いかな戦術と作戦を立てるかが大事です」
エリスの言う通り。
どれだけレベルが高かろうとも、中身が伴わなければ脅威ではない。
逆にレベルが低くてもちゃんと作戦を立ててるやつは侮れない。
「ですねー。というかあの程度のレベルとステータスならよほどの隠し玉でもない限り、スティーブたちで十分ですねー」
「ラッツに同意見です。スティーブたちは百戦錬磨。布陣も済ませています。あの程度の女神に敗北するはずがありません」
「ですね。私もジェシカと同じ意見です。まぁ、ちょっと気になるのは、あの神を名乗る女が出現させた魔物たちですが……」
スタシアがそう言った丁度その時、その魔物たちの情報もモニターに映し出されていく。
おお、神を名乗るだけあって、さすがにちゃんと普通に強い魔物が呼び出されている。
『妥当じゃないかしら? 両軍の中央でいきなり宣戦布告したんだし、強い魔物を出さないとすぐにすりつぶされるわよ』
「だね。僕もドレッサと同じ意見だ。というか、この点についてはユキがおかしいんだからね。ゴブリンとかオーク、スライムをわざわざ鍛えて超高レベルにするとか。まあ、銃器を運用することを考えると最適なんだけどさ」
エージルがそういうと、嫁さんたちが揃ってジト目でこっちを見てうんうんと頷いている。
「仕方ないだろう。当初はゴブリンとスライムぐらいしか呼べなかったからな。だから手持ちの戦力を鍛えるしかなかったんだよ。と、俺のことはいいとして、敵魔物軍の主力はレベル150ほどのミノタウロス300にレベル90のリッチが後衛で250ね。いやーすごい大奮発だ。普通の国ならあっという間に落ちるな。というか、不味いな」
「そうね。いくらズラブルの軍が精兵だとはいえ高レベルの人でも精々100に届くかどうか。最高戦力はユーピア皇帝で350ほど。ハイーン皇国も多少の差異はあれどまぁ同程度。私たちで後詰をしないと不味いわね。あの女神、あれでも多少は考えているみたいね」
「ま、セラリアの言う通りだね。ま、私としては落とし穴作戦が一番有効だと思うね。というか、あの女神だけはさっさと孤立させた方がいい。どうやって魔物を呼びだしたのかも不明だしって、あ、続報きたね」
コメットに釣られてモニターを見ると、さらに詳しい情報が表示されている。
今度はスリーサイズに、持ち物だ。
スリーサイズは……まあ普通。嫁さんたちには及ばん。一応平均点は超えているくらいだな。
で、問題は持ち物だ。
普通の武器、防具はまあそれなりに性能の高いものなのだが、それよりも視線を集めるのは……。
「ダンジョンコア。ああ、これで魔物を呼び出した手段はわかったね。なるほど、コアがあるなら魔物をいきなり呼べて当然だ。でも、あのコアをどこで手に入れたんだろうね? あれかな、カグラたちの方からの輸入品かな?」
「そっ、それは……」
コメットの一言に慌てたカグラ。
まあ、ここでマジック・ギアが原因で魔物が発生したとかだったら、下手したらズラブルにも責められかねないよな。
とはいえ、そんな心配はいらない。
「カグラ、落ち着いてちゃんと見ろ。あれはマジック・ギアじゃない。『ダンジョンコア』って書いてあるだろ。つまりあの女神が持っているのは、おそらくこの地で手に入れたものだ」
「この地ってユキさん。それじゃ、ダンジョンから取ってきたって話になるけど?」
「そうだ。あのレベルならダンジョンの攻略なんか簡単にできるだろう。霧華やスティーブたちだって苦労せずにできたんだからな。そしてどれだけDPが入ってるかはわからないが、これだけの量の魔物を一気に呼び出しているんだ。コアの魔力はかなりあるんだろうな」
そう、これで全部使い切ったとは思えない。
持っているコアにはまだまだ余裕があるんだろう。
というかコアを複数持っていやがるしな。
「で、更なる疑問はどうやってあのダンジョンコアを手に入れたかって話だが、まあおそらくダンジョンマスターでも背後にいるのかって話になるんだが……」
「うん、可能性はあるだろうね。私とヒフィーの関係に近いなら、ああいうのもあるだろうさ」
「あぁ、状況的には似ているからな。特に大国に対して喧嘩を吹っ掛ける姿勢とかはな」
「うぐっ」
言葉による口撃を受けたヒフィーは思わず胸を押さえる。
「とはいえ、計画性は全然ないけどな。ありゃ、ハイーン皇国の前衛部隊を取り込んだ感じだが…、あんなのを味方に入れても足を引っ張るだけだと思うけどなぁ。ああ、単に信仰心を集めるためか?」
「えーと、ユキさん。敵のことを考えるのはいいんだけど、援護しないとまずくないですか?」
「……トーリの言う通り、早くしないと全滅する」
「ああ、そっちが先だな」
マップ上に映る戦闘状況は、ズラブル大帝国もハイーン皇国も落ち着いて戦っているおかげで一見しっかり押さえこんでいるようには見えるが、それでも着実に被害はでていて、両軍の前線で戦っている兵士がどんどん死んでいっている。
ま、流石に高レベルの魔物をつかっているだけあるな。
とはいえ……。
「しかし、なんで地形の掌握をしなかったのか、ホント不思議だよな。おっと、そんな疑問よりも、まずは隔離が先か」
俺はそう判断して、まずはユーピア皇帝に連絡を取る。
「ユーピア皇帝聞こえますか?」
『うむ。聞こえておる。何ぞ大馬鹿者が出てきたようじゃ。で、思ぅたより強いらしい。案外ワシのことと関係があるやもしれんのぅ』
「ああ、そっちの可能性もありますね。それは置いておいて、このままでは被害が広がりますよ。こちらで得た情報ではレベル150と90の編成です。そちらで押し返せそうなら手出しはしませんが?」
『無理じゃな。そんな化け物どもにむざむざ兵を殺させとぅない。で、どう動かせばいい?』
「こちらで、地形操作をしてあの女神と魔物たちを地下に落とします。それに巻き込まれないように敵を引き離して後退できそうですか?」
『やってみよう。ショーウ、やれるか?』
『はい。一時的にでよろしければ、魔術師の大火力でできるでしょう。ですが、レベル差がひどいのであまり時間は稼げませんが、大丈夫ですか?』
「大丈夫です。こちらでも逐次動きは確認していますので」
『うむ。ならば即時行動に移せ。ワシらが相手はあくまでハイーン皇国。そこに押しかけてきた女神なぞ相手にしとる暇はない』
あらら、ユーピア皇帝は女神に対してどうやら全く興味がなさそうだ。
「じゃ、女神の方はこちらで対処しても?」
『全て任せる。ま、元々こちらでは対処できそうにないからのぅ』
ということで了解も得たし、俺たちは俺たちであの駄女神様の対処をさせてもらうとしますか。
役者以外が舞台に上がるのはだめです。
そこは警備員の人に引き釣り下ろされます。
そして、女神の情報を見て多少謎が解けたかた入るのでは?




